金沢大学の自由履修科目「2040年の仕事論」(10月2日)で、アイ・オー・データ機器の代表取締役会長、細野昭雄氏のオンラン講義を聴講した=写真=。講義のテーマは「価値創造へのチャレンジ」。同社は東証1部上場の企業だが、「当社は今でもベンチャー企業だと自負している」と熱く語った。その言葉通り、随所にベンチャラス(venturous)な発想が伝わってきて、つい引き込まれた。
細野氏は石川県の工業高校を卒業後、1962年に「ウノケ電子工業」(現「PFU」、石川県かほく市)に入社し、その後、金沢工業大学情報センターなどを経て、1976年1月に同社を設立した。当時、金沢の自宅のガレージで創業したことから、「ガレージ起業」とも言われた。「アップル」を立ち上げたスティーブ・ジョブズも同じ年1976年4月にカリフォルニア州ロスアルトスの自宅ガレージでパソコンの製造事業を始めている。
細野氏は学生に問うた。「安全な道をみんなで行くのか、面白そうだからと一人その道を行くのか。安全な道を選んだ人たちが行く途中で、100人しか渡れない橋があったらどうするのか」「常識という無意識に気が付いていない人が多い。常識を疑え」と。ウノケ電子工業に入社当時は友人たちから「なぜ家電メーカーに就職しないのか」と言われた。当時、テレビの全盛時代で、1964年の東京オリンピックを契機に白黒からカラーテレビへと大きく変換した。コンピュータは未開の分野だったが、面白そうだからとその道を歩いた。
「かつて教育の基本は『読み、書き、そろばん』と称された。現代は『読み、書き、プログラム』だろう」。国別のIT技術者の人数はアメリカ477万人、中国227万人、インド212万人に次いで日本は109万人と4位だが少ない。人口比率で見ても、アイスランドやスウェーデンに比べ少なく32位だ。また、日本のIT技術者は78%がIT企業に集中しているが、アメリカは65%がユーザー企業にいる。「菅内閣はデジタル庁をつくると言っているが、他国に比べて随分遅れている。『今さらかよ』という思いもする。小学生がプログラミングを学習して、アントレプレナーシップ教育を学ぶ時代だ」
同社はPCや家電、スマートデバイスの周辺機器総合メーカーである。スマートフォン用アプリの「CDレコーダー」はヒット商品の一つ。ヒット商品を生み出す背景の言葉に納得した。「アメリカンドリームともいわれた1800年代後半のゴールドラッシュで儲けたのはリーバイ・ストラウス、デニムつくった『リーバイス』の創業者だよ」。金鉱で働く大勢の人たちの作業着のズボンがボロボロになっている姿を見て、破れにくいワークパンツを船の帆で使われていた生地を用いて商品化した。これがヒットし、アメリカ全土に広がった。
「起業家精神というのは、見えている問題を解く能力、そして問題を自ら見つけ出す能力」と説いた。冒頭の「当社は今でもベンチャー企業だと自負している」の言葉が心に響く。
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