新・定年オジサンのつぶやき

残された日々をこの世の矛盾に対して勝手につぶやきます。
孫たちの将来に禍根を残さないよう、よき日本を「取り戻したい」。

「防衛費増」を利用して「増税」を狙う岸田文雄

2022年12月13日 12時12分28秒 | 岸田統一教会内閣

「増税と防衛力強化。さらには原発の新増設。まるで酒にでも酔ったような岸田文雄首相の傍若無人」
といみじくもルポライターの鎌田慧にズバリ喝破されていた最近の岸田文雄。
 
『密室』実務者協議15回 議事録非公開…国会素通りの安保大転換 政府3文書改訂で自公合意
 
 
             【東京新聞より】
 

自民、公明両党は12日、政府の外交・安全保障政策の指針「国家安全保障戦略」など安保3文書の改定内容に合意した。敵基地攻撃能力(反撃能力)保有や防衛費の大幅増を了承したが、15回にわたる実務者協議は非公開の「密室」で、議事録は公表されない。政府は国会で「検討中」と曖昧な答弁に終始。戦後の安全保障政策の大転換にもかかわらず、国会で内容を巡る議論を素通りしたまま、政府は16日にも改定3文書を閣議決定する。
与党協議は10月中旬に始まり、実務者による協議は毎週1〜2回のペースで計15回、両党幹部でつくる親会議は2回開かれた。実務者協議には政府側も出席し、敵基地攻撃能力の保有をはじめとした3文書改定の素案を提示。両党が協議し、了承する形をとった。
 協議は非公開。毎回、協議終了後に両党の代表者が記者団の取材に応じるが、政府の素案の内容や出席者の発言は「合意前なので」などと説明しないことも多く、どのような案がどのような議論で修正、合意されたかは不明。議事録を公表する予定もない。
 10日閉会した臨時国会では、野党議員から敵基地攻撃能力保有の目的や攻撃対象、軍拡競争が激化する懸念などさまざまな角度から質問が出たが、政府は多くの場合で明言を避け、「もっと情報を出さなければ国会で深い議論ができない」などの反発が相次いだ。
 安倍政権下での集団的自衛権の行使容認の場合、憲法解釈の変更は閣議決定だけで行ったが、集団的自衛権を実際に行使する手続きなどを定めた安全保障関連法の国会審議は200時間を超えた。敵基地攻撃能力の保有は憲法に基づく専守防衛を逸脱するとの指摘があるが、政府は国会審議が不十分なまま、閣議決定のみで決めようとしている。
 今回の3文書改定を巡っては、当初から「密室」議論が続いてきた。政府は1月から開始した有識者会合で計52人からヒアリング。全17回のやりとりをまとめた「議論の要旨」は公表したが、議事録は作成せず、各回の議事要旨も非公表だったため、各発言者の具体的な発言内容は分からなかった。9月に設置した別の有識者会議はわずか4回の開催で、議事要旨によると、敵基地攻撃能力の保有に関する言及は5カ所のみ。目立った議論はなかったが、報告書で保有が盛り込まれた。
 3文書を決定する首相や閣僚による国家安全保障会議は16回議論してきたが、これも内容は非公表だ。
 法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)は「専守防衛を変質させる安保政策の大転換なのに、情報公開がなく、国民は何も知らされていない。政権は全て結論ありきで進めている。選挙で防衛力増強のために増税するとは説明していなかった。議論の過程や根拠が見えず、国民は納得できない」と批判している。

 
とりわけ、突然降って沸いたような防衛費の増額には、多くの声が飛んできた。 


 
すでに半年前には軍事ジャーナリストの田岡俊次がAERA 2022年6月13日号こんな記事を発表していた。
 
防衛費の増額は本当に必要か? 『巨費を投じても効果は乏しい』専門家は否定的
 
防衛省はステルス戦闘機F35を147機購入する計画だ。陸上基地用のF35A(1機約100億円)が105機、空母用のF35B(同約140億円)を42機購入するが、米国側が契約後に値上げすることもあり、円安も手伝って、より高価になりそうだ。
 旧式化しつつある戦闘機を新鋭機に入れかえるのは当然であっても、ミサイル攻撃に対し「敵基地攻撃」や「反撃能力」で対処しようとし攻撃用の各種のミサイルの購入や開発に巨費を投じても効果は乏しい。山岳地帯のトンネルに潜み、自走発射機で移動するミサイルを秒速7.9キロで1日1回世界各地の上空を通過する偵察衛星で撮影するのは極めて困難。高度3万6千キロで周回する静止衛星からはミサイルのような小さな物は映らない。無人偵察機を上空で旋回させれば対空ミサイルで撃墜される。
 相手が先にミサイルを発射すればその首都など固定目標に反撃することは可能だが、首脳部の現在位置はわからない。核ミサイルに対し火薬弾道ミサイルで報復するのは、大砲に対し拳銃で応戦するような形となる。米軍の核兵器を日本に配備する「核共同保有」を唱える人もいるが、核兵器使用のカギは米軍が握り、自衛隊は運搬役となる。米国がもし核使用に踏み切るなら自分の航空機やミサイルでそれを使うだろう。他方、核戦争にエスカレートして米国が標的になることを恐れ、核を使わないなら、自衛隊にそれを渡して使わせることは考えにくい。
 ロシアのウクライナ侵攻に恐怖感を持ち、「北の守りの強化」を言う人もいるが、ウクライナで苦戦するロシア軍が二正面作戦をする公算はゼロだ。ロシアの東部軍管区はシベリア中央部バイカル湖から日本海岸まで、日本の20倍に近い700万平方キロを担当しているが、兵員は8万人で自衛隊の3分の1。その一部はウクライナ戦線に投入されている。弱みを見せないよう、日本海で演習をして見せている。
中国がロシアの愚行をまねて台湾を攻撃することも起きそうにない。中国の輸入相手の第1位は台湾で半導体の供給を依存し、台湾の輸出の44%は大陸向け、台湾の海外投資の6割以上は大陸にあると言われ、台湾人約100万人が中国で経営者、技術者などとして勤務している。中台の経済関係は一体化し、中国が台湾に攻め込めば自分の足を打つ結果になる。
 台湾行政府の世論調査では、「現状維持」を望む人が84.9%で、「すみやかに独立」は6.8%にすぎない。蔡英文(ツァイインウェン)総統も「現状維持が我々の主張」と演説している。
 中国が威嚇さえしなければ、中台双方に経済でも安全保障でも有利なあいまいな関係、成功した内縁関係に比すべき状況が続くだろう。ロシアのプーチン大統領は大演習で威嚇したがウクライナ国民の反感を強め、引くに引けない状況になり侵攻し、大失態を招いた。これは習近平(シーチンピン)国家主席にとり「前車の覆るは後車の戒め」となるのではないだろうか。
 
 
そもそも「防衛」とは明らかに日本に対して「攻撃」してくる、またはしようとする国が明確になっていなければ、防衛対策が立てられないことは専門家でなくてもわかる話であろう。
 
京都大学大学院教授の藤井聡は防衛力強化を議論する政府の有識者会議に名を連ねる経済専門家の顔ぶれについて、緊縮財政を目指す岸田政権と財務省が「増税」の結論ありきで選んだ人たちと具体的に個々のメンバーを指摘していた。
 
岸田首相の『大増税』に呆れたワケ
 
■岸田・麻生流の緊縮財政派は今、「防衛費増」を利用して「増税」を狙っている ~増税のためにつくられた“有識者会議”~
『有識者会議“防衛費財源 国民負担で”意見相次ぐ』、の報道にはホントに絶句しました……
有識者会議“防衛費財源 国民負担で”意見相次ぐ 議事要旨公開 | NHK
この会議は、「外交・防衛のほか、経済・財政分野などの専門家」も出席していたそうですが、彼らの発言は「むやみに国債発行をしてはならない」「第2次世界大戦時の軍事費調達のため、多額の国債が発行され終戦直後にインフレを招いた歴史を忘れてはならない」と、国債発行はダメだという意見に加え、「日本はOECD=経済協力開発機構の国々と比べ租税負担が少ない」「幅広い税目による国民負担が必要なことを明確にして理解を得るべきだ」と、増税・国民負担を求める意見が多数でたとのこと。
こうした意見は、財務省の公式見解、すなわち所謂“ザイム真理教”の教義そのものです。一体どういう人達がこの発言をしていたのかと確認してみると、そのリストは次の様なものでした。
上山隆大 総合科学技術・イノベーション会議 議員(常勤)
翁百合 株式会社日本総合研究所理事長
喜多恒雄 株式会社日本経済新聞社顧問
國部毅 株式会社三井住友フィナンシャルグループ取締役会長
黒江哲郎 三井住友海上火災保険株式会社顧問 
佐々江賢一郎 公益財団法人日本国際問題研究所理事長 
中西寛 国立大学法人京都大学大学院法学研究科教授
橋本和仁 国立研究開発法人科学技術振興機構理事長 
船橋洋一 公益財団法人国際文化会館グローバル・カウンシルチェアマン
山口寿一 株式会社読売新聞グループ本社代表取締役社長
これらのリストには、国際政治学者や元外交官・防衛官僚、外交・軍事のジャーナリストなどが含まれていますが、経済・財政関係の有識者として入っているのが、翁百合株式会社日本総合研究所理事長 元日銀のエコノミスト、喜多恒雄株式会社日本経済新聞社顧問 慶応大学経済学部から日経新聞に入社、國部毅株式会社三井住友フィナンシャルグループ 取締役会長の3人。
まず、國部氏は、財務省の意向に逆らった委員会発言など絶対の絶対に出来ない銀行グループの取締役。喜多氏も同様に、「財務省の機関誌(赤旗)」とすら言われる日経新聞に入社し、顧問にまで上り詰めた人物。彼らがザイム真理教の教えに背いた発言をする筈がなく、増税だ、国民負担増だ、財政破綻だ、国債発行はまかり成らぬという発言をすることは、人選の時点でハッキリ分かっていた人物です。
翁氏は、「日銀が独立であるべきだ」という思想を若い頃から徹底的に植え付けることで有名な日銀の出身。日銀が国債を買いまくるアベノミクス流の積極的な金融政策に反対の立場のエコノミストです。だから、彼女は防衛費調達のために国債を発行することを徹底的に反対することが端からわかりきった人物なのです。
(ちなみに人選は、岸田氏が、反アベノミクスの立場を取り、「反黒田」的な金融政策を取ろうとしていることの布石と捉えることもできるでしょう)
以上の3人以外は、先にも申し上げたように、外交、軍事の専門家であり、経済・財政の専門家である銀行マンや日経新聞マンや日銀マンに、経済・財政の事で論戦を戦わせ、彼らを論破することなど100万%不可能です。
ちなみに、座長の上山氏は、「総合科学技術・イノベーション会議の常勤議員」という中立的な立場の方に見えますが、上智大学経済学部教授・学部長を歴任した歴とした経済学者。事実、イノベーション会議でも、「真水」の財政支出を徹底回避し、融資だけで大学支援をすべきだという議論を主導されている方です。したがって、銀行マンや日経新聞マンや日銀マンに逆らった差配をなさることは、これもまた100万%あり得ません。
したがって、この「有識者会議」の委員構成を選択する時点で、この会議から「防衛費増は、国債はダメ。増税・国民負担で賄うべし」という結論が出ることが事実上確定していたわけです。
言うまでも無く、岸田総理大臣をはじめとした人選をした方達が知らなかった筈はありませんから、むしろそういう結論を出すために誰に頼んだら良いのかと考え、人選をしたと考えざるを得ないでしょう。実に、有識者、ならびに国民を舐めた話です。
そもそも有識者会議とは、政府だけでは判断できないから、その筋の立派な有識者の方々のご意見を伺い、それに基づいて政治判断をさせていただきます、という種類のもの。
にも関わらず、政治の側が有識者会議の意見をコントロールして増税すべきだと言わしておいて、それをさも「専門家の皆さんの有り難いご意見でございます」という顔をして受け取り、自分がやりたかった「増税」をやろうとしているわけです。実にあざとい話。
こうした子供だましに欺されずに、何としても防衛増税を阻止せねばなりません。このままでは、増税によって経済はさらに疲弊し、「貧国」化が進み、その結果、富国強兵が不可能となり、「弱兵」化し、国防力がさらに低下することは確実だからです。
このままでは、国防力をあげようという話にザイム真理教が寄生し、増税にもっていかれて国防力がさらに下がる……という悪夢の結末を迎える他有りません。国民世論の力で、この流れを食い止める他ないのですが……どれだけの方がこの真実を認識するのか、甚だ心許ないですね……。

 
THE JOURNALの論説主幹で半農半ジャーナリストの高野孟は、「日本は容易には侵略されない」と主張していた。
 
日本は侵略などされない。脅威を捏造し「防衛費倍増」する国民ダマシ
       
■日本は一体どういう「脅威」に直面しているのか/その基礎の基礎を蔑ろにして防衛費を倍増することの嘘くささ
およそ一国の防衛の戦略・政策・予算を論じるについて、第1ページをなす出発点は、その国が一体どういう軍事的な「脅威」に直面しているのかという、軍人用語で言う「脅威の見積り」である。
それは具体的には、「どこの国の、どの部隊が、どういう様態で侵略してくる蓋然性が高いか?」ということの、冷静、かつ可能な限り科学的・客観的な分析でなければならない。もちろん、その蓋然性には複数の可能性があり、従っていくつも脅威シナリオがあり得るけれども、可能な限り数学的な確率計算を適用し、優先順位を付けなければならない。
こんなことはごく当たり前のことで、或る戦士が誰かから狙われているらしいことを察知したとして、その相手が誰で何人なのか、柔道家もしくはキックボクサーが素手で襲ってくるのか剣術の達人が刀を抜いてくるのか、どういう条件の下でどのタイミングで立ち現れる公算が大きいのか等々を大まかにでも推測し読み切ることなくして、身を守る作戦など立てられるはずもない。
政府はことあるごとに「日本を取り巻く安全保障環境はますます厳しさを増しており」という決まり文句を繰り返し、そうするとマスコミも「ますます」というのが、いつから比べて(量的に)、どのように(質的に)、脅威が増しているのかの中身を何ら問うことなく、その表現を鸚鵡返しに垂れ流す。それを毎日にように繰り返されると、一般の人々は「そうか、ますます脅威が差し迫っているのだな」と、根拠不明の不安感を上から上から刷り込まれていくのである。
■冷戦時代にはあった「旧ソ連の脅威」
冷戦期の日本は、ソ連極東に陸軍部隊45師団=50万人と海空戦力が配備されており、そのうちでも最強と言われた2つの機甲師団が先頭となって北海道に渡洋強襲上陸し、それを陸上自衛隊の戦車600両が迎え撃ち北海道の原野で戦車戦を展開。そのうちに青森県三沢の米空軍の対地攻撃機や沖縄県の米海兵隊が来援してソ連vs日米連合軍の全面対決になる――という「中心シナリオ」を持っていた。しかし冷戦終結と共にソ連はいきなり1/3~1/5の規模に激減させ、そのため「ソ連はもはや脅威ではない」ということになった。
《脅威の潜在性と現実性》
冷戦時代の終わり近くには、レーガン米大統領が旧ソ連を「悪魔の帝国」などと罵るのに悪乗りした米日のマスコミは「米ソ新冷戦が始まった」と煽り立て、今でも覚えているけれども『週刊現代』が「ある日突然、札幌のあなたのお宅の庭先にソ連の戦車が!」などという与太記事を毎週のように繰り出していた。そのせいで、青森の娘さんが稚内の若者のところに嫁に行く話がまとまっていたのに、青森の親が北海道は危ないからと言い出して破談になったという笑えない実話まであって、当時の北海道JCの会頭に「高野さん、この『東京発ソ連脅威論』の公害を止めてくださいよ」と懇願されたりもした。
そういうこともあり、自衛隊北部方面司令部の幹部に「週刊誌はこんな風に煽っているが実際はどうなの」かと問うたことがあった。彼はまことにスマートな論理派の軍人で、こう語って私を納得させてくれた。
▼ソ連の脅威は確かにあって、それに備えるのが我々の任務だが、「ある日突然、札幌に」ソ連の戦車が現れるなどということはあり得ない。
▼まず、脅威を語る場合に大事なことは、「潜在的脅威」と「現実的脅威」を峻別することだ。単にソ連極東にこれこれの部隊が配備され、これこれの装備をしているというだけではそれは「潜在的脅威」にすぎない。第1に、政治指導部において軍事のみならず政治、経済、文化などあらゆる要素を考慮したうえでそれでも日本を「侵略」することにメリットがあるとする「戦略的意志」があるかどうか。脅威=戦力×戦略的意志である。
▼第2に、基本的な地政的な環境ということがある。米ソ冷戦の「正面」はあくまで欧州であり、そこでは米欧のNATOとソ連・東欧のWPOが「いつでも来い」とばかり睨み合っている。その「西部戦線」が「異常なし」なのに「東部戦線」でいきなり「異常あり」ということは考えられない。西部先・東部後が基本である。
▼第3に、ソ連極東の前線部隊に予定された作戦を実行に移すだけの実体的(サブスタンシャル)な準備が整っているかどうか。実は、ウラジオストクにもナホトカにも、ソ連機甲師団を北海道に敵前上陸させるだけの輸送船がほとんど1隻もない。我々は、極東に輸送船の集結が始まったら、潜在的脅威が現実的脅威に「転化」したと判断し、臨戦態勢に入るだろう。
それで思い出すのは前原誠司のことである。彼は旧民主党の中では外交・防衛通ということになっていたが、2005年12月に訪米してジョージタウン大学CSICで演説、「中国の軍拡は現実的脅威」などと言って米軍産利権マフィアから絶賛を浴びた時、私は「何が外交・防衛通だ。脅威の潜在性と現実性の区別もつかないくせに」とボロクソに批判した。「現実的脅威」なら戦争準備に入るということだが、彼はもちろんその覚悟を持ってこの言葉を吐いていない。そこに彼の軽々しさが露呈していた。
■冷戦期の日本は、ソ連極東に陸軍部隊45師団=50万人と海空戦力が配備されており、そのうちでも最強と言われた2つの機甲師団が先頭となって北海道に渡洋強襲上陸し、それを陸上自衛隊の戦車600両が迎え撃ち北海道の原野で戦車戦を展開。そのうちに青森県三沢の米空軍の対地攻撃機や沖縄県の米海兵隊が来援してソ連vs日米連合軍の全面対決になる――という「中心シナリオ」を持っていた。しかし冷戦終結と共にソ連はいきなり1/3~1/5の規模に激減させ、そのため「ソ連はもはや脅威ではない」ということになった。
《脅威の潜在性と現実性》
冷戦時代の終わり近くには、レーガン米大統領が旧ソ連を「悪魔の帝国」などと罵るのに悪乗りした米日のマスコミは「米ソ新冷戦が始まった」と煽り立て、今でも覚えているけれども『週刊現代』が「ある日突然、札幌のあなたのお宅の庭先にソ連の戦車が!」などという与太記事を毎週のように繰り出していた。そのせいで、青森の娘さんが稚内の若者のところに嫁に行く話がまとまっていたのに、青森の親が北海道は危ないからと言い出して破談になったという笑えない実話まであって、当時の北海道JCの会頭に「高野さん、この『東京発ソ連脅威論』の公害を止めてくださいよ」と懇願されたりもした。

そういうこともあり、自衛隊北部方面司令部の幹部に「週刊誌はこんな風に煽っているが実際はどうなの」かと問うたことがあった。彼はまことにスマートな論理派の軍人で、こう語って私を納得させてくれた。
▼ソ連の脅威は確かにあって、それに備えるのが我々の任務だが、「ある日突然、札幌に」ソ連の戦車が現れるなどということはあり得ない。
▼まず、脅威を語る場合に大事なことは、「潜在的脅威」と「現実的脅威」を峻別することだ。単にソ連極東にこれこれの部隊が配備され、これこれの装備をしているというだけではそれは「潜在的脅威」にすぎない。第1に、政治指導部において軍事のみならず政治、経済、文化などあらゆる要素を考慮したうえでそれでも日本を「侵略」することにメリットがあるとする「戦略的意志」があるかどうか。脅威=戦力×戦略的意志である。
▼第2に、基本的な地政的な環境ということがある。米ソ冷戦の「正面」はあくまで欧州であり、そこでは米欧のNATOとソ連・東欧のWPOが「いつでも来い」とばかり睨み合っている。その「西部戦線」が「異常なし」なのに「東部戦線」でいきなり「異常あり」ということは考えられない。西部先・東部後が基本である。
▼第3に、ソ連極東の前線部隊に予定された作戦を実行に移すだけの実体的(サブスタンシャル)な準備が整っているかどうか。実は、ウラジオストクにもナホトカにも、ソ連機甲師団を北海道に敵前上陸させるだけの輸送船がほとんど1隻もない。我々は、極東に輸送船の集結が始まったら、潜在的脅威が現実的脅威に「転化」したと判断し、臨戦態勢に入るだろう。
それで思い出すのは前原誠司のことである。彼は旧民主党の中では外交・防衛通ということになっていたが、2005年12月に訪米してジョージタウン大学CSICで演説、「中国の軍拡は現実的脅威」などと言って米軍産利権マフィアから絶賛を浴びた時、私は「何が外交・防衛通だ。脅威の潜在性と現実性の区別もつかないくせに」とボロクソに批判した。「現実的脅威」なら戦争準備に入るということだが、彼はもちろんその覚悟を持ってこの言葉を吐いていない。そこに彼の軽々しさが露呈していた。
■旧ソ連じゃなければどこなんだ?
冷戦の終わりと共にソ連の脅威が消滅して、しからば冷戦後の極東情勢の中で、上述のように「どこの国の、どの部隊が、どういう様態で侵略してくる蓋然性が高いか?」が改めて問われることになった。が、日本はこの根源的な問いかけに真面目に立ち向かおうとはせず、何とはなしの「北朝鮮が怖い」「中国は危ない」というマスコミが醸し出す気分に身を委ねるばかりで、本当に日本が直面する軍事的脅威があるとすればそれは何なのかを分析することを怠ってきた。
《脅威の横滑り》
まず何よりも、北朝鮮や中国が「脅威」だと言っても、そのどちらかもしくは両方が軍事力の総力を挙げて日本に上陸侵攻し直接軍事占領を目論むという事態は、100%どころか200%もあり得ない。理由?彼らがそうすることに何のメリットも何の意味もないからである。
そこで外交・防衛当局は、「そうは言っても奴らは危ないんだ」という理由を苦心惨憺探し回って、「北朝鮮が国家崩壊した場合に、一部は武装した難民が日本の離島に押し寄せる」とか、「中国は台湾有事の場合に必ず尖閣諸島を獲りに来るに決まっていて、そうなると与那国島も石垣島も宮古島も攻められるに決まっている」とか、ありもしない脅威シナリオを世に振り撒いて、それを口実に防衛予算の大幅増額を要求し続けてきた。仮に難民が押し寄せるとか尖閣が巻き込まれるとかいうことがあったとしても、それは、誰が考えても分かることだと思うが、精鋭機甲師団による正面切った渡洋上陸作戦とは全く量も質も異にする低レベルの脅威でしかない。
それで当時私は、このような「ソ連は敵でなくなっても、ほら北朝鮮が怖いだろう、中国も危ないだろう」という情緒にのみ訴える非科学的な脅威論の心理操作を《脅威の横滑り》と呼んで揶揄した。  
《K半島事態対処計画》
その典型が、1994年に政府・防衛庁がまとめた「K半島事態対処計画」である。この前年、北朝鮮が核不拡散条約から脱退して核開発を推進すると表明したことで米国との関係が一気に悪化。米クリントン政権は当初熱り立って、北の核関連施設への先制爆撃や金正日総書記の爆殺ないし謀殺に至る軍事作戦の発動を検討したが、韓国の金泳三大統領の「そんなことをしたら南北全面戦争、引いては第3次世界大戦になりかねない」との体を張った抑制でブレーキがかかり、米朝枠組み合意によるKEDO設立へと流れることになる。
しかし、この第1次北朝鮮核危機の間に日本政府は、米軍がそのような強硬策に出た場合、韓国から22万人、北朝鮮からは5万人の避難民が日本に向かって押し寄せる可能性があると想定。実際にありうるシナリオとして、北朝鮮の難民に特殊部隊が紛れ込んで離島を占拠し、そこを前進基地として本土のインフラ破壊などのテロを働いたらどうするのか、その場合に日本国内の朝鮮総連系の活動グループが呼応するのではないか――といった妄想世界に彷徨ってしまい、それを「K半島事態対処計画」という形で文書化までするのである。
私の見るところ、細川政権から村山政権にかけてのこの時期、一方では……、
▼田邉誠社会党委員長による「21世紀の国連と日本の安全保障」で自衛隊縮少3分割提案(92年11月)
▼前田哲男・山口二郎らの「平和基本法」下での「アジア・太平洋地域安保」の提唱(『世界』93年4月号、94年12月号)
▼経済同友会「新しい国家像」委員会(堤清二委員長)の国連中心の総合安保提唱
▼細川護煕首相の諮問機関「防衛問題懇話会」のいわゆる「樋口レポート」での日安保依存脱却模索(94年8月に村山富市首相に提出)
――など、冷戦の遺物である日米安保体制の呪縛を断ち切って行こうとする戦略論的な営みが盛んになったのに対し「他方では、外務省・防衛庁を中心により一層日米安保にしがみ付いて既存の枠組みを死守しようとする傾向が深まるという、二極分解が起きた。後者の典型が「K半島事態対処計画」で、これによって日本はポスト冷戦の到来を自分の頭で安全保障を考えるようになるためのきっかけとすることに失敗したのである。


 
すでに「日本はポスト冷戦の到来を自分の頭で安全保障を考えるようになるためのきっかけとすることに失敗」しており、「潜在的脅威」と「現実的脅威」を峻別することすらできていない。
 
そして、財務省の意を汲んだ防衛費調達のために国債を発行することを徹底的に反対する連中が牛耳っている有識者会議を利用して岸田文雄が反アベノミクスの立場を取り、「反黒田」的な金融政策を取ろうとしていることの布石を取ろうと画策し、最終的には、「防衛費増」を利用して「増税」を狙い、政府の意のままになる税金を国民から巻き上げるということが、現在の岸田文雄の「最後のあがき」ではないのだろうか、とオジサンは思う。  
   

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