通貨政策が話題のG20が開催されている。
事前の話題で「通貨戦争」と題された厳しい環境下での開催となったので、多国間の難しい調整は当然予想されるものであった。
その先手を打って、アメリカのガイトナー財務長官が各国に当てたらしい書簡というのが報じられた。
一言で言えば、あのアメリカもヤキが回ったのだな、と思わせるものだった。これが以前の「新自由主義の押し売り代理人」たるアメリカの発言であろうとは、到底思われなかった。アメリカは、どうやら自由資本主義を捨てるつもりなのかもしれない。
>ガイトナー米財務長官のG20諸国への書簡 | ビジネスニュース | Reuters
(以下に一部引用)
第1に、G20諸国は、構造的に原材料の輸出が多い一部の国について例外が必要になる可能性を認識しつつ、対外不均衡を今後数年以内に国内総生産(GDP)の一定比率以下に引き下げるということと矛盾しない政策に取り組むべきだ。
つまり、赤字が続いているG20諸国は、持続可能な債務水準と一致する信頼できる中期的な財政目標を採用し、輸出実績を強化することで、国民貯蓄を増やすべきだ。
逆に、黒字が続いているG20諸国は、国内の成長源を押し上げ世界需要を支援するため、構造的な財政および為替政策を実施する必要がある。
われわれの経常収支は、各国の政策選択や他のG20諸国が実施する政策に左右されることから、協力した取り組みが必要だ。
第2に、世界的な需要の不均衡是正を秩序ある形で促すため、G20諸国は通貨の押し下げ、あるいは過小評価されている通貨の上昇阻止によって競争上の優位達成を狙う為替政策を回避することを約束すべきだ。
G20のメンバーである新興国のうち、自国通貨が著しく過小評価されており、予防的準備を十分保有している国は、いずれ経済ファンダメンタルズに見合う水準まで為替相場を調整する必要がある。
G20メンバーの先進国は、為替相場の過度のボラティリティや無秩序な動きを防ぐよう努めていく。双方の措置を合わせれば、柔軟な為替相場を有する新興国への資本フローのボラティリティが過度に高まるリスクが軽減されることになる。
第3に、G20は、国際通貨基金(IMF)に対し、われわれのコミットメントに関する進ちょく状況を監視する上で特別な役割を担うことを要請すべきであ
る。IMFは、外部的持続性および各国の為替相場、資本収支、構造・財政政策に関わる合意目標をめぐり、G20各国の進展状況を評価するための報告書を半年に一回、公表すべきである。
こうした取り組みとともに、IMFの金融資源・手段の強化、活力に満ちた新興市場諸国の声や主張を高める統治機構を改革するべく、われわれは野心的な一連の諸政策で最終合意に達するべきである。
=======
ポイントをかいつまんで言うと(本当に大雑把に)、
①経常収支±4%のキャップ(目標ないし参考値)
②輸出競争優位の為の為替政策回避
③IMFの監視機能強化
ということである。
これまでのアメリカの立場と貢献を勘案しても、はいそうですかと簡単に同意できるものではない。米国への服従を代償に「世界からの高い評価」を得たであろう韓国ならば、率先して賛成してくれるかもしれないが。
日本がこのアメリカの提案に賛同できる理由など、これと言って見出すことなどできないだろう。窮地に立つアメリカが仕方なしに出してきた泣き事でしかないのに、今更日本が同意する義理などない。アメリカが日本に対して、或いは「日本で」、何をやってきたのか、ということを振り返れば、その意味が判るだろう。
参考:日中で共通通貨単位の創設を推進せよ~3
まず、①についてであるが、目標値など論外。
ガイトナーは「お手手つないで、一緒にゴール」に匹敵するようなことを言うつもりなのだろうか。早く走れる人間が、遅くしか走れない人間に合わせて走らされるようなものである。遅くしか走れない人間が、「もっと遅く走れ、タイムには制限を設けるぞ」と要求している、ということなのだよ。走る自由を奪うつもりなのか?
かつての「自由な競争」というスローガンはどうした?
無様な事態に陥ったからといって、急に宗旨替えか?
あれほど日本に文句を並べておったのに、今更「キャップ制」とは笑止。自由にさせろや、商売くらい。
そうじゃないでしょ。経常収支に上下限ではなく、「取引システム」を公平にしましょう、ということだろ?取引システムとは、公平公正な、自由競争を支えるルール、のことだろ。言ってみれば、野球のルールみたいなものだ。日本の野球ルールと中国の野球ルールが違う、ということだと、公平に競技ができないでしょう?そういうのを統一しましょう、ということは必要だが、数値目標なんてものは、全くの論外に決まってるだろうよ。
②についても同様。取引ルールを公平にしましょう、というのを推進すれば、必然的に達成される。
最後の③だが、条件があるだろうね。世銀ではなくIMFを、みたいな話なんだろけど、言ってみれば「アメリカの政治力」がやたらと反映されてしまうような機関が、本当に公平なのだろうか?
結局、自分ら(アメリカ、その他追随者)がうまくやりたい、好きに管理した、ルールを決めたい、他国の情報を丸見えにした、と、都合のよいことだけ考えているということなんじゃないの?
そういう疑念が払拭されない限り、ただ「IMFの機能強化、監視強化」みたいな権限だけの話をしたって、しょうがないわな。はっきり言えば、嫌だね、というだけ。
そんなに言うなら、アメリカが率先して、「公平な制度」実現に協力してごらんよ。
まず、ドルという基軸通貨の特権を剥奪する。ただのローカルマネーでしかなかった、米ドルが今の地位を築いたことが問題の元凶になっているわけ。だから、共通通貨単位による管理に移行すべき、と言っているのだよ。本来米国内の金融政策でしかないはずなのに、米ドルの金融政策が”世界に輸出”され不均衡をもたらす要因になってしまってるとも言える。これを解消するのが先決だ、と言っているわけだ。或いは、金融政策でもない、ただの政治力さえもが反映されるというのは、「経済のファンダメンタルズ」には基本的には全く無関係だろうよ。
端的な例を挙げると、政府高官などが「強いドル」だのと発言するからといって、いちいち為替が変動してしまうとか、ドル高になる、なんてのが、その悪しき例、ということだ。仮に地域通貨があるとして、北海道、九州や四国の知事なんかが「強い○○」と言ったからと言って、為替レートが変わるのかよ?
こういう例だと、誰も「変わるわけない」とか思うはずなのに、何故か米ドルになると話は別と考えているとしか思えないのだな。そういうのを散々利用して、金儲けなり何なりをやってきた連中と、その体制こそが「世界中の不均衡」そのものなのだ。要するに、そういう奴らは話を作り、変動するという幻想そのものを作り続けてきた、というわけだ。
これを剥奪しない限りは、自由で公平公正な取引市場なんてものは、はるかに遠い、と言っているのだよ。だから、米ドルには国際通貨としての特権的地位から降りてもらう、ということだ。米国自身が、この決断をするべきなのだ。
更に、国際的機関として、IMFをもっと活用しましょう、ということ自体は、別にそんなに悪い話というわけでもない。ただ、背後にいる「米国及び米国の政治力」というのが悪い、というだけだ。それを排除できる、もっと公平公正な国際機関として生まれ変われる、というなら、やってもいいよ、というだけ。発言力なんかを、大幅に削ぎ落す、ということに、米国自身が同意するなら、IMFを活用してやってもいいだろう。しかし、現状のようなままでは、ただの「米国下請け機関」だか「米国の子会社的機関」でしかないようなので、そんなクソ機関の権限強化なんかやろうものなら、米国に利するだけに過ぎないので、嫌だよ、ということになるわな。
最後に、通貨の投機的取引を政治的に散々利用してきたのは、誰なのか知らないのか?
アメリカ自身だよな?
悪事を重ねたのは、アメリカでしょうよ。
新興国に通貨攻撃を仕掛けさせて巨万の富を得ると伴に、「米国の圧倒的経済力」に跪かせ、支配力を高めたのは米国だったでしょう?
それを今更、かつてのこうした利点が失われたので、みなさん穏やかに取引しましょう、ファンダメンタルズに基づく為替レートを重視しましょう、なんて、なにキレイ事を並べてんだよ、かまととぶるのもいい加減にしろよ、とか思うわけですよ。
なので、タダで同意するなんて、絶対にイヤだね。
何度も言うが、交渉というのは条件があるものなんだよ。
事前の話題で「通貨戦争」と題された厳しい環境下での開催となったので、多国間の難しい調整は当然予想されるものであった。
その先手を打って、アメリカのガイトナー財務長官が各国に当てたらしい書簡というのが報じられた。
一言で言えば、あのアメリカもヤキが回ったのだな、と思わせるものだった。これが以前の「新自由主義の押し売り代理人」たるアメリカの発言であろうとは、到底思われなかった。アメリカは、どうやら自由資本主義を捨てるつもりなのかもしれない。
>ガイトナー米財務長官のG20諸国への書簡 | ビジネスニュース | Reuters
(以下に一部引用)
第1に、G20諸国は、構造的に原材料の輸出が多い一部の国について例外が必要になる可能性を認識しつつ、対外不均衡を今後数年以内に国内総生産(GDP)の一定比率以下に引き下げるということと矛盾しない政策に取り組むべきだ。
つまり、赤字が続いているG20諸国は、持続可能な債務水準と一致する信頼できる中期的な財政目標を採用し、輸出実績を強化することで、国民貯蓄を増やすべきだ。
逆に、黒字が続いているG20諸国は、国内の成長源を押し上げ世界需要を支援するため、構造的な財政および為替政策を実施する必要がある。
われわれの経常収支は、各国の政策選択や他のG20諸国が実施する政策に左右されることから、協力した取り組みが必要だ。
第2に、世界的な需要の不均衡是正を秩序ある形で促すため、G20諸国は通貨の押し下げ、あるいは過小評価されている通貨の上昇阻止によって競争上の優位達成を狙う為替政策を回避することを約束すべきだ。
G20のメンバーである新興国のうち、自国通貨が著しく過小評価されており、予防的準備を十分保有している国は、いずれ経済ファンダメンタルズに見合う水準まで為替相場を調整する必要がある。
G20メンバーの先進国は、為替相場の過度のボラティリティや無秩序な動きを防ぐよう努めていく。双方の措置を合わせれば、柔軟な為替相場を有する新興国への資本フローのボラティリティが過度に高まるリスクが軽減されることになる。
第3に、G20は、国際通貨基金(IMF)に対し、われわれのコミットメントに関する進ちょく状況を監視する上で特別な役割を担うことを要請すべきであ
る。IMFは、外部的持続性および各国の為替相場、資本収支、構造・財政政策に関わる合意目標をめぐり、G20各国の進展状況を評価するための報告書を半年に一回、公表すべきである。
こうした取り組みとともに、IMFの金融資源・手段の強化、活力に満ちた新興市場諸国の声や主張を高める統治機構を改革するべく、われわれは野心的な一連の諸政策で最終合意に達するべきである。
=======
ポイントをかいつまんで言うと(本当に大雑把に)、
①経常収支±4%のキャップ(目標ないし参考値)
②輸出競争優位の為の為替政策回避
③IMFの監視機能強化
ということである。
これまでのアメリカの立場と貢献を勘案しても、はいそうですかと簡単に同意できるものではない。米国への服従を代償に「世界からの高い評価」を得たであろう韓国ならば、率先して賛成してくれるかもしれないが。
日本がこのアメリカの提案に賛同できる理由など、これと言って見出すことなどできないだろう。窮地に立つアメリカが仕方なしに出してきた泣き事でしかないのに、今更日本が同意する義理などない。アメリカが日本に対して、或いは「日本で」、何をやってきたのか、ということを振り返れば、その意味が判るだろう。
参考:日中で共通通貨単位の創設を推進せよ~3
まず、①についてであるが、目標値など論外。
ガイトナーは「お手手つないで、一緒にゴール」に匹敵するようなことを言うつもりなのだろうか。早く走れる人間が、遅くしか走れない人間に合わせて走らされるようなものである。遅くしか走れない人間が、「もっと遅く走れ、タイムには制限を設けるぞ」と要求している、ということなのだよ。走る自由を奪うつもりなのか?
かつての「自由な競争」というスローガンはどうした?
無様な事態に陥ったからといって、急に宗旨替えか?
あれほど日本に文句を並べておったのに、今更「キャップ制」とは笑止。自由にさせろや、商売くらい。
そうじゃないでしょ。経常収支に上下限ではなく、「取引システム」を公平にしましょう、ということだろ?取引システムとは、公平公正な、自由競争を支えるルール、のことだろ。言ってみれば、野球のルールみたいなものだ。日本の野球ルールと中国の野球ルールが違う、ということだと、公平に競技ができないでしょう?そういうのを統一しましょう、ということは必要だが、数値目標なんてものは、全くの論外に決まってるだろうよ。
②についても同様。取引ルールを公平にしましょう、というのを推進すれば、必然的に達成される。
最後の③だが、条件があるだろうね。世銀ではなくIMFを、みたいな話なんだろけど、言ってみれば「アメリカの政治力」がやたらと反映されてしまうような機関が、本当に公平なのだろうか?
結局、自分ら(アメリカ、その他追随者)がうまくやりたい、好きに管理した、ルールを決めたい、他国の情報を丸見えにした、と、都合のよいことだけ考えているということなんじゃないの?
そういう疑念が払拭されない限り、ただ「IMFの機能強化、監視強化」みたいな権限だけの話をしたって、しょうがないわな。はっきり言えば、嫌だね、というだけ。
そんなに言うなら、アメリカが率先して、「公平な制度」実現に協力してごらんよ。
まず、ドルという基軸通貨の特権を剥奪する。ただのローカルマネーでしかなかった、米ドルが今の地位を築いたことが問題の元凶になっているわけ。だから、共通通貨単位による管理に移行すべき、と言っているのだよ。本来米国内の金融政策でしかないはずなのに、米ドルの金融政策が”世界に輸出”され不均衡をもたらす要因になってしまってるとも言える。これを解消するのが先決だ、と言っているわけだ。或いは、金融政策でもない、ただの政治力さえもが反映されるというのは、「経済のファンダメンタルズ」には基本的には全く無関係だろうよ。
端的な例を挙げると、政府高官などが「強いドル」だのと発言するからといって、いちいち為替が変動してしまうとか、ドル高になる、なんてのが、その悪しき例、ということだ。仮に地域通貨があるとして、北海道、九州や四国の知事なんかが「強い○○」と言ったからと言って、為替レートが変わるのかよ?
こういう例だと、誰も「変わるわけない」とか思うはずなのに、何故か米ドルになると話は別と考えているとしか思えないのだな。そういうのを散々利用して、金儲けなり何なりをやってきた連中と、その体制こそが「世界中の不均衡」そのものなのだ。要するに、そういう奴らは話を作り、変動するという幻想そのものを作り続けてきた、というわけだ。
これを剥奪しない限りは、自由で公平公正な取引市場なんてものは、はるかに遠い、と言っているのだよ。だから、米ドルには国際通貨としての特権的地位から降りてもらう、ということだ。米国自身が、この決断をするべきなのだ。
更に、国際的機関として、IMFをもっと活用しましょう、ということ自体は、別にそんなに悪い話というわけでもない。ただ、背後にいる「米国及び米国の政治力」というのが悪い、というだけだ。それを排除できる、もっと公平公正な国際機関として生まれ変われる、というなら、やってもいいよ、というだけ。発言力なんかを、大幅に削ぎ落す、ということに、米国自身が同意するなら、IMFを活用してやってもいいだろう。しかし、現状のようなままでは、ただの「米国下請け機関」だか「米国の子会社的機関」でしかないようなので、そんなクソ機関の権限強化なんかやろうものなら、米国に利するだけに過ぎないので、嫌だよ、ということになるわな。
最後に、通貨の投機的取引を政治的に散々利用してきたのは、誰なのか知らないのか?
アメリカ自身だよな?
悪事を重ねたのは、アメリカでしょうよ。
新興国に通貨攻撃を仕掛けさせて巨万の富を得ると伴に、「米国の圧倒的経済力」に跪かせ、支配力を高めたのは米国だったでしょう?
それを今更、かつてのこうした利点が失われたので、みなさん穏やかに取引しましょう、ファンダメンタルズに基づく為替レートを重視しましょう、なんて、なにキレイ事を並べてんだよ、かまととぶるのもいい加減にしろよ、とか思うわけですよ。
なので、タダで同意するなんて、絶対にイヤだね。
何度も言うが、交渉というのは条件があるものなんだよ。