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読み書きができるということ[その3]= クラスに外国籍の生徒がいることが皆のプラスになるように =

2022-03-21 14:27:26 | エッセイ・雑文(韓国・朝鮮関係以外)
 → 読み書きができるということ[その1] = 文字を知れば、人生も世界の見え方も変わる =
 → 読み書きができるということ[その2] = 99%と、取り残された1% =

  読み書きができるということ[その3]

     = クラスに外国籍の生徒がいることが皆のプラスになるように =

 さあ始めるよー! はい、皆さんおはよーございまーす。
 うーん、まだまだ寝足りないって顔の人が何人もいるなー。朝飯はちゃんと食べてる? 朝抜きの人は・・・少しいるか。朝シャンしてる人は、それなりにいますね。ん? 朝シャンするとはげるって? そんなことないんじゃないの? しなくたってはげる人ははげるし・・・。
 その話題は避けよう。そもそも、なんで朝の話をしたかというと、君たちの中で新聞を少しでも読んでから家を出る人がどれくらいいるか知りたかったからなんですよ。手をあげて・・・。うーむ、ずいぶん少ないねー。漫画、TV欄、スポーツ欄・・・。それ以外は? えっ、ゼロ!?
 この頃は新聞を月極めでとっている家も6割くらいに減ったそうで、昭和の人間としてはさびしいかぎりです。・・・というと、「通学途中のバスや電車内でスマホでニュース見てるからダイジョブ」などと本気で言ったりするでしょ? 全然ダイジョブじゃないんだけどね。まあその件はいずれじっくり考えてみましょう。

 さてと。今日は「読み書きができるということ」の3回目です。1回目は、59歳になって初めて識字学級で文字を教わった高知県の女性のことを話しました。歯医者さんに行った時に初めて自分の名前を教わった通りに受付で書いて、その通りに呼ばれてうれし涙を流したという話、憶えてますか? 2回目は、江戸時代頃、日本の識字率は世界でもトップレベルにあったといわれるその背景を考えてみました。
 当初の予定ではその2回で終わりだったのですが、最近毎日新聞が新聞協会賞を受賞したという新聞記事を読んであと1回延長することにしました。

 新聞協会賞というのは、日本新聞協会・・・って全国の新聞社の連合組織ですけど、そこで毎年全国の新聞の記事や報道写真などの中でとくに優れたものを選んで表彰するものなんですが、2020年の企画部門で「にほんでいきる」という毎日新聞の企画連載記事が選ばれたんですよ。
 どんなシリーズかというと、日本国内で6歳から14歳なのに学校に通っているかどうかわからない子どもがたくさんいるという話。どんな子たちかわかりますか? 「にほんでいきる」というタイトルがヒント。そう、外国籍の子どもたちですね。
 17年末の時点で在留外国人、つまり中長期在留者の数は250万人を超えたと思ったら19年末にはもう290万人を突破したんですと。2年間で40万人増です。いわゆる在日韓国・朝鮮人の特別永住者約30万人は入ってないですよ。大阪市の人口はその間あまり変わりなくて21年で約275万人だから、在留外国人の数に追い越されたことになります。意外に多いですよね。だからその子どもも多くて、8万人くらいになるそうです。
 日本国籍の子なら義務教育だから当然のように学校に行ってます。さて皆さん、義務教育というけど、君たちは教育を受ける義務があるの?
 「高校生だからもうない」って、君誤解してないかい? 小中学生だって義務はないんだよ。あるのは権利の方。憲法第26条に「すべて国民は、(中略)ひとしく教育を受ける権利を有する」と記されてます。小中学生に限りません。義務教育というのは、保護者が子どもに普通教育を受けさせる義務を負っているということ。つまり保護者の義務なんですよ。同じ26条の②に書いてあります。政経の教科書すぐ出せるかな? 巻末の資料にあるでしょ? はい、マーカーで塗っておきなさい。

 では、日本で暮らしている約8万人の外国籍の子どもの教育はどうなっているんだろう? ・・・ということで、毎日新聞の取材チームはまずアンケート調査を実施するんです。対象はとりあえず外国籍の子どもの住民登録が多い上位100市区町を抽出して調査して、その結果が19年1月に始まった連載の最初の記事で公表されたんですよ。それによると外国籍の子どもの約2割、約1万6千人が就学不明だったとのことです。それでも調査をしてるだけでもマシ、って言えるかどうか、100自治体のうち約4割は就学不明の子どもの状況を全く調べていなかった。一方就学不明児の全数調査を実施している自治体は3割。つまり、事実上ほったらかしの自治体が非常に多かったということです。
 では、そんな自治体がなんでこんなに多いのかというと、外国籍の保護者は日本の「国民」ではないので、日本で暮らしていても子どもに就学させる義務からは除外されているから。・・・ということで、自分たち日本の公務員の職務の範囲外とされたようですね。もしかして、最初から「あ、外国籍の子? じゃ関係ないよ」と切り捨てられたのか、それとも意識もされず視野にも入っていなかったのかはぼくはわからないけどね。気にはなっても、上司からの指示もないし調査を実施したり子どものいる家庭を訪問したりしてわざわざ仕事を増やすことはなかろうと思ったんですかねー。

 もしかしたら、君たちの中にも「外国籍の親子には気の毒だけど、日本の側に彼らの教育の面倒を見る義務はないんじゃないの?」とか、「義務はないんだから、彼ら自身で好きなように育てればいい」と情に流されないで冷徹に考える人もいるかもしれません。どうですか?
 しかし、親の義務もさることながら子どもを主体に考えてみると、実は日本も批准している国際人権規約に「全ての子どもが教育を受けるべきだ」とちゃんと記されているんです。「全ての子ども」ですよ。国籍は関係ナシです。このことは、直接子どもの教育に関わっている公務員や教育関係者には周知されていなかったのでしょうね。一般人となると国際人権規約という言葉を知ってる人はずいぶん少ない感じがするしねー・・・。

 この毎日新聞の記事に国会議員も注目して、2週間後に衆議院で「就学不明ゼロを目指して取り組むべきだ」と文科省を追及します。文科省にとってもこの記事は「『1.6万人ショック』だった」そうで、さっそく検討チームを設置して全国的な調査に乗り出します。その結果は8ヵ月後の19年9月に出て、就学不明の外国籍の子どもの数は約2万2千人にのぼることが判明します。

 ところで、『1.6万人ショック』と言いましたが、なんでショックを受けたと思いますか?
 人数が多いから? たしかに大きな数字ですよねー。それだけの子どもがほったらかしになってたわけだからねー。でも日本人の学齢児童、つまり6歳から14歳までの人口は2020年度の統計によると約968万人なので、外国籍の子どもの8万人という数は大雑把に言って約1%。前の授業で「99%という大多数の側だけではなく、1%の少数者の方にちゃんと目を向けなさいという話をしました。とくに政治家と公務員、そして教員は・・・と強調しましたよね。外国籍の子どもはほぼ同じパーセンテージですよ。
 その約1%の中で就学不明の子どもは約2割、ざっと眺めただけだと気づきにくいかもしれない。
 しかし、本来なら気づくべき文科省が気づかなかった。前に話したたとえで言えば「森」は見えても「木」は見えなかった。見ようとしなかった。そんな彼らが毎日新聞の記事を読んで初めて自分たちが「職務の範囲外」などと考えて見逃してしまった「森」の中の「木」の1本1本が実は生身の子どもたちで、その5人に1人はおそらく日本語の読み書きもできないまま放置されてきたことを知らされ、自らの鈍感さを思い知ったんでしょうね。それこそが「ショック」の核心だったと思います。
 正直に言ってぼく自身も鈍感な1人でした。たしかに文科省は責められますが、むしろ毎日新聞の問題提起が「よくやった!」と思いますね。
 目の前に取り組むべき問題があっても、それを「問題」と捉える認識がなければ見てないも同然だよね。
 実は、この企画記事を担当した記者さんによると、2004年頃大学の授業で教授に連れられて外国人労働者の多い町の小中学校に行って南米から来た子どもたちの宿題を手伝ったり、「託児所」と言ってたアパートの一室ですし詰めになっている10人以上の外国籍の子どもと会ったりしたことが企画の原点だったそうです。
 この記者さんは08年に毎日新聞に入社しますが、18年に政府が入管法の改正案を示した時、学生時代に出会った子どもの顔が浮かんだと記しています。「このまま放置していてはいけない」という気持ちに突き動かされてこの企画記事を書こうと決心したそうです。
 やっぱり、直接そんな子どもたちと接すると「なんとか力になってあげよう」と思うじゃないですか。でもその気持ちをずっと持ち続けて10年後に自分の仕事と結びつけて、その結果政治を変え社会を変え、多くの外国籍の子どもたちの生活や未来までも変えていくことになったとはスゴいよね。記者さんはもちろんだけど、これはまさに新聞記事が行政を動かし社会をより良くする力となった事例で、とくに中学・高校の新聞部員の皆さんには大いに参考にしてほしいですね。

 毎日新聞の取材班は、その後各地の外国籍の子どもの実態を取材していきます。
 連載記事を一つひとつ読んでいくと感動的なエピソードもある一方でその反対の事例もあります。
 たとえば、中学3年生の時に来日した中国籍の少年のことなんですが、10年前から日本で働いていた父親を頼って日本に来て二人暮らしを始めたのです。日本語が話せないので学年を下げて中学2年に編入して、やはり中国から来た生徒と2人で日本語を教わったものの、担当の先生は中国語が話せないし、分かるのは「あいうえお」程度。他の授業はクラスメートと同じ教室で日本語オンリーだからほとんどわからないよね。クラスメートと親しくなるきっかけもないまま結局2ヵ月後から不登校になって、その後除籍を申し出ます。退学の日、担任は心配そうに日本語で話しかけてくれますが、その言葉も理解できませんでした。退学後は通っていた日本語教室で知り合った年上の中国人少年と繁華街で遊ぶようになって、やがて中国人仲間の暴行事件に加担して逮捕されて久里浜少年院に送られてしまいます。
 この少年院には全国で唯一、外国籍の少年を対象とした国際科があって、日本語のほか、ごみ出しのルールとかの日本の習慣や文化も教えているのですね。彼は言葉が少し分かるようになると興味も広がって、ベストセラーになった「君たちはどう生きるか」は何度も読んだそうですよ。将来インターネットショッピングの店を持つという夢もできた、と記事には書かれています。
 彼の場合は最終的には救われましたが、もっと早くなんとかならなかったのかと思いますねー・・・。
 事実上ほったらかしの自治体が多かったと先に言いましたが、中には就学不明の家庭を訪問して不就学の子がいたら通学を働きかけている自治体もちゃんとあるんです。
 松阪市もそのひとつで、09年からは年に1回、住民登録があっても学校に通っていない子どもの家を訪ねることになっているそうです。
 市教委の指導主事のNさんという人が市内のアパートで、小学校に通わずゲーム漬けになってるフィリピン国籍の兄妹を見つけたのもそんな訪問調査の時でした。両親は共働きで、1日15時間近くも家を空けざるをえない状況で、兄妹は「学校に行きたくない」と訴えるし、両親は学校に行かせたくても行政にどう訴えるかわからないままで、結局兄妹は部屋でゲームに熱中する毎日になっちゃったんですね。Nさんは兄妹と両親に心を開いて語りかけて通学を勧めます。で、1ヵ月後に兄妹は小学校に通うことになって、お父さんも兄妹が学校に慣れるまで一旦仕事を辞めて登下校に付き添ったり一緒に宿題に取り組むようになったそうですよ。その後兄妹は「学校に来て良かった。友だちができた」と話してるそうで、これは読み終えてホントに「よかったね!」という記事でしたね。
 でも、なんといってもやっぱり日本語の壁があるわけですよ。学校によっては保護者が入学を希望しても、最初から「本校では日本語教師がいないから」と入学を拒否したり、「日本語が話せない子どもは受け入れられません」と門を閉ざす学校もあるそうです。なんでそこでせめて「ここはだめですけど、こうすればいいですよ」という話ができないんでしょうね? また入学が認められても、日本語での授業についていけるかどうかも心配ですよね。日本語で知能検査をやったら出来が芳しくなくて特別支援学級に入れられたり・・・という事例も多いようですよ。
 それから、日本語の壁と共に大きな問題はいじめなんですよね、残念ながら。
 例を挙げていくとキリがないね。実はこの企画記事はその後「にほんでいきる」というタイトルの本にまとめられて刊行されたので、ぜひ読んでみてください。・・・ということで区切りを付けます。

 もうひとつ。毎日新聞の「にほんでいきる」が始まった2ヵ月後から、産経新聞で「夜間中学はいま」という連載記事が始まりました。これも夜間中学に対する関心を高めることになった記事で、20年以降3校が開校したのもその結果かもしれません。でも20年末の時点で全国34校なんですね。ずいぶん少ないなーと思いましたが、どうですか?
 この連載も、夜間中学に通っている人や卒業した人を大勢紹介しているんですが、実に多彩なんですよ。年齢は10代から90代まで。国籍は実にさまざまで、最近はその数も急増していて、外国籍の生徒の比率は約8割を占めているそうです。日本語は話せても文字の読み書きができないという在日2世の80代のおばあさんも紹介されていますが、かつて最も多かった在日韓国朝鮮人は激減しているそうです。今は在日も日本生まれの3世・4世が主体だし、日本語の読み書きは当然できるわけです。
 日本人で夜間中学に通っているのはどういう人たちかというと、年配の人は家庭の事情で学校にほとんど通えなかったという人が多くて、中には戦災孤児だったという人もいます。年齢を問わず多いのがさっき言ったいじめなんですよ。
 新聞の社会面にはあいかわらず学校でのいじめ関係の記事が後を絶ちませんね。これについて今回は深入りしませんが、せっかく学校に入ったのにいじめにあっている外国籍の生徒はずいぶんいるようです。外国から短期留学生として来た欧米の生徒は歓待されるのにねー・・・。直接外国のいろんな話を聞いたり、少しでも外国の言葉を教わったりするとすごく生きた勉強になりますよ。そんな経験ないですか? 先生方もそういうふうに外国籍の生徒と共に学ぶような雰囲気を作っていってくれればと思うんですけどねー。
 この先10年くらい経ったらどういうふうに変わってるのかな・・・。
 じゃあこのシリーズはここでおしまい。それにしても、世の中にはいろいろ気の滅入ることが多いねー。もしかしたら自分もその原因を作っちゃってるかも、と気がついたらなんとかしましょう。相手のたにも、自分のためにも、ね。

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