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「貧乏バイアス」の存在を疑う(笑)

2007年01月15日 20時57分31秒 | 経済関連
あんまりマジに受け取らないでね。

前の記事で触れましたが、日銀のアンケート結果を見て物価と金利の回答結果が気になったので、それについて書くことにします。


1)物価について


この結果からは、統計上の数値(CPI 、コア~とか)と随分とかけ離れているな、というのが第一印象でした。これは何故なのか?ということですね。

まず、回答している人たちは、ごく普通の人々であると思いますし、必ずしも経済理論とか統計上の定義(物価の算出法だの、品目だの・・・)なんかを熟知している訳ではないだろうと思います。これが結構重要だろうと思いますね。

よく行動経済学で言われるような、「得したことへの評価よりも、損を嫌う・損の方が強く感じられる」みたいなのがありますよね。物価上昇の実感は、主にこの傾向が表れているんじゃないかな、と思うのです。それが、「感覚的な物価上昇幅は過大に評価されやすい」ということに繋がっているのではなかろうか、と。


買い物をする時、「高く買わされる」のと「安い値段で買える」のでは、高い場合には買い手にとっては損失で全く同じものを安く買えると「利益」ということになると思います。であれば、10円高い値段の時と10円安い値段の時にそれぞれ1度ずつ買ったとしても、印象としては「高かった」(=損した)という方が強く残る、ということじゃないかな、と思うのです。本当は均等なんですけれどね(そう考えると、共産党の「庶民の生活を苦しめる~云々」とかいう主張も、何だか理解できるような気がします(笑)。だって、そちらばかりが印象に残っているのですから)。


仮に、大根を購入する時、値段はバラバラだろうと思うのですが、安く買えた場合にはあまり記憶されておらず、高かった記憶が残っていて、それが幾度か起こると「また大根が高かった」という記憶は強化されると思います。安かった回数をいちいち思い出せないのが普通なのではないかな、と。こうして、「最近大根は高い」という印象が定着するということなんじゃないかな、と。これが、かなりの品目について行われるので、どちらかと言えば「高かった」という記憶の方が優勢になるかもな、と思います。


それから、みんなが「あらゆる財」を購入することはないので、例えばデジタルテレビとかパソコンとかを購入したりする人にとっては、「最近は値下がりしたな」という感覚は生じますが、そういうモノを購入しなかった人たちはたまたま値上がりしていたもの(一時のガソリンや灯油とか、ティッシュとか)を購入した時の印象が残るので、全商品を均等に思い浮かべたりでき難いのではないでしょうか。たとえ購入しなくとも、普段から価格情報に細かく目を通して、「最近はデジタルカメラや携帯電話が安くなったな~」とか実感だけしている人というのは、かなりの少数派なのではないでしょうか。「あら、最近は女性下着やカシミア製品が安いわね」などと(いい加減な例ですので実態は知らないです)、分る人の方が凄いですよね。ネギの値段が2本100円だったのを、ちょっと値下がりしてきたので3本100円で売っていても、あまり「お得感」は無いという可能性もあります。これまで輸入物のサーモンを購入していたが、国内産の鮭を偶然購入したら、値段がえらく高くなった印象を受けるとか(産地までいちいち見てないかも)。


要するに、こういったバイアスみたいなのが存在するので、実感が統計的な数値には中々近づかないのではないだろうか、と。しかも大抵の場合、物価が上がれば、「企業にむしり取られた」と思っているかどうか分りませんが、自分がかなり損をさせられた気分になるでしょう。憎むべき「物価上昇」ということなんですよね。靴下やタマゴを買う時に、いちいち社会全体の経済のことなんか考えないですから、普通は。デフレがどのような負の効果をもたらすのか、よく知らないからではないでしょうか。


現状の物価水準の答えを見ると、5%以上低下か上昇を選んでいる人たちは約2割いるので、ズレてる傾向は出てると思います。更に、ゼロ未満を選ぶ人たちは、たったの7.1%しかいません。平均では2.9%で、その前の調査では4.2%というべら棒な数字になっています。つまり、こういった人々が実感として「物価は上がっていない」と感じるレベルというのは、下手すりゃ、毎年3~4%の持続的下落が必要ということになってしまい、まるで日銀の「良いデフレ」信者みたいなことになりかねません。「損させられた」という記憶と、似たような状況が複数回繰り返されることによる記憶増強の結果が、こうした数字に出ているのではないか。


別な見方で、金持ちと貧乏人がいた時、どちらがより「物価が上がっている」実感が強くでるかというと、恐らく貧乏人なんじゃなかろうか、という気がしています(実際の行動経済学ではどうなっているかわかりません)。普通に考えると、生活やお金に余裕があれば多少の値上がりにも「まあそんなもんかな」という程度で、「損した気分」というのがあまり強くはならないように思うのですよね。でも、余裕がなくてカツカツの生活を強いられていれば、どうしたって「ネギが10円’も’上がっている!!」というような「損した気分」は強く印象付けられるように思えるからです。なので、物価上昇率の実感が高い数字の人たちは、どちらかと言えば貧乏な状況・生活が苦しい状況なのではないかな、と。酷い言い方をすれば、「貧乏バイアス」みたいなものではないでしょうか。


5年後の物価見通しでは、中央値で年率2.5%、平均値で4%程度上昇という予想をしているのですが、これもかなり凄い値であると思いますね。毎年毎年ですので、今の水準からすると、そこまで上がるのは厳しそうなのですけどね。まあ、これくらいは上がっていくのが常識、というようなことかな。日銀よりも、一般庶民の方が、どちらかと言うと「上げ潮」的感覚を持っており、現状で2%程度の上昇を実感しているとすれば、ここから「更に2%程度」上積みされても不思議じゃない(or 当然だ?)ということなんでしょうね。そう考えると、現状では0.5%未満の物価上昇率なので、ここから更に2%上積みすれば大体2~2.5%程度の物価上昇率が毎年達成されるだろう、ということなんですよね(実感との乖離幅は同じ程度残されるが)。これって、日銀よりもはるかにマトモな感覚なんじゃないの?4%は名目成長で行けるということですよね(笑)。



2)金利について


これも、デフレの弊害と似ているのですけれども、金利が高いとどうなるかということが、あまり理解されていないと思いますね。それ故、「金利が低すぎる」という意見は随分と多いです。でも、これは目先の金利収入を「当てにする」という人々がいる、ということを示しているものの、社会全体の経済に対する影響を考えて答えたりはしていないと思われます。ありがちな批判の典型として、名目金利と実質金利の違いも知らないで云々というようなのがありますが、私も全然知らなかったもんね、そういうのを。平凡な生活をしている人たちにとっては、そういう経済学的な話はあまり縁がないですし、どうにか目にする機会があるのはメディアですが、解説に登場する人たちは必ずと言っていいほどウソを教えるからね(笑)。なので、誤った認識というか、低金利は銀行が庶民から金を奪っているんだというような話に結びついてしまいがちです。


金利が家計消費にプラスに作用するかどうか、という問題がよく論じられます。

◎利上げをすれば、消費が増えるというのはDQNの戯言

みたいな短絡的な意見も散見されますが、確かに利上げは色々な影響はありますので、一概には言えない面はあるのでしょう。


前の記事で紹介した内閣府の分析でも、1%ポイントの利上げでは、消費はプラスになっていました。他には、次のような意見もあるようです。

平成17年度 日本経済2005-2006 第2章 第1節 金融市場の動向と日本経済

第3節 回復する金融・資産市場


つまり、

・純利子所得が5.4兆円増加、限界消費性向53%から約2.8兆円規模の消費増
・純利子所得が6.3兆円増加、単純な消費関数から約1.2兆円規模の消費増


いずれも内閣府の意見なので、何とも言えないわけですが(笑、肯定的なバイアスでしょうか?)、一応、これら分析を考え合わせますと、家計収入や消費には「プラスに作用する」と考えても良さそうではないかと思います(この部分は、同一の人が書いた可能性も有りますかね。消費額の推計が大きく違っているのですけど)。


家計にとってみれば、少し利上げしてもらって、金利所得は「多い方がいい」ということになりますが、分配面では高齢者や高額所得者などの「金融資産保有の多い層」にとってのプラス面が大きくなりますので、低所得層や若年層にとっては良い事はあまりないかもしれません。企業の利払い費用が増加する(特に中小企業)為に、非正規雇用の人たちの給与面にしわ寄せが行ったりする可能性があります(サービス業では中小企業が多かったりするし、非正規雇用に依存する割合が高いと思います)。消費者ローンの利払いが98年以降住宅ローンの利払いを上回っており、20歳代の貯蓄率の大幅なマイナス(つまりは借入が多い)などを考えると、ローン負担が重く圧し掛かってきそうです。


いずれにせよ、利上げは日本経済全体にとって見れば下押し要因には違いなく、家計の金利収入という断面だけ取り上げるのは、問題があるでしょう。それは、利上げの恩恵を受けられる人たちにとっては、プラスに違いないですが、その分だけ他の誰かがマイナスを被らねばならないからですね。金利収入はどう考えたって、金融資産持ちが断然有利に決まっており、特にキャッシュを潤沢に持っているような金持ちや大企業なんかだと、それは嬉しい話ではありましょう。


こういう状況であっても、一般人の多くは「金利をもっと上げてくれ」と言ってしまうわけです。これは、金利上げ下げの基本的な部分が知られていない、理解されていない為でしょう。それか、例えば1%という基準金利はそれでもいいので、できるだけ1%に近づくレベルで利息を付けてくれ、ということでしょうね。銀行はサヤを抜かねば利息を払えないに決まっていますが、「銀行利益は多い」ということから、その利益をもっと還元して欲しい、という意味ですよね。それならば、金利が低い、という恨み言も分ります。


根本的には、日銀のやってることや、金利のことなどについて、多くの人々に誤解とか理解不足なんかがあるのです。物価とか、インフレとか、そういうことについても、正しい知識提供などが少ないのではないでしょうか。全員に同じくらいの知識や理解を求めるのは難しいので、できれば半分程度くらいの人たちでもいいので、理解が得られるような努力は必要なのではないのかな、と。私自身も何も知らなかったですから(だって、あんまり関係ないんだもの。専門職でやっているんだし、日銀は)。


そういう訳で、物価や金利についてのアンケートを見る場合には、注意点もあるのではないのかな、と。それと、啓蒙活動が必要なんじゃないのかな、と。



日銀に利上げの根拠を問う~その2

2007年01月15日 00時46分13秒 | 経済関連
現状と比較的短期の見通しを考えてみることにする。

基本的な影響を分析した、次のペーパーを参考にした。

ESRIESRI Discussion Paper No173 短期日本経済マクロ計量モデル(2006年版)の構造と乗数分析


①公共投資

政府の基本的姿勢は、プライマリーバランスの改善を目指しているので、公共投資は伸びがマイナスということになるだろう(予算案ではそうだったよね?)。ペーパーでは拡大で調べているので、この逆(数字が同じだけマイナスになるとは限らないでしょうが)に動くことは、当然予想できる。投資額がGDP比でどの程度マイナスとなっているか、調べていないのでアレだが、基本線は実質、名目、ともにマイナスの影響となると考える。


②定率減税廃止

個人に対する影響を見れば、段階的に定率減税は廃止となるので、昨年と一昨年に比べれば「増税」と同じ意味合いであると思う。短期的には減税効果の逆に動くことが十分考えられると思う。一昨年に比べれば、GDP比で1%もマイナスにはなっていないと思うが(所得税のうち定率減税幅はどのくらいか忘れた、確か2兆円超とかそういう規模であったと思うけど・・・・)、仮に-0.5%程度のマイナスとなれば、実質、名目、消費、住宅投資等でマイナスとなることが考えられる。つまり、定率減税廃止という影響は、今年や来年に出てくる可能性が高いであろう。


③短期金利引き上げ

1ポイントの引き上げには至らないであろうが、もしも06年度内(1~3月)で引き上げられた場合、昨年7月と合わせると0.5%の引き上げに相当し、実質、名目ともに下押し要因である。特に影響が大きいのは、設備投資とか住宅投資の大きなマイナスになると思われる。この影響度はかなりあるのではないかと思うが。


④外生的ショック

短期金利の引き上げによって考えられるのは、為替の変動であろう。③の項目でも検討されているが、これとは異なった影響が出てくる可能性は有り得るであろう。昨年3月の量的緩和解除の際には、ドル円が120円近かったのが一気に115円程度まで円高が進んだはずだ。金利の引き上げ幅以上に、為替市場が反応してしまうことはあると思う。4~5%程度の変動は覚悟せねばならないかもしれない。


他には、政治的なショック要因というのも可能性は有り得ると思うが。具体的には、地方選と夏の参院選だ。この辺りで、万が一自民党が敗北するようなことがあり、安倍政権の基盤にヒビが入ろうものなら、間違いなくマイナスの影響があると思う。つまり、ある程度景気減速が起こったとしても、自律的反発が可能な程度には「緩めておく」ことが必要であろう。それくらいの慎重さが求められて然るべきであると思う。


これだけ、リスクが揃っていながら、なぜ日銀が利上げを目論んでいるのか、明らかにするべきである。何を根拠にしているのか、説明できるはずであろう。


それから、日銀のアンケート調査を見てみよう。

生活意識に関するアンケート調査(第28回)


景況感は、06年6月以降、徐々に悪化しているんですよ。先行き(1年後)の見通しにしても、同じく悪化しています。よくなる材料なんて何もないのですよ、今の所。当たり前だっての。

家計調査では、勤労者世帯の消費はマイナスが依然として続いているのですよ。それは、所得が伸びていないということもあるだろう。暮らしの余裕がなくなった、という割合は多く、楽になった、というのはごく一部だ。暮らし向きD.I.と景況感D.I.ともに、3月以降下降気味じゃないか。量的緩和解除、利上げ後、ともに、悪化を招いている傾向が窺えなくもないのだ。収入の現在水準や先行きも、改善しているというのは見られないが。こんな状況で、ULCは大幅にアップしてきたのか?(笑)プラスに転じたのか?雇用不安にしても、全然消えていないんですよ。求人が逼迫してきて、売り手市場なんてこともないし、雇用関係においては依然として労働者側が「弱い立場」におかれていることに変わりはないでしょうね、きっと。


日本の成長予測に関しても、悲観的な見方が広がっており、特に12月調査では、悪くなっていますね。まあ、そうでしょうな。これが普通の感覚だと思いますよ。景気拡大とか言いながら、給料も増えず、雇用も大して増えず、先行き暗い話題ばかりで、これで「成長していける」などと思えというのは無理でしょう。量的緩和解除の3月以降、どんどん落ちていっているのが、くっきり現れていますね(笑)。


これらの結果などを見ても、どういう利上げの根拠があるのか、本当に謎です。でも日銀は、やる気満々なんですよね。本当に不思議です。



金利や物価に関するアンケート結果ですけれども、答えた人たちの思い込みとかバイアスの存在が窺えますね。これはある意味当然かもしれません。これはもうちょっと検討してみたいと思いますので、今はとりあえず放置。後日別な記事に書くことにします。


最後に、日銀の信頼性のことを少し。

「組織や職員に誠実なイメージを持っていないから」という項目が、9月にダントツに多かったのは、明らかに福井総裁の疑惑のせいでしょう。そういうことをやるような日銀総裁ならば、そりゃ信頼なんてできんと思う人たちは出てくるわな。これも当たり前の話なので、日銀の信頼性を地に落とした福井総裁の罪は大きいと思うよ。でも、普通は日銀なんて何やってるか分らんし、興味もないので、人々の関心は直ぐに薄れるということなのだろう。


人々がよく知らないことをいいことに、好きにやっているというのが日銀の政策なのかもしれんね。