歴程日誌 ー創造的無と統合的経験ー

Process Diary
Creative Nothingness & Integrative Experience

コッサール神父についてー「北條民雄集」編集覚え書き

2021-12-04 |  文学 Literature
岩波文庫から来春出版予定の「北條民雄集」の編集・解説の準備作業をしているうちに北條民雄と東條耿一が全生病院に入院していた当時、ふたりと交友のあったパリ宣教会司祭コッサール神父(Cossar, Yves 1905-1946)について調べました。幸い、1956年の愛德会発行の「いずみ」第24号コッサール師十周年追悼記念号に神父の写真と患者達一人一人に書かれた自筆のカードが掲載されていたので、ここに転載します。
 
 コッサール神父の自筆カードより(写真版)
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天主 とは永生を望む 靈魂
 救主イエズス・キリストの 御示
神ー聖父・聖子・聖靈ー三位一体
十字架の苦に依りて聖寵を與へ給ふこと
 
教會の教へるがまゝに信じ奉る
洗禮に依りて 神の子となり 愛を以つて
身を捧げ奉らむ
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 神よ  御身を讃美し奉る
 神よ  御恵を感謝し奉る
 御主よ 我等を憐み給へ
 我神よ 我靈魂を愈々照し強め給へ
 萬物の創造主よ 凡ての人を照し導
 き給はんことを
 キリストの御母聖マリアよ
      我等の為に祈り給へ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カンドウ神父の指示に従って、コッサール師は結核療養所とともに多磨全生病院に来院したことが当時の「山桜」の記録にありますが、単なる慰問者が決して行かない重病棟に赴いて、重症患者に聖体と赦しの秘蹟を授けました。戦後に発行された愛德會発行の「いずみ」を読むと、往事を知る信徒たちの記憶の中に鮮明に残っていたことがわかります。
 
コッサール神父は第二次世界大戦中は敵国フランス人であったために常に警察の監視を受け非常に困難な生活を余儀なくされましたが、昭和19年に万葉集の古歌を引用して次のような説教をしています。
 
ーーーーコッサール師の説教〔昭和19年)ーーーーーーー
「君がゆく道の長手を繰りたたね 焼き亡ぼさむ天の火もがも」
 
これは万葉集にある歌で、中臣の宅守が罪の為流刑に処せられて越前におくられたときに狭野茅上娘子が歌ったもので、
「御身がはるばると流されて行く道の長い行手を繰り寄せ畳んで、ひとまとめにして焼き亡ぼして仕舞う天の火もあれかし」
との意である。これを読みつつ、私は皆さんのことを思う。時に触れ折に触れ、貴方かたは行く手を忍びあるいは暗さを感じつつ同じ気持ちとなられたのではなかろうかと。
 この気持ちは決して無理からぬ事で、聖主イエズスも、御受難の道を想像し給い、「我が父よ、爾は全能なれば能うべくんば、この道を我より遠ざけ給え。されど我が意のままならず、爾の望み給うままになし給え」と仰せられた。
 聖会は、聖主イエズスの御為に苦しみの十字架の道をたたんで焼かず、却ってその道をひろげて、各留に足を止めさせて深くこれを黙想させる。
 それはこの道が私たちの為に非常にありがたい道で、この道の苦しみによって人々がもう一度相互に一致して、神と一となることができるからである。
 私たちもこの意味において各々の苦しみを捧げて、人類統一の積極的な協力者となろうではないか。そして宅守がその追放地に向かってこのような失望の歌のもととなったのに対して、私たち信仰あるものは父たる神に向かって進みつつ、その苦しみ、淋しさ、惨めさのうちにも、常に感謝と喜びの歌を聞かせようではないか。
  十字架の道においてキリストに会い給える聖母マリアよ
  我等の病床生活の良き友たり給え
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
「いずみ」24号に掲載された松風誠人の追悼記事によると、
「私にして若し純粋状態における純粋美の感覚を自らに与える藝術をあげねばならぬぬとすれば、私は躊躇することなく、それは日本の藝術であるというであろう」
というデュ・ボスの言葉を引用しつつ、日本の藝術を愛したコッサール師は、「高く悟りて俗に帰るべし」という芭蕉の言葉を生活方針とされ、謡曲「隅田川」、万葉集短歌の一部仏訳などを試みられ、また日仏会館で芭蕉について講演もされたとのことである。(モニュメンタ・ニッポニカ昭和26年参照)
 
日本人の心の源流である万葉集の古歌をひきつつも、その心の大地に福音を伝道するコッサール師の言葉は、厳しく暗い状況の中で、病苦にあえぐ人々に説かれた「キリストの道行」の黙想の祈りでもありました。
 
 
 

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