自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★技術と安全思想

2011年08月14日 | ⇒トピック往来

 ある輪島塗の職人から、「技術は教わるものではなく、親方の技を盗み見するものだ」と聞いた。また、輪島塗の蒔(まき)絵師から「盗んだ技術は、また他の人にすぐ盗まれる。自分で体得した技術は盗まれない」とも聞いた。職人の世界では、技を盗む、真似るのは悪いという意味ではなく、職人が一人前になるまでの成長過程で必要なことである。一定のレベルに達したら独自でさらなる技を考案せよ、そうしなければ産地としての全体のレベルは向上しないと、私なりに解釈している。先日、輪島市に出張する機会があって、かつて聞いた輪島塗の職人さんたちの言葉を思い出した。

 先月7月23日、中国・浙江省温州市付近で、高速鉄道「D3115」が脱線事故を起こし、車両4両が高架橋から転落し、多数の死傷者を出した。また、事故後に転落した車両を検証することもなく、地中に埋めるという当局の行為がニュースとして世界を駆け巡った。事故の一連のニュースで感じたことは、日本や諸外国の新幹線を形だけ真似しても、その安全性に対する考え方やスケジュール管理の具体的な方法などを学んでいなかったのはないかということだ。冒頭で述べた、真似ればよいというレベルでとどまっていたとうことになる。

 日本の新幹線の運用は1964年から始まり、大事故を起こさずにこられたのは、小さな事故の経験をノウハウとして積み上げてきたからだといわれている。直近で思い出すのは、今年3月11日の東日本大地震で、新幹線は1台も事故を起こさなかった。当時の新聞報道によると、海岸線にセンサーが取り付けてあり、地震の初期微動で発生するP波をキャッチし、即座に新幹線を停止させるようなシステムを構築していたからだ。つまり、地震の主要動である大きな揺れが到着する前に、新幹線にはブレーキがかかり停止することができたのだ。この技術は、阪神淡路大震災の反省から生まれたという。

 どれだけ注意を払っても事故は起こる。天災、人的ミス、そしてミスは複合すると大事故につながる。ましてや、日本や諸外国の技術を導入して、それを「国産の新幹線だ。国際特許を取る」と豪語しても、今回の事故が起きて、検証もせずに事故車両を埋めるという対策では、高速鉄道の技術開発と、「乗客を目的地に安全に運ぶ」という安全思想がセットになっていないのではないかと疑ってしまう。

 きょう(14日付)の朝日新聞の記事で、中国政府はあす16日から高速鉄道の最高時速をこれまでの350㌔から300㌔に減速するという内容の記事があった。これだと、時速320㌔のドイツICEやフランスTGVより遅くなり、中国は「世界最速」というメンツを捨てることになる。それでも、安全対策に力を入れるというのであれば評価はできる。ただ、安全対策の技術の確立は1年や2年でできるものではない。エンドレスに続くというのが、安全思想というものだろう。この話は、高速鉄道に限らないのはいうまでもない。

⇒14日(日)朝・金沢の天気   はれ

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