自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆メディアのツボ-55-

2007年06月24日 | ⇒メディア時評

 あす25日で能登半島地震から丸3ヵ月である。被災地での調査を終えて思うことは、高齢者だけでなく、誰しもが一瞬にして「情報弱者」になるのが震災である。問題はそうした被災者にどう情報をフィードバックしていく仕組みをつくるか、だ。その中心的な役割をメディアが果たすべきと考えるのだが、実行しているメディアはこれまで述べたようにごく一部である。メディア関係者の中には、「メディアはもともと『社会の公器』だから、日々の業務そのものが社会貢献である。だから特別なことをする必要はない」と考えている人も多いのではないだろうか。

             震災とメディア・その3

  聞き取り調査の中で、輪島市門前町在住の災害ボランティアコーディネーター、岡本紀雄さん(52)の提案は具体的だった。「新聞社は協力して避難住民向けのタブロイド判をつくったらどうだろう。決して広くない避難所でタブロイド判は理にかなっている」と。岡本さんは、新潟県中越地震でのボランティア経験が買われ、今回の震災では避難所の「広報担当」としてメディアとかかわってきた一人である。メディア同士はよきライバルであるべきだと思うが、被災地ではよき協力者として共同作業があってもよいと思うが、どうだろう。

  もちろん、報道の使命は被災者への情報のフィードバックだけではないことは承知しているし、災害状況を全国の視聴者に向けて放送することで国や行政を動かし、復興を後押しする意味があることも否定しない。  今回のアンケート調査で最後に「メディアに対する問題点や要望」を聞いているが、いくつかの声を紹介しておきたい。「朝から夕方までヘリコプターが飛び、地震の音と重なり、屋根に上っていて恐怖感を感じた」(54歳・男性)、「震災報道をドラマチックに演出するようなことはやめてほしい」(30歳・男性)、「特にひどい被災状況ばかりを報道し、かえってまわりを心配させている」(32歳・女性)。

  ある意味の「メディアスクラム」(集団的過熱取材)を経験した人もいる。同町の区長である星野正光さん(64)は名刹の総持寺祖院近くで10数席のそば屋を営む。4月5日に営業再開にこぎつけた。昼の開店と同時にドッと入ってきたのは客ではなく、テレビメディアの取材クルーたちだった。1クルーはリポーター、カメラマン、アシスタントら3、4人になる。3クルーもやって来たから、それだけで店内はいっぱいになり、客が入れない。そこで1クルーごとに時間を区切って、順番にしてもらったという。「取材はありがたかったが、商売にならないのではどうしようもない」と当時を振り返って苦笑した。

  こうした被災者の声は誇張ではなく、感じたままを吐露したものだ。そして、阪神淡路大震災や新潟県中越地震など震災のたびに繰り返されてきた被災者の意見だろうと想像する。最後に、「被災地に取材に入ったら、帰り際の一日ぐらい休暇を取って、救援ボランティアとして被災者と同じ目線で現場で汗を流したらいい」と若い記者やカメラマンのみなさんに勧めたい。被災者の目線はこれまで見えなかった報道の視点として生かされるはずである。

 ※写真:心の和みになればと被災地の子供たちに切り花をプレゼントする金沢の市民ボランティアのメンバーたち=輪島市門前町・3月28日

 ⇒24日(日)夜・金沢の天気  あめ

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