自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆2021 バズった人、コト~その8

2021年12月31日 | ⇒ドキュメント回廊

   ことし話題になった人物といえば、ノーベル物理学賞を受賞したプリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎氏、90歳ではないだろうか。地球温暖化予測の第一人者として知られ、それまで物理学とは考えられていなかった気候変動をコンピューターでシミュレーション解析を行うことで数式化し、「気候物理学(Climate physics)」という新たな研究ジャンルを切り拓いた。

   ~ノーベル物理学賞・真鍋淑郎氏 気候変動会議「phase down」に何思う~ 

   真鍋氏の受賞は実にタイムリーだった。二酸化炭素による地球温暖化が国際政治の遡上にのぼったタイミングだ。10月31日からイギリスのグラスゴーで開催されていた国連の気候変動対策会議「COP26」で成果文書「グラスゴー気候協定」が採択された。世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑える努力を追求すると成果文章で明記された。世界全体の温室効果ガスの排出量を2030年までに2010年比で45%削減し、さらに2050年にほぼゼロに達するまで排出量を削減し続ける。

   世界の年間の二酸化炭素排出量の約4割が火力発電など石炭を燃やすことで発生しているため、今回の成果文書で石炭対策が初めて明記された。が、その表現をめぐって土壇場で攻防があった。文書案では当初、石炭の使用を「phase out(段階的に廃止)」という表現になっていた。しかし、合意採択を協議する最後の全体会議でインド代表がこれに反対した。飢餓の削減に取り組まなくてはならない発展途上国にとって、石炭使用や化石燃料を段階的に廃止する約束はできないと主張。インドの主張を中国も支持し、石炭産出国のオーストラリアも賛同した。議論の挙句に「phase down(段階的な削減)」という表現になった。

   真鍋氏はこの土壇場での表現の変更をどう思っただろうか。ノーベル賞発表後にプリンストン大学で記者会見が開催され、会見動画がYouTubeでアップされている。その中で、記者から日本からアメリカに国籍を変えた理由をこう述べている。

   I never wrote single research proposal in my life. So I got all computer I want to use, and do whatever I pleases. So that is one reason why I don’t want to go back to Japan, because I’m not capable of living harmoniously.(意訳:私は生涯で一度も研究提案書を書いたことがない。それで、使いたいコンピューターを全部手に入れて、好きなようにしています。だから、私は日本に帰りたくないのです。なぜなら、私には日本人のような協調する生活ができないからです)

   この文言から察するに、真鍋氏は周囲を気にせず、自分の好きな研究に没頭するタイプだろう。悪く言えば自己中心的。日本社会のように気配りや忖度する社会環境に馴染めず、「Yes」か「No」で済むアメリカ社会が自分に適していると判断した。このような頑なな研究者に石炭の使用を「phase out」か「phase down」と問えば、当然、前者だろう。真鍋氏は 「They should think about more how decision-makers and research scientists communicate with each other(政策決定者と研究者がどのようにコミュニケーションをとるかをもっと考えるべきだ)」と憤っているのではないだろうか。

⇒31日(金)午後・金沢の天気      ゆき

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