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紫雲丸事故とセウォル号事故のその後 - 李成権駐神戸総領事の考察と提案は・・・・

2015-05-15 17:22:44 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 5月11日(月)は多くの犠牲者を出した紫雲丸沈没事故からちょうど60年ということで、高松で追悼法要が営まれたこと等が報じられました。(→コチラ等。)

 紫雲丸の沈没事故といっても、今は知らない人の方がずっと多いのでは? 私ヌルボは子どもの頃児童用の「学習年鑑」で見た記憶があります。高松から宇野に向かって航行していた連絡船で、濃霧の中で貨物船第三宇高丸と衝突・沈没した事故で、168人が死亡しましたが、うち100人は修学旅行中だった島根・広島・愛媛・高知4県の4校の小中学生計100人でした。
 ※ウィキペディアの<紫雲丸事故>(→コチラ)に事故の詳細が記されています。「就航から9年間に5度」も事故を起こしたのですね。その船名のこと等も含め、ホントに呪われた船といった感があります。船員の犠牲者2人のうち1人は中村正雄船長で、「退船を拒否し、ブリッジに残り船と共に海中に沈んだ」とは初めて知りました。

 この紫雲丸事故関係の報道に接して、私ヌルボ、最近横浜市立図書館で読んだ韓国誌「新東亜」5月号の記事を思い出しました。駐神戸大韓民国総領事館の李成権(イ・ソングォン)総領事による「참사로 배우는 일본 참사로 싸우는 한국(惨事で学ぶ日本 惨事で争う韓国)」と題された記事です。
        
 ※この記事は<新東亜>のサイトで見ることができますが、無料で見られるのは最初の部分だけです。(→コチラ。) しばらく後で全文を無料で見られるようになるかも・・・。

 この寄稿の冒頭で、李成権総領事は次のように記しています。

 2012年8月日本の神戸総領事として赴任した直後、私をとりわけ驚かせたことがある。小学生の娘が現地の学校に入学するとすぐ水泳を教わり始めたのだ。趣味ではなく学校で正式の授業で水泳教育をやっているのだが、それも全校生が皆教わっているとのことだった。韓国だったなら保護者たちから「勉強をする時間もないのに、ムダに時間を浪費している」という声が上がるのではないか。

 昨年のセウォル号事故の後、韓国の学校ではほとんど水泳教育が行われていなくて、おとなでも泳げない人はとても多いということがネット内でも話題になりました。
 ※今年3月の「韓国人「カルチャーショック!日本の学校にはプールがついている」と題した<カイカイ反応通信>の記事(→コチラ)は、韓国人の側からの反応がとても興味深いです。(元は韓国サイト<イルベ>の記事→コチラ。)
 李成権総領事は、このような日韓の水泳教育の違いを単に「そうなのか」だけで済ませず、日本が水泳教育に力を入れるようになった理由を探ったところ、セウォル号惨事のような船舶沈没事故が契機だったことを知りました。それが紫雲丸事故だったのです。多くの犠牲者を生んだ事故の要因として航海士の不注意だけでなく児童の水泳未熟もあげられ、以後小学校のプール設置が推進されて現在では90%近くに及び、水泳教育が推進されてきました。
 ※記事中に松井敦典鳴門教育大教授による<プールの普及率と水難事故の発生件数>の推移を示すグラフも掲載されています。→コチラ参照。
 ※韓国と日本の水泳教育の違いについて友人に話し始めたら「軍事教練の関係?」という言葉が返ってきました。後で臨海学校の歴史についてちょっと調べてみると、成城中学校が1925年に逗子市(当時)初声村に開設したのが最初。陸軍士官学校・幼年学校をめざす教育を旨としていた学校ということとたしかに関係ありそうです。なおプールの初めは江戸時代の藩校の日新館(会津)、続いて明倫館(萩)。また子どもの川遊び等の文化ももしかしたら関係するかもしれませんが、そこまでフロシキは広げられません。

 さて、紫雲丸事故だのプール設置率だのまで調べた李成権総領事ですが、
 強調したいことは、われわれも学校にプールを設置せよとか水泳教育を導入せよということではない
 ・・・と続けているのはアレレ、と思いましたが、
 日本はある事故が発生した時、ふたたび再発しないように、あるいは再発しても人命と災難被害が最少となるよう「目に見える」対策を施したという点を強調したいのだ。
 つまり、水泳教育等のことは長~い前置きだったのですね。(このブログ記事のようです。)
 李成権氏は、セウォル号事故の後韓国では責任追及や特別法制定等々をめぐって党派対立が激化する等の混乱が続く一方で、再発防止や安全意識向上に向けた方策がなおざりにされていると指摘します。(まあ誰もが同じように見ているでしょうが・・・。)
 ここで李成権氏が範とすべき例としているのが1995年の阪神・淡路大震災についてのもろもろ。(※その被害総額10兆円は当時の韓国の政府予算54兆ウォンの約2倍だったとか。)
 今も残されている地震発生の時刻で止まったままの建物外壁の時計や、芦屋・西法寺のドラム缶(←震災直後風呂の代用品)の追悼の鐘(→コチラ参照)のこと。(後者は知りませんでした。)
 あるいは天然記念物とされた、野島断層を保存して公開している北淡震災記念公園(→コチラ)や、記憶や記録を集大成し伝達するため設立された人と防災未来センター(神戸)(→コチラ)も紹介しています。
 また学校で安全教育や防災訓練が行われているばかりではなく、一般人を対象にした訓練もあって、神戸で今年行われた<シェイクアウト訓練>には150万人の市民中33万人余が参加したことも記されています。(上掲の画像右は神戸のスーパーでの訓練のようす。
 これらの分析を通して李成権総領事が最も印象的だったのは「人々の安全意識を鼓吹するための努力」だったとのことです。
 そして彼が提言しているのは「災害記念館」の新設です。1993年の西海フェリー沈没事故(死者・行方不明292人)、94年の聖水大橋崩壊事故(死者32人)、95年の大邱地下鉄ガス爆発事故(死者10人)、同年の三豊百貨店崩壊事故(死者502人行方不明6人)、そして2014年のセウォル号沈没事故(死者295人行方不明9人)・・・。こうした<人災型事故>に関するすべての資料を集め、展示して、原因を説明したり、災害にどのように対応すべきかを知らしめる。また統一記念館や戦争記念館のように修学旅行生たちが見学できるようにもする。

 以上がこの寄稿のあらましです。
 関連で少し調べてみたところ、セウォル号の事故後韓国では学校安全教育の強化をはかる法改正が進められ、初等学校3年生を対象に「安全水泳教育」実施に取りかかっているようです。
コチラの記事(韓国語)によると、富川市では2015年度から初等学校3年生全員が校外のプールに行ってクラスあたり週2回2ヵ月間の合計32時間の水泳教育を受けるとのことです。
 しかし、指導者や費用等の問題を考えると全国的に一斉にスタートというのは無理のようです。学校プールの設置ともなると膨大な予算も必要だし、先に李成権総領事が書いていたような保護者の意識の問題もあるし・・・。

 最後に私ヌルボの感想。セウォル号の惨事後、たとえばウ・ソックン「降りられない船- セウォル号沈没事故からみた韓国」(クウォン)を読んで韓国人の中にも冷静に事故の原因や背景を考察している人がいることを知りました。(←当然ですけど・・・。) この李成権総領事の寄稿も神戸に赴任した自身の経験に基づいた具体的な提言で有意義なものだと思います。
 日本人として(という発想はしないのが私ヌルボの常ですが)面映ゆい点もありますが、気になるのは2011年の東日本大震災のこと。この寄稿では全然触れられていません。はたして諸資料を網羅し、適切に分析・説明した資料館が造られるのか? それ以前に、とくに原発事故について再発防止に向けたコンセンサスといったものがあるのか? それが形成されていないまま再稼働に踏み出しているのでは? 非常に重大なことであるにもかかわらず、基本がおろそかにされているように思います。

※余談ですが、李成権総領事の経歴(→コチラ参照)を見ると、「2001~03年河野太郎衆議院議員秘書」というのがあって、一部で「問題視」されているようです。

※「新東亜」5月号の別のページに、「韓日災害対策法比較分析した本を出刊 李成権駐日本神戸総領事」という記事がありました。(下画像)


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2 コメント

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Unknown (海苔訓六)
2022-06-09 20:21:11
水泳の授業が1955年の「紫雲丸事故」によって始まったという話が広まっていますが,ウィキペディアに存在した記述を基にしたデマです.実際には,水泳の授業は1964年の東京オリンピックを機にした体育振興政策として始まりました.また,水泳の授業は必修ではありませんし,過去にも必修になったことは一度もありません.
とのことです。

もちろん、この主張している人が間違っているかもしれませんが。
https://mobile.twitter.com/xyzabc39321594
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Unknown (海苔訓六)
2023-01-01 16:33:21
上記のTwitterのアカウントが削除されてしまいましたね。
Yahoo!知恵袋で質問してみましたが、
紫雲丸沈没事件が契機になったことを『都市伝説』とする主張の方がデマっぽいですけどね。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11273267126
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