自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★変わる光景、変わらぬ光景~2024能登地震・豪雨 その2~

2024年12月26日 | ⇒ドキュメント回廊

  能登の光景がダイミックに変わったのは総選挙(10月27日投開票)ではなかっただろうか。「自民党王国」と称されていた石川3区で立憲民主の近藤和也氏が自民の西田昭二氏を破り、4期目の当選を果たした。開票結果は近藤氏が7万7247票、西田氏は6万1308票と、その差1万5939票の大差だった。西田氏は比例復活で3期目の当選となった。

    「なんで選挙、ダラくさい」有権者の気持ちつかんだ立民候補

  「なんで選挙なんかするんや、ダラくさい」。元日の震度7の地震と9月の記録的な大雨に見舞われた能登の有権者の率直な気持ちはこのひと言に象徴されていた。「ダラくさい」は能登の方言でばかばかしいという意味だ。その気持ちは投票行動でも表れていた。石川3区の投票率は62.5%と、前回2021年より3.5ポイント減少した。中でも、地震と豪雨の二重被害となった輪島市では11.9ポイント減の58.9%、同じく珠洲市では9.5ポイント減って62.0%だった。避難者が現地から離れていて、投票に行けなかったというケースもあったろう。それにしても、この減少率は「ダラくさい」の気持ちがにじみ出ているように思えた。ただ、それでも都市部より投票率は高く、金沢市の石川1区は49.5%だった。

  では、なぜ近藤氏が「自民党王国」で勝利したのか。その選挙活動はじつにユニークだった。選挙期間中は防災服姿で、名前入りのたすき掛けもしていなかった=写真・上=。近藤氏は七尾市での出陣式(10月15日)で「与党も野党も関係なく、助け合わなければならない時期。選挙なんてやっている場合か。それが能登の総意だと思う」と憤りの声を上げていた。選挙実施への反発の意味を込め、選挙期間中は防災服姿で、たすき掛けをしないことを宣言した。

  選挙活動は実にアクティブだった。震災後に整備された6000戸余りにもなる仮設住宅を足しげく回り、被災者の声を実際に国会論戦などで反映させていた。地震と豪雨の二重被災の奥能登(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)へは選挙期間中にそれぞれの自治体を2回ずつ回った。「まだ能登は大変なんだと全国に訴えていきたい」と述べていた。

      西田氏の選挙演説も聴きに出かけた。輪島市町野町の仮設住宅での遊説だった=写真・下=。防災服姿の西田氏は自らも被災して家族は仮設住宅で生活していると話し、「あまりにも被害が大きく、復旧復興には時間がかかる。どれだけ環境が変化しても、能登に住む方にとってここは大切な場所。安心してふるさとで暮らせるよう、住宅の再建や生業(なりわい)の再生に、『出来ることは全てやる』『やらなければならないことは必ずやる』との強い思いをもって全力で取り組む」と述べていた。

  西田氏の選挙カーのウグイス嬢はマイクのボリュームを低めに「よろしくお願いします」と叫んではいたものの、「被災されお亡くなりになられましたご遺族の皆様へ心よりお悔やみを申し上げます」とのフレーズも何度か入れていた。被災地に気配りをした遊説だった。

      結果的に能登の有権者の気持ちをつかんだのは近藤氏だった。自民党派閥のパーティー収入不記載事件を受け、選挙戦では「政治とカネ」の問題に関心が高まったことが追い風だった。そして、「なんで選挙なんかするんや、ダラくさい」と能登の有権者の気持ちを代弁したことが共感を得たのだろう。

⇒26日(木)夜・金沢の天気    くもり


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