自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆若者の地方移住は「デジタル田園都市構想」のチャンス

2022年01月29日 | ⇒トレンド探査

   総務省がきのう28日発表した「住民基本台帳人口移動報告」の報道資料を読むと、東京23区では、2021年の年間の転出者は38万2人、転入者は36万5174人で、初めて転出が転入を上回った。メディア各社は、東京一極集中の流れに変調などと報じているが、若者を中心に大都会から農山漁村への移住はこの時代のトレンドだと読んだ。そして、少々突飛かもしれないが、「デジタル田園都市構想」にチャンスが訪れたのはないか。

   現在のこのトレンドは、新型コロナウイルスの感染拡大で、テレワークという働き方の概念が急速に普及して、生活を地方に移す社員が増えたことが影響している。さらに、副業を認める会社では、社員が地方でやってみたいことにチャレンジするという副業型移住も増えている。

   身近な事例で言えば、能登半島へも「田舎暮らし」を求めて大都会からさまざまな感性や技能を持った若者たちがやって来ている。その顔ぶれは東京など大都会などからのIT企業の社員が多い。最近では企業そのものが本社機能を一部移転するカタチでやって来る。なぜ移住者の顔が見えるのかというと、2007年に金沢大学は社会人の人材育成事業「能登里山里海マイスター養成プログラム」を始め、自身も関わった。あれから15年、修了生は203人に及んでいる。15年間、移住の若者たちと接して、今回のコロナ禍における都会からの田舎暮らしのトレンドは第2波のように思える。

   その第1波は2011年の東日本大震災の後だった。それまで地元の若者が多かったこのマイスタープログラムに首都圏からの移住者が目立つようになった。そのときもITエンジニアやITデザイナーなどの技能を有する人たちだった。面接で彼らに移住の動機を尋ねると、「パーマカルチャー」という言葉が返ってきた。パーマカルチャー(パーマネント・アグリカルチャー、持続型農業)は農業を志す都会の若者たちの間で共通認識となっている言葉だった。天変地異が起きたとき、人はどう生きるか、それは食の確保だ。それを彼らは「農ある生活」ともよく言う。

   冒頭の「デジタル田園都市構想」は政府が目指している政策だ。「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる『デジタル田園都市国家構想』の実現」(内閣官房公式ホ-ムページ)だ。震災やコロナ禍で実際に田舎暮らしをしているITエンジニアやITデザイナーには「田園都市」という地方の実情がよく見えている。どう世界とつながる「デジタル田園都市」に変革すべきかという構想や提案を描いている人もいるはずだ。こうした若者たちに地方からのデジタル実装を託すビッグチャンスが到来しているのではないだろうか。

⇒29日(土)夜・金沢の天気       くもり時々あめ

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☆「金継ぎ」「kintsugi」に読む世界の潮流

2022年01月25日 | ⇒トレンド探査

    器のひび割れを漆と金粉を使って器として再生する金継ぎのことを今月23日付のブログで書いた。能登半島の珠洲市にある「スズ・シアター・ミュージアム『光の方舟』」で展示してあった松の木とツルとカメの絵が描かれた大皿だった。東京パラリンピックの閉会式でのアンドリュー・パーソンズ会長の言葉「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」が日本人の心にも響いて、金継ぎという言葉が世界でもトレンドになったと述べた。

   このブログを読んでくれた知人女性が「金継ぎの茶碗を持ってます」と写真添付のメールを送ってくれた。写真は、紅葉の絵の抹茶碗に細かく金継ぎが施されている=写真=。メールによりと、若いころ茶道を習っていて、茶碗をうっかり落としてしまった。茶道の先生からいただいた思い出のある茶碗だったので修復を依頼したそうだ。そして、メールには「パーソンズ会長の発言以前から世界ではkintsugiがトレンドになっています」と、Forbes JAPANのWeb記事「ビジネスマインドとしても注目 なぜ今、世界はキンツギに魅了されるのか」(2021年12月12日付)を紹介してくれた。記事を読むと、欧米人がkintsugiをどのように考察しているのか丁寧に書かれてあった。以下記事をかいつまんで紹介する。

   Googleトレンドによると、「kintsugi」の検索数は2012年頃から徐々に増え続けいるが、2015年に飛び抜けて検索数が増加した。アメリカの人気インディーロックバンドDeath Cab for Cutieが楽曲アルバム「Kintsugi」を発売した頃に重なる。前年に1人の重要なメンバーが離脱してから初めてのアルバムとなったが、過去を受け止め、自己を修復し、この先も活動していく意思を示したものとなった。楽曲についての賛否は様々だったようだが、金継ぎという哲学について世界の多くの人が知るきっかけとなった。

   2017年にはハイエンドファッションブランドのヴィクター&ロルフが金継ぎをテーマにした春夏のクチュールを発表。2019年後半にはGoogleトレンドの注目度が加速する。これは同年12月に公開された映画『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』によるものとみられる。本編の中で印象的なのは、メインキャラクターのひとり、カイロ・レンの壊れたマスクが修復され、再び登場するシーン。前作で本人によって破壊されたこのマスクだが、傷を隠したりなかったことにするのではなく、傷跡やヒビが赤いラインで縁取られている。これは過去の物語を受け止め、自分の一部として受け入れ、前に進むための象徴として描かれており、日本の金継ぎにインスピレーションを受けたものだという。

   2020年には玩具メーカーLEGO社がグローバルマーケティングキャンペーン「Rebuild the World」の中で、金継ぎをテーマにした「レゴツギ」キャンペーンを展開。壊れたものを直す楽しさと創造性を、金継ぎの考え方とともに世界に向けて発信した。

   ではなぜ、欧州やアメリカを中心に世界はkintsugiに注目しているのか。その理由の一つとして、サステナビリティとサーキュラーエコノミーを各国が推し進めていることが背景にある。サーキュラーエコノミーとは資源や製品が高い価値を保ったまま循環し続ける社会経済だ。このサーキュラーエコノミー実現において、製品をできるだけ長く使い続けることは特に重要視されており、修繕はその要となる。金継ぎは、一度は壊れてしまった製品をただ巻き戻して壊れていない状態にするだけではなく、美しいアートを施し、歴史というストーリーとともに芸術的価値をともなった製品に仕立て上げる。その発想がサーキュラーエコノミーと符丁が合う。

   以上、Forbes JAPANの記事で感化されたことは、金継ぎの発想はサーキュラーエコノミーに代表されるように世界の潮流になりつつあるということだ。ひょっとしてSDGsの「18の目標」として追加されるのでは。

⇒25日(火)午後・金沢の天気    くもり

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★小銭はどこへ行く「さい銭箱」と「coinstar」の話

2022年01月09日 | ⇒トレンド探査

   先日、石川県白山市の白山比咩(しらやまひめ)神社での初詣=写真・上=でたまたま見た光景だ。家族連れの参拝者の男性が小さなビニール袋をハンドバックから取り出し、さい銭箱に投げ入れた。ゴトッという重量感のある音がしたので、相当の小銭の入った袋だったのだろう。また、グループで参拝していた女性は大きめ財布から小銭を手で掴むようにして投げ入れていた。こんなことを言うと罰が当たるかもしれないが、まるで小銭を厄介払いしているようにも見えた。

   キャッシュレス決済の時代、買い物をカードで済ませるのが普通となってきたが、それでも小銭は財布に溜まる。現金のみ扱う商店はまだまだ多い。スーパーなど量販店でも取り扱っていないキャッシュレスカードは使えない。本来ならば財布の硬貨を数えて出せばよいのだが、時間がかかる。スーパーのジレの後ろに列ができている場合などはつい急いで紙幣を出してしまう。すると、どっさり釣銭が戻って来る。飲み物の自販機では硬貨の10円、50円、100円、500円、紙幣は扱っているが、1円と5円は使えない。 

   さらに小銭を厄介もの扱いにする風潮を煽っているのが銀行の手数料だ。年賀状を買いに行った近くの郵便局で、「硬貨取扱料金」を新設するとのチラシを手にした。ゆうちょ銀行は窓口で大量の硬貨を預け入れる時、これまでは無料だったが今月17日からは有料になる。チラシによると、50枚までは引き続き無料だが、51枚から100枚には550円がかかる。ということは、1円が100枚で550円の手数料だ。101枚から500枚は825円、501枚から千枚は1100円となる。そして、ゆうちょ銀行のATMでは、硬貨1枚から25枚の預け入れで110円を求められる「ATM 硬貨預払料金」が新設される、とある。

   硬貨はこのまま「悪銭」と化するのか、と初詣のときから小銭問題が頭から離れなかった。これもたまたまだが、コインを取り扱う「自動硬貨計数機」という自販機と出会った。きのう8日、金沢市内にあるスーパーに立ち寄った。入院している親戚への新年のあいさつとお見舞いの帰りに立ち寄り、このスーパーに入るのは初めてだった。レジの近くの自販機に「coinstar」と書かれ、「たまった硬貨を手軽に換金できます!」とある=写真・下=。近づいてよく見ると、「投入金額の9.9%が手数料としてかかります」と貼り紙がしてある。これを見た瞬間、「手数料が枚数ではなく、投入金額の9.9%だったら、ゆうちょ銀行よりお得かもしれない」と思った。1円を千枚入れても、手数料は99円だ。10円が千枚の場合でも990円。ゆうちょ銀行は1100円かかる。

   財布の小銭を試しに入れてみた。1円、5円、10円、50円、100円をバサーッと自販機のトレイに入れ、レバーを上げると硬貨が吸い込まれていく。すると、硬貨枚数と金額が表示され、引換券が出てきた。341円。この引換券をサービスカウンターに持って行くと、100円3枚と10円4枚、1円1枚と交換してくれた。その後、買い物をして帰宅。ネットで「coinstar」を調べると、アメリカに本社がある会社でアメリカとヨーロッパを中心にコイン換金機を展開していて、アジアでは2018年7月に初めて日本に導入された、とある。キャッシュレス決済の時代、コインはもはやグローバル問題なのだ。そして、小銭の取り扱いにちょっと困っている人たちへの救いの換金機なのかもしれない。フリーダイヤル(0120-347-502)が記されていた。347-502はサヨナラ・コゼニと読むそうだ。

⇒9日(日)午後・金沢の天気      くもり

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★「かに丼」と「かに面」 オーバーツーリズムの相関関係 

2022年01月07日 | ⇒トレンド探査

   北陸の冬の味覚はカニに勝るものはない。きょう能登半島の尖端の珠洲市で評判の「かに丼」があると聞いて、会合の帰りに店に立ち寄った。かに丼というのは初めてだった。この店は10数年前から季節メニューとして出している。注文すると、ご飯と海藻の入った丼の上にズワイガニの雌の香箱ガニの甲羅が2つ乗って出てきた=写真・上=。

   机の上には「かに丼の召し上がり方」というマニュアルがあった。それを見ながら、甲羅から身と外子(卵)、内子(未成熟の卵)をかき出す。2つ分の甲羅からの分量はけっこう多く、丼の表面がカニの身でいっぱいになった。それをご飯とかき合わせる。ワサビを入れた皿があり、しょうゆを少々注ぐ。わさび醤油を丼にかける。

   さっそく食べる。これまで、丼の上にブリやイカ、カニの身が乗っている海鮮丼は能登で何度か食べたことがある。香箱ガニだけの丼となると贅沢な気持ちになる。細く刻んだ海藻、そしてご飯は少々酸味がつけてあり、これがカニの身と合う。さらに、わさび醤油がアクセントとなって、カニのうまみを引き立てる。勘定は税込みで2750円。満足感が勝り、高いとは思わなかった。

   カニの話をもう一つ。先日、金沢のおでん屋に入った。「かに面」を注文した=写真・下=。このかに面は香箱ガニの身と内子、外子などを一度甲羅から外して詰め直したものを蒸し上げておでんのだし汁で味付けするという、かなり手の込んだものだ。この店のだし汁は昭和30年代の創業以来ずっと注ぎ足しながら今にいたるものなので、半端な味ではない。カニの身とおでんのだし汁がミックスして独特の食感がある。

   金沢のおでんの中ではかに面は季節限定の高級品だ。品書きにはこれだけが値段記されておらず、「時価」とある。香箱ガニの大きさや、日々の仕入れ値で値段が異なるのだろう。勘定をしてもらうと、2800円だった。これまで何度かこの店に来たことはあるが、数年前に来た時よりも1000円ほどアップしていた。

   金沢や能登では香箱ガニは庶民の味だったのだが、最近は高級品となっている。その原因の一つは資源保護のため香箱ガニの漁期が毎年11月6日から12月29日までと設定されていることだ。冒頭の能登の店でも漁期に買い求めたものを冷凍で保存し、漁期外は冷凍ものを出していると、店のマスターが話してくれた。店では10数年前にメニューとして初めて出したときは1280円だった。「むしろ値段が上がったのは金沢のかに面のせいなんです」と少々渋い顔で話してくれた。

   資源保護の政策で香箱ガニの値段は徐々に上がってはいたものの、それが急騰したのは北陸新幹線の金沢開業(2015年)以降だったという。金沢おでんが観光客の評判を呼び、季節メニューのかに面は人気の的となり、おでんの店には行列ができるようになった。すると水揚げされた香箱ガニは高値で売れる金沢に集中するようになる。それまで能登で水揚げされたものは地元で消費されていたが、かに面ブームで金沢に直送されるようになった。この店がかに丼を値上げせざるを得なくなったのもこのころからだったという。香箱ガニの地元素通りと値段高騰。能登の「かに丼」と金沢の「かに面」の値段の相関関係がオーバーツーリズムから見えてくる。

⇒7日(金)夜・金沢の天気  

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★経済と環境が同時に同等に語られる時代

2022年01月03日 | ⇒トレンド探査

   石川県内の繊維産業に関わる人から聞いた話だ。繊維をヨーロッパに輸出する際に、現地の繊維加工会社からいろいろ問い合わせがある。繊維の素材(綿など)はどのような労働環境でつくられているのか、さらに、繊維機械はバイオ燃料で動いているのか、あるいは化石燃料を利用しているのかなど細かく聞いてくるそうだ。「そのうち、使用している電力は石炭火力か原子力か再生可能エネルギーかと尋ねてくるだろう」と少々困惑した顔つきだった。

   ヨ-ロッパの企業は、環境・社会・企業統治に配慮した、いわゆる「ESD投資」を得るために生産元をチェックているのだという。話を聞いたのは、イギリスのグラスゴーで開催されていた国連の気候変動対策会議「COP26」が終わった去年の11月終わりごろだった。COP26では、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑える努力を追求すると成果文章で明記された。世界全体の温室効果ガスの排出量を2030年までに2010年比で45%削減し、さらに2050年にほぼゼロに達するまで排出量を削減し続ける。今後、石炭火力などが主な電力の国の生産品は敬遠されるのかもしれない。

   経産省がまとめた第6次エネルギー基本計画(2021年10月2日・閣議決定)によると、2030年度の電力構成を火力42%(LNG20%、石炭19%、石油2%、水素・アンモニア1%)、原子力20-22%、再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス)が36-38%となっている。第5次基本計画(2018年7月)では2030年度の火力の電源構成が56%だったので、14ポイント削減している。日本は「カーボンニュートラル先進国」としての国際的評価を高めるために舵を切ったようにも思える。

   日本だけでなく、脱炭素化の動きは世界的な潮流だろう。ところが、いくつか矛盾点や議論すべき課題が世界各地で起こり始めている。NHKニュースWeb版(3日付)によると、EUの執行機関にあたるヨーロッパ委員会は1日、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標の実現に向け、一定の条件のもとで天然ガスに加え、原子力発電についても持続可能なエネルギー源として位置付ける方針を明らかにした。これに対して脱原発を進めるドイツは反発し、経済気候保護担当大臣は「リスクの高い原子力を持続可能とするのは間違っている」とメディアに対して述べた。一方、フランスはエネルギー価格の高騰などを理由に、原発を持続可能なエネルギーと認めるべきだと主張している。「Decarbonization(脱炭素化)」をめぐる論点が鮮明化してきた。

   さらに、バイオ燃料の確保のために森林伐採が世界規模で行われている現実がある。その事例として引き合いに出されるのが、熱帯雨林のアマゾンの3分の2を有するブラジルだ。森林を伐採してサトウキビ畑を広げ、石油の代替燃料としてバイオエタノールを生産している。地球環境と開発の問題に取り組む「WRI」公式ホームページによると、ブラジルでは農地開発だけでなく森林火災も含め、2020年に170万㌶の森林が失われている。ちなみに、コンゴやインドネシアを含めて世界では420万㌶だった。これはオランダの国土面積、日本では九州に相当する。

   ブラジルの森林の消失面積は世界で最も多い。BBCニュースWeb版日本語(202年11月19日付)によると、ブラジルはCOP26で2030年までに森林破壊を終わらせると約束する文書に署名した。アマゾンの熱帯雨林には300万種の動植物が生息し、100万人の先住民族が暮らしている。地球温暖化を引き起こしている炭素を吸収する重要な場所でもある。

   新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退への対策で、環境を重視した投資などを通して経済を浮上させる「Green Recovery(グリーン・リカバリー)」が国際的なトレンドになっている。冒頭のESD投資を含め、経済の動きは環境問題と同時に同等に語られる時代に入ってきたのだろう。

⇒3日(月)夜・金沢の天気      くもり  

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★2022年の吉凶を読む

2022年01月01日 | ⇒トレンド探査

   金沢は雪の正月を迎えた。自宅周囲で20㌢だろうか。「白銀の世界」と言うほどの積もりではない。初日の出を拝むことはできなかったが、「2022年」はどのような年になるのだろうか。「2022」という数字を見ていると、まるで白鳥3羽が池を泳ぐ姿のようにもイメージする。このブログ『自在コラム』も書き続けて17年目に入るが、これまで「2226」回を数えている。ことしは白鳥が舞うような良き年になるのだろうか。

   経済の動きを占ってみる。日経平均株価の年末の終値(12月30日)は2万8791円で前年と比べて1347円値上がりし、年末の終値としては32年ぶりの高値だった。しかし、経済を取り巻く高揚感はあっただろうか。日常生活では、1㌦=115円の円安ドル高で近所のガソリンスタンドの価格が一時1㍑169円になった。円安ドル高はことしも続きそうだ。

   明るい兆しも感じる。日本や中国、ASEANなど15ヵ国が参加するRCEP(地域的な包括的経済連携)がきょう1日発効する。日本にとって中国との初めての経済連携協定で、貿易の拡大による経済の押し上げ効果が期待される。とくに、自動車や鉄鋼、化学などの分野で関税の撤廃が進み、日本製品の輸出が増える。NHKニュースWeb版(12月31日付)は、RCEP発効で域内の貿易が2019年の実績より1.8%押し上げられ、金額で418億㌦増える。増加分のうち、日本は202億㌦と半分近くを占めるとのUNCTAD(国連貿易開発会議)の試算を引用して報じている。

   政治状況はブレが少ないのではないか。7月にも予定される参院選。去年10月の衆院選では、野党共闘(立憲・共産)で政権交代を目指すと野党側は声高に有権者に訴えたが惨敗した。岸田内閣によほどの失政がない限り、与党の過半数維持は継続するだろう。ただ、「窮鼠返って猫を噛む」のたとえがあるように、野党が共闘して「国会議員数が多すぎる。半分に削減する」などと訴えると、シンパシーを感じる有権者が相当数いるに違いない。

   身近な選挙もある。石川県知事選が3月13日にあり、まだ確定していない金沢市長選もそのころになりそうで、「ダブル選挙」ではないかと地元紙が報じている。現在7期目の谷本知事は不出馬を表明していて、自民党の国会議員2人が職を辞して出馬を表明。保守分裂選挙の様相を呈してきた。さらに、現職の山野金沢市長も知事選への出馬が判断待ちの状態となっている。石川では春一番ではなく、選挙の嵐が起こりそうだ。

   隣国の動向を占う上でこの言葉をどう解釈すればよいのか。NHKニュースWeb版(1日付)によると、中国の習近平国家主席は31日夜、国営テレビなどを通じて国民に向けた新年の祝辞を述べた。その中で、「祖国の完全な統一の実現は、台湾海峡両岸の同胞の共通の願いだ」と台湾の統一に重ねて自信を示した。

   台湾の「完全な統一」は中国にとって香港に次ぐ国家戦略だろう。それを強行するのは北京オリンピック・パラリンピックの後。パラの最終日が3月13日なので、14日以降だ。台湾有事となれば、在日米軍が介入する。日本も安全保障関連法に基づき、アメリカ軍の後方支援を行うことになる。ひょっとして2022年は緊張感が漂う年になるのか。

⇒1日(土)午後・金沢の天気      あめ

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☆民主主義と経済のデジタル化が「日本沈没」を救う

2021年12月17日 | ⇒トレンド探査

   前々回のブログ「☆日本は途上国へと退化していくのか」の続き。ことし9月に発足したデジタル庁の公式ホームページをチェックすると、牧島かれんデジタル大臣の記者会見(17日付)が動画で掲載されている。主な内容は、ワクチン接種の電子証明書アプリについて、今月20日午前中からスマートフォンでのダウンロードが可能になるとの見通しを示した。これによって、国内外の出入国の手続きの際に必要な書面の証明書(コロナパスポート)は必要なくなり、イベント会場などで求められてもスマホでOK ということになるとの説明だった。確かに便利ではあるが、単にアナログを補完しているだけの話で、大臣の説明からデジタル活用の本質が見えて来ない。

   デジタル大臣の言葉として期待したいことは、ぜひ総務省と組んで選挙を「デジタル投票」にしてほしい。そして、日銀と組んで「デジタル法定通貨」を使えるようにしてほしいということだ。デジタル投票の場合は、投票アプリに入り、マイナンバーカードをスマホにかざし、パスワードを入力することで本人確認をし、投票画面に入る。デジタル法定通貨による支払いも同じ要領だ。

   投票も通貨もポイントはマイナンバーカードなのだが、政府は普及を優先させている。先月、ニュースでマイナンバーカードの普及を図るために総務省はカードの取得などの段階に応じて最大2万円分のポイントを付与する制度を創設する費用として1兆8000億円を今年度の補正予算案に計上する方針を示した(11月25日付・NHKニュースWeb版)。発想が逆ではないか。お金をデジタル通貨にすると国が発表すれば、大人も高齢者も子どもも必死になってマイナンバーカードを取得するようになる。大切なのは普及ではなく、必然ではないか。デジタル投票は民主主義のデジタル化であり、デジタル法定通貨は経済のデジタル化だ。この発想がなければ国のデジタル化は進まない。逆に民主主義と経済のデジタル化が進めば、本格的なデジタル社会(Society5.0)が訪れるのではないか。

   Society5.0は、2016年に策定された国の「第5期科学技術計画」の中で用いられ、狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く、日本の未来社会の姿として提唱するものである。何もしなければ途上国へと退化する、進めば未来先進国へと進化する。日本の進むべき道は後者しかない。このようなことを、ぜひデジタル大臣が提言してほしい。

⇒17日(金)夜・金沢の天気     あめ時々あられ

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☆日本は途上国へと退化していくのか

2021年12月15日 | ⇒トレンド探査

   このところの政治や経済、社会の動きを見ていると、日本は途上国へと退化しているような気がしてならない。こんなことが民主政治なのかと不信感を抱いたのが18歳以下の10万円相当の給付問題だ。11月9日に自民・公明両党が現金とクーポンを組み合わせて給付実施することで合意。それから国会での紆余曲折を経て、3パターンの給付方法(現金10万円の一括給付、現金5万円を2回給付、現金5万円とクーポン5万円分を2回に分け給付)にたどり着く。民意は明らかに現金10万円の一括給付だったが、この議論に1ヵ月以上も費やしている。民主政治は妥協の産物ではない。

   その間、外交問題は棚上げされた。来年2月の北京オリンピックについて、アメリカが問題を提起した「外交的なボイコット」をどうするかの議論だ。中国・ウイグル族への強制労働や、女子プロテニスの選手が前の副首相から性的関係を迫られたと告白した後に行方がわからなくなった問題、香港における政治的自由や民主化デモへの弾圧など、中国の人権状況に対して国際的な批判は強い。日本政府は中国からの招待の有無にかかわらず、政府代表団の派遣をどうするのか。岸田総理は「国益の観点からみずから判断していきたい」(12月7日付・NHKニュースWeb版)を繰り返している。国益で人権問題を判断するという言葉は、はたして自由民主主義国家の政府の長の言葉だろうか。

   日本は世界第3位のGDPを誇る経済大国とされているが、いつまでそれが続くのだろうか。人口の少子・高齢化は日に日に高まっている。人口が減る中で経済規模を維持していくことは難しい。さらに、労働者1人当たりの生産性も高齢化で簡単ではない。GDPや企業の競争力などの指標を見ても、日本はすでにG7に相応しい地位ではない。「世界競争力年鑑2021年版」(IMD=国際経営開発研究所)での日本の順位は31位と停滞が続いている。

   かつて、日本は「一億総中流」と言われたが、その言葉を最近すっかり聞かなくなり、代わって「貧困」をよく目にする。厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2019年版)によると、2018年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は127万円で、これ以下の「相対的貧困」の世帯の割合は15.4%と記されている。今後、独り暮らしの高齢世帯などが増えていく。貧困率はさらに高まっていくだろう。暗い話ばかりになってしまった。

   ただ、反転する可能性はある。それは「資源」があるからだ。2000兆円におよぶ個人金融資産が眠っている。日本全国に張り巡らされた光ファイバーなどのデジタル通信網がある。このブログで何度か述べたように、日銀が主導するデジタル法定通貨を実施することだ。2024年から新一万円札は「渋沢栄一」に変わるが、これを機に札や硬貨ではなく、デジタル通貨にしてはどうか。タンスに眠ったままとなっている金融資産を吐き出させ、消費を回す絶好のチャンスではないだろうか。この機を逃せば、日本は本格的に途上国へと退化するのではないかと思えてならない。

⇒15日(水)夜・金沢の天気       くもり

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☆「雪吊り」は庭木のアート

2021年12月06日 | ⇒トレンド探査

   この時節、金沢の一つのキーワードは「雪吊り」だ。11月に兼六園で雪吊りのニュースが流れると金沢市内の家々でも雪吊りが始まり、12月初旬にピークを迎える。我が家も造園業者に依頼している。きょうは朝から小雨が降っていたが、庭師が来てくれた。

   庭木に雪が積もると、雪圧や雪倒、雪折れ、雪曲など樹木の形状によってさまざま雪害が起きる。金沢の庭師は樹木の姿を見てどのような樹木の雪対策をしたらよいか判断する。「雪吊り」「雪棚」「雪囲い」など11種の方法があると、出入りの庭師から聞いた。毎年見慣れている雪吊りの光景だが、縄の結び方などが樹木によって異なるのだ。

   雪吊りで有名なのは「りんご吊り」。我が家では五葉松などに施されている=写真・上=。木の横に孟宗竹の芯(しん)柱を立てて、柱の先頭から縄を17本たらして枝を吊る。パラソル状になっている。「りんご吊り」という名称は、金沢では江戸時代に庭にリンゴの木を植えていて、果実がたわわに実ると枝が折れるのを補強するためそのような手法を用いた。それが冬の樹木にも応用されたと伝えられている。

   低木に施される雪吊りが「竹又吊り」=写真・下=。ツツジの木に竹を3本、等間隔に立てて上部で結んだ縄を下げて吊る。秋ごろには庭木の枝葉を剪定してもらっているが、庭師は庭木の積雪を意識して、積もらないように剪定を行うと話してくれた。その仕事ぶりを見ていると、「庭木のアーチスト」ではないかと思う。庭木の積雪をイメージして剪定を行い、雪害を予想して庭木の生命や美の形状を保つために、雪吊りや雪囲いといった作業をする。

     関西や関東の友人たちに雪吊りの写真をメールで送ると、「長期予報で北陸が暖冬だったら、わざわざ雪つりをする必要はないよね」と返信があったりする。理にかなってはいるが、冬の現実はそう単純ではない。暖冬ではあっても、冬将軍は突然やってくる。一夜にして大雪になることもままある。北陸の雪は湿っぽく重い。とくに松の木の枝には雪が積もりやすく、大雪になると枝がボキボキと折れる。「備えあれば憂いなし」の心構えで、暖冬予報であっても雪吊りをする。雪つりは年末の恒例行事でもある。気持ちの問題として、年末の大掃除のように、これをやらないと気持ち的にけじめがつかないということもある。

⇒6日(月)夜・金沢の天気      くもり

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☆カーボンニュートラルな生き方

2021年11月16日 | ⇒トレンド探査

   前回のブログの続き。イギリスで開催された国連の気候変動対策会議「COP26」では、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求し、石炭火力発電については「段階的な廃止」を「段階的な削減」に表現を改めることで意見対決をまとめて成果文書が採択された。日本政府も2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル宣言」を掲げ、脱炭素社会の実現に向けて待ったなしで突き進んでいくことになる。

   自分の仕事が地球環境や気候変動にどのような影響を与えているだろうか。環境に謙虚な気持ちを持つということはどういうことなのか。そのことに取り組んでいる人物の話だ。能登半島の尖端、珠洲市の製炭所にこれまで学生たちを連れて何度か訪れている。伝統的な炭焼きを生業(なりわい)とする、石川県内で唯一の事業所だ。二代目となる大野長一郎氏は45歳。レクチャーをお願いすると、事業継承のいきさつやカーボンニュートラルに対する意気込みを科学的な論理でパワーポイントを交えながら、学生たちに丁寧に話してくれる。

   22歳で後継ぎをしたころ、「炭焼きは森林を伐採し、二酸化炭素を出して環境に悪いのではないか」と周囲から聞かされた。しかし、自分自身にはこう言い聞かせてきた。樹木の成長過程で光合成による二酸化炭素の吸収量と、炭の製造工程での燃料材の焼却による二酸化炭素の排出量が相殺され、炭焼きは大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない、と。ただ、実際にはチェーンソーで伐採し、運ぶトラックのガソリン燃焼から出る二酸化炭素が回収されない。「炭焼きは環境にやさしくないと悩んでいたんです」   

   この悩みを抱えて、2009年に金沢大学の社会人向け人材育成プロジェクト「能登里山マイスター養成プログラム」に参加した。自身も大野氏とはこの時に知り合った。大野氏は自然環境を専門とする研究者といっしょに生業によるCO²の排出について検証する作業に入る。ライフサイクルアセスメント(LCA=環境影響評価)の手法を用い、過去6年間の製造、輸送、販売、使用、廃棄、再利用までの各段階における環境負荷を検証する。事業所の帳簿をひっくり返しガソリンなどの購入量を計算することになる。仕事の合間で2年かけて二酸化炭素の排出量の収支計算をはじき出すことができた。また、環境ラベリング制度であるカーボンフットプリントを用いたCO²排出・固定量の可視化による、木炭の環境的な付加価値化の可能性などもとことん探った。

   得た結論は、生産する木炭の不燃焼利用の製品割合が約2割を超えていれば、生産時に排出されるCO² 量を相殺できるということが明らかになった。3割を燃やさない炭、つまり床下の吸湿材や、土壌改良材として土中に固定すれば、カーボンマイナスを十分に達成できる。これをきっかけに木炭の商品開発の戦略も明確に見えてきた。さらに、炭焼きの原木を育てる植林地では昆虫や野鳥などの生物も他の地域より多いことが研究者の調査で分かってきた。「里山と生物多様性、そしてカーボンニュートラルを炭焼きから起こすと決めたんです」

   付加価値の高い茶炭の生産にも力を入れている。茶炭とは茶道で釜で湯を沸かすのに使う燃料用の炭のこと。2008年から茶炭に適しているクヌギの木を休耕地に植林するイベント活動を開始した。すると、大野氏の計画に賛同した植林ボランティアが全国から集まるようになった。能登における、グリーンツーリズムの草分けになった。(※写真・上は大野氏が栽培するクヌギの植林地。写真・下はクヌギで生産する「柞(ははそ)」ブランドの茶炭)

⇒16日(火)夜・金沢の天気      はれ

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