6月末に脱北したキム・グァンホさん等の家族5人が7月14日中国の延辺地域で中国の公安に捕まりました。
うちキムさん夫婦(とその娘)は、以前にも脱北して2010年韓国に入国・定住していたのですが、12年末北朝鮮に帰り、13年1月平壌の記者会見の場で「南朝鮮は本当に汚れた世界だった」と韓国を非難した発言をしたことが北朝鮮メディアにより伝えられ、衝撃を与えました。
つまり、いわゆる「再入北」者です。
今回の逮捕後、韓国外交省報道官は16日「必要な措置を取っている」と述べ、韓国籍を有する彼らの釈放を中国側に求めていることを示唆しました。一方北朝鮮の保衛部も中国延吉当局に引き続き協力を要請しています。
はたして中国当局がどのような判断を下すか、非常に注目されるところです。
※私ヌルボのみるところでは、中国自身の得失を考えると韓国側が少し有利ではないかと思うのですが・・・。(韓国得意の(?)ロビー活動もやってるだろうし(?)・・・。) もし北朝鮮に送られたとしても、これだけ報道されている中で、いくら北朝鮮といえども処刑はできないのでは?
この出来事を伝えている日本のメディアは、ネット検索したところ「産経新聞」(7月15日.共同)と「読売新聞」(7月17日)くらいのようです。
その他の新聞等が報道しないのは、この出来事が彼ら5人の生命や人権に関わることであっても、日本人ではなく、日本とも直接関係がなく(ホント?)、北朝鮮や中国の現状からみて意外なことでもなく、したがってニュースバリューに欠けるという判断でしょうか?
しかし「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」という文言が日本国憲法前文(!)にもあるわけだし、「護憲」を旗印にしている新聞こそ大きく取り上げてほしいものです。(逆に「読売」や「産経」にこの種の記事が多いのは考えようによっては奇妙。韓国内と同様に、左派が反人権国家・北朝鮮に甘いという残念な現実の表れか・・・。)
この件に対する私のヌルボの関心は、南北朝鮮や中国という国家間のせめぎあいよりも、焦点となっているこの家族についてです。
彼らが今までたどった道筋について、韓国各メディア、<DailyNK日本版>、<アジアプレス・ネットワーク>等の記事を参考にまとめてみました。
※<DailyNK>(→ウィキペディア)は韓国の市民団体・北朝鮮民主化ネットワークが発行するインターネット新聞。
・咸鏡北道で農場員として働いていたキム・グァンホさんは、1990年代後半の「苦難の行軍」の時期に、金儲けのため中国に何度も越境し、法的制裁も受けてきた。しかし2009年8月婚約者のキム・オクシルさんとともに再び中国へと脱北した。
・2010年4月(?)、キムさん夫婦と10ヵ月になる娘は韓国の木浦市に定着。
・2012年末、「残った家族を脱北させるため」と北朝鮮に戻ったが捕まった。
※「中央日報(日本語版)」の記事(→コチラ)によると、これは「北朝鮮保衛部のおとり捜査による拉致だった」とのこと。「北朝鮮を脱出したいという妻の母と兄弟の連絡を受けて中国に行ったキムさんが会寧市保衛部に拉致された」という。
・2013年1月24日平壌で記者会見し「南朝鮮は本当に汚れた世界だった」と非難したことが朝鮮中央放送で報じられた。
※<アジアプレス・ネットワーク>の記事(→コチラ)によると「北朝鮮当局が準備した原稿を2ヵ月にわたり暗記したもの」とのこと。
・その後「韓国ではサムギョプサルやサムゲタンなど美味しい食事を食べられる」と韓国の宣伝を行ったかどで収監された。(恵山鉱山で思想改造のために強制的に働かされている、との未確認情報も・・・。)
・6月26日キムさん夫妻が娘及びオクシルさんの妹キム・ソネさんと義弟(?)キム・ソンイルさん(夫妻?)を連れて脱北。
・7月14日中国に留まっていたキムさんの家族5人が延辺地域(延吉?)で中国の公安に捕まった。
※<DailyNK日本語版>(→コチラ)によると、再脱北したキム・グァンホさんがブローカー費用を節約しようと多方面に工面する過程で、彼に関する情報が公安にまで流れた、とのこと。
また消息筋によると、今回の事件で北朝鮮内部は非常事態となっていて、再度脱北したキムさんの家族の噂は知らない者はなく、だまされて脱北し韓国に懲りて北朝鮮に戻ってきたものと信じていた住民らは、彼が再入北から程なく家族とともに再び脱北を試みたと聞き、酷く動揺しているとのことです。
この件について注目すべきこと、私ヌルボが考えたこと等を以下に列記します。
①「再入北」の事例が増えているという点。彼らが南北の「宣伝戦」の材料にされている。その背後に執拗な「工作(脅し・懐柔等)」が・・・。
最近の韓国にいた脱北者の再入北は、昨年6月・11月に続きキム・グァンホが3度目です。
いずれも公開記者会見の場で北朝鮮のメディアを通じて韓国を非難しています。この記者会見についての詳細は、「朝鮮新報」(1月29日)の2つの記事(→コチラとコチラ)
の記事で知ることができます。(「統一新報」は朝鮮総聯系。) それによると、キムさん夫婦は、自分たちを南朝鮮に連れて行ったブローカーに契約金を払えなかったことが原因で裁判を起こされ、住まいを失ったうえ膨大な裁判費用まで支払うことになり、これ以上南朝鮮で生きてはいけないと痛感して北に戻ってきた、と話したそうです。
その記事の見出しに<「脱北者」の大多数は被害者 組織化された南の誘引策>とあるように、彼らを「裏切り者」「犯罪者」ではなく韓国による「被害者」としている点が北朝鮮としては「新機軸」です。
この記者会見の場で、キムさん夫婦とともに証言したコ・ギョンヒさんも「2011年6月に南朝鮮に連れて行かれたが、昨年末に共和国(北朝鮮)に帰ってきた」という女性。「完全に騙されて韓国に連れて行かれた」と証言しましたが、彼女もまた6月に再び脱北を試みたものの、<DailyNK>の記事によると、「コさんも脱出に成功した後、息子と娘を脱北させるために恵山市と真向かいの中国長白で通話を試みたが位置を追跡され、北朝鮮保衛部に逮捕された」とのことです。また「コさんは当局が準備した恵山市内の高級住宅を拒否し・・・恵山市で生活していた。その時から中国と連絡を取りながら脱北を準備していた」とも・・・。
この<DailyNK>の記事によると、北朝鮮保衛部が昨年から脱北者らの知人を通して北朝鮮へ戻らせるための懐柔工作を積極的に展開してきた、とのことです。すでに韓国国内に定着した脱北者に対し、「戻ってきても処罰を受けない」等の働きかけをしたり、一方では<アジアプレス>の伝えるように、やはり昨年6月に再入北後の記者会見を行ったパク・ジョンスク氏のように、「北朝鮮に戻ってこなければ(北朝鮮に残された)息子に害が及ぶ」と脅迫したり・・・。
※今韓国では、長年韓国で家庭を持ち生活する北朝鮮のスパイが主人公の金英夏の小説「光の帝国」(訳書あり)が刊行されたり、韓国で一般庶民として生活しながら任務を遂行する北朝鮮スパイを描いた漫画が原作の映画「隠密に偉大に」がヒットしたりしています。これらの背景に、実際にスパイや工作員が摘発されるといった現実がある、ということです。
※1月の北朝鮮での記者会見報道の後、関連の韓国・聯合通信の記事の中で、「コ氏は保衛部の情報員である可能性がある(!)との主張が提起されている」とあるのは、この頃の脱北者をめぐる複雑な状況を示しています。
②「再入北」問題のもう一つの側面は、韓国内での脱北者の困難な生活状況
先の聯合通信の記事によると、キムさん夫婦と親しい知人らは「同会見内容(ブローカーに契約金を払えなかった等々)について部分的には事実関係を認めたとのことです。それについては「東亜日報」に詳しい記事(韓国語)がありました。ブローカーに多額の金を支払うため、国から支給された定着金も少ししか残らないとか・・・。
彼らの場合に限らず、韓国で暮らす脱北者の困難な生活実態の例は映画「ムサン日記~白い犬」等々、枚挙に暇がないほどです。
「再入北」の事例は、あまり知られていませんが日本でも2例あります。
在日朝鮮人の夫とともに北朝鮮に渡り2003年に日本に帰国した日本人妻・平島筆子さん(→ウィキペディア)と、母親が日本人、父親が在日朝鮮人で日本国籍の石川一二三さんの2人で、いずれも北京の北朝鮮大使館で記者会見をしていて、「悪い人間にだまされ(日本に)誘拐された」「日本は氷のように冷たかった」等と発言しています。背後の「事情」はいろいろ考えられますが、「日本は氷のように冷たかった」というのは当たっているでしょう。(参考記事→コチラやコチラ。) 石川さんのケースの後、辺真一氏が「現在日本で暮らしている脱北者が北朝鮮に戻らないで済むような精神的、物理的ケアーを施すことです」とコメントしていますが、私ヌルボもこれには賛成で、同様のことは韓国についてもいえます。
一方、脱北者の側の問題も指摘されています。「支援金に頼って真面目に働かない」「平気で嘘をつく」「助けてあげても礼を言わない」等々。以前NHKの「クローズアップ現代」でもそのことを取り上げていたそうです。(参考→コチラやコチラ。)
勤勉に働くことが収入増や生活の向上に直結しない北朝鮮でのサボリの実態は本ブログの過去記事(→コチラ)
でも書きました。嘘についても、正直に本心を語ることが身の危険に直結する独裁国家に生まれ育った人間ならさもありなんと思います。もちろん、だから許されるというものではありません。それだけミゾは深く、新しい社会に定着することはむずかしいということです。
③国家間の問題以前に、個人の人権問題として捉えよう。
最初の方で「私のヌルボの関心は、南北朝鮮や中国という国家間のせめぎあいよりも、焦点となっているこの家族についてです」と記しました。
いろいろ上述したように、キム・グァンホさんたちのこれまでの足跡をたどってみると、とてもふつうの日本人(と言っていいのかな?)からは想像もつかない苦労の連続です。
生まれた国が北朝鮮であったばかりにこのような人生を歩まなければならない・・・というのは彼ら家族だけでなく約2千万(?)ほどの全人民についてもいえるわけですが、とくに彼らのような脱北者の場合は、まさに今の複雑な東アジアの国家間のせめぎあいの中で翻弄され、1つの外交カードとして利用されるという現状があります。
しかし少なくとも一市民としては、自国の得失を最初に考える「国益本位の思考」ではなく、冒頭で引用した「日本国憲法」の前文の文言のように、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」を最優先すべきだと思います。
また上記のように脱北の手引きが多くの場合ブローカーの儲け仕事になっているのも大きな問題だし、キリスト教団体がかなり関わっている点にも個人的には少し引っかかる点があります。もっと国際的に多くの人の関心を集めて、それが現実を変える大きな力になっていくことを願っているのですが・・・。
★現在、アムネスティ韓国支部では、キム・グァンホさんたちの北朝鮮強制送還を阻止するための呼びかけ(署名等)をしています。(→コチラ。)
うちキムさん夫婦(とその娘)は、以前にも脱北して2010年韓国に入国・定住していたのですが、12年末北朝鮮に帰り、13年1月平壌の記者会見の場で「南朝鮮は本当に汚れた世界だった」と韓国を非難した発言をしたことが北朝鮮メディアにより伝えられ、衝撃を与えました。
つまり、いわゆる「再入北」者です。
今回の逮捕後、韓国外交省報道官は16日「必要な措置を取っている」と述べ、韓国籍を有する彼らの釈放を中国側に求めていることを示唆しました。一方北朝鮮の保衛部も中国延吉当局に引き続き協力を要請しています。
はたして中国当局がどのような判断を下すか、非常に注目されるところです。
※私ヌルボのみるところでは、中国自身の得失を考えると韓国側が少し有利ではないかと思うのですが・・・。(韓国得意の(?)ロビー活動もやってるだろうし(?)・・・。) もし北朝鮮に送られたとしても、これだけ報道されている中で、いくら北朝鮮といえども処刑はできないのでは?
この出来事を伝えている日本のメディアは、ネット検索したところ「産経新聞」(7月15日.共同)と「読売新聞」(7月17日)くらいのようです。
その他の新聞等が報道しないのは、この出来事が彼ら5人の生命や人権に関わることであっても、日本人ではなく、日本とも直接関係がなく(ホント?)、北朝鮮や中国の現状からみて意外なことでもなく、したがってニュースバリューに欠けるという判断でしょうか?
しかし「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」という文言が日本国憲法前文(!)にもあるわけだし、「護憲」を旗印にしている新聞こそ大きく取り上げてほしいものです。(逆に「読売」や「産経」にこの種の記事が多いのは考えようによっては奇妙。韓国内と同様に、左派が反人権国家・北朝鮮に甘いという残念な現実の表れか・・・。)
この件に対する私のヌルボの関心は、南北朝鮮や中国という国家間のせめぎあいよりも、焦点となっているこの家族についてです。
彼らが今までたどった道筋について、韓国各メディア、<DailyNK日本版>、<アジアプレス・ネットワーク>等の記事を参考にまとめてみました。
※<DailyNK>(→ウィキペディア)は韓国の市民団体・北朝鮮民主化ネットワークが発行するインターネット新聞。
・咸鏡北道で農場員として働いていたキム・グァンホさんは、1990年代後半の「苦難の行軍」の時期に、金儲けのため中国に何度も越境し、法的制裁も受けてきた。しかし2009年8月婚約者のキム・オクシルさんとともに再び中国へと脱北した。
・2010年4月(?)、キムさん夫婦と10ヵ月になる娘は韓国の木浦市に定着。
・2012年末、「残った家族を脱北させるため」と北朝鮮に戻ったが捕まった。
※「中央日報(日本語版)」の記事(→コチラ)によると、これは「北朝鮮保衛部のおとり捜査による拉致だった」とのこと。「北朝鮮を脱出したいという妻の母と兄弟の連絡を受けて中国に行ったキムさんが会寧市保衛部に拉致された」という。
・2013年1月24日平壌で記者会見し「南朝鮮は本当に汚れた世界だった」と非難したことが朝鮮中央放送で報じられた。
※<アジアプレス・ネットワーク>の記事(→コチラ)によると「北朝鮮当局が準備した原稿を2ヵ月にわたり暗記したもの」とのこと。
・その後「韓国ではサムギョプサルやサムゲタンなど美味しい食事を食べられる」と韓国の宣伝を行ったかどで収監された。(恵山鉱山で思想改造のために強制的に働かされている、との未確認情報も・・・。)
・6月26日キムさん夫妻が娘及びオクシルさんの妹キム・ソネさんと義弟(?)キム・ソンイルさん(夫妻?)を連れて脱北。
・7月14日中国に留まっていたキムさんの家族5人が延辺地域(延吉?)で中国の公安に捕まった。
※<DailyNK日本語版>(→コチラ)によると、再脱北したキム・グァンホさんがブローカー費用を節約しようと多方面に工面する過程で、彼に関する情報が公安にまで流れた、とのこと。
また消息筋によると、今回の事件で北朝鮮内部は非常事態となっていて、再度脱北したキムさんの家族の噂は知らない者はなく、だまされて脱北し韓国に懲りて北朝鮮に戻ってきたものと信じていた住民らは、彼が再入北から程なく家族とともに再び脱北を試みたと聞き、酷く動揺しているとのことです。
この件について注目すべきこと、私ヌルボが考えたこと等を以下に列記します。
①「再入北」の事例が増えているという点。彼らが南北の「宣伝戦」の材料にされている。その背後に執拗な「工作(脅し・懐柔等)」が・・・。
最近の韓国にいた脱北者の再入北は、昨年6月・11月に続きキム・グァンホが3度目です。
いずれも公開記者会見の場で北朝鮮のメディアを通じて韓国を非難しています。この記者会見についての詳細は、「朝鮮新報」(1月29日)の2つの記事(→コチラとコチラ)
の記事で知ることができます。(「統一新報」は朝鮮総聯系。) それによると、キムさん夫婦は、自分たちを南朝鮮に連れて行ったブローカーに契約金を払えなかったことが原因で裁判を起こされ、住まいを失ったうえ膨大な裁判費用まで支払うことになり、これ以上南朝鮮で生きてはいけないと痛感して北に戻ってきた、と話したそうです。
その記事の見出しに<「脱北者」の大多数は被害者 組織化された南の誘引策>とあるように、彼らを「裏切り者」「犯罪者」ではなく韓国による「被害者」としている点が北朝鮮としては「新機軸」です。
この記者会見の場で、キムさん夫婦とともに証言したコ・ギョンヒさんも「2011年6月に南朝鮮に連れて行かれたが、昨年末に共和国(北朝鮮)に帰ってきた」という女性。「完全に騙されて韓国に連れて行かれた」と証言しましたが、彼女もまた6月に再び脱北を試みたものの、<DailyNK>の記事によると、「コさんも脱出に成功した後、息子と娘を脱北させるために恵山市と真向かいの中国長白で通話を試みたが位置を追跡され、北朝鮮保衛部に逮捕された」とのことです。また「コさんは当局が準備した恵山市内の高級住宅を拒否し・・・恵山市で生活していた。その時から中国と連絡を取りながら脱北を準備していた」とも・・・。
この<DailyNK>の記事によると、北朝鮮保衛部が昨年から脱北者らの知人を通して北朝鮮へ戻らせるための懐柔工作を積極的に展開してきた、とのことです。すでに韓国国内に定着した脱北者に対し、「戻ってきても処罰を受けない」等の働きかけをしたり、一方では<アジアプレス>の伝えるように、やはり昨年6月に再入北後の記者会見を行ったパク・ジョンスク氏のように、「北朝鮮に戻ってこなければ(北朝鮮に残された)息子に害が及ぶ」と脅迫したり・・・。
※今韓国では、長年韓国で家庭を持ち生活する北朝鮮のスパイが主人公の金英夏の小説「光の帝国」(訳書あり)が刊行されたり、韓国で一般庶民として生活しながら任務を遂行する北朝鮮スパイを描いた漫画が原作の映画「隠密に偉大に」がヒットしたりしています。これらの背景に、実際にスパイや工作員が摘発されるといった現実がある、ということです。
※1月の北朝鮮での記者会見報道の後、関連の韓国・聯合通信の記事の中で、「コ氏は保衛部の情報員である可能性がある(!)との主張が提起されている」とあるのは、この頃の脱北者をめぐる複雑な状況を示しています。
②「再入北」問題のもう一つの側面は、韓国内での脱北者の困難な生活状況
先の聯合通信の記事によると、キムさん夫婦と親しい知人らは「同会見内容(ブローカーに契約金を払えなかった等々)について部分的には事実関係を認めたとのことです。それについては「東亜日報」に詳しい記事(韓国語)がありました。ブローカーに多額の金を支払うため、国から支給された定着金も少ししか残らないとか・・・。
彼らの場合に限らず、韓国で暮らす脱北者の困難な生活実態の例は映画「ムサン日記~白い犬」等々、枚挙に暇がないほどです。
「再入北」の事例は、あまり知られていませんが日本でも2例あります。
在日朝鮮人の夫とともに北朝鮮に渡り2003年に日本に帰国した日本人妻・平島筆子さん(→ウィキペディア)と、母親が日本人、父親が在日朝鮮人で日本国籍の石川一二三さんの2人で、いずれも北京の北朝鮮大使館で記者会見をしていて、「悪い人間にだまされ(日本に)誘拐された」「日本は氷のように冷たかった」等と発言しています。背後の「事情」はいろいろ考えられますが、「日本は氷のように冷たかった」というのは当たっているでしょう。(参考記事→コチラやコチラ。) 石川さんのケースの後、辺真一氏が「現在日本で暮らしている脱北者が北朝鮮に戻らないで済むような精神的、物理的ケアーを施すことです」とコメントしていますが、私ヌルボもこれには賛成で、同様のことは韓国についてもいえます。
一方、脱北者の側の問題も指摘されています。「支援金に頼って真面目に働かない」「平気で嘘をつく」「助けてあげても礼を言わない」等々。以前NHKの「クローズアップ現代」でもそのことを取り上げていたそうです。(参考→コチラやコチラ。)
勤勉に働くことが収入増や生活の向上に直結しない北朝鮮でのサボリの実態は本ブログの過去記事(→コチラ)
でも書きました。嘘についても、正直に本心を語ることが身の危険に直結する独裁国家に生まれ育った人間ならさもありなんと思います。もちろん、だから許されるというものではありません。それだけミゾは深く、新しい社会に定着することはむずかしいということです。
③国家間の問題以前に、個人の人権問題として捉えよう。
最初の方で「私のヌルボの関心は、南北朝鮮や中国という国家間のせめぎあいよりも、焦点となっているこの家族についてです」と記しました。
いろいろ上述したように、キム・グァンホさんたちのこれまでの足跡をたどってみると、とてもふつうの日本人(と言っていいのかな?)からは想像もつかない苦労の連続です。
生まれた国が北朝鮮であったばかりにこのような人生を歩まなければならない・・・というのは彼ら家族だけでなく約2千万(?)ほどの全人民についてもいえるわけですが、とくに彼らのような脱北者の場合は、まさに今の複雑な東アジアの国家間のせめぎあいの中で翻弄され、1つの外交カードとして利用されるという現状があります。
しかし少なくとも一市民としては、自国の得失を最初に考える「国益本位の思考」ではなく、冒頭で引用した「日本国憲法」の前文の文言のように、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」を最優先すべきだと思います。
また上記のように脱北の手引きが多くの場合ブローカーの儲け仕事になっているのも大きな問題だし、キリスト教団体がかなり関わっている点にも個人的には少し引っかかる点があります。もっと国際的に多くの人の関心を集めて、それが現実を変える大きな力になっていくことを願っているのですが・・・。
★現在、アムネスティ韓国支部では、キム・グァンホさんたちの北朝鮮強制送還を阻止するための呼びかけ(署名等)をしています。(→コチラ。)
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