自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★ノートルダム大聖堂の炎上、バトルの再燃

2019年04月21日 | ⇒メディア時評

      パリのノートルダム大聖堂で起きた火災(現地時間今月15日夜)。高さが90㍍もある尖塔が焼け、屋根が崩れ落ちる映像は世界のメディアやネットで流れた。映像を初めて見たときはテロかと脳裏をよぎったが、その後ニュースでは尖塔の中腹部で補修工事が行われていて、工事器具が発火して、アーチ型天井の裏にある屋根を支える木材部分に引火したのではないかと報じられている(16日付NHKニュース)。(※写真・上はフランス「ル・モンド」Web版「Notre-Dame de Paris : vidéos de l’incendie」より)

   ゴシック様式の建築で800年の歴史を有し、ユネスコ世界遺産に登録されている。今回の被災に世界の多くの人が惜しんだだろう。日産の資金を不正送金したとして特別背任容疑で4度目の逮捕となったカルロス・ゴーン氏は東京拘置所でこの火災のニュースを知らされ、どのような思いだったろうかと想像を膨らませた。ひょっとして「復興に役立てください。愛するパリのために」などと称して100万ユーロ(1億2千万円)くらいは寄付を申し出るのではないか、と。そうなれば、日本のマスメディアはビッグニュースで報じるかもしれない。何しろこの逮捕前にフランスのテレビ局「LCI」がスカイプでのインタビューをネット映像で公開していて、ゴーン氏は「私は無罪だ」「フランス政府に言いたい。私はフランス人だ。フランス人としての権利を守ること求める」と訴えている(日経新聞Web版)。このタイミングでの高額寄付はフランス世論を味方につける絶好のチャンスではないか。

  ところが、私が描くゴーン氏の思惑の先手を打つかのように、日産はノートルダム大聖堂の再建のため10万ユーロ(1200万円)を寄付すると発表した。19日付の同社のニュースリリース=写真・下=によると、「日産は20年にわたるルノーとのアライアンスを通じ、フランス共和国とフランス国民の皆さまとは近しい関係にあります。ノートルダム大聖堂の火災という事態に触れ、ルノー社員やフランス国民の心情に心を寄せ、寺院の再建に貢献したいという考えに至りました。」と。まるでゴーン氏の手の内を読んだようなスピード感のある対応だ。金額も妥当だろう。こうなると先手を打たれたゴーン氏は金額で勝負するしかない。500万ユーロ、6億か。オマーンルートでキックバックさせたくらいの金額でないとフランス国民を納得させることはできないかもしれない、と勝手に想像をたくましくする。

   ところで、ノートルダム大聖堂の火災では、フランスの高級ブランドや化粧品メーカーなどが相次いで寄付による支援を表明し、すでに総額1000億円を超えるようだ。こうした多額の寄付をめぐっては、現場を視察したマクロン大統領が緊急会見で、世界中から寄付を募り5年以内に修復を完了させると述べたことも、大きな成果だったろう。一方で、低給与と燃料価格の高騰で政府に不満を募らせる「黄色いベスト運動」のデモ参加者らは「人よりも大聖堂への支援が優先されている」と怒りの声を上げている。確かに、大聖堂の再建に寄付が集中すれば、慈善事業などへの寄付は減るかもしれない。ここでもバトルが再燃している。

⇒21日(日)朝・金沢の天気    くもり時々あめ

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