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”Printing Money”と”liquidity trap”の関係とは

2010年10月30日 13時25分58秒 | 経済関連
日本における「失われた20年」の経験は、ケインズの偉大さを実証するには十分だった。
ただ、「流動性の罠」をどう理解すべきか、現実世界にどのように適用するべきか、ということには、一考を要するように思われる。

以前にも述べた(「流動性の罠」と緩衝系としての国債)が、単に中央銀行が紙幣を印刷して、買いオペだけを実施しようとしても、あまり目ぼしい効果はないだろう、ということである。日本で見られたのは、政策(無担保コールO/N物)金利がゼロ金利となり、短期国債(主に3カ月や6カ月物)の金利もほぼゼロ近辺に張り付いてしまったので、買いオペの効果が得られない、というものであった。
買いオペで日銀が国債を買って貨幣供給を行おうとしても、短期国債と紙幣がほぼ同等物であるから、である。債券も紙幣も保有としてはあまり変わりがない、ということになってしまい、いくら日銀当預残高を積み上げても社会全体に貨幣が回ってゆくということにはならなかった、ということである。これこそが、「流動性の罠」という説明が当てはまるものだったのである。

日銀は、量的緩和政策を実施後に短期国債の保有高を増大させた。日銀当座預金の増大部分の大半を、短期国債の保有で補ったということである。長期国債の保有高も増加してはいたものの、主力は短期国債であったはずだ。日銀には、「銀行券ルール」というのがあったから、である。日銀の「買いオペ」というのは基本的に短期国債買いオペであって、銀行にとっては、現金も短期国債もあまり大差ないということに他ならず、これが所謂「流動性の罠」という状態にあったということである。


さて、紙幣をジャンジャン印刷して、買いオペを打って資金供給を増やそうとしても、銀行側は保有する短期国債を手放して現金を持とうとはしなかった、ということだった。けれど、日本では、短期国債の発行残高というのは、長期国債に比べるとそう多いものではなかったので、そもそも金融機関が持っている量には限りがあったはずである。
例の03年頃の巨額介入だけれども、30兆円超の規模で実施ということになると、「FB(為券)」発行がその分行われたはずだろう。その発行分は各金融機関が買ってしまう(元々が市場に流通している量がそう多くはなかったので)という面と、日銀が買い入れてしまうという面があって、これをオペ対象としても、調節範囲には限度があったはずである。すなわち発行残高が影響する、ということになろう。買いオペに応募がなく札割れが多くなったのは、こういった理由があったのではないかということである。

日銀のオペ変更で、長期国債にも買現先オペが実施されるようになったはずで、そうなると10年債の指標金利はゼロ金利にはなっていないのであるから、債券と現金保有が同一ということにはならないだろう、というのが当方の主張である。すなわち、短期国債の買入では効果が乏しくなってしまう(流動性の罠だから)のであれば、対象を拡大して長期国債買入を実施すべきである、ということなのだ。

紙幣を印刷しなければ、長期国債の買入余地が限定される、ということだから、である。それは、日銀にある「日銀券ルール」の存在によって、そうなってしまうからである。

負債サイドの拡張を図りマネタリーベース増大をもたらすには、標準的に考えると、流通硬貨を増やすのは実際的ではないから除外するとして(金額が高が知れてるし、鋳造が大変だ)、①発行銀行券を増やすか、②日銀当座預金残高を増やすか、のいずれかしかないのである。
かつて日銀がとった政策とは、この②の方であったわけだが、実際にマネーサプライ(マネーストック)の伸び率が大幅に向上した、ということにはならなかった。資金需要を創出できるわけではないから、ということだ。


日銀の行った量的緩和政策というのは、恐らくデフレを脱出するには効果が小さ過ぎた、ということだろうと推測しているわけである。
ロケットが宇宙に飛び出すには大きな推進力がいるのと同じで、脱出速度に到達していなければ、いくら「かなりの加速だ、高速だ」と言ってみたところで、宇宙には飛び立てないわけである。「こんなに加速しても宇宙に飛び出せなかったのだから、加速は無効である」などという馬鹿げた結論を出されると誰もが失笑するであろうはずなのに、「もっとマネー供給を増やせ」と言うと、「こんなに増やしてもデフレから脱出できなかったのだから、マネー供給は無効である」などと反論してくる人々が後を絶たないのである。それは本当なのですか、と改めて問うてみたい。

問題は、マネー供給が無効なのではなく、供給する方法・手段である。或いは、脱出に十分な量なのかどうか、ではないだろうか。


私の素人感覚で申し訳ないのだが、デフレが長期化する・デフレ期待(物価下落見通し)を強化する要因があったのだろうと思うのだ。それは別な記事で、改めて述べたい。