「出家詐欺」を扱ったNHK報道番組「クローズアップ現代」をめぐる問題で、今月6日、「重大な放送倫理違反があった」とする放送倫理・番組向上機構(BPO)の検証委員会の意見が公表され、新聞・テレビのニュースでも大きく報じられた。意見書はBPOのホームページで公開されていて、その内容は、「情報提供者に依存した安易な取材」「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」など厳しいコメントとなった。
この問題は、私が大学で担当する総合科目「マスメディアと現代を読み解く」でも取り上げ、BPOのコメントには注目していた。番組は去年5月14日放送の「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」。寺で出家の儀式「得度」を受けると戸籍の下の名前を法名に変更できる
ことを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。ところが、番組内で多重債務者に出家を指南するブローカーとされた男性が今年3月18日付の週刊文春に「NHKのやらせ」と告発した。
これを受けたNHKの対応は速かった。4月3日に調査委員会を立ち上げ、同9日に中間報告書を、同月28日に最終報告書を公表し、「過剰な演出」や「実際の取材過程とかけ離れた編集」があったことを認める一方で、「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』は行っていない」と結論づけた。「やらせ」との言葉が世間で独り歩きすることを極度に恐れ、必死になって報告書をまとめたであろうことは想像に難くない。BPOの放送倫理検証委員会は5月8日、審議の対象にすることを決めた。BPOの調査目的は、果たして「過剰な演出」や「実際の取材過程とかけ離れた編集」というレベルにとどまるものなのかどうか、その一点にあったようだ。番組制作関係者11人と番組内での「ブローカー」、「多重債務者」の計13人に25時間に及ぶ聞き取り調査を行った。
BPOの意見書を読むと、驚くことが掲載されている。番組では初対面で相談する「ブローカー」と「多重債務者」のそれぞれの男性は10年来の知り合いであり、番組をコーディネートしたNKH記者とも旧知の間柄だった。さらに、2014年4月19日に撮影が行われた、2人が相談する場所も「多重債務者」の方が事前に準備したもので、さらに撮影終了後には、記者と「ブローカー」と「多重債務者」の3人が「打ち上げ」と称して居酒屋で飲食を共にしていたのである。これが報道番組「クローズアップ現代」で隠し撮りシーンとして紹介された場面の撮影の舞台裏だった。視聴者にとって全く想定外だろう。これを一般の視聴者に問えば、十中八九「それは『やらせ』です」と答えるに違いない。
NHK側は、「ブローカー」と「多重債務者」のそれぞれの男性が知り合いで、番組をコーディネートした記者とも知り合いだったことから、2人が記者が説明した番組の意図を忖度して、それぞれの知識や体験にオーバートークを交えて「出家の相談をするブローカーと多重債務者の相談場面」を演じた、いわゆる「過剰演出」と結論づけた。相談場面は、この意見書を読む限り、番組の狙いを強調する事実をわい曲ではないのかと思ってしまう。
もう一点、腑に落ちないことがある。NHKが最終報告書を公表し、番組に携わった記者ら15人を処分した4月28日、その同日に総務大臣名で文書による厳重注意の行政処分がNHKに対してあった。5月8日にBPO放送倫理検証委員会が審議入りする前に行政指導に踏み切ったのである。このことについて、今月6日に公表されたBPOの意見書の「おわりに」の章で、「政府が個別番組の内容に介入することは許されない」と総務省を批判ししている。また、新聞メディアなどもきょう7日付の紙面でむしろ政府の「介入」を問題視している=写真=。
私はもう少しうがった見方をしている。NHKの最終報告書の公表と社内処分、総務省による行政処分のタイミングがよすぎるのである。これは、BPO放送倫理検証委員会が審議入りする前にこの問題の幕引きをはかりたいというNHK側の意図があり、NHKが総務省に行政処分を出すよう働きかけたのではないか、と。放送界の第三者機関(BPO)に「やらせ」と詮索されては困るからである。一連の「クロ現」問題のニュースを読んで、そう考える人も多いのではないか。メディアの批判の矛先がNHKより、むしろ政権党や総務省に向かい、NHKサイドも今頃ホッと胸をなでおろしているのではないか。
⇒7日(土)午後・金沢の天気 くもり
この問題は、私が大学で担当する総合科目「マスメディアと現代を読み解く」でも取り上げ、BPOのコメントには注目していた。番組は去年5月14日放送の「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」。寺で出家の儀式「得度」を受けると戸籍の下の名前を法名に変更できる
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これを受けたNHKの対応は速かった。4月3日に調査委員会を立ち上げ、同9日に中間報告書を、同月28日に最終報告書を公表し、「過剰な演出」や「実際の取材過程とかけ離れた編集」があったことを認める一方で、「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』は行っていない」と結論づけた。「やらせ」との言葉が世間で独り歩きすることを極度に恐れ、必死になって報告書をまとめたであろうことは想像に難くない。BPOの放送倫理検証委員会は5月8日、審議の対象にすることを決めた。BPOの調査目的は、果たして「過剰な演出」や「実際の取材過程とかけ離れた編集」というレベルにとどまるものなのかどうか、その一点にあったようだ。番組制作関係者11人と番組内での「ブローカー」、「多重債務者」の計13人に25時間に及ぶ聞き取り調査を行った。
BPOの意見書を読むと、驚くことが掲載されている。番組では初対面で相談する「ブローカー」と「多重債務者」のそれぞれの男性は10年来の知り合いであり、番組をコーディネートしたNKH記者とも旧知の間柄だった。さらに、2014年4月19日に撮影が行われた、2人が相談する場所も「多重債務者」の方が事前に準備したもので、さらに撮影終了後には、記者と「ブローカー」と「多重債務者」の3人が「打ち上げ」と称して居酒屋で飲食を共にしていたのである。これが報道番組「クローズアップ現代」で隠し撮りシーンとして紹介された場面の撮影の舞台裏だった。視聴者にとって全く想定外だろう。これを一般の視聴者に問えば、十中八九「それは『やらせ』です」と答えるに違いない。
NHK側は、「ブローカー」と「多重債務者」のそれぞれの男性が知り合いで、番組をコーディネートした記者とも知り合いだったことから、2人が記者が説明した番組の意図を忖度して、それぞれの知識や体験にオーバートークを交えて「出家の相談をするブローカーと多重債務者の相談場面」を演じた、いわゆる「過剰演出」と結論づけた。相談場面は、この意見書を読む限り、番組の狙いを強調する事実をわい曲ではないのかと思ってしまう。
もう一点、腑に落ちないことがある。NHKが最終報告書を公表し、番組に携わった記者ら15人を処分した4月28日、その同日に総務大臣名で文書による厳重注意の行政処分がNHKに対してあった。5月8日にBPO放送倫理検証委員会が審議入りする前に行政指導に踏み切ったのである。このことについて、今月6日に公表されたBPOの意見書の「おわりに」の章で、「政府が個別番組の内容に介入することは許されない」と総務省を批判ししている。また、新聞メディアなどもきょう7日付の紙面でむしろ政府の「介入」を問題視している=写真=。
私はもう少しうがった見方をしている。NHKの最終報告書の公表と社内処分、総務省による行政処分のタイミングがよすぎるのである。これは、BPO放送倫理検証委員会が審議入りする前にこの問題の幕引きをはかりたいというNHK側の意図があり、NHKが総務省に行政処分を出すよう働きかけたのではないか、と。放送界の第三者機関(BPO)に「やらせ」と詮索されては困るからである。一連の「クロ現」問題のニュースを読んで、そう考える人も多いのではないか。メディアの批判の矛先がNHKより、むしろ政権党や総務省に向かい、NHKサイドも今頃ホッと胸をなでおろしているのではないか。
⇒7日(土)午後・金沢の天気 くもり