自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★国連に届いた性加害問題 芸能界とメディアはどう対応

2023年08月07日 | ⇒メディア時評

   日本のメディアの問題点は国内で語られることが多かった。それが国連機関によって指摘されるとは意外だった。各国の人権を巡る状況を調査する国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家チーム(2人)は7月24日から8月4日にわたり、日本を公式訪問した。チームは東京や大阪、愛知、北海道、福島などを訪れ、省庁や地方自治体、市民団体、労働組合、人権活動家、企業、業界団体代表などと会談し、政府と企業が人権上の義務と責任にどう取り組んでいるかを聞き取りした。また、ジャニーズ事務所の創設者である故ジャニー喜多川氏の性加害問題についても被害者から聞き取りを行った。

   最終日の4日に日本記者クラブで記者会見した。以下、会見で印象的だった内容をいくつか。その一つが、「声明文」として出したコメントの中で、日本のエンターテインメント業界に「性的な暴力やハラスメントを不問に付す文化」があるとの言及した点だった。「文化」とまで言い切った声明文なので、相当の物証や根拠があったということだろう。確かに、「知ってはいるけど、関わらない」と見て見ぬふりする文化がある。

   そして、コンプライアンス体制の整備に「透明な苦情処理メカニズムを確保することが必要」と求めている。故ジャニー喜多川氏の性加害問題は2003年の東京高裁の判決で「性加害がある」と認定されている。この事実を知りながら一切伝えてこなかったメディア業界、とくにテレビ、ラジオ、新聞、雑誌は「その罪は大きい」と指摘されても当然だろう。

   作業部会の専門家チームは、2024年6月に国連人権理に報告書を提出すると伝えられているので、それまでにメディア各社は「透明性のある対応」と向き合っていくことで必要だ。たとえば、問題として指摘があった故ジャニー喜多川氏の性加害問題についてのメディアの責任と、経営者の受け止めについてまとめた文書を専門家チームに送付したほうがよいのではないか。

   専門家チームの記者会見後に、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」のメンバー7人も会見を行い、タレント数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれる深く憂慮すべき疑惑が明らかになった。彼らの訴えが芸能界の体質を大きく変え、メディアの体質も変える「最後のチャンス」なのかもしれない。(※記事の作成にあたっては、「月刊ニューメディア」編集部・出版局長の吉井勇氏からいただたメールマガジンを一部引用)

(※画は、バチカン美術館のシスティーナ礼拝堂のミケランジェロの天井壁画『最後の審判』=撮影:2006年1月)

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