前の記事(奈良の妊婦死亡事件について)に、moominさんという麻酔科標榜医の方からコメントを頂戴しました。
確かに説明不足でありましたので、補足したいと思います。
(法学専門家の意見を聞くのが正しいと思いますので、あくまで私見としてご理解下されば幸いです)
麻酔科の標榜に関する法的規制が存在するので、他の診療科目とは異なる扱いになるのではないかと考えていました。まず、診療科目の規定について見ることにします。基本法は医療法です。
医療法 第七十条
前条第一項第二号の規定による診療科名は、医業及び歯科医業につき政令で定める診療科名とする。
2 前条第一項第三号の規定による診療科名は、前項の規定による診療科名以外の診療科名であつて当該診療に従事する医師又は歯科医師が厚生労働大臣の許可を受けたものとする。
3 厚生労働大臣は、第一項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、医学医術に関する学術団体及び医道審議会の意見を聴かなければならない。
4 厚生労働大臣は、第二項の許可をするに当たつては、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。
5 第二項の規定による診療科名を広告するときは、当該診療科名につき許可を受けた医師又は歯科医師の氏名を、併せて広告しなければならない。
第70条第1項に「政令で定める」となっており、政令は次のように定められています。
医療法施行令 第五条の十一
法第七十条第一項 に規定する政令で定める診療科名は、次のとおりとする。
一 医業については、内科、心療内科、精神科、神経科、呼吸器科、消化器科、循環器科、アレルギー科、リウマチ科、小児科、外科、整形外科、形成外科、美容外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、皮膚泌尿器科、性病科、こう門科、産婦人科、眼科、耳鼻いんこう科、気管食道科、リハビリテーション科及び放射線科
二 歯科医業については、歯科、矯正歯科、小児歯科及び歯科口腔外科
2 前項第一号に掲げる診療科名のうち、次の各号に掲げるものについては、それぞれ当該各号に掲げる診療科名に代えることができる。
一 神経科 神経内科
二 消化器科 胃腸科
三 皮膚泌尿器科 皮膚科又は泌尿器科
四 産婦人科 産科又は婦人科
このようになっておりますので、「麻酔科」は第70条第一項の適用範囲外であるということになります。
ここまでを見てみますと、医師は国家試験に合格して医師免許を取得し、決められた研修医制度を経れば、施行令第5条の十一にある診療科目は自由に標榜可能であるということです。これはどういうことかと言えば、これら全てについて標榜が可能な一定水準に達していると考えられている、ということです。何らかの医療行為を実施するに当たり、医師個人の能力としては「どの診療科目であっても行ってもよいと考えられる水準にある」ということであるかと思います。故に、これら診療科目の標榜については法的な条件設定はなく、「標榜してもよい」=「できる」ということであろうな、と考えます。現実は違ったとしても、法的には一応そういうことかな、と。
参考までに、第70条規定では「前条」と出てきますので、前の条を見ますと次のように書かれています。
医療法 第六十九条
医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関しては、文書その他いかなる方法によるを問わず、何人も次に掲げる事項を除くほか、これを広告してはならない。
一 医師又は歯科医師である旨
二 次条第一項の規定による診療科名
三 次条第二項の規定による診療科名
(以下略)
この第69条は広告規制に関する条文です。第70条と相互に参照というか、連結されているように感じます。何と言うか、「グルグル」感がありますね(笑)。
第70条の「第一項規定の診療科名」と「第二項規定の診療科名」というのは、明確に区分されています。今まで見てきたのは、第一項の法的基準が設けられていない診療科目でした。第二項規定の診療科名は次のように書かれています。
医療法施行規則 第四十二条の四
法第七十条第二項 の規定による診療科名として麻酔科(麻酔の実施に係る診療科名をいう。以下同じ。)につき同項 の許可を受けようとする医師は、次に掲げる事項を記載した申請書を厚生労働大臣に提出しなければならない。
一 申請者の氏名、住所、生年月日、略歴、医籍の登録番号及び医籍の登録年月日
二 申請者の従事先の名称、診療科名及び役職又は地位
三 次に掲げる麻酔の実施に係る業務(以下「麻酔業務」という。)に関する経歴
イ 麻酔業務を行つた期間
ロ 麻酔を実施した症例数
ハ 麻酔業務を行つた施設名
ニ 麻酔の実施に関して十分な指導を行うことのできる医師(以下「麻酔指導医」という。)の氏名
2 厚生労働大臣は、前項の申請書の提出があつた場合において、当該医師が次の各号のいずれかの基準を満たしていると認めるときは、法第七十条第二項 の許可を与えるものとする。
一 医師免許を受けた後、麻酔の実施に関して十分な修練(麻酔指導医の実地の指導の下に専ら麻酔の実施に関する医業を行うことをいう。以下同じ。)を行うことのできる病院又は診療所において、二年以上修練をしたこと。
二 医師免許を受けた後、二年以上麻酔の業務に従事し、かつ、麻酔の実施を主に担当する医師として気管への挿管による全身麻酔を三百症例以上実施した経験を有していること。
3 厚生労働大臣は、前項の許可を与えるのに必要と認めるときには、当該医師に対し、当該医師が麻酔を実施した患者に関し、次の各号に掲げる書類の提出を求めることができる。
一 麻酔記録
二 手術記録
三 その他必要な書類
(以下略)
このように、「麻酔科」とは医療法第70条第二項規定の標榜科目であり、それには「法的要件」を満たす必要がある、ということかと思われます。従って、標榜制限を受ける分だけ、一般の医師にはこの技術・能力水準は「義務として」課されているわけではない、と考えます。要件を満たしている麻酔科標榜医はどの医療行為であっても行うことは可能であり、法的制限を受けるものではありません。
一方、要件に達しない水準の一般医師たちは多いと思われますが、これら医師たちは「麻酔科業務」を行える(医療行為の法的な制限は受けない)はずです。ただ、麻酔科標榜医と同じように「できないとしても止むを得ない」か、「できないとしても法的責任は問われない」、という意味ではないのかな、と思ったのです。そういう特殊性のある業務であろうな、と。他の標榜科目はいずれも自由選択ですので、自由に選べることをもって医師個人の能力については「ある水準」を超えていることを担保するものであろう、ということです。そういう違いなのではなかろうか、と。
ですので、たとえ皮膚科医であっても、生命に重大な危機を及ぼす病態であれば救命義務はありますでしょうし、「ある水準」以上の医療行為を行う義務があるであろう、ということかと思います。「ある水準」とはどの程度なのか、というのはよく判らないのですが。
確かに説明不足でありましたので、補足したいと思います。
(法学専門家の意見を聞くのが正しいと思いますので、あくまで私見としてご理解下されば幸いです)
麻酔科の標榜に関する法的規制が存在するので、他の診療科目とは異なる扱いになるのではないかと考えていました。まず、診療科目の規定について見ることにします。基本法は医療法です。
医療法 第七十条
前条第一項第二号の規定による診療科名は、医業及び歯科医業につき政令で定める診療科名とする。
2 前条第一項第三号の規定による診療科名は、前項の規定による診療科名以外の診療科名であつて当該診療に従事する医師又は歯科医師が厚生労働大臣の許可を受けたものとする。
3 厚生労働大臣は、第一項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、医学医術に関する学術団体及び医道審議会の意見を聴かなければならない。
4 厚生労働大臣は、第二項の許可をするに当たつては、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。
5 第二項の規定による診療科名を広告するときは、当該診療科名につき許可を受けた医師又は歯科医師の氏名を、併せて広告しなければならない。
第70条第1項に「政令で定める」となっており、政令は次のように定められています。
医療法施行令 第五条の十一
法第七十条第一項 に規定する政令で定める診療科名は、次のとおりとする。
一 医業については、内科、心療内科、精神科、神経科、呼吸器科、消化器科、循環器科、アレルギー科、リウマチ科、小児科、外科、整形外科、形成外科、美容外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、皮膚泌尿器科、性病科、こう門科、産婦人科、眼科、耳鼻いんこう科、気管食道科、リハビリテーション科及び放射線科
二 歯科医業については、歯科、矯正歯科、小児歯科及び歯科口腔外科
2 前項第一号に掲げる診療科名のうち、次の各号に掲げるものについては、それぞれ当該各号に掲げる診療科名に代えることができる。
一 神経科 神経内科
二 消化器科 胃腸科
三 皮膚泌尿器科 皮膚科又は泌尿器科
四 産婦人科 産科又は婦人科
このようになっておりますので、「麻酔科」は第70条第一項の適用範囲外であるということになります。
ここまでを見てみますと、医師は国家試験に合格して医師免許を取得し、決められた研修医制度を経れば、施行令第5条の十一にある診療科目は自由に標榜可能であるということです。これはどういうことかと言えば、これら全てについて標榜が可能な一定水準に達していると考えられている、ということです。何らかの医療行為を実施するに当たり、医師個人の能力としては「どの診療科目であっても行ってもよいと考えられる水準にある」ということであるかと思います。故に、これら診療科目の標榜については法的な条件設定はなく、「標榜してもよい」=「できる」ということであろうな、と考えます。現実は違ったとしても、法的には一応そういうことかな、と。
参考までに、第70条規定では「前条」と出てきますので、前の条を見ますと次のように書かれています。
医療法 第六十九条
医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関しては、文書その他いかなる方法によるを問わず、何人も次に掲げる事項を除くほか、これを広告してはならない。
一 医師又は歯科医師である旨
二 次条第一項の規定による診療科名
三 次条第二項の規定による診療科名
(以下略)
この第69条は広告規制に関する条文です。第70条と相互に参照というか、連結されているように感じます。何と言うか、「グルグル」感がありますね(笑)。
第70条の「第一項規定の診療科名」と「第二項規定の診療科名」というのは、明確に区分されています。今まで見てきたのは、第一項の法的基準が設けられていない診療科目でした。第二項規定の診療科名は次のように書かれています。
医療法施行規則 第四十二条の四
法第七十条第二項 の規定による診療科名として麻酔科(麻酔の実施に係る診療科名をいう。以下同じ。)につき同項 の許可を受けようとする医師は、次に掲げる事項を記載した申請書を厚生労働大臣に提出しなければならない。
一 申請者の氏名、住所、生年月日、略歴、医籍の登録番号及び医籍の登録年月日
二 申請者の従事先の名称、診療科名及び役職又は地位
三 次に掲げる麻酔の実施に係る業務(以下「麻酔業務」という。)に関する経歴
イ 麻酔業務を行つた期間
ロ 麻酔を実施した症例数
ハ 麻酔業務を行つた施設名
ニ 麻酔の実施に関して十分な指導を行うことのできる医師(以下「麻酔指導医」という。)の氏名
2 厚生労働大臣は、前項の申請書の提出があつた場合において、当該医師が次の各号のいずれかの基準を満たしていると認めるときは、法第七十条第二項 の許可を与えるものとする。
一 医師免許を受けた後、麻酔の実施に関して十分な修練(麻酔指導医の実地の指導の下に専ら麻酔の実施に関する医業を行うことをいう。以下同じ。)を行うことのできる病院又は診療所において、二年以上修練をしたこと。
二 医師免許を受けた後、二年以上麻酔の業務に従事し、かつ、麻酔の実施を主に担当する医師として気管への挿管による全身麻酔を三百症例以上実施した経験を有していること。
3 厚生労働大臣は、前項の許可を与えるのに必要と認めるときには、当該医師に対し、当該医師が麻酔を実施した患者に関し、次の各号に掲げる書類の提出を求めることができる。
一 麻酔記録
二 手術記録
三 その他必要な書類
(以下略)
このように、「麻酔科」とは医療法第70条第二項規定の標榜科目であり、それには「法的要件」を満たす必要がある、ということかと思われます。従って、標榜制限を受ける分だけ、一般の医師にはこの技術・能力水準は「義務として」課されているわけではない、と考えます。要件を満たしている麻酔科標榜医はどの医療行為であっても行うことは可能であり、法的制限を受けるものではありません。
一方、要件に達しない水準の一般医師たちは多いと思われますが、これら医師たちは「麻酔科業務」を行える(医療行為の法的な制限は受けない)はずです。ただ、麻酔科標榜医と同じように「できないとしても止むを得ない」か、「できないとしても法的責任は問われない」、という意味ではないのかな、と思ったのです。そういう特殊性のある業務であろうな、と。他の標榜科目はいずれも自由選択ですので、自由に選べることをもって医師個人の能力については「ある水準」を超えていることを担保するものであろう、ということです。そういう違いなのではなかろうか、と。
ですので、たとえ皮膚科医であっても、生命に重大な危機を及ぼす病態であれば救命義務はありますでしょうし、「ある水準」以上の医療行為を行う義務があるであろう、ということかと思います。「ある水準」とはどの程度なのか、というのはよく判らないのですが。