----- 私の履歴書 安倍晋三 -----
その後の私の活躍は皆さんご承知の通りです。
自民党政権が50年かけても実現できなかった事を僅か3年で実現させました。
地球儀俯瞰外交と称して世界数十か国を歴訪し、延べで数十兆円の経済援助を行い、日本の存在感を高めました。
国家安全保障会議(日本版NSC)を設置し、安全保障に関わる政策決定と省庁間の協力関係を築き、日本の安保政策推進に大きく寄与しました。
更に特定秘密保護法を制定し、安保に関わる機密保全を確固たるものとしました。戦時中の軍機保護法に酷似した危険な法制だとの厳しい批判もありましたが、国家あっての臣民であるという我々の基本的考え方に一定の理解を示している法学者も少なからずいます。
また集団的自衛権行使を法的に担保する事に成功しました。
事務方が作った、「隣家の家事の火消し」は例えが悪く、女子高生に論破される等散々でしたが、安保法制を成立させ、尊敬する米国ネオコンの重鎮アーミテージ閣下に高く評価頂けた事で私は溜飲を下げる事ができました。
これで我々は自衛隊を地球の津々浦々まで派遣する事が可能となりました。
確かに自衛隊員の生命を危険に晒す可能性は否定しませんが、日本が国際社会の一員として責任を果たすという崇高な理念は必ずや国民の支持を得るに違いありません。
アメリカから「日本は拡張を続ける中国の防波堤になれ」という指令を頂いています。
もし中国が尖閣の防衛ラインを突破するような事態になれば、我々は徹底的な反撃を試みます。座して死を待つような無責任な対応はしません。
そして我々は「この美しい国」を守るため、憲法を改正しなければなりません。
安保法制に反対するような勢力をこのまま見逃すわけには参りません。
国民は各種権利を主張する以上、義務を生じます。
残念ながら現憲法には国防の義務がありません。しかし国民は国を守る義務があります。
日本という国は一つにまとまらなければなりません。そのためには天皇陛下を国家元首として位置づけ、自衛隊を国防軍に改組し、国民には徴兵義務を負わせる必要があると考えます。
党内には私のこの考えを否定する者もいますが、そもそも自民党の党是は憲法改正です。
改憲に反対する連中は党から出ていけばよいのです。いや、改憲に反対する連中は公認しません。
大阪維新の橋下氏は改憲という点で私と考え方を共有しています。この大阪維新を自公連立政権に加えるという事も視野に入れておく必要があります。
憲法改正はお祖父様、岸信介の悲願であり、遺言です。私は石にかじりついても憲法を改正します。
しかし、その憲法改正までの道のりは長く、平たんではありません。改憲反対の声は根強く、相当な抵抗が予想されます。
そこで、麻生副総理がヒントを下さった「ナチスに学べ」を活用するつもりです。
ナチスはドイツのワイマール憲法を覆す、いわゆる全権委任法を活用して実質的な改憲を実現し、ヒットラー政権の基盤を強固なものにしました。
地震災害、大規模紛争等への備えとして緊急事態条項を現憲法に追加するのです。
これが実現すれば、例えば311のような人口地震を利用して、我々は絶対的な権力を得ることが可能となるのです。
もちろん改憲にはチャレンジしますが、緊急事態条項という代替案を用意しておけば盤石です。
アベノミクスは正直、思うような成果を出せていません。
中国経済の減速や石油価格の暴落等、外的要因に足を引っ張られています。
しかし、株価2万円を達成させたのはアベノミクスの成果です。大企業を中心に企業業績も回復したではありませんか。
賃上げに応じないのは各企業の問題であり、私の責任ではありません。女性の社会進出も進みました。
派遣労働者の増加は私の責任ではありません。労働力の流動化を望んだ各企業の責任です。
私は総理です。この国の責任者です。私が決め、私が実行する。
それは当然の事ではありませんか。自民党は国民の支持を得て、絶対多数を得たのです。多数決に従うのが民主主義というものです。
私は潰瘍性大腸炎を患い、いつまで総理の職を続けられるか分かりません。しかし、私の後継者の最有力候補として稲田朋美がいます。
万一私に何かあっても、稲田なら必ず私の遺志を継いでくれるものと信じています。
この夏の参議院選挙は、私の在任中に憲法改正が実現できるか否かを決める重要な選挙となります。
どんな手を使っても、石にかじりついてでも選挙に勝たなくてはなりません。
バラマキと言われようが、選挙買収と非難されようが、不正選挙と言われようが、崇高な目的のためなら手段は全て正当化されます。
私はお祖父様、岸信介が念願した大日本帝国の復活を必ず成し遂げます。
最後までお読み頂きありがとうございました。
引き続き、安倍政権への絶大なるご支持をお願いいたします。
「美しい国」日本を守るために。
<完>
【追記】安倍晋三が書きたくなかった内容を以下に記しておく。
出典は、ライターの武田砂鉄氏の「祖父・寛や父・晋太郎にあって、安倍晋三にはないもの 『安倍三代』(青木理・著)を読む」から。
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あらゆる人物評伝は、史料や証言者の声が積もり、ページをめくればめくるほど濃厚になるものだが、本書は例外。残り3分の1、安倍晋三の軌跡を追い始めた途端、万事が薄味になる。彼について問われた誰しもが、語るべきことがあったろうか、と当惑する。
晋三が通った成蹊大学名誉教授・加藤節(たかし)は、彼を「二つの意味で『ムチ』だ」と評する。「無知」と「無恥」。「芦部信喜さんという憲法学者、ご存知ですか?」と問われ、「私は憲法学の権威ではございませんので、存じ上げておりません」と答弁した彼を「無知であることをまったく恥じていない」と嘆く。手元の原稿に記された「訂正云々」を力強く「訂正でんでん」と読む宰相は無知を改めない。
(中略)
晋三いわく「公人ではなく私人」の昭恵夫人が、本書の取材に応じている。寛にも晋太郎にもあった気概や努力が晋三に感じられないのはなぜか、との不躾な問いに「天のはかりで、使命を負っているというか、天命であるとしか言えない」と述べる。呆然とする。
安倍家の対岸に住まう古老、“政略入社”した神戸製鋼時代の上司、安倍家の菩提寺である長安寺の住職等々が、晋三をおぼろに語る。彼の存在感を力強く語れる人が、どこからも出てこないのだ。
政界を引退した、かつての自民党の古参議員・古賀誠に語らせれば「ツクシの坊やみたいにスーッと伸びていく」ような世襲議員が、現政権では閣僚の半分を占めている。「ツクシの坊や」のために変更された自民党総裁任期延長に異を唱える党内の声は極端に少なかった。支持する理由のトップが常に「他より良さそう」であっても、自由気ままな政権運営が続いていく。
「私の国際政治学(の授業)をちゃんと聞いていたのかな」と恩師を涙ぐませてしまう宰相は、その薄味と反比例するように、国の定規を強引に転換させている。周囲に募る虚無感と本人が投じる強権とが合致しない。その乖離(かいり)に誰より彼自身が無頓着なのが末恐ろしい。
(文春オンラインより)
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