自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆理由なき暴動

2011年08月15日 | ⇒トピック往来
 アカデミー男優賞候補だったジェームズ・ディーンの遺作『理由なき反抗』は、青少年の犯罪心理を追及した映画だった。1955年、アメリカで製作。少年として共鳴でききるところもあり、他人事ではない、自分も思いつめれば、「チキンゲーム」(度胸試し)くらいやるかもしれないと、当時思ったものだ。若気のいたり、無謀、未熟…今にして思えば、まるで青臭い映画だった。でも、こうして脳裏に刻むことができる、魅力ある映画だった。

 若者が暴走するのは世の常だ。ただし、警官による黒人男性射殺に端を発したイギリスの若者の暴動は理解を超えている。報道によれば、暴動に加わった若者の行動パターンは3つに分類されるという。それは「略奪」「放火などの破壊行為」「警察への攻撃」だ。貧民街での暴動で、停職をもたない若者の不満が爆発したのかと短絡的に考えていたがそうではないらいい。逮捕され裁判所に出廷した容疑者は、裕福な女子大生やグラフィックデザイナー、小学校の補助教員、しかも人種も多様なようだ。中には、11歳の少年もいるという。

 これまで暴動といえば、社会の矛盾(貧富の差など)から湧き上がる政治的不満や人種差別などといった義憤が背景にあった。ところが、イギリスでの暴動は、発展途上国型の略奪を意識した暴徒化タイプのようだ。「ツイッター」などのソーシャルメディアの呼びかけで、ワッと集まり、商店を襲い略奪して逃げる、放火する、警官に暴行するという、「理由なき暴動」だ。こんなことにイギリスの社会が混乱し、類似の暴動が各地で頻発している。キャメロン英首相は臨時議会(11日)で、「異なる(背景の)若者らが同じ行動を取るという新たな難題に直面している」と苦りきった表情で説明していたのが印象的だった。

 ただ、この暴動には扇動者の存在がある。8月12日付の朝日新聞アサヒコムで「イギリスの少年ギャングたちの一端を垣間見れる写真12枚」の写真グラフが紹介されている。社会から断絶した若者らが徒党を組んで武装し、ギャング(暴力的犯罪集団)と化しているのだ。ロンドン警視庁の2007年調査で、ロンドン市内で250を超えるギャング組織が確認されているという。今回の暴動もギャング組織が扇動しているのではないかとの見方もある。

 若者を中心としたギャング団の存在。「理由なき暴動」を扇動しているのが、彼らだとしたら、イギリス社会のまさに「闇」の部分だ。「異なる(背景の)若者らが同じ行動を取る」(キャメロン首相)という事態は深刻だ。ヨーロッパには「ハーメルンの笛吹き男」の寓話がある。笛に踊らされた多数の子供たちが姿を消す、グリム童話にある。ギャングが扇動し、躍らされる善良な若者たち。キャメロン首相は、今回の暴動にこのような得体のしれない魔性のイメージを重ねているのかもしれない。

⇒15日(月)午前・金沢の天気   くもり
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする