体を効率良く使う運動の原理には幾つかありますが、今回はハエ叩きの原理を紹介します。スポーツとしての応用が効く原理として、運動の大前提、鞭の原理、ハンマーの原理、に続く大切な原理です。
運動の大前提とは
「筋肉が何か仕事しようとする時は、一度力を抜いてからでなくては次の動作に移れない」
守備陣がサーブやフェイントに一歩も動けないようなときは、体に力が入っていて、一度緩めなくては反応できない理屈から、必然的に反応が遅れるのです。守備の構えの時は力が抜けていなくてはならない理屈。強打に備えて力を入れるのは、反応が遅れる墓穴を掘る行為です。
鞭の原理のおさらい
「鞭の原理とは、腰・胸・肩・肘・手首の順番で力を伝達することで、先端スピードがアップする原理。鞭では先端がマッハ(音速)を超える。そのためには、力が加わる前には余計な力が抜けていなくてはならない」
ハンマーの原理のおさらい
「ハンマーが釘を打つ力は、ハンマーの先端スピードとハンマーの質量だけで決まる。だから、ハンマーが釘を打つ瞬間までは力が抜けていなくてはスピードが上がらない。力を入れるのは釘を叩く瞬間だけで良い。空手の正拳突きで、打つ瞬間だけ拳を握るのはそのため」
すっかり衛生的になった日本ではハエ叩きが珍しい物になってしまいましたが、実は、ハエ叩きには高度なテクニックが要求されるのです→昭和のハエ叩き。テク肉ではありませんので念のため (;^ω^)
ハエを叩くのは難しいことではありませんが、潰さないように叩くのはけっこう大変なのです。潰すと内蔵や血が飛び出て汚いし、その処理にも困る。だから、達人レベルになるとハエは気絶させる程度で叩きます。
潰さないで気絶させるのが大変なのは、弱く叩くとスピードが落ちてハエに逃げられてしまうから。ハエ叩きは、ハエが逃げられないスピードを保持したまま、しかも軽く叩かなくてはならない。この相反する運動が可能なのは、ハエ叩きの原理を知っている者だけなのです。
バレーボールで、ネット際に浮いたボールを叩くことがよくあります。しかし、真下に打てばいいのに、なぜかエンドラインをオーバーするシーンが多い。なぜか?それは、アタッカーが力んでしまって、肩や肘や手首が硬くなっているからです。硬くなっているから、ボールを下に叩くことができない。
また、手首が硬いままボールを下に叩こうとすると、叩いた手がネットも叩いてタッチネットを取られてしまう。特に力任せの選手ほどボールを叩いたあとのタッチネットが多くなる。ボールがエンドラインを超える、タッチネットする、オーバーネットするなどの特効薬がハエ叩きの原理なのです。
ハエ叩きの原理とは、叩く前にハエ取りラケットを瞬間的に引き戻す。ラケットの頭部(網の部分)は惰性でハエを叩くことに成功する。この時に、ラケットの頭部は極短時間しかハエに接触しないのでハエは潰れない。
ハエ叩きの原理 上の図は、鞭の原理で網の先端スピードが極限まで上がっている
この瞬間的に引き戻すという運動ですが、プロ野球の豪速球投手でしばしば見られる、踏み出した足の支(つっか)え棒と一緒なのです。糸に錘のついた振り子をそのまま振幅させれば、一定のリズムで往復して最下端での最大速度も同じです。ところが、糸の途中に障害物を置くと、障害物から先の糸と錘は急にスピードが上がります。この障害物が、豪速球投手の踏み出した足の支え棒と同じで、投手の腕を振る速度がアップするのです。
振り子の途中にストッパーを置くとスピードがアップする
上下逆に見て、支点が肘、ストッパーが手首の関節、錘が掌として見ると、手首から先だけを使うアタックの原理となる
同様に、バレーボールでもネット際でボールを叩くとき、手首を瞬間的に戻すことで、手首から先の、ボールを叩く手のスピードがアップするのです。特にオーバーネットを取られない叩き方として実戦でもよく見られます。
ところが、力んだ選手は強く叩こうとして手首が硬くなっている。だから瞬間的に手首を戻すことが出来ない。挙句の果てには、やらなくてもよいオーバーネットやタッチネットまで犯してしまう。手首の力を抜くことが出来るか否かは、ネット際の攻防で天国か地獄かの分かれ道になっているのです。
1秒間に何回、手首から先の手を振ることが出来るか?僕は7回くらいです。手首は左右にも上下にも動きますが、テストするのはバレーボールのハエたたきと同じ上下です。僕より極端に回数の少ない人は、手首に無駄に力が入っている人です。もっとも、プロ野球の投手でもリストだけで投げられない不器用がいるので、そのような人には難しい運動なのかもしれませんが。
ハエ叩きの原理は、剣道の大上段からの面と同じです。「オメーン」と叫びながら打った瞬間に竹刀を引き戻すと、竹刀先端が逆反りになって相手の頭部を叩く。「唐竹割り」とか「真っ向斬り」と呼ばれる、下まで竹刀を引き下ろす技とは違うのです。面は打つスピードの勝負だから、相手に当たるか当たらないかの段階で瞬間的に引き戻す→参考サイトの参考写真(竹刀先端が見事に逆反り)。
剣道は小指で握ると言われますが、実は、バレーボールや野球の変化球は小指を立てた方が良いのです(手首を固定して打つサーブは除く)。お茶を飲む時に小指を立てると、気取っていると嫌な顔をされますが、スポーツでは、小指を立てることで手首の余計な力が抜けて手首が柔らかくなるメリットがあるのです。僕の軟式野球の魔球も小指を立ててボールを握りました。そして、立てた小指から捻るとボールが大きく曲がる。
センタープレーヤーがダイレクトで打つとオーバーする光景をしばし目にします。これも、手首が硬い(無駄に力が入っている)から起こる現象で、ボールを打つ瞬間まで力を抜くことを覚えると、このようなもったいないはなくなるはずです。
13日のデンソーと久光の試合で、レフトの新鍋選手に好きなように翻弄されたデンソーの守備陣。おそらく、新鍋選手は打つ瞬間まで力が抜けているので、相手ブロックの出方を見て、強打か軟打か、インに打つかストレートに打つかの、一瞬の判断ができるのだと思います。東レの迫田選手のように力任せに打つタイプのアタッカーほどドシャが多い。無駄な力が入っているから打つコースが限られて相手に読まれるからです。デンソーは良い勉強になりましたね。
アタックの時に力を入れるのは、ボールを叩く瞬間だけ(ハンマーの原理)。それ以外は、腕や手首や手先はブラブラと力が抜けているのが理想(鞭の原理)。これが出来る人は、力の効率が良いのだからスタミナ切れしなくなります。ジャンプ力は別として。
エフライム工房 平御幸
運動の大前提とは
「筋肉が何か仕事しようとする時は、一度力を抜いてからでなくては次の動作に移れない」
守備陣がサーブやフェイントに一歩も動けないようなときは、体に力が入っていて、一度緩めなくては反応できない理屈から、必然的に反応が遅れるのです。守備の構えの時は力が抜けていなくてはならない理屈。強打に備えて力を入れるのは、反応が遅れる墓穴を掘る行為です。
鞭の原理のおさらい
「鞭の原理とは、腰・胸・肩・肘・手首の順番で力を伝達することで、先端スピードがアップする原理。鞭では先端がマッハ(音速)を超える。そのためには、力が加わる前には余計な力が抜けていなくてはならない」
ハンマーの原理のおさらい
「ハンマーが釘を打つ力は、ハンマーの先端スピードとハンマーの質量だけで決まる。だから、ハンマーが釘を打つ瞬間までは力が抜けていなくてはスピードが上がらない。力を入れるのは釘を叩く瞬間だけで良い。空手の正拳突きで、打つ瞬間だけ拳を握るのはそのため」
すっかり衛生的になった日本ではハエ叩きが珍しい物になってしまいましたが、実は、ハエ叩きには高度なテクニックが要求されるのです→昭和のハエ叩き。テク肉ではありませんので念のため (;^ω^)
ハエを叩くのは難しいことではありませんが、潰さないように叩くのはけっこう大変なのです。潰すと内蔵や血が飛び出て汚いし、その処理にも困る。だから、達人レベルになるとハエは気絶させる程度で叩きます。
潰さないで気絶させるのが大変なのは、弱く叩くとスピードが落ちてハエに逃げられてしまうから。ハエ叩きは、ハエが逃げられないスピードを保持したまま、しかも軽く叩かなくてはならない。この相反する運動が可能なのは、ハエ叩きの原理を知っている者だけなのです。
バレーボールで、ネット際に浮いたボールを叩くことがよくあります。しかし、真下に打てばいいのに、なぜかエンドラインをオーバーするシーンが多い。なぜか?それは、アタッカーが力んでしまって、肩や肘や手首が硬くなっているからです。硬くなっているから、ボールを下に叩くことができない。
また、手首が硬いままボールを下に叩こうとすると、叩いた手がネットも叩いてタッチネットを取られてしまう。特に力任せの選手ほどボールを叩いたあとのタッチネットが多くなる。ボールがエンドラインを超える、タッチネットする、オーバーネットするなどの特効薬がハエ叩きの原理なのです。
ハエ叩きの原理とは、叩く前にハエ取りラケットを瞬間的に引き戻す。ラケットの頭部(網の部分)は惰性でハエを叩くことに成功する。この時に、ラケットの頭部は極短時間しかハエに接触しないのでハエは潰れない。
ハエ叩きの原理 上の図は、鞭の原理で網の先端スピードが極限まで上がっている
この瞬間的に引き戻すという運動ですが、プロ野球の豪速球投手でしばしば見られる、踏み出した足の支(つっか)え棒と一緒なのです。糸に錘のついた振り子をそのまま振幅させれば、一定のリズムで往復して最下端での最大速度も同じです。ところが、糸の途中に障害物を置くと、障害物から先の糸と錘は急にスピードが上がります。この障害物が、豪速球投手の踏み出した足の支え棒と同じで、投手の腕を振る速度がアップするのです。
振り子の途中にストッパーを置くとスピードがアップする
上下逆に見て、支点が肘、ストッパーが手首の関節、錘が掌として見ると、手首から先だけを使うアタックの原理となる
同様に、バレーボールでもネット際でボールを叩くとき、手首を瞬間的に戻すことで、手首から先の、ボールを叩く手のスピードがアップするのです。特にオーバーネットを取られない叩き方として実戦でもよく見られます。
ところが、力んだ選手は強く叩こうとして手首が硬くなっている。だから瞬間的に手首を戻すことが出来ない。挙句の果てには、やらなくてもよいオーバーネットやタッチネットまで犯してしまう。手首の力を抜くことが出来るか否かは、ネット際の攻防で天国か地獄かの分かれ道になっているのです。
1秒間に何回、手首から先の手を振ることが出来るか?僕は7回くらいです。手首は左右にも上下にも動きますが、テストするのはバレーボールのハエたたきと同じ上下です。僕より極端に回数の少ない人は、手首に無駄に力が入っている人です。もっとも、プロ野球の投手でもリストだけで投げられない不器用がいるので、そのような人には難しい運動なのかもしれませんが。
ハエ叩きの原理は、剣道の大上段からの面と同じです。「オメーン」と叫びながら打った瞬間に竹刀を引き戻すと、竹刀先端が逆反りになって相手の頭部を叩く。「唐竹割り」とか「真っ向斬り」と呼ばれる、下まで竹刀を引き下ろす技とは違うのです。面は打つスピードの勝負だから、相手に当たるか当たらないかの段階で瞬間的に引き戻す→参考サイトの参考写真(竹刀先端が見事に逆反り)。
剣道は小指で握ると言われますが、実は、バレーボールや野球の変化球は小指を立てた方が良いのです(手首を固定して打つサーブは除く)。お茶を飲む時に小指を立てると、気取っていると嫌な顔をされますが、スポーツでは、小指を立てることで手首の余計な力が抜けて手首が柔らかくなるメリットがあるのです。僕の軟式野球の魔球も小指を立ててボールを握りました。そして、立てた小指から捻るとボールが大きく曲がる。
センタープレーヤーがダイレクトで打つとオーバーする光景をしばし目にします。これも、手首が硬い(無駄に力が入っている)から起こる現象で、ボールを打つ瞬間まで力を抜くことを覚えると、このようなもったいないはなくなるはずです。
13日のデンソーと久光の試合で、レフトの新鍋選手に好きなように翻弄されたデンソーの守備陣。おそらく、新鍋選手は打つ瞬間まで力が抜けているので、相手ブロックの出方を見て、強打か軟打か、インに打つかストレートに打つかの、一瞬の判断ができるのだと思います。東レの迫田選手のように力任せに打つタイプのアタッカーほどドシャが多い。無駄な力が入っているから打つコースが限られて相手に読まれるからです。デンソーは良い勉強になりましたね。
アタックの時に力を入れるのは、ボールを叩く瞬間だけ(ハンマーの原理)。それ以外は、腕や手首や手先はブラブラと力が抜けているのが理想(鞭の原理)。これが出来る人は、力の効率が良いのだからスタミナ切れしなくなります。ジャンプ力は別として。
エフライム工房 平御幸