17世紀のオランダの街並みをモチーフに設計されたというハウステンボスを歩く。石の道は何度歩いても歩きにくい、これもヨーロッパたたずまいかと思うと妙に納得したりする。前回ハウステンボスを訪れた2006年3月とは何が異なるか、自問自答すると一点ある。それは中国語と韓国語の人たちがめっきり減ったということだ。前回は四方八方に2つの言語が飛び交い、日本語は肩身が狭いほどだった。
歴史を創ったファシリテーター
これは2008年9月の「リーマンショック」以来、為替レートに異変が起きているからだろう。現在、韓国ウォンの為替レートは日本円100円に対して、1300ウォンほどだが、3年前の為替レートは800ウォンで推移していた。円に対してウォン高だった。この円安の流れで日本には韓国や台湾、中国からどっと観光客が押し寄せた。ところが、最近の円高はアジアからの観光客を遠ざけている。九州きっての観光地であるハウステンボスに来れば、マネーの流れが実感できる。さしずめ「東アジアの経済センサー」と言ったところか。
ハウステンボスのある長崎は今、「坂本龍馬」で盛り上がっている。ハウステンボスの街にも観光ポスターが貼られている=写真=。「龍馬、長崎で待つ」。2009年は「安政の開港」(安政6年=1859年)から150年目に当たる。ここから日本は230年にもおよぶ鎖国から開国へと大きく転換し、明治維新という大改革化の時期に入る。この歴史的な節目で、2010年のNHK大河ドラマのテ-マは「幕末史の奇跡」と呼ばれた坂本龍馬33年の生涯を描く「龍馬伝」に決まった。そのドラマの主たる舞台となる長崎が熱い。しかも、その龍馬役を長崎市出身のシンガーソングライター、福山雅治が演じるとあって、当地ではヒートアップしているというわけだ。
坂本龍馬の最大の功績は、当時の薩摩と長州の2大勢力をどちらの藩の利害も代弁せずに、ただ外圧に対抗するために「薩長連合」の実現へと奔走したことだと思う。これが明治維新へと歴史を突き動かす原動力になったからだ。最近、シンポジウムなどでファシリテ-ター(Facilitator)という役割が重んじられる。主役ではないが、会議の流れを読み、合意形成へと導く役回りのことである。歴史的な政権交代の時期に出てきた日本のファシリテーター、それが龍馬という人物なのだ。
司馬遼太郎ら作家が龍馬をさまざまに描き、その生涯はテレビや映画のドラマにもなった。単なる長崎の観光キャンペーンに終始することなく、名も無き若者が国を動かす龍馬の物語が、夢を失ったといわれる現代の日本の若者を勇気づけるきっかけとなってほしい。このポスターを見ながら、そんなことを思った。
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