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中国の日本短期債売却は「利益の確定」説?

2010年10月11日 15時03分19秒 | 経済関連
どうしてこんないい加減な解説を信じ込むのか、私には理解できない。まあ、出鱈目解説の横行するマーケットでは、騙しあい、ばかしあい、というのも当たり前、ということなのかもしれませんがね(笑)。

asahi.com(朝日新聞社):政治的意図?利益の確定? 中国、日本国債を大量処分 - ビジネス・経済

(以下に一部引用)

 日本国債を買い進めてきた中国が一転して、償還期間1年以内の短期債を大量処分したことが波紋を呼んでいる。日本の財務省が公表した8月の国際収支状況(速報)によると、短期債が大半を占める中国の対日証券投資は売却・償還額(処分額)が購入額を2兆182億円上回った。昨年8月~今年7月の買い越し額の累計2兆2383億円に匹敵する異例の水準だ。
 8月の中国の対日証券投資の内訳をみると、短期債は2兆285億円の処分超、中長期債は103億円の買い越しだった。
 中国の対日証券投資の買い越し額は4月以降、毎月約2千億~約7千億円に達し、日本の市場関係者の間では「中国が外貨準備をドルから他の通貨に多様化する一環」との解釈が主流だった。8月に売却・償還額が購入額を大幅に上回ったのは、円高進行に伴い利益を確定させたのではないかとの見方が出ている。


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どこの誰が「円高進行に伴い利益を確定させた」のではないか、という、超出まかせを言ってくれたのか、知りたいものである。もっと笑えるのは、そういうのを真に受けてしまい、まんまと記事に書いてしまう経済記者氏である。

現実に「円高進行で利益を確定する」というのがどういうことなのか、それを考えてみるといいのにね、と思いますよね。それは、何をするのですか?、って話ですよ。記者氏は具体的に考えることができないからこそ、こういうのに引っかかるとしか思えないですね。実生活の中での体験不足、ということなんでは。

儲けを確定させる動き、というのは、平たく言えば、相対的に

・円が安かった時に(人民元を売って)円を買い、円が高くなった時に円を売って人民元を買う

ということをするんですよね?

すると、今年7月までは日本円の短期債を継続して買い越してきていたのであれば、8月に過去の買入分の9割くらいに相当する額を売ったとすると、どのような現象が起こると思いますか?
普通に考えると、円を売って人民元を買う、ということをするわけですから、人民元高―円安、ということが発生するということになるのではありませんか?
過去数カ月ではそこそこ分散して円を継続的に買ってきていたので、円買いによる円高促進効果が非常に弱かったとか目立ちにくかったとして、8月単月にこれまでの買入分の9割も一気に売ってしまった場合には、それなりに円売り効果(=円安促進)を持ってもいいはずではありませんか?

約2兆円も円売り―人民元買いを行えば、結構な人民元高が達成されても良さそうなのではありませんか、ということです。

実際のレートはどうなのかといえば、8月初めには1元=約12.8円だったものが、徐々に円高が進み、9月初めには12.4円となっていました。この間をグラフで見れば、ほぼ一貫した「(人民元の)下げトレンド」であって、円が売られて人民元が買われた、というのは、ほぼ想定できない動き方なのですよ。むしろ逆で、地道に「人民元を売って円を買う」という動き方なら、整合的な説明が付けられる、というくらいです。

更に、例の円売りドル買い介入が行われた9月15日前後ですが、その時点では円が売られた為に、1元が0.4円ほど円安になっていました。14~15日の、わずか1日で、ですよ。あの時の円売り介入規模ですが、2兆円強という水準であったはずですので、ドルペッグにほぼ近い動き方、ということでなら、その程度の変動はあるでしょう、という話です。

そうすると、もしも8月に円を売って人民元を買い、為替差益を確定させたということであれば、相対的に人民元高が起こっていても不思議ではなかったかもしれません。ドル円で見れば、8月10日に1ドル85.4円、20日に85.61円、24日に84円を付け31日には84.16円と若干の円高になっていました。

ドル円の変動水準は、約1.64%(85.4→84.0円)の上昇ですが、人民元と円で見れば約3.13%(12.8→12.4円)と幅が大きくなっています。つまり、円が売られて人民元が買われた、という根拠は、ほぼ窺うことができない、ということです。たとえドル円などのクロス取引の影響があるとしても、むしろドル円の変動幅よりも「小さい」ならば、まだ説明の妥当性について可能性は残されるかもしれませんが、「大きい」となると円売り人民元買いというのは疑わしい、としか思えないわけです。
多分、売却した短期債は、円のまま持っていた可能性が高かったのではないかと思いますね。今も円のままなのかどうかは、不明ですが。


そういうことをチラッとでも考えるならば、「利益確定の売りだ」とかいう出鱈目を言うはずがないんですよ。日々レートの動きを追っているのを商売にしているような連中が、どうして何も考えずに根拠レスな解説を言うのか、それが本当に不思議でならないわけですよ。またそれを鵜呑みにする記者氏というのも、不思議でしょうがない。

まあ、この件に限らず、様々な分野でそういう「鵜呑み」が見受けられるわけですがね。



それと、当方のブログ記事で書いた「ギクリとして、焦って売ってしまったんじゃないか」というような、もっと陰謀論めいた話はどうなのよ、という指摘は否定はしませんが、ありえそうな話という比較だけなら、「利益確定売り」よりはマシではないかと思いますが、どうなんでしょうか。