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貸金業の団信の効果

2006年10月15日 18時28分51秒 | 社会全般
このところ、貸金大手の団信廃止が報じられていた。どうやら世間の「感情論」に配慮したらしい、という受け止め方が多いと思われる。貸金の団信の意味について、実際どうなのか考えてみよう。


「団信はいいものなんだからあった方がよい」とする意見の多くは、「相続人に債務負担がいくよりはいい」ということだろう。そういう効果は確かにある。住宅ローンの団信だってそうだ。生命保険の見直しなどの際には、「団信があるから、住宅ローン分の負担は除外して考えてよい」と普通は考えるからね。なので、メリットがない訳でない。


では、貸金での団信はどうだろうか。債務負担を嫌って、相続人が相続放棄を行ってしまうと、例えば「所有していた住宅」を同時に失うから損だ、といった意見もある。まず、これから考えてみよう。

住宅ローン債務が残っていても、住宅ローンの団信に入っていれば、債務は免除され住宅は手に入る。しかし、貸金の債務放棄をするなら、「この住宅を手放さなければならない」ということなんでしょうな。それって、本当なのか?


貸金に債務が300万円あって、死亡した場合を考えよう。相続財産は住宅の土地・建物だけだとする。普通に考えれば、300万円を上回る価値(登記費用とかそういうのもあるが、とりあえず面倒なので省く)があれば、相続した方が得だ。たとえ僅かに下回る場合であっても、将来価値が高くなりそうと考えるなら、相続して債務を払った方が有利な場合も有り得る。

また、評価額は1000万円だが、300万円の債務を返済するキャッシュが無い場合、「払えないから相続を諦める」という選択もあるかもしれないが、借入して返済する選択もあると思う。不動産担保融資を受けられれば、仮に金利5%で300万円の借入をしてローンの支払いが可能なら差額分を得する可能性がある。途中で売却して、借入を清算することもできるかもしれない。なので、必ず相続放棄とも限らないだろう。少なくとも、相続する不動産価値と残された債務の大きさ・支払能力の関係なので、相続した方が得になる場合は有り得る。「不動産全部を貸金に取られる」と思っている人はあまりいないと思うけど。


では、相続する不動産などの目ぼしい財産がない場合はどうだろうか。金融資産がないから借金するのだし、債務が払えないわけで、こういう場合にはあっさり放棄するのが望ましいですね。貸金にとっては、「回収のしようがない」ということになりますけどね。普通は自分で掛けてる生命保険があったりする場合が多いと思いますが、中には全て解約してしまって死亡しても「葬式代」もない、という場合もあるかもしれません(年金だったか健康保険だったか忘れたが、葬儀を出したら費用を少しもらえる制度があったはず・・・加入している保険制度で金額は違うと思うけど)。相続財産に不動産がある人よりも、こちらの方が圧倒的に多いと思うけどね。


貸金の顧客は、自己所有の持ち家は確か1割程度か、それ以下だったはず。残り9割は賃貸です。自己破産者でも、大体そんな感じだったと思う。なので、相続財産に不動産があって、相続放棄でその不動産を取られる割合なんて殆どいないと思う。なので、相続放棄して相続人が大損してしまい、大変困るということは、滅多にないように思える。


貸金はなぜ団信に入るのだろうか?発表では、「保険料掛金の方が、支払われた保険金よりも多いから損なのだ」と言っていた。それなのに、何故保険に入るのか?これを今度は考えてみよう。


NIKKEI NET:経済 ニュース

(記事より一部抜粋)

消費者金融会社が融資の際に借り手にかける生命保険について、金融庁は6日、17社を対象にした初の調査結果を発表した。それによると、消費者金融が2005年度に受け取った保険金約300億円のうち、44%の134億円分が「死因不明」。(中略)
調査結果によると、保険金約300億円のうち43億円(14%)が自殺によるもの。死因の第1位は病死の105億円(34%)だった。



もう一つ。

livedoor ニュース - 「命を担保」契約 消費者金融打ち切りへ




大手は、恐らく優良顧客比率が比較的高く、保険金の受け取る割合はそんなに多くないかもしれない。報道では、年間で受けとる保険金額は300億円程度だ。全体で見れば大した額じゃない。

貸金が加入している団信の仕組みは判らないが、債務残高に対するものか、貸出元金に対するものかで多少違うだろう。保険対象は8.4兆円ということで、大手・準大手の貸出残高約9.5兆円よりはかなり少ない。貸金全体の約10.5~11兆円から見ても、2兆円以上少ない。なので、貸出元金に対する保険料設定なのかもしれない(きっと残高の多くない小規模業者は大半が加入していないだろう)。この辺はちょっと判らないので、とりあえず8.4兆円をベースに話を進める。


住宅ローンの団信だと約0.3%程度の掛金なので、恐らく掛金は同じ程度かやや高いくらいではないかと思う。0.3~0.5%と仮定すると、貸金業者が払う掛金は1兆円に対して30~50億円なので、合計で252~420億円と予想される。保険金受取が300億円ですから、0.3%よりも高い水準である可能性が高いと思われます(因みに、貸金業界は「掛金の方が高い」と言ってるのですが、これは通常どのような保険でも当たり前で、そうじゃなければ保険会社が引き受けないでしょ。掛金より支払額が少ないから保険会社はやって行けるのです。儲けが出るように保険料が設定されると思いますよ)。とりあえず掛金が420億円だとして、300億円戻ってきていますから、差額120億円が、無保険であった場合の損失額よりも小さければいいということだろうと思います。


死亡者の1人平均債務を50万円、債権回収率は10%としましょう。120億円分の債務が発生するのは、24000人死亡の時です。うち、12億円は相続人から弁済を受けられる、ということになります。でも、貸倒損失が120億円にはまだ届きませんね。26667人の債務者が死亡すると、貸倒損失は120億円くらいになります。これ以上の死亡者数がいた場合には、無保険の場合の損失額が保険を掛けた場合よりも上回ることになります。


あと、大手のようにシステム的にビジネスを拡大していかなければならない(多くの人員を雇い、店舗網を拡大する)となれば、いちいち「死亡時の回収」のやり方について教育したりしなければならず、遺族からの回収を含めた業務の人員コストが発生するのが「面倒」ということもあると思います。法定相続人の「相続放棄」を確定するのは、全員に同意書のような書類を回して記名捺印をしてもらったりせねばならず、相続放棄で回収される金はまるで大した額にならないことが多いでしょう。家財道具類を現金化しても、その労力の方が高くついてしまったりするかもしれません。相続不動産があるような場合なら、それこそ差し押さえに行ったりしなけりゃならないし、大変です。なので、回収コストも高くつくので、保険金でサクッと処理した方が手続き関係も楽で、難しい知識も教育もいらない、ということで、システム的に楽ですね。そういう部分も含めると、相続人からの回収に燃えるよりも、24000人の死亡を見込んで保険加入しておく方が楽だ、ということかと思います。


先の例では1人平均債務を50万円として計算してみましたが、実際はどうなのでしょうか。報道では、約52000件で保険金額が300億円、ということでしたので、単純に一件当たりで計算すると約577000円となります。まあ、自主規制の関係もあり、あまり外れてはいませんね。でも、52000件は重複者がかなり含まれており(数社からの借入を行っていれば、複数回カウントされている)、1人平均2社借入だと約26000人、3社借入だと17333人、ということになります。保険に加入しておくメリットが上回っているとすれば、26000人くらいが順当かな?それと、保険金支払が「一律」なのか「債務額に応じて」なのか「債務額に応じるが上限あり」なのかで、多少話は違うかもしれないです。


今度は自殺という部分について考えてみます。
回収された300億円のうち、自殺による保険金は43億円(14%)ということです。1人平均の保険金支払額が200万円(限度額?)だとすると、2150人の自殺者ということになります。保険金支払対象全部では、1件当たり平均が先に見たように577000円でしたので、1人5件の多重債務であったとすると、平均債務は5倍の2885000円になります。自己破産できる水準とも言えないけれども、返せるあてもなく、新たな資金調達先を見つけられなくて、厳しい取立てを苦痛に感じてしまい命を絶つことを考える水準が300万円程度、ということでしょうか。43億円分が保険で弁済されたとして、平均債務が300万円だとすれば、1433人が自殺していることになります。


母集団の数は不確定ですが、上で見たように、17333人~26000人程度であると考えますと、死亡割合が次のようになります。
①分母が17333人
・自殺数が1433人の場合:1433/17333≒0.083
・自殺数が2150人の場合:2150/17333≒0.124

②分母が26000人
・自殺数が1433人の場合:1433/26000≒0.055
・自殺数が2150人の場合:2150/26000≒0.083

となります。大体5.5%~12.4%が自殺ということです(原因不明分は除かれていますので、その中に自殺があればもう少し増える可能性は有り得ます)。いい加減な計算ですので、おおよそ5~10%程度ではないかと思われます。

通常の死亡原因に占める自殺の割合ですけれども、04年度の死亡率では、全死亡が815.2、自殺が24.0(それぞれ人口10万対)でした。なので、24.0/815.2≒0.029となり、自殺は死亡原因の3%程度でしかない水準ですが、「貸金業から借入を行っていて、弁済途中で死亡した人」という特殊な集団で見れば、「自殺割合は多い」と言えるかと思います(有意な差かどうかは不明です)。そもそも、保険金の額と件数から推定したに過ぎませんので、不正確であると思いますが、自殺割合が3%程度であるとは到底予測できません。はるかに多いことはあっても、少ないとは思えないのです。


一応、死亡率について触れておくと、人口構成で「少子高齢化」が進んできていますので、毎年死亡する数は「確実に増加」しています。既に100万人を突破しました。かつては、同じ規模(約1億2千万人程度)であっても、死亡する数は少なかったのですね。当然と言えば当然なんですけれども。老年人口比が10%の時代と20%の時代では当然死ぬ確率は異なり、後者の方が高くなるでしょうから。70年代後半から、死亡数は増加の一途を辿ってきています。なので、ここ10年で見ても死亡率は上がる一方です。そうなると、死因に占める自殺の割合は低くなっていきます。自殺の絶対数が増加しても、それ以上のペースで病死等が増えているからです。00年の全死亡率は765.6と低かったので、自殺の死亡率は24.1で04年と同じ水準ですが、占める割合は3.1%となっていました。それと、死亡率のうち、金を借りられない年代の子どもが含まれるのはオカシイ、ということもあるかもしれないので、20歳以上だけで自殺の割合を見たとしても、大体3.1%くらいなので、0.2%の違いです(そもそも若年層はあまり多く死亡するわけではないので)。


従って、「貸金業から借入を行っていて死亡した人」に占める「自殺者の割合」というのは、高い水準になっていると推測されます。


大手以外の貸金業者には団信に何かメリットがあるでしょうか?これを考えてみましょう。
貸し込みを行っていった業者は、貸出順が後なので、金利収入で元金以上に回収するには時間がかかるわけです。延滞などになってしまって、自分が「最後の貸し手」になったら大損なのですね。それを防ぐには、「他から調達」してくるように、強いプレッシャーを債務者に与えることになります。調達先を用意できない債務者は、「払わない」「破産」「自殺」という少ない選択肢の中から選ぶことになってしまいます。「最後の貸し手」が50万円貸出し、今まで回収した利息収入が20万円で現在債務残高60万円という具合になっていたとすれば、自殺によって60万円が保険で回収されると、「最後の貸し手」の立場から救済されます。勿論、他の貸金業者が現れて貸すことになれば、倒れるまでの間に利息収入は増えるし、自分が「最後の貸し手」にならずに済み、自殺してもしなくてもある程度は回収される可能性が高くなりますよね。債務残高は残るとしても。


基本的に多額の団信保険料を払っているのは大手であり、前から書いているように若い男性が3分の2くらいを占めますから、「死なない」借り手の保険料の大部分を負担しているんですよね、きっと。団体保険として成り立っているのは、こういう死亡しない人の保険料を負担しているからでしょう。「貸し込み」業者にとっては、後から貸している分だけ不利なので(後から貸した業者の金の大方が、初めの頃に貸してる業者の返済に回される)、利息収入だけでは回収が厳しいかもしれない、となれば、「保険金」である程度回収することで貸倒額は小さくできます。団信の保険料負担は、死亡割合が高い業者であろうが、低い業者であろうが同じはずですからね。つまり「貸し込み」業者にとっては、団信は回収の重要な手段の一つである、ということです。貸出順が常に4番目以降にしか入れない貸金業者がいたとすると、顧客は全て「3社以上から借入を行っている客」ということになり、これらのうち「5社からの借入」となってしまう人たちが半分いれば、この層から自殺する確率は高くなっているだろう、ということです。顧客に占める自殺者比率は、貸し込み業者になるに従い高くなる、という可能性が高いと思います。大手は貸してる絶対数が多いのと、1番目とか3番目くらいまでに貸しているので、後半(5番目とか)で自殺原因(強烈な取立て行為とか・・・)を作られても、結果的に保険で弁済を受けることになるでしょう。


とりあえず。