自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆北方四島に手をかける

2016年12月16日 | ⇒メディア時評
きょう(16日)も安倍総理とロシアのプーチン大統領との総理公邸での共同記者=写真=の様子をじっとテレビを通して見つめていた。新しい言葉がいくつかあった。北方四島での「共同経済活動」がその一つ。2人の首脳はそれぞれ、関係省庁に漁業、海面養殖、観光、医療、環境などの分野で協議を始めるよう指示し、実現に向け合意したと述べた。この「共同経済活動」が「平和条約締結」に向けた重要な一歩になると、安倍氏、プーチン氏それぞれが強調した。

  上記のことは両国による共同声明でもなく、共同宣言でもなく、なんと「プレス向け声明」だと。プレス向け声明ってなんだ。これは政府や行政、民間企業などがマスメディアに発表する声明や資料のこと、つまり「プレスリリース」のことだ。つまり、このようなことをお互いに確認しましたので、マスメディアのみなさんにお知らせしますというたぐいのものだ。

  ここで考え込んでしまう。これだけ国際的にも注目される外交案件で、しかも、首脳同士が胸襟を開いて協議し、合意したのであれば、共同声明か共同宣言が発せられてしかるべきだろう。実際にプレス向け声明では、「両首脳は平和条約問題を解決する自らの真摯な決意を表明した」と明記してある。それだけ確信をもって合意したのであれば、なぜ、共同声明か共同宣言として発しないのか。

  北方四島の日本への帰属問題についての言及はなく期待外れだったが、元島民が査証(ビザ)なしで渡航できる「自由往来」の拡充すると双方が述べた。プーチン氏は「総理から元島民の手紙を読ませてもらい、人道上の理由から、一時的な通過点の設置と現行手続きのさらなる簡素化を含む案を迅速に検討するよう指示した」と説明した。

  元島民が査証なしで渡航できることはそれは元島民の長年の願いだったろう。しかし、ここでまた考え込んでしまう点がある。「元島民の手紙」である。なぜここで元島民の手紙が浮上してくるのだろうか。誰がそのような仕掛けをしたのか。安倍氏は「しっかりした大きな一歩を踏み出すことができた」と強調した。その言葉の運びは、この元島民の手紙に安倍氏もプ-チン氏も感動して、思いが通じ合ったというシナリオが意図されるように思えてならない。その手紙をぜひ読んで見たいものだ。

  今回の合意は安倍氏とプーチン氏が試行的に互いの信頼の醸成に向けて取り組む新しいアプローチなので、あえてので国家間の共同声明でも共同宣言でもない、プレス向け声明にとどめて着実に実績を積み上げ、平和条約締結に持ち込んでいきたい、という意味合いなのだろうか。それは、元島民の手紙を読んだ2人が互いに感動して約束したことなのだ、とでも言いたいのだろうか。これまでの外交シナリオにはない、安倍氏とプーチン氏によるパートナーシップ協定といった意味合いか。正直よくわからない。

  ただ一つ、評価できるのは、ロシアが実効支配している北方四島に共同経済活動を足がかりに日本が手をかけた、つまりフックをかけたということだろう。これまで手出しすらできなかった四島に影響を拡大できる可能性を手にしたのである。これが安倍氏の戦略だったのだろうか。会見で安倍総理は毎年秋にウラジオストクで開催される東方経済フォーラム(ロシア主催)に出席し、この共同経済活動の進捗状況を確認していくと述べ意欲を見せた。

⇒16日(金)夜・金沢の天気     くもり

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