愛する犬と暮らす

この子たちに出逢えてよかった。

孤独なムギ

2009-09-07 22:20:36 | 日記
☆なぜシェラがいちばんなのか
 「ムギちゃんは孤独な子なのよ。やさしくしてあげてね」
 女房から指摘されてぼくはようやく気がついた。
 
 家の中で、ムギがひとりひっそりとしていることがある。
 ふだんのムギは、彼女のお気に入りである観葉植物の大きな植木鉢の陰に寝そべっていたり、ぼくのベッドのカバーを剥ぎ、枕を出してそこへうずくまっていたり、あるいは、ベッドの脇にガムを溜め込んで、それを見張っていたりしている。
 そんなときは感じないのだが、シェラの近くにも寄らず、廊下に寝そべって所在なげに飼い主の様子をうかがっているムギの顔ににじんだ寂寥にハッとすることがある。
 
 声をかけてやってもおどおどした表情を見せるだけであまり反応しない。
 シェラとムギの二匹のわんこがいながら、ぼくたちの情愛がシェラに偏っているのは否めない。シェラが先住犬だというだけの理由ではない。ムギがシェラほどに飼い主のぼくたちに心を開かないできたからである。

☆ボスよりも頼りになるのは…
 わが家にムがきたとき、すでにシェラがいた。ムギにとってシェラは母犬だった。
 ムギがわが家になじんだころ、寝そべっているシェラの尻尾にそっとムギが寄り添った。シェラは拒否せず、やりたいようにやらせてやっていた。以来、またたくまにムギはシェラに張りついて寝るようになった。
 
 もうシェラしか眼中になかった。ぼくはたしかに群れのボスであり、女房は餌をくれる存在ではあったが、母親はシェラだった。シェラもまたムギにこたえて母親の役目を果たしてきた。
 ムギにちょっかいをかけるよその犬がいると、弱いくせに割って入り、文字どおり体を張ってムギを守った。

 「かわいい」といってムギを撫でに寄ってくる人間がいると全身で警戒した。ムギが少しでもおびえた素振りを見せると即座にその人間に吠えついた。
 いずれのときもぼくは傍観しているだけである。ムギにとって自分を守ってくれるのは群れのボスではなく、シェラだった。10年間ずっと……。

☆シェラの老いを感じて
 自分の保護者たるシェラに老いが忍び寄っている。母親が弱っているのをムギも感じているのだろう。
 お気に入りのガムを守るために、ときとして、シェラを威嚇することがある。シェラの衰えを読み取っているとしか思えない豹変ぶりだ。
 
 いま、ムギは10歳にして自立を強いられた。つまり、シェラから独立しなくてはならないと本能で悟ったのだろう。
 ムギを待っていたのは「孤独」だった。
 いまさら飼い主とコミュニケーションをはかるすべもなく、孤独な心を抱いてひとりでうずくまるしかないのである。ムギの孤独を少しでも和らげてやるには、こちらからムギに歩み寄ってやるしかない。
  
 「ムギ、一緒に寝ような」
 涼しい陽気を迎えたのをこれ幸いと、ぼくはムギを抱いて寝る。「迷惑だ」と逆らう勇気もなく、孤独なムギはぼくが寝つくまで、その腕に抱かれたままじっとしている。

        
           ねえ、ママ、寝てばかりいないで遊ぼうよ


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