金沢の北部にある小坂地区はレンコンの産地で知られる。先日行くと、一面にハス田が広がり、白く大きなハスの花が咲き誇っていた。花を眺めていると心が洗われるというか、霊験あらたかな想いに浸るから不思議だ。
友人たちと入った蕎麦屋は周囲をハス田に囲まれた、趣きのあるたたずまいだった。家屋は旧加賀藩の農家の特徴といわれた「東造り(あずまづくり)」の建築様式だ。切妻型の瓦屋根は、建物の上に大きな本を開いて覆いかぶせたようなカタチをしている。黒瓦と白壁のコントラスを見上げながら、玄関を入る。店内には簾戸(すど)が並んでいて、これもどこか懐かしい雰囲気が漂う。
案内された席に座り、せいろ、天ぷら、さば寿司を注文する。待つ間に、中庭を眺める。枯山水の庭だが、じつによく手入れされていると感心した。なにしろ、雑草一つ生えていない。店員に尋ねると、毎朝、庭の清掃から一日の作業が始まるのだとか。そんな話を聴くと、妙に禅寺の雰囲気が漂う。
蕎麦が出てきた。福井県今庄町のソバ生産農家から仕入れている。この店のを蕎麦はソバ粉を9割の配合で打つ、いわゆる「九割そば」。風味と香りが楽しめる。つゆも醤油味が濃いめで独特の甘みがある。(※写真2枚は「穂乃香」公式ホームページより)
話は冒頭のハス田に戻る。「蓮(はす)は泥より出でて泥に染まらず」という教訓めいた言葉がある。水面下はドロ沼ではあるが、清らかで美しく咲く姿に、いにしえより人々は自らの人生を想いながら、苦境であっても人生の花を咲かせたいと願ってきたのだろう。
「黎明の雨はらはらと蓮の花」(高浜虚子)。明け方に雨が降り、蓮の池からパラパラと葉を打つ音がした。蓮を見ると花が咲いていた。花を見に来いと蓮が伝えてくれたのだろう。泥中の蓮の奥深い魅力ではある。
⇒22日(土)夕・金沢の天気 はれ