いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

貸金業の上限金利問題~その9

2006年05月03日 22時33分12秒 | 社会全般
疑問点が不明瞭であったことは、お詫びいたします。ただ、根本的な問題点の説明には至っていないと思いますので、各論文ごとに論点に絞って整理してみたいと思います。前の記事を書いた時点で、「isologue」の磯崎氏の挙げておられた早稲田大学消費者金融サービス研究所のペーパーは読んだ上でTBをさせて頂きました。一応、ご参考まで。

1)「消費者金融顧客の自己破産の分析~その特徴と原因」について

論文中で出されるロジスティック回帰分析について、次の問題点を挙げてきました。

①「破産」「非破産」群の区分が不適切であり、特に「非破産」群では追跡調査が何も示されておらず、不適切な区分の群間を比較検討したところで、そこから得られる結果というのは信頼に値しないものではないか

②仮に、本モデルを採用したとしても、「金利水準」についての分析結果を与えているものではないので、「初期貸付額」とか「追加貸付額」の分析で「有意差がなかった」という結論が出ていたとしても、「金利水準」に何らかの判断を与えるものではない

①に関して:

本論文の分析の不適切だと思える理由として、「喫煙」と「肺ガン」におけるリスク評価を例にして書きましたので、再びそれに沿って書くことにします。借金とは異なる部分が多いですが、判りやすいのではないかと思いましたので。論文のモデルに準じて書くと、次のようになると思います。

・タバコA・B・Cを調査時点で喫煙している喫煙者にタバコDを投与
・喫煙期間はランダム
・タバコA・B・Cの喫煙量はランダム
(ゼロかもしれないし、1種類だけか、複数種類か)
・タバコDの投与量(・期間)・時期はランダム
・タバコDの追加投与量や投与時期は不明
・喫煙者を肺ガン「発生群」と「非発生群」に分類
・「非発生群」とは調査時点で発生していなかったという意味

(「タバコA・B・C」は他からの借入、「タバコD」はデータ提供会社の初期貸付又は追加貸付、「肺ガン発生群」は破産群、「非発生群」は非破産群を見立てたもの)

このような条件で「発生群」と「非発生群」を比較し、「タバコDの初期投与量、及び追加投与量」と「肺ガン」の発生リスクを評価したものが、本論文の分析です。で、結果、「タバコDの初期投与量・追加投与量」が「肺ガン」の発生リスクを増大させるかどうかは「有意差がなかった」という結論が出されています。「収入の減少」とは、タバコの例で言うと、「個体差」ということです。つまり、「タバコDの投与よりも、個体差で説明できる」というのが結論になっています。これは、例えば個人の「一回換気量の低下」とか「肺活量の低下」のような個体特有の変化が説明要因である、とするものです。

このようなモデルで「タバコD」と「肺ガン」の発生リスクを評価するというのは、そもそもオカシイ、と申し上げています。群の分類もそうですし、対照となる「非発生群」という設定も、一定の観察期間がない状態で評価するのは「発生リスク」を正しく評価していることにはならない、と申し上げています。モデルの条件設定があまりに曖昧である、ということです。さらに、不適切なモデル設定の分析結果を元にして、「喫煙量と肺ガンの発生リスク」に言及すること自体に無理がある、ということを指摘しているのです。

このモデルのような調査・分析を用いて、「喫煙量と肺ガンの発生リスクには有意な関係は見出せない」ということを信じている、と言い切られてしまえば、それはそれで止むを得ませんけれども。私にも証明する手立てが思いつきませんので。


②に関して:
タバコの例では、「金利水準」に該当する部分がないので、無理っぽい例にしかなりませんけれども、「有害物質の蓄積率」のようなものでしょうか。「タバコDの投与」の影響をいくら検討してみても、「蓄積率」の違いによる影響というのは、評価できません。「蓄積率は肺ガンの発生リスクには関係ない」ということを結論付けることはできません。

上記の不適切なモデルを用いて「タバコD」の関与を調べ、得られた結論である、「主なリスクは個体差である」ということが、「蓄積率」とリスクの関係を示すことにはならず、そこに言及するという推論は単なる飛躍としか思えない、と考えます。つまり、たとえ「個体差」(=収入の減少)という要因が説明要因であるとしても、そこから金利水準のリスク評価を行うことはできない、ということです。


本論文の内容とは直接的に関連がないと思いますが、お答え頂いた次の部分は、何を意図しているのかよく分かりません。

『多い数をとっても多重債務者は10%以下でしかありません。「破産」寸前は多重債務者以外にもいるとして、安全を見て倍の数字をとっても約18%。「破産」寸前の者を除去した際、仮に「非破産」と「破産」に有意な差が1や2において存在するとしても、それはごくわずかなものだと推測可能です。』

これは、全消費者金融利用者に占める多重債務者の推定割合、ということではないかと思いますが、この数値を推定することは、どのような意味があるのでしょうか。どの程度をもって「多重債務」と定義するのか私は知りませんが(住宅ローンとクレジットだけではそう呼ばないような気がするので)、一般的には「複数の消費者金融に債務を有する」ということだろうと思います。本論文では、「非破産」群も「破産」群と平均で言えば同程度の複数業者からの借入があり、既に多重債務とも考えられますが、初期借入後に別な消費者金融業者からの借入増加件数を見れば、「非破産」群では「破産」群に比べればやや少ない、という結果が出ています。お答え頂いた『「破産」寸前の者を除去した際、~それはごくわずかなものだと推測可能です』という意味がよくわかりません。「非破産」群のうち、当該新規借入以降に、件数増加の無かった者は約35%であり、それ以外の者は借入件数・額ともに増加しており、額で言えば、平均で41.4万円→116.2万円です。「非破産群」中の9~18%が破産寸前かどうかを推定することは可能とは思えず、その後に破産する割合を推定するのが困難なことに違いはないと思われますが。

因みに本論文中で、参考文献として挙げられているHiraの論文では、破産者の約3%が5件未満の借入で、残りは5件以上からの借入、64%は10件以上から借入を行うということが指摘されています。ただ、91年頃の話ですから、現代では変わっているかもしれないとは思いますが。



2)「上限金利規制が消費者金融市場と日本経済に与える影響」について

①「上限金利引下げによって、借入不能になる層が出てくる」というのが、論文の示した結果が正しいのであるとすれば、貸出口座数や信用供与額は減少すると推測され、過去の引き下げ(83年、86年、91年、00年)でその通りの現象がどの程度観察されているのか

②マクロ経済への影響については、「上限金利引下げでGDPが減少する」というシミュレーションをしているが、同じく過去の引き下げ後にGDP統計上では必ずしも減少にはなっていない。他の要因によって相殺されたとも考えられるが、信用供与額の減少によってGDP減少が起こるならば、信用供与額減少ということが見られるはずではないか


(以下、論文中の消費者金融会社を「貸金業」、消費者ローンを「消費者金融」と呼ぶこととします。その方が紛らわしくなく私が判りやすいので)


論文中の表2にあるように現状29.2%から23%への引き下げで、「現在借入顧客のうち46.1%が借入不可能になる」というシミュレーションをしています。もしも20%まで引き下げられれば、更に借入不可能になる割合は高くなるとの予測ができ、現在顧客のうち50%程度の借入不可能者が出ることになります。従って、概略の貸出口座数が1100~1200万口座(これは大手の口座数から私が推測した、いい加減な数字です)存在したとすれば、約半分の600万人程度が借入不能になる、ということを意味すると思いますが。この推測は、あくまで論文に沿ったものです。bewaadさんが示したように2200万人程度の現在顧客がいる場合には(現在残高保有がその数かどうかは不明ですが)約1000~1100万人もの締め出しが起こるということですね。


過去の引下げ後にハイリスクグループがどれくらい消費者金融市場から締め出されたかは不明ですが、少なくとも過去数回で29.2%まで引下げられたので、リスクの高い側から順次貸金市場から締め出されているはずです。よって、信用供与額が減少してもよいのではないかと思われますが、貸金業の信用供与額は85年以降減少した年は見られていません。消費者金融全体でも、金利引下げと信用供与額の減少の明確な相関は見出せないと思います。消費者金融全体の信用供与額減少は95年以降に見られており、91年の金利引下げがここから影響した為なのかは不明です。信用供与額減少の額は99年が最も多く、続いて98年が多いですが、これは金利引下げ要因とは異なったものと考えるのが妥当ではないかと思いますが。

日本の長期統計系列 第14章 金融・保険
(リンクが貼れないので、見出しになってしまいますが、最下段の方に三つあり、そのうちの「消費者金融信用供与残高」です)


00年引下げ後のGDP・信用供与額減少は金利引下げの影響という可能性はありますが、その時点で数百万人規模で消費者金融市場から締め出されたのであれば、貸金業界はそれ以上の新規顧客を獲得した、ということでしょうか?00年以降で、貸金業の信用供与額の減少はなく、00年改正後の01年には前年よりも約8400億円の信用供与額増額が見られます。つまり、この増加分+締め出しの減少分を、新たな顧客に貸し出したと考えられます。上限金利が引き下げられたにもかかわらず、です。


考えられる要因としては、アクセスが容易になった(無人機が増えた、等)、金利引下げによる利用者側の潜在的利用層の拡大、経済環境(賃金減少など)、他の業者(主に民間金融機関)の代替、などでしょうか。銀行などの貸出要件の引き締めで、逆に高金利帯である「貸金業」へと利用がシフトした可能性も考えられるかもしれません。

この辺は、単なる推測でしかないですから、本論文の内容とは関係ないですが。

前の記事(貸金業の上限金利問題~その8)でも指摘しましたが、23%への引下げ(引き下げ率で約21%)では、(貸金業で6121億円、)消費者金融全体では2兆1099億円(GDP比0.364%)の減少が起こる可能性が本論文で述べられており、00年改正時の減少額がどの程度あったのかは不明であるが、40.004%→29.2%(引き下げ率で言えば約27%)で信用供与額減少はなく、逆に1900億円程度の増加が見られています。つまり、GDP減少という影響は殆どなかったのではないか、ということを言っているのです。それとも、引下げの影響で、本来は2.5~3兆円程度は減少していたが、それを上回る新規顧客への貸出で補った、ということでしょうか?信用供与額の伸びでいうと、相当高水準でそれまでのトレンドとはかけ離れているとしか思えませんけれども。


もしも、本論文を支持しているのであれば、何らかの良い説明があるのかもしれません。


GDP減少などのマクロ経済への影響度として、マイナス面がシミュレーションよりもはるかに少なく、逆に金利低下による新規顧客流入効果や金利低下分を他の消費へ振り向ける等の効果の方が大きければ、経済学的には得だと考えられる、という可能性はあると思っています。



3)「上限金利引き下げの影響に関する考察」について

①闇金の増加と金利上限引下げの関連性については、「引き下げられれば、闇金市場へ流入する層が増加する」ということが述べられているが、「金利上限引下げが闇金業者の増加をもたらす」とする理由が不明確


この論文では、貸出市場から排除された層が闇金利用となってしまう、ということになっています。であれば、闇金利用者のうち、大多数は正規市場から排除された者たちで構成されており、他からの借入調達は不可能であるはずです。とことが、実際の被害ケースを見れば、他からの借入をしているものが多く見られます。これはどの時点で闇金から借入を行ったかは不明なので、多重債務に陥って他からの借入不能となったものだけが利用していたとする解釈も可能ですが、そういったケースばかりではありません。


闇金は、主に98年頃から被害が増加してきており(GE土屋氏の資料などで)、これは上限金利引下げの影響というよりも、多重債務に陥る者の増加によると思われます。賃金低下やリストラなどがその背景にあったのではないか、ということであると思います(まさに収入減少=ライフイベントによる、ということでしょうか)。上限引下げが行われてからの経過年数が、結構長いと思いますし。単に、表に出てこなかっただけかもしれませんけれども。


上限金利引き下げから外れていた、日賦業者は同じ時期に増加(大手以外の貸金業は減少)が見られます。上限金利は00年までは109.5%、00年以降でも54.75%の特例的な年利が認められていた為ではないかと思われます。故に、毎日取り立てることが可能となり、闇金の温床となった可能性はあると思います。それ以降には、財務局から認可を受けて、巧妙に(多重債務者だけでなく)一般利用者を「釣り上げる方法」が広まっていったのではないかと思います。

(上の統計局のリンクの、下のほうの「貸金業者数」を参照)

いずれにしても、「上限金利引下げ」と「闇金増加」ということについては、関連性が強く推定される、という実際的な理由は見出せないように思えます。



私の不勉強や経済学的知識の不足などを否定する積もりもないですし、勿論、優秀な人々から見れば甚だ低レベルであるという指摘も当たっていると思います。それは本当です。しかし、上記論文を読んで疑問に思わない、ということはなく、むしろ「信じがたい」という感想しか出てこないですね。書かれている内容全てがオカシイとは言いませんが、少なくとも部分的には分析やシミュレーションなどに問題点があるのではないか、と思っています。


上記論文に基づいて論を展開するのであれば、少なくとも説明可能である、という解釈をしていると受け取らざるを得ない、というのが私の意見です。