前の記事が長くなったので、分割しました。
今度は「フィブリン糊」ですか。
ターゲットにできそうなものであれば、何でもということですかね。これらの戦略というのは、原告団の人数をできるだけ大勢にして、被害を訴える「強さ」を増すものと思います。弁護団の先生方にも、たくさんの弁護料が入ることになるので、参加者を多くすればするほど効果的ですね。経済原理に適っていますね。
フィブリン糊の調査は行われたであろう、ということをシリーズ中で書いた(その4、5、7)。この感染リスクは、輸血や静注用に比べれば低いであろう、ということも述べた。これは調べたわけではないので、正確な文献的考察もできないが、用量依存性にウイルス感染リスクが高まるというのは一般的な傾向であると思われるので、そこから考えると、感染リスクは低いであろうな、ということである。それと、B型は微量でも感染することはあるが、C型になるとあまりに少ないウイルス量では感染し難いからである。従って、最も感染リスクの低いのがこの「フィブリン糊」であろうと推測される。
しかし、原告団に加わったらしい、との報道があった。まるで駆け込みみたいな感じですわな。被害を訴える側がリスト全員に通知しろ、通知しろ、と再三要求するのは、こうして訴訟に加わる人数を増やすことが目的なのではないかと勘繰らざるを得ない。人数が増えるとマスメディアが騒いでくれるし、同情が集まりやすいので勝利する可能性は高くなる。合目的的な戦術と言えよう。たとえ、そういう意図でないにせよ、結果的にはそういうことになっているだろう。
「フィブリン糊」薬害提訴 手術で感染の2人 ニュース 医療と介護 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
(以下に一部引用)
血液製剤フィブリノゲンによる感染で提訴した原告は170人以上いるが、この製剤に別の薬品を加えて作るフィブリン糊の使用による提訴は初めて。「糊」は心臓外科などで、フィブリノゲン使用者の3分の1以上にあたる7万9000人に使われたと推定されているが、被害調査も遅れている。患者は「潜在的な感染者が多数いるはず。早急な調査と救済を」と訴えている。
訴訟に加わったのは、静岡県内の40歳代と、東京都内の70歳代の男性。11月30日に提訴した。いずれも心臓手術を受けた際に、旧ミドリ十字が発売したフィブリノゲン製剤で作られたフィブリン糊を使っており、現在、慢性肝炎の治療を受けている。
「糊」による感染者は、厚生労働省が2001年に発売元の旧ミドリ十字を引き継いだウェルファイド社(当時)に、医療機関を通じて調査を求めたが、全国で48・5人(「1人から2人」という回答を1・5人と算定)としか判明しておらず、実際の感染者は1000人以上との推計もある。今回提訴した2人についても、病院が心臓外科のカルテ等を調べておらず、報告された症例数には含まれていない。
提訴した2人のうち、40歳代の男性は自ら静岡県内の総合病院に問い合わせ、1987年に心臓の手術で血管を縫合する際、止血のため「糊」を使っていたことが手術記録から判明した。
かつてこの病院に勤務していた医師は「当時、輸血や『糊』を使って心臓手術をした患者の中に、黄だんの症状が出るケースが急に増えた。3分の1はいたように記憶している」という。
87年は、青森県内の医院で集団感染が確認されるなど、フィブリノゲンによる肝炎が集中発生した時期。この医師は、「輸血用血液の衛生管理が急に悪くなったのが原因かと疑ったが今思うと不自然。『糊』のせいかもしれない。当時、『糊』を使用していた患者は、心臓手術だけでも年間60人から120人はいたと思う」と証言する。だが、同病院によると、カルテの調査などを行っておらず、01年の調査でも感染者数の報告はしていなかった。また、そのカルテ等も今は一部しか残っていないという。
提訴した70歳代の男性も1年ほど前、長崎県内の総合病院に確認し、84年に心臓の手術で「糊」を使っていたことを知った。病院幹部は、「問い合わせがあるまでフィブリン糊による感染の可能性も知らなかった」と振り返る。この病院でも、01年の調査で「糊」についてのカルテを調べたことを記憶している人はいなかった。
=====
感染者1000人という推計は、恐らく殆どが輸血を含むものであって、非輸血例で「フィブリン糊」単独使用によって感染例があるなら、是非教えて欲しいですね。前の記事に書いたように、「動く歩道」を通ったことは確かであるが、「エスカレーター」も利用していた人たち(ルート②の場合)である、ということ。動く歩道単独(ルート①の場合)だけで感染した例は確認されているか、ということですよ。90年代以降の他社製品での感染例が確認されていないのなら、ほぼ皆無に等しいのではないかと思われる。
しかし、原告団は「加われ」と引っ張り込んだわけだ。「C型肝炎になったのはフィブリン糊のせいなんだよ」とか説得した人でもいたんでしょうか?普通、自分に「フィブリン糊が使われていました」と聞かされたとして、「訴えてやる」と考える人というのは多くはないでしょうからね。
もう少し記事を詳しく見てみましょう。
まず40代男性は87年にフィブリン糊を使用。心臓の血管縫合で用いた、と。20歳代での手術ですので、珍しいですよね。先天性疾患でもあったとかでしょうか?それはいいとして、かなりの確率で術中に輸血しているでしょうね。この当時にはHCVは検査できなかったので、輸血後肝炎の症状が高頻度で見られた時期です。80年代中頃でも1割程度の肝炎症状出現が見られたのではないかと思います。輸血が何単位くらい入れたのか判りませんけれども、感染可能性でいえば「1単位輸血 >>> フィブリン糊」ということになるでしょう。
よく知りませんけれども、縫合部一箇所に用いるフィブリン糊の量なんて、1ml も行かないでしょう。何箇所も血管縫合を行っていたとしても、全部で10ml も使うかどうかです。仮に「フィブリン糊10ml 」の危険性と、「MAP3単位」の危険性との比較となれば、感染可能性が高いのは圧倒的にMAPだろうと思いますよ。
記事中には、かつて勤務していた医師というのが登場しますけれども、この証言をもう一度見てみましょう。
「当時、輸血や『糊』を使って心臓手術をした患者の中に、黄だんの症状が出るケースが急に増えた。3分の1はいたように記憶している。」
輸血や『糊』、と併せて言ってますけれども、いかにも「フィブリン糊を使うことで、黄疸の症状が出たケースが急増した」という印象付けを行おうとしている、ということですね。何故そのような証言をするのか判りかねますが、思い込みの一つではないか、或いはこの医師という方が何かの党派に関わる方なのかもしれない、などと裏読みをしてしまいますね。
この頃にはB型肝炎のスクリーニングは行われており、術前検査でもチェックはできていたでしょう。なのでB型肝炎についての輸血後肝炎の可能性は数%程度まで低下していたであろうから、約3分の1という数は多すぎですね。では本当にフィブリン糊を使用したから、ということなのでしょうか?
ここで注目すべき点があります。「黄疸の症状が出た」ということなんですよ。
まあ普通に考えると、肝炎に感染したのであれば黄疸が出ても不思議じゃない。そうですね、確かに。しかし、肝炎というのは色んな特徴があって、急性肝炎の場合には黄疸が出ますけれども、C型肝炎では黄疸の症状が出るというのはあまり多くないはずなんですよね。それ故に、輸血や血液製剤等の使用や、その他刺青とかピアスとかモロモロの理由で感染してしまったとしても、本人は勿論周囲から見ても気付かないのですね。そして知らないうちに病状は進むことがある、というのが特徴なのですから。つまり、不顕性で経過する例が大変多い、ということなのです。だからこそ、血液製剤を投与された方々で「黄疸などの肝炎症状が出現」した報告例は、リストになっている僅か400例超しかなく、実際に薬剤が使用された例数に比べると圧倒的に少ないのですからね。
よって、黄疸がよく出た、ということになれば、術後にC型肝炎となっていたことは中にはあったかもしれないが、黄疸症状がこれほど多く出るというのは別な理由かもしれない、と考えることはできますね。例えば麻酔薬剤などが変更になったりして、肝毒性の程度が変わってしまうことで、薬剤性黄疸が出現した、ということは考えられます。この頃であれば、ハロセンが結構用いられたりしていたかもしれず、そういう影響というのはあるかもしれない。或いは、術創の感染コントロールとして抗生物質の種類が変わったとか、そういう薬剤の採用状況によって黄疸の出現頻度は変わり得るでしょう。
あとは、対象患者の年代的な話、ということもあるかもしれません。心臓手術で多かったのは当時で40代後半~60代前半程度だったのではないのかな、と。最も多いと思われるのは、冠動脈疾患でのバイパス術だったのではないでしょうか。となると、病気の特徴から見て、その年代くらいの方々が多く手術を受けていたのではないのかな、と。87年頃に50歳の方で1937年生まれ、60歳だと1927年生まれということになります。この年代の方々は1950年代には20歳前後の若年世代方々であり、当時には薬物濫用が問題となった時期なのですよ。この年代におけるC型肝炎のキャリア率は、他の年代よりも多いのです。それらの方々のうち、術前から既に「C型肝炎だった」けれども、検査方法がなかったので判らなかった、ということは十分考えられるでありましょう。B型肝炎ではない、というだけの人の中にも、実はC型肝炎だった、という方は大勢おられますからね。術前に既に感染している場合には、大きな手術によって身体への侵襲が肝機能障害を惹起して、術後に黄疸が出現することは十分考えられるでありましょう。C型肝炎キャリアの最も多い年代の方々が手術対象だったので、黄疸に遭遇する確率は高くなった、と考えることは可能でありましょう。
それにしても、ざっと100人手術すると30人に黄疸が出る、ということですから、この病院では余りに多いですよね。
フィブリン糊を全例に用いていて、なおかつ原因が全てフィブリン糊であるとすれば、全国各地の使用例のうち大体3割近くが黄疸出現となり、不顕性感染例を含めると、最低でも半分程度以上は全員がC型肝炎に感染することになります。恐るべき高頻度で「C型肝炎になる」ということですね。フィブリン糊やフィブリノゲン製剤を使用していない、輸血例だけで見てもそんなに黄疸は出現しませんので、血液よりも5倍以上の確率で感染することになりますかね。
そんなことが起こるのは、フィブリン糊の製造に用いられた血液は相当部分がC型肝炎キャリアからの供血であり、製品の殆ど半分以上が汚染されており、血液そのもの以上に感染力がある、ということですかね。だとすると、使用した医療機関のほぼ全部において黄疸出現が確認され、87年の青森で起こった連続感染例どころの騒ぎではないでしょうね。
まあ、いずれにせよ、この医師の証言というものをよく見ると、黄疸出現例があまりに多すぎであり、C型肝炎の特徴とは若干ズレがあるように思われます。それらの原因として、「フィブリン糊」を第一番に疑う、という医師の感覚というのも解せませんね。どうみても感染リスクの高いのは輸血ではないかと思いますけど。当時HCV抗体検査ができなかったのですから、唯一肝炎感染を知るのは「黄疸」などの肝炎症状出現例だけです。術後肝炎の症状が出て初めて「ああ、肝炎だな」と判るだけなのですよね。となると、フィブリン糊だけではなくフィブリノゲン製剤も含めて、黄疸出現例がそこまで多くないのですから、証言した医師の病院での多さは別な要因である可能性が高いと思いますね。原告団に加わった方々には、「何にも症状が出なかった」人たちが大勢おられるのではないですか?02年以降に血液検査をして初めて知った、という方々もおられますでしょう?つまり、そのこと自体が、C型肝炎の方々の黄疸出現の少なさを物語っているのではないでしょうか?ということなんですよ。
もう一例の70代の方ですけれども、どうやら手術の予後は良かったようで、男性の平均寿命くらいまでは生存できたと思われます。フィブリン糊を用いられたからといって、寿命が平均よりも短くなることはなかった、ということなのではないでしょうか。グラフト部の血栓が飛んで致死的となることもなく、再狭窄で再手術にもならなかったのであれば、割と良かったのではないでしょうか。全然状況は判りませんけれども。抗凝固療法も長年続けてきて、長期生存例となっておられる様子ですので、日本の医療水準がそれなりの結果を出しているのだな、と思いました。ワーファリンとか使ってたりするかも、と思ったもので。ああ、この薬も黄疸の副作用はありますね。参考までに。
日本のマスメディアは、何とでも好きなことが書けるようで、羨ましい限りです。先日のガン患者にモルヒネ投与の話も、20年くらい前から判っていた話でしょうに。何で昔の時点から言わないんですかね?後出しジャンケンはいつも有利だからですか?合成アルカロイドだって色々とあるし、天然もの(笑)なら紀元前数千年前からあるでしょう。麻薬なんて昔からのものであって、今に始まったことなんかじゃないんですよ。
マスメディアやジャーナリストとかが、何かを判ったような気になって言うんですけれども、その中の誰1人として責任なんて取らんでしょう。バブル期頃には、コンチンとかあったし、モルヒネだけじゃなくケタミンも昔からあるじゃないの。
多分、ペイン・コントロールそのものが難しいものなんですよ。特に、ガン患者になればもっと困難だろうし、終末期になれば更に難しいのだろうと思う。それをただの素人連中が、麻薬を使えばいいじゃん、みたいに簡単に言うのもどうかと思うのですよ。だったら、もっと昔から麻薬緩和とか、運動をやってりゃ良かったじゃないか。ケタミンごときで死亡するとかヤク中になるくらいで薬事法改正すんな、とか反対すりゃ良かったんじゃないか。
そもそもガンは昔からあるし、昔のガンだって今と同じく痛いし、麻薬なんて昔からあるのも判ってたでしょう?今と何が違うっていうのでしょうか?何にも変わってなんかいないんですって。
こうした軽々しい論調の一方で、落ち着いて順に考えれば判りそうなことについてでさえ、「命を軽視するな、薬害のせいだ、薬が原因なのは明らかだ」とか、散々騒いでいるだけじゃないの。
タミフルのせいだ、リレンザのせいだ、フィブリノゲンのせいだ、フィブリン糊のせいだ、リタリンのせいだ、結局どれでも同じなんだよ。薬剤が原因かどうかも判らんのに、何が問題があれば、使うな、と。その一方では、もっと簡単に使えるようにしろ、と。どっちなんだよ。
裁判官と一緒。
ニトロをもっと使えば狭心症発作は起きなかった、だからもっと使っとけ、とか言うのだよ。
でも別な薬の場合では、常用量内ではあったが必要最小限にはなっていなかったから過失、とも言うのだよ。
じゃあ一体どうしろと?
最適量を算出できんのか?ならば、やってみ。
必要最小限の量って、「どんだけ~」。教えてくれや。
薬を使わなかったら、「患者が飲みやすい環境になってなかったので義務違反」って、どういうこと?
急患のたらい回し問題も同じさ。
とりあえず引き受けて診ようと思ったら、
・危険なのに1人でやったので逮捕・刑事裁判(福島産科死亡事件)
・できないのに引き受けた(バイト当直医が挿管できないので過失)
・次の転送先を探した時間かかり告訴(奈良県産科事件)
・転送までの時間が長かったので過失認定(加古川事件)
とか、刑事・民事責任を取らされることになるのですよ。
下手に診ない方がまだマシだ。
もし逮捕されたりすれば、病院は閉院となったりするかもしれんからね。悪い噂は(病人じゃなくても)「命取り」なんですよ。こういう状況は報道とか司法からのバッシングや患者権利団体とかの活動とか弁護士営業活動の結果、こうなったということなのではないでしょうか。
今はできない、とか、自分にはできそうにないから、と断ったら、「医者なのにできんのかー!それでも医者か!」とか。
専門が違いますから、という話もあるけど、専門外で診断がついてなかったり不正確だったりしようものなら、「頭蓋内出血が判らんかったのかー!それでも医者か!」とか。とことん「無限責任」ループからは逃れられんのですよ(笑)。
どこまでも注意義務は発生しており、医師の能力が神の領域まで高められた幻のスーパードクターでなければできんのですよ。
そんな責め苦を負うくらいなら、やらない方がマシだってことかな、と。
完璧を求めるのであれば、そういうシステムにしといて頂戴、って話。
確実に捌けるような体制を組んで、遠くまで行かなければならないとしても、行き先固定とかで受け入れ側には常に空きのある体制としておかないと無理だね、とか。施設もマンパワーも無限じゃないからね。できる人たちを常に配備しておける体制を作ればいいだけ。
最後は殆ど文句みたいな話で大きく逸れてしまいましたが、要するに「フィブリン糊」で原告団に参加というのは、疑問点が多いな、ということ。当時の病院医師の話としても、合点のいかない部分は多くあるね、と。
ひょっとして、訴えれば保障対象になるかもしれないから、ということなのではないか、というのが下衆の勘繰りです。
今度は「フィブリン糊」ですか。
ターゲットにできそうなものであれば、何でもということですかね。これらの戦略というのは、原告団の人数をできるだけ大勢にして、被害を訴える「強さ」を増すものと思います。弁護団の先生方にも、たくさんの弁護料が入ることになるので、参加者を多くすればするほど効果的ですね。経済原理に適っていますね。
フィブリン糊の調査は行われたであろう、ということをシリーズ中で書いた(その4、5、7)。この感染リスクは、輸血や静注用に比べれば低いであろう、ということも述べた。これは調べたわけではないので、正確な文献的考察もできないが、用量依存性にウイルス感染リスクが高まるというのは一般的な傾向であると思われるので、そこから考えると、感染リスクは低いであろうな、ということである。それと、B型は微量でも感染することはあるが、C型になるとあまりに少ないウイルス量では感染し難いからである。従って、最も感染リスクの低いのがこの「フィブリン糊」であろうと推測される。
しかし、原告団に加わったらしい、との報道があった。まるで駆け込みみたいな感じですわな。被害を訴える側がリスト全員に通知しろ、通知しろ、と再三要求するのは、こうして訴訟に加わる人数を増やすことが目的なのではないかと勘繰らざるを得ない。人数が増えるとマスメディアが騒いでくれるし、同情が集まりやすいので勝利する可能性は高くなる。合目的的な戦術と言えよう。たとえ、そういう意図でないにせよ、結果的にはそういうことになっているだろう。
「フィブリン糊」薬害提訴 手術で感染の2人 ニュース 医療と介護 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
(以下に一部引用)
血液製剤フィブリノゲンによる感染で提訴した原告は170人以上いるが、この製剤に別の薬品を加えて作るフィブリン糊の使用による提訴は初めて。「糊」は心臓外科などで、フィブリノゲン使用者の3分の1以上にあたる7万9000人に使われたと推定されているが、被害調査も遅れている。患者は「潜在的な感染者が多数いるはず。早急な調査と救済を」と訴えている。
訴訟に加わったのは、静岡県内の40歳代と、東京都内の70歳代の男性。11月30日に提訴した。いずれも心臓手術を受けた際に、旧ミドリ十字が発売したフィブリノゲン製剤で作られたフィブリン糊を使っており、現在、慢性肝炎の治療を受けている。
「糊」による感染者は、厚生労働省が2001年に発売元の旧ミドリ十字を引き継いだウェルファイド社(当時)に、医療機関を通じて調査を求めたが、全国で48・5人(「1人から2人」という回答を1・5人と算定)としか判明しておらず、実際の感染者は1000人以上との推計もある。今回提訴した2人についても、病院が心臓外科のカルテ等を調べておらず、報告された症例数には含まれていない。
提訴した2人のうち、40歳代の男性は自ら静岡県内の総合病院に問い合わせ、1987年に心臓の手術で血管を縫合する際、止血のため「糊」を使っていたことが手術記録から判明した。
かつてこの病院に勤務していた医師は「当時、輸血や『糊』を使って心臓手術をした患者の中に、黄だんの症状が出るケースが急に増えた。3分の1はいたように記憶している」という。
87年は、青森県内の医院で集団感染が確認されるなど、フィブリノゲンによる肝炎が集中発生した時期。この医師は、「輸血用血液の衛生管理が急に悪くなったのが原因かと疑ったが今思うと不自然。『糊』のせいかもしれない。当時、『糊』を使用していた患者は、心臓手術だけでも年間60人から120人はいたと思う」と証言する。だが、同病院によると、カルテの調査などを行っておらず、01年の調査でも感染者数の報告はしていなかった。また、そのカルテ等も今は一部しか残っていないという。
提訴した70歳代の男性も1年ほど前、長崎県内の総合病院に確認し、84年に心臓の手術で「糊」を使っていたことを知った。病院幹部は、「問い合わせがあるまでフィブリン糊による感染の可能性も知らなかった」と振り返る。この病院でも、01年の調査で「糊」についてのカルテを調べたことを記憶している人はいなかった。
=====
感染者1000人という推計は、恐らく殆どが輸血を含むものであって、非輸血例で「フィブリン糊」単独使用によって感染例があるなら、是非教えて欲しいですね。前の記事に書いたように、「動く歩道」を通ったことは確かであるが、「エスカレーター」も利用していた人たち(ルート②の場合)である、ということ。動く歩道単独(ルート①の場合)だけで感染した例は確認されているか、ということですよ。90年代以降の他社製品での感染例が確認されていないのなら、ほぼ皆無に等しいのではないかと思われる。
しかし、原告団は「加われ」と引っ張り込んだわけだ。「C型肝炎になったのはフィブリン糊のせいなんだよ」とか説得した人でもいたんでしょうか?普通、自分に「フィブリン糊が使われていました」と聞かされたとして、「訴えてやる」と考える人というのは多くはないでしょうからね。
もう少し記事を詳しく見てみましょう。
まず40代男性は87年にフィブリン糊を使用。心臓の血管縫合で用いた、と。20歳代での手術ですので、珍しいですよね。先天性疾患でもあったとかでしょうか?それはいいとして、かなりの確率で術中に輸血しているでしょうね。この当時にはHCVは検査できなかったので、輸血後肝炎の症状が高頻度で見られた時期です。80年代中頃でも1割程度の肝炎症状出現が見られたのではないかと思います。輸血が何単位くらい入れたのか判りませんけれども、感染可能性でいえば「1単位輸血 >>> フィブリン糊」ということになるでしょう。
よく知りませんけれども、縫合部一箇所に用いるフィブリン糊の量なんて、1ml も行かないでしょう。何箇所も血管縫合を行っていたとしても、全部で10ml も使うかどうかです。仮に「フィブリン糊10ml 」の危険性と、「MAP3単位」の危険性との比較となれば、感染可能性が高いのは圧倒的にMAPだろうと思いますよ。
記事中には、かつて勤務していた医師というのが登場しますけれども、この証言をもう一度見てみましょう。
「当時、輸血や『糊』を使って心臓手術をした患者の中に、黄だんの症状が出るケースが急に増えた。3分の1はいたように記憶している。」
輸血や『糊』、と併せて言ってますけれども、いかにも「フィブリン糊を使うことで、黄疸の症状が出たケースが急増した」という印象付けを行おうとしている、ということですね。何故そのような証言をするのか判りかねますが、思い込みの一つではないか、或いはこの医師という方が何かの党派に関わる方なのかもしれない、などと裏読みをしてしまいますね。
この頃にはB型肝炎のスクリーニングは行われており、術前検査でもチェックはできていたでしょう。なのでB型肝炎についての輸血後肝炎の可能性は数%程度まで低下していたであろうから、約3分の1という数は多すぎですね。では本当にフィブリン糊を使用したから、ということなのでしょうか?
ここで注目すべき点があります。「黄疸の症状が出た」ということなんですよ。
まあ普通に考えると、肝炎に感染したのであれば黄疸が出ても不思議じゃない。そうですね、確かに。しかし、肝炎というのは色んな特徴があって、急性肝炎の場合には黄疸が出ますけれども、C型肝炎では黄疸の症状が出るというのはあまり多くないはずなんですよね。それ故に、輸血や血液製剤等の使用や、その他刺青とかピアスとかモロモロの理由で感染してしまったとしても、本人は勿論周囲から見ても気付かないのですね。そして知らないうちに病状は進むことがある、というのが特徴なのですから。つまり、不顕性で経過する例が大変多い、ということなのです。だからこそ、血液製剤を投与された方々で「黄疸などの肝炎症状が出現」した報告例は、リストになっている僅か400例超しかなく、実際に薬剤が使用された例数に比べると圧倒的に少ないのですからね。
よって、黄疸がよく出た、ということになれば、術後にC型肝炎となっていたことは中にはあったかもしれないが、黄疸症状がこれほど多く出るというのは別な理由かもしれない、と考えることはできますね。例えば麻酔薬剤などが変更になったりして、肝毒性の程度が変わってしまうことで、薬剤性黄疸が出現した、ということは考えられます。この頃であれば、ハロセンが結構用いられたりしていたかもしれず、そういう影響というのはあるかもしれない。或いは、術創の感染コントロールとして抗生物質の種類が変わったとか、そういう薬剤の採用状況によって黄疸の出現頻度は変わり得るでしょう。
あとは、対象患者の年代的な話、ということもあるかもしれません。心臓手術で多かったのは当時で40代後半~60代前半程度だったのではないのかな、と。最も多いと思われるのは、冠動脈疾患でのバイパス術だったのではないでしょうか。となると、病気の特徴から見て、その年代くらいの方々が多く手術を受けていたのではないのかな、と。87年頃に50歳の方で1937年生まれ、60歳だと1927年生まれということになります。この年代の方々は1950年代には20歳前後の若年世代方々であり、当時には薬物濫用が問題となった時期なのですよ。この年代におけるC型肝炎のキャリア率は、他の年代よりも多いのです。それらの方々のうち、術前から既に「C型肝炎だった」けれども、検査方法がなかったので判らなかった、ということは十分考えられるでありましょう。B型肝炎ではない、というだけの人の中にも、実はC型肝炎だった、という方は大勢おられますからね。術前に既に感染している場合には、大きな手術によって身体への侵襲が肝機能障害を惹起して、術後に黄疸が出現することは十分考えられるでありましょう。C型肝炎キャリアの最も多い年代の方々が手術対象だったので、黄疸に遭遇する確率は高くなった、と考えることは可能でありましょう。
それにしても、ざっと100人手術すると30人に黄疸が出る、ということですから、この病院では余りに多いですよね。
フィブリン糊を全例に用いていて、なおかつ原因が全てフィブリン糊であるとすれば、全国各地の使用例のうち大体3割近くが黄疸出現となり、不顕性感染例を含めると、最低でも半分程度以上は全員がC型肝炎に感染することになります。恐るべき高頻度で「C型肝炎になる」ということですね。フィブリン糊やフィブリノゲン製剤を使用していない、輸血例だけで見てもそんなに黄疸は出現しませんので、血液よりも5倍以上の確率で感染することになりますかね。
そんなことが起こるのは、フィブリン糊の製造に用いられた血液は相当部分がC型肝炎キャリアからの供血であり、製品の殆ど半分以上が汚染されており、血液そのもの以上に感染力がある、ということですかね。だとすると、使用した医療機関のほぼ全部において黄疸出現が確認され、87年の青森で起こった連続感染例どころの騒ぎではないでしょうね。
まあ、いずれにせよ、この医師の証言というものをよく見ると、黄疸出現例があまりに多すぎであり、C型肝炎の特徴とは若干ズレがあるように思われます。それらの原因として、「フィブリン糊」を第一番に疑う、という医師の感覚というのも解せませんね。どうみても感染リスクの高いのは輸血ではないかと思いますけど。当時HCV抗体検査ができなかったのですから、唯一肝炎感染を知るのは「黄疸」などの肝炎症状出現例だけです。術後肝炎の症状が出て初めて「ああ、肝炎だな」と判るだけなのですよね。となると、フィブリン糊だけではなくフィブリノゲン製剤も含めて、黄疸出現例がそこまで多くないのですから、証言した医師の病院での多さは別な要因である可能性が高いと思いますね。原告団に加わった方々には、「何にも症状が出なかった」人たちが大勢おられるのではないですか?02年以降に血液検査をして初めて知った、という方々もおられますでしょう?つまり、そのこと自体が、C型肝炎の方々の黄疸出現の少なさを物語っているのではないでしょうか?ということなんですよ。
もう一例の70代の方ですけれども、どうやら手術の予後は良かったようで、男性の平均寿命くらいまでは生存できたと思われます。フィブリン糊を用いられたからといって、寿命が平均よりも短くなることはなかった、ということなのではないでしょうか。グラフト部の血栓が飛んで致死的となることもなく、再狭窄で再手術にもならなかったのであれば、割と良かったのではないでしょうか。全然状況は判りませんけれども。抗凝固療法も長年続けてきて、長期生存例となっておられる様子ですので、日本の医療水準がそれなりの結果を出しているのだな、と思いました。ワーファリンとか使ってたりするかも、と思ったもので。ああ、この薬も黄疸の副作用はありますね。参考までに。
日本のマスメディアは、何とでも好きなことが書けるようで、羨ましい限りです。先日のガン患者にモルヒネ投与の話も、20年くらい前から判っていた話でしょうに。何で昔の時点から言わないんですかね?後出しジャンケンはいつも有利だからですか?合成アルカロイドだって色々とあるし、天然もの(笑)なら紀元前数千年前からあるでしょう。麻薬なんて昔からのものであって、今に始まったことなんかじゃないんですよ。
マスメディアやジャーナリストとかが、何かを判ったような気になって言うんですけれども、その中の誰1人として責任なんて取らんでしょう。バブル期頃には、コンチンとかあったし、モルヒネだけじゃなくケタミンも昔からあるじゃないの。
多分、ペイン・コントロールそのものが難しいものなんですよ。特に、ガン患者になればもっと困難だろうし、終末期になれば更に難しいのだろうと思う。それをただの素人連中が、麻薬を使えばいいじゃん、みたいに簡単に言うのもどうかと思うのですよ。だったら、もっと昔から麻薬緩和とか、運動をやってりゃ良かったじゃないか。ケタミンごときで死亡するとかヤク中になるくらいで薬事法改正すんな、とか反対すりゃ良かったんじゃないか。
そもそもガンは昔からあるし、昔のガンだって今と同じく痛いし、麻薬なんて昔からあるのも判ってたでしょう?今と何が違うっていうのでしょうか?何にも変わってなんかいないんですって。
こうした軽々しい論調の一方で、落ち着いて順に考えれば判りそうなことについてでさえ、「命を軽視するな、薬害のせいだ、薬が原因なのは明らかだ」とか、散々騒いでいるだけじゃないの。
タミフルのせいだ、リレンザのせいだ、フィブリノゲンのせいだ、フィブリン糊のせいだ、リタリンのせいだ、結局どれでも同じなんだよ。薬剤が原因かどうかも判らんのに、何が問題があれば、使うな、と。その一方では、もっと簡単に使えるようにしろ、と。どっちなんだよ。
裁判官と一緒。
ニトロをもっと使えば狭心症発作は起きなかった、だからもっと使っとけ、とか言うのだよ。
でも別な薬の場合では、常用量内ではあったが必要最小限にはなっていなかったから過失、とも言うのだよ。
じゃあ一体どうしろと?
最適量を算出できんのか?ならば、やってみ。
必要最小限の量って、「どんだけ~」。教えてくれや。
薬を使わなかったら、「患者が飲みやすい環境になってなかったので義務違反」って、どういうこと?
急患のたらい回し問題も同じさ。
とりあえず引き受けて診ようと思ったら、
・危険なのに1人でやったので逮捕・刑事裁判(福島産科死亡事件)
・できないのに引き受けた(バイト当直医が挿管できないので過失)
・次の転送先を探した時間かかり告訴(奈良県産科事件)
・転送までの時間が長かったので過失認定(加古川事件)
とか、刑事・民事責任を取らされることになるのですよ。
下手に診ない方がまだマシだ。
もし逮捕されたりすれば、病院は閉院となったりするかもしれんからね。悪い噂は(病人じゃなくても)「命取り」なんですよ。こういう状況は報道とか司法からのバッシングや患者権利団体とかの活動とか弁護士営業活動の結果、こうなったということなのではないでしょうか。
今はできない、とか、自分にはできそうにないから、と断ったら、「医者なのにできんのかー!それでも医者か!」とか。
専門が違いますから、という話もあるけど、専門外で診断がついてなかったり不正確だったりしようものなら、「頭蓋内出血が判らんかったのかー!それでも医者か!」とか。とことん「無限責任」ループからは逃れられんのですよ(笑)。
どこまでも注意義務は発生しており、医師の能力が神の領域まで高められた幻のスーパードクターでなければできんのですよ。
そんな責め苦を負うくらいなら、やらない方がマシだってことかな、と。
完璧を求めるのであれば、そういうシステムにしといて頂戴、って話。
確実に捌けるような体制を組んで、遠くまで行かなければならないとしても、行き先固定とかで受け入れ側には常に空きのある体制としておかないと無理だね、とか。施設もマンパワーも無限じゃないからね。できる人たちを常に配備しておける体制を作ればいいだけ。
最後は殆ど文句みたいな話で大きく逸れてしまいましたが、要するに「フィブリン糊」で原告団に参加というのは、疑問点が多いな、ということ。当時の病院医師の話としても、合点のいかない部分は多くあるね、と。
ひょっとして、訴えれば保障対象になるかもしれないから、ということなのではないか、というのが下衆の勘繰りです。