=118 ~木の因数分解~(家具工房つなぎブログ)

南房総でサクラの家具を作っています。ショールーム&カフェに遊びにおいでください。

あこがれの彫物師

2009年02月06日 | 【インタビュー】木の先人方
「六軒町の彫物がある~!」

六軒町とは地元でも有名な山車のひとつで、その囃子台の上で大きく羽を広げた鳳凰は全国でも珍しいと言われています。その山車の彫物の一部があるんです。すぐそこに。
ここは稲垣木彫刻所。私が館山の電話帳でたまたま見つけて訪問させて頂きました。

当主の稲垣さんは、地元で有名な彫物師の後藤家で修行し、現在は神社仏閣の彫物や山車の彫物の修理をしていらっしゃいます。
木彫には私も大変興味があり、実を言うと家具作りと迷ってしまうくらいの魅力があるのです、なんといっても私が木を使う仕事を選んだ原体験は、小学校の時の図工技術で扱った彫刻刀のあの「グリッ」ていう木を抉るときのえもいわれぬ感触だからです。
さらに地元の祭りで引き回される山車好きですから、こんな木彫の現場に足を踏み入れさせてもらえるなんて感動ものです。
しかも、目の前には六軒町の彫物、正確には昔稲垣さんが修理をされた以前の六軒町の鳳凰の横の羽の部分ですが、金色に塗られその何重にも流れる羽の動きは私も見覚えがあります。それがこんな間近で見られるとは!

話をさせて頂いてわりとすぐに結構ダメージのあるお言葉を頂いた。

「彫物師もなんでもそうだけど、やっぱり才能が大事じゃない」

彫物の下絵も自身で描く彫物師にとっては絵の能力も必要で、これはやっぱり小さな頃から絵を描くのがうまい奴はうまいし下手な奴は下手。
もちろんそれだけではないですが、けっしてこの才能の部分は小さくはないというお話です。
絵心についてはノーコメントの私としては少々ショックでした。

ですが、稲垣さんからは職人としてもっと大切なことをいろいろとお話いただきました。

ひとつは勉強すること。
当たり前ですが何事も勉強を怠らないことが大事。
「武士が彫られた山車が作られた時代は江戸末期や明治、ちょんまげに刀をぶら下げた侍を実際に見て育った人達と背広を着ている現代の彫物師では環境が違う。」
それを様々な文献や資料を頼りに調べることも必要だし、いろいろな本を読むことも大事だそうです。
美術集などはものによっては一万円くらいもする高価なものもありますが、
「一冊本を読んで何かひとつでもためになることがあればいいじゃない。そんなもんだよ」
というお話も頂きました。

そして究極的にはものづくりは、「いつ刀を置くか」が常に悩みどころ。
だそうです。
完璧と思ってしまったら職人終わりというならば、完璧にいいものを作るということが不可能だとしたら、いったいどこでその手を止めるのか。とても深い問題です。
現存する地元の山車のほとんどを手がけたと言ってもいい明治末期から大正にかけて活躍した「後藤利兵衛橘義信」という地元の名工がいらっしゃいます。
彼の甥で一緒に製作もした義房さんが言っておられたそうです。
「義信さんは常に『こんなんじゃ笑われちまう』と言っていた」と。
稲垣さんから見ても手間隙をかけすぎるくらいかけている作品にはそんな言葉を十分感じさせる力があるようです。
しかし一方でその手間は家計に影響を与えていた部分もあったようです。


昔船井総研の小山社長がおっしゃいました。「

人間は二度死ぬ」と。

ひとつは本人の寿命による死。
もうひとつが本人に伴う記憶がなくなることだと言います。
自分の奥さんや子供も亡くなり、自分のことを話す人や記憶を持っている人が誰もいなくなったとき二度目の死を迎えるそうです。
未来のことを考えたり名を残すということを目的にがんばっている芸術家は少ないとは思いますが、作品を残されてから100年近くが経とうとしている現在でも橘義信さんのお名前は光り輝いています。

名前を残る残らないは別として、今を精一杯生きたからこそ名前が残り、今がいい加減で未来にだけ名前が残るということはありえません。
さすればいずれにしても私達がやるべきことは自ずとわかってくるというものです。

稲垣さん、ありがとうございました。
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木工家には見守る奥さん

2009年02月03日 | 【インタビュー】木の先人方
今日は家から徒歩10分にある外山家具さんを訪問させて頂きました。

外山家具さんの外山さんは、学校卒業と同時に修行を始め、10年の修行の後独立をされました。主には、住宅の設計士からの依頼で、フラッシュを主体にしたオーダーメイド家具を設置していらっしゃいます。
その他住宅以外にも店舗や病院などの棚を製作されることも多いようです。

開業当初は、今の作業場の1/3程度の狭い作業場からスタートし、順々に機械設備を拡充させて現在の広さの作業場になったそうです。
設備投資の総額は1000万円くらい。
「おぉ、1000万円の資本投入はちとつらい」と僕も思いましたが、最近は高齢になり廃業される業者さんもいらっしゃるので、そうした設備を安く譲ってもらえれば、15%くらいまで投入資金は圧縮できるかもしれないとのこと。
でも機械は上を見たらキリがないようで、次から次へいい機械、性能のよいものが欲しいという欲求は起きるが、昔の機械でもしっかり使えるようです。
私も自分自身、篠笛を習っていてそんなにうまくない時分から、高い笛が欲しくなってしまった経験がありますが、まずそんないいものを買っても使いこなすことができないことは、この人生で重々わかっているつもりです。

最近は不景気の影響もあり、お客様からのコストダウンの要望も高まっているようで、「時間をかければいいものを作ることができる」と外山さんもおっしゃっています。
しかし、限られたコストと納期の中で、一定以上の質のものを作っていくことがプロ。
そのためには、機械を使って効率的に作業を行う必要もあるし、業務のエリアも限られるし(お声がかかればどこでも行きたいが、自分の利益を考えると関東近辺、山梨くらいまでが実際の営業エリアのようです)、「自分のイメージとは違うものを作らなければならないこともあり、いろいろ大変です。これはどんな業界、仕事をしていてもきっと同じですね。でも、プロに求められる「スピード」というのは欠かせないものだと思うので、今後の仕事の中でも強く意識していきたいと思います。

「楽しいと思えれば仕事は続けられるし、それには不器用なほうがいいかもしれない」
外山さんの修行時代の仲間も数多くいたが、結局独立を果たしのはご自身だけだったようです。
外山さんいわく「仲間の中で私が一番不器用でしたが・・・・。でもやっぱり好きなんですね。だんだんと形になってくるのが楽しい。」控えめながらもそう話される外山さんの言葉に私はなぜか励まされる感じがしました。そして、そのご主人の隣で、「そうねえ、あなた楽しそうにしてるわね」とおっしゃる奥様の見守っている姿がとても印象的でした。

外山さん、お忙しい中本当にありがとうございました。
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「材木屋さんは空気も買っている」

2009年01月30日 | 【インタビュー】木の先人方

私の家から徒歩5分ほどのところに材木屋さんがある。この前散歩でお店の前を歩いたら店頭にテーブルの天板に使える銘木が立てかけられていたので、今日はそれを本格的に見学させてもらいに行きました。

天板の板などの商品だけでなく、今までは知りませんでしたが事務所の裏にも広い敷地があって大きな丸太がゴロゴロ。意識して見たのは初めての丸太に思わず感動してしまいました。


「でけえな」

その後、事前に予備知識だけでもと読んでいた「貸出審査事典」の該当ページにおける疑問を社長の忍足さんにご質問させて頂けるお時間を少し頂きました。

基本的なことで本当に申し訳なかったのですが、
「造作材」・・・(ぞうさく)と読むようで、窓枠などに使用する材のこと
「羽柄材」・・・家の中でも見えないところの構造に使われる材のこと

等を教えていただいたり、人口乾燥材の割合が年々増加してきていることについて、法律が変わり、柱などには
人口乾燥を経た材を使用することになってきている現状を教えて頂きました。ただし人の手で急速に乾燥させてしまう方法は木の呼吸機能を奪ってしまうことになる疑問についてもあわせて教えて頂きました。

中でも私がびっくりしたのは、材木屋さんの丸太を買う際のサイズの計算方法です。
一般人が考える計算方法は、丸太であれば「半径×半径×π」で丸太の断面の面積を出して、そこに長さを掛ける計算が思い浮かびますが、実際は「直径×直径×長さ」なんですって。
つまりつまり丸太材の直径を一辺とした正方形の材を購入しているような計算になるんです。
仮に直径を10センチとすると、その丸太から製材できるのは実際は7センチ四方くらいの大きさになり、体積にするとおよそ半分になってしまう計算になります。
つまり、「材木屋は空気も買っている」ということになるんです。

「なるほどねー」
私が実際に丸太を買うなんてことは、この先あまりないとは思いますが、こんな知識でも知っておいて損はありません。

忍足社長、本当にありがとうございました。


追伸:
ちなみにこの地域の山車、屋台の材は欅が多いそうです。
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