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団信と自殺~池田信夫氏は正しいか

2006年10月28日 16時26分27秒 | 社会全般
本当は、団信のことはもういいと思うんだが、気になったので書いておく。

池田氏は例によって、「合理的ではないのだ」という理屈を述べている。

池田信夫 blog:戦略なき思考

一部を引用する。

しかし問題はまず、そういうことが起こっているのかどうかということだ。金融庁の調査によれば、この保険の総受取件数のうち、自殺を原因とする受取件数は9.4%。これは死亡原因(20~69歳)のうち自殺の占める率9.04%とほぼ同じである。つまり、この保険に入ることによって自殺が増えるという因果関係は見られない。


フーム、金融庁資料ですか(池田氏の記事中にリンクがあります)。これは私もノーマークでした。以前に書いた憶測記事(貸金業の団信の効果)はかなり外れていました。お詫び致します。ただ、「何が問題なのか」という視点が欠けているようにも思えますので、「数字を鵜呑みにして」何でも信じ込めばいいわけではないことを言っておきます。


まず最初の問題。
自殺原因の受取件数が9.4%に対して、同年代の死亡に占める自殺の割合9.04%が「ほぼ同じ」、ということについて。

根本的に「何と何を比較すればよいか」ということが、正しくないと思われます。
また例で考えてみましょう。あるサプリメントの調査であるとしましょう。

<調査1>
対象:X町在住の2千人
調査結果:次のような割合であった
サプリメントA 25%
サプリメントB 30%
不明      45%

結論1:「サプリメントAは25%を占めていた」

<調査2>
対象:Y町在住の1万人
調査結果:次のような割合であった
サプリメントA 25%
サプリメントB 30%
サプリメントC 10%
なし       35%

結論2:「サプリメントAは25%を占めていた」


このようになっていたとしますと、調査1と2の結果を比較して、サプリメントAの占める割合が同じだから、X町とY町では「同じ割合でサプリメントAが選択されている」という推定をするのが疑問なのですね。X町の45%、つまり900人は「飲んでいるか」「Aか」「Bか」というのが、あくまで「不明」なのです。調査2の回答結果とは明らかに意味が異なっているのです。


世論調査などでも有効回答率が示されると思いますが、仮に3000人に調査して無回答が40%あったら、それを全体の母数に入れますか?恐らく外していると思いますけど。「政府に最も望む政策」を調べて、3000人中1800人が答え、7割(=1260人)が「年金」と答えたら、「7割が年金」を望む、ということになると思いますよ。そこで3000人中1260人が年金と答えた、などと言うのでしょうか。回答者の「42%が年金を選択しました」となると、信じ込んでいるのでしょうか。

「9.4%と9.04%は違いはなく、ほぼ同じ」という発想が信じられません。「比較対象が違っている」と疑問に思わないことが不思議です。条件がある程度判明している対象同士で比較するのが普通なのではないか、と思います。


金融庁の調査結果を別な表現で言うと、次のようになります。

対象:保険金受取のうち死亡原因の判明している24790件

調査結果:

①自殺は4908件で「約19.8%」を占めた
②自殺による保険金受取件数は最小11.2%、最大33.3%
③大手5社以外の約350万口座のうち、自殺による受取件数は1432件
④大手5社の約993万口座のうち、自殺による受取件数は3476件
⑤大手5社以外の受取保険金74億円のうち、自殺は13億円で約17.6%
⑥大手5社の受取保険金228億円のうち、自殺は30億円で約13.2%


以下に、少し考察してみましょう。

人口動態統計によれば、04年度に死亡した20~69歳の全死亡数は267802人。このうち、自殺は24206人で約9.04%であった。これは統計的な数字ですので、問題ないでしょう。では、この9.04%と、保険金受取件数の9.4%にはどのような比較する意味があるでしょう?ありませんよね、全く。単に出てくる数字が「9」「4」と共通していることくらいでしょう(笑)。件数の方は重複カウントされている可能性が高く、一概には言えないでしょう。

①に示したように、原因の判明しているもののうち、自殺件数の占める割合は19.8%である、というのはそうですか、とは思います。で、②ですけれども、件数の割合が3倍程度開いていますので、理由がいくつか考えられますね。「死因不明の数が少なく、自殺が実態通りにカウントされている」、「本当に追い込みが酷くて自殺者の割合が多い=保険金で回収を得意としている」、という可能性があるかもしれません。この辺は憶測ですので、金融庁の資料からだけでは言えないですけどね。

③と④ですけれども、大手と大手以外を比較すると、1432件は10万口座当たり40.9件の自殺、3476件は10万口座当たり35.0件の自殺、という意味です。普通の自殺の死亡率も人口10万対で見ますので、それよりは「多い」ということになると思います(全人口で25前後、若い世代でも40は行かない)。重複がどの程度なのかにもよりますけれども。大手5社とそれ以外では、それ以外の方が「自殺件数の発生率は高い」ということですよ。これは、前に書いた予想にあっているかもしれませんね。

⑤と⑥も、大手5社とそれ以外で比較すれば、自殺で回収された割合というのは違いがありますね。有意差があるかどうかは不明ですけれども。「厳しい追い込みで回収」は、貸出残高が少ない業者に下がっていけば「起こりえるのではないか」、ということを窺わせます。


結局、資料から見つけられる数字なんていうのは、操作次第ではどうにでもなるのですよ。自分の都合の良い方に「もっともらしい」解釈を付与し、目先を誤魔化すのなんて、可能なのですよ。しかし、「9.4%」と「9.04%」を並べて、「ほぼ同じ」という解釈をする人々がこれほど多く存在するとは思いませんでしたよ。もう、呆れて・・・・・