韓国は、戦後は長くハングル優先の国語教育をしてきたことはよく知られています。
それでも、新聞・雑誌等は90年頃までは漢字表記も多かったのですが、ハングル表記(と横組み)を前面に打ち出した「ハンギョレ新聞」の創刊(1988年)あたりを契機に、漢字は非常に少なくなりました。
このようなことから、韓国では漢字の知識が日本よりずっと低レベルにあると思っている人が多いと思います。
それはそれで間違いでもないのですが、一方で近年とくに東アジアの漢字文化圏での経済面を主とするコミュニケーションの手段として漢字が再び注目されるようになり、1998年には金大中大統領が漢字復活宣言を発表して道路標識や鉄道駅、バス停留所の漢字併記が実現しました。(これはその後ハングル専用派の巻き返しもあって中止されたそうです。)
最近は就職に有利になる等の発想から、漢字塾に通う子どもも増え、学習誌(プリント学習業者)の教材としても漢字学習は一般的なものになっています。公立学校でも、地域レベルで漢字教育を推進する動きもあるようです。
また、少年漫画でも「魔法千字文(마법천자문)」は2003年の1巻発売以来人気シリーズとなり、現在21巻まで刊行されています。
【漫画「魔法千字文編 21」の表紙。各巻ごとに1つの漢字が表紙に記されています。この巻は「心」。下左のシールは韓国刊行物倫理委員会選定「青少年勧奨図書」。】
【中を見ると、場面に即した漢字が大きく表示されています。】
そして韓国でも、日本の漢字検定に相当する試験が行われています。私ヌルボ、5年ほど前にソウルの街を歩いていた時にたまたま目にした受験案内の貼り紙でそのことを知りました。実施団体は、(社)韓国語文会(1991年設立)による漢字能力検定試験、(社)漢字教育振興会(1990年設立)による漢字資格試験、商工会議所漢字検定、YBM商務漢字検定など約10団体ほどありますが、とくに最初の2団体が代表的なもののようです。
漢字能力検定試験、漢字資格試験とも年6回実施されています。試験会場も全国各地で、前者の場合ソウル市内だけでも建国大など14ヵ所が指定されています。
級は、日本の漢検の場合1~10級までで、準1級・準2級があるため全部で12段階に分けられています。
韓国の漢字能力検定試験では、最上級の特級から、8級まであり、特級と3~7級には「Ⅱ」(準に相当)があるので全部で15段階となっています。
次に、要求される漢字の数で各級のレベルを見てみます。
○日本の漢検は・・・・
1級=約6000字
準1級=約3000字
2級(高卒)程度=2136字
3級(中卒程度)=1607字
5級(小卒程度)=1006字。
○韓国の漢字能力検定試験は・・・・
特級=読み約5978字・書き3500字
1級=読み3500字・書き2005字
2級=読み2355字・書き1817字
3級=読み1817字・書き1000字
※3~3級(Ⅱ)が高級常用漢字レベル
4級=読み1000字・書き500字
※4~5級(Ⅱ)が中級常用漢字レベル
6級=読み300字・書き150字。
※6~8級が基礎常用漢字レベル
比較してみると、中級以下は韓国の方がより細分化されている、ということは、受験者のレベルも(日本と比べると)低いようですが、最上級レベルはほぼ同レベルといえるのではないでしょうか?
先に「就職に有利になる」と書きましたが、具体的に言えば「2級以上合格」ですね。
日本以上の若年層の就職難という状況にあって、韓国の学生の間では自身のスペック(스펙)(←よく使われている言葉みたい)を高めることに関心があるようです。(日本でもそうかな?)
そして多くの大学でも、英語関係の検定やコンピュータ関係の検定とともに、漢字検定を重視するようになりました。世宗大中国学部は、2級合格を卒業要件としていますが、これは専攻を考えれば妥当といえるかも・・・。
一方、高麗大は2004年から2級合格を全学生の卒業要件としました。しかし最近は少し緩めて、学部の判断に任せることにしたそうです。大田大学校では3級合格を義務付けています。その他、中央大等でも漢字検定を進級や卒業の条件にしています。
※高麗大では、大学新聞が456人を対象に2010年実施したアンケート調査の結果、2級以上の漢字能力試験に合格した223人の学生の中で「自由」を正しく書けた学生は110人(49%)に過ぎなかったそうです。学生会長は、「2級レベルを卒業要件に掲げることは不必要だと思う」と話したとのこと。
さてさて、その韓国版の漢字検定ですが、韓国サイトから漢字能力検定試験の最近の過去問(既出問題.기출문제)をPDFファイルで特級~8級の全部をダウンロードしました。
で、私ヌルボ、実際に挑戦してみました。何をかくそう、以前(10年くらい前)ちょっと勉強して漢検準1級に合格してまして、たぶん特級はムリとしても、その下あたりは大丈夫では、と内心高をくくっていたところ、そうは問屋がおろさなかったですね。
各漢字の韓国語の音読みを知っていなければならないことはもちろんですが、難関はたとえば次のようなこと。
①漢字の訓読(!)を知っていなければならない。
「え、韓国でも漢字に訓読みがあるの?」と意外に思う人も多いかも・・・。あるんですよ。「千字文」の最初の漢字「天」は「하늘 천(ハヌル チョン)」と読みますが、この「하늘」が訓読みです。
②漢字は旧字体。
この「旧字体」からして「舊字體」ですからねー。
③日本では用いられない四字熟語もある。
④母音の長短を問う問題も出される。
以前、通訳ガイド試験ではそんな問題も出されていましたが・・・。韓国人は長短を意識して発音してるわけでもないようで・・・。たとえば사무を事務の意味で発音する時は自然にサームと長めになるし、社務の場合はサムと短くなる・・・といっても、電子辞書の「プライム韓日辞典」にも「小学館 朝鮮語辞典」にもたしかにある長音の表示をちゃんと見てる人はどれほどいるのかなー?
⑤特級になると、今まで見たこともない漢字のオンパレード!
・・・というわけで、本記事のタイトル通り「侮るべからず」と思った次第です。
続きの記事で、その問題を実際に見てみます。
→<[韓国語] 侮るべからず! 韓国の漢字検定試験(2)>
それでも、新聞・雑誌等は90年頃までは漢字表記も多かったのですが、ハングル表記(と横組み)を前面に打ち出した「ハンギョレ新聞」の創刊(1988年)あたりを契機に、漢字は非常に少なくなりました。
このようなことから、韓国では漢字の知識が日本よりずっと低レベルにあると思っている人が多いと思います。
それはそれで間違いでもないのですが、一方で近年とくに東アジアの漢字文化圏での経済面を主とするコミュニケーションの手段として漢字が再び注目されるようになり、1998年には金大中大統領が漢字復活宣言を発表して道路標識や鉄道駅、バス停留所の漢字併記が実現しました。(これはその後ハングル専用派の巻き返しもあって中止されたそうです。)
最近は就職に有利になる等の発想から、漢字塾に通う子どもも増え、学習誌(プリント学習業者)の教材としても漢字学習は一般的なものになっています。公立学校でも、地域レベルで漢字教育を推進する動きもあるようです。
また、少年漫画でも「魔法千字文(마법천자문)」は2003年の1巻発売以来人気シリーズとなり、現在21巻まで刊行されています。
【漫画「魔法千字文編 21」の表紙。各巻ごとに1つの漢字が表紙に記されています。この巻は「心」。下左のシールは韓国刊行物倫理委員会選定「青少年勧奨図書」。】
【中を見ると、場面に即した漢字が大きく表示されています。】
そして韓国でも、日本の漢字検定に相当する試験が行われています。私ヌルボ、5年ほど前にソウルの街を歩いていた時にたまたま目にした受験案内の貼り紙でそのことを知りました。実施団体は、(社)韓国語文会(1991年設立)による漢字能力検定試験、(社)漢字教育振興会(1990年設立)による漢字資格試験、商工会議所漢字検定、YBM商務漢字検定など約10団体ほどありますが、とくに最初の2団体が代表的なもののようです。
漢字能力検定試験、漢字資格試験とも年6回実施されています。試験会場も全国各地で、前者の場合ソウル市内だけでも建国大など14ヵ所が指定されています。
級は、日本の漢検の場合1~10級までで、準1級・準2級があるため全部で12段階に分けられています。
韓国の漢字能力検定試験では、最上級の特級から、8級まであり、特級と3~7級には「Ⅱ」(準に相当)があるので全部で15段階となっています。
次に、要求される漢字の数で各級のレベルを見てみます。
○日本の漢検は・・・・
1級=約6000字
準1級=約3000字
2級(高卒)程度=2136字
3級(中卒程度)=1607字
5級(小卒程度)=1006字。
○韓国の漢字能力検定試験は・・・・
特級=読み約5978字・書き3500字
1級=読み3500字・書き2005字
2級=読み2355字・書き1817字
3級=読み1817字・書き1000字
※3~3級(Ⅱ)が高級常用漢字レベル
4級=読み1000字・書き500字
※4~5級(Ⅱ)が中級常用漢字レベル
6級=読み300字・書き150字。
※6~8級が基礎常用漢字レベル
比較してみると、中級以下は韓国の方がより細分化されている、ということは、受験者のレベルも(日本と比べると)低いようですが、最上級レベルはほぼ同レベルといえるのではないでしょうか?
先に「就職に有利になる」と書きましたが、具体的に言えば「2級以上合格」ですね。
日本以上の若年層の就職難という状況にあって、韓国の学生の間では自身のスペック(스펙)(←よく使われている言葉みたい)を高めることに関心があるようです。(日本でもそうかな?)
そして多くの大学でも、英語関係の検定やコンピュータ関係の検定とともに、漢字検定を重視するようになりました。世宗大中国学部は、2級合格を卒業要件としていますが、これは専攻を考えれば妥当といえるかも・・・。
一方、高麗大は2004年から2級合格を全学生の卒業要件としました。しかし最近は少し緩めて、学部の判断に任せることにしたそうです。大田大学校では3級合格を義務付けています。その他、中央大等でも漢字検定を進級や卒業の条件にしています。
※高麗大では、大学新聞が456人を対象に2010年実施したアンケート調査の結果、2級以上の漢字能力試験に合格した223人の学生の中で「自由」を正しく書けた学生は110人(49%)に過ぎなかったそうです。学生会長は、「2級レベルを卒業要件に掲げることは不必要だと思う」と話したとのこと。
さてさて、その韓国版の漢字検定ですが、韓国サイトから漢字能力検定試験の最近の過去問(既出問題.기출문제)をPDFファイルで特級~8級の全部をダウンロードしました。
で、私ヌルボ、実際に挑戦してみました。何をかくそう、以前(10年くらい前)ちょっと勉強して漢検準1級に合格してまして、たぶん特級はムリとしても、その下あたりは大丈夫では、と内心高をくくっていたところ、そうは問屋がおろさなかったですね。
各漢字の韓国語の音読みを知っていなければならないことはもちろんですが、難関はたとえば次のようなこと。
①漢字の訓読(!)を知っていなければならない。
「え、韓国でも漢字に訓読みがあるの?」と意外に思う人も多いかも・・・。あるんですよ。「千字文」の最初の漢字「天」は「하늘 천(ハヌル チョン)」と読みますが、この「하늘」が訓読みです。
②漢字は旧字体。
この「旧字体」からして「舊字體」ですからねー。
③日本では用いられない四字熟語もある。
④母音の長短を問う問題も出される。
以前、通訳ガイド試験ではそんな問題も出されていましたが・・・。韓国人は長短を意識して発音してるわけでもないようで・・・。たとえば사무を事務の意味で発音する時は自然にサームと長めになるし、社務の場合はサムと短くなる・・・といっても、電子辞書の「プライム韓日辞典」にも「小学館 朝鮮語辞典」にもたしかにある長音の表示をちゃんと見てる人はどれほどいるのかなー?
⑤特級になると、今まで見たこともない漢字のオンパレード!
・・・というわけで、本記事のタイトル通り「侮るべからず」と思った次第です。
続きの記事で、その問題を実際に見てみます。
→<[韓国語] 侮るべからず! 韓国の漢字検定試験(2)>
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