自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「ビジネスと人権」 問われるテレビメディア

2023年08月08日 | ⇒メディア時評

   きょう「8月8日」は二十四節気の「立秋」にあたる。暑い盛りではあるが、秋の気配がほのかに見えるころだ。これ以降は夏の名残りの「残暑」と表現することになる。とは言うものの、この強烈な暑さには参ってしまう。きょうの金沢の予報は最低気温27度、最高気温が35度。同じ日本海側の新潟県糸魚川では、なんと午前3時34分に観測した最低気温31.2度だった(8日付・日本気象協会「tenki.jp」)。日中も日本海側では40度に迫るような危険な暑さとなるところもあるようだ。立秋とは名ばかり。

   前回のブログの続き。各国の人権を巡る状況を調査する国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家チーム(2人)が日本での調査を終え、今月4日に記者会見を行った。その中で、コンプライアンス体制の整備に「透明な苦情処理メカニズムを確保することが必要」と求めている。その典型的な事例として、故ジャニー喜多川氏の性加害問題は2003年の東京高裁の判決で「性加害がある」と認定されていたにも関わらず、この事実を知りながら一切伝えてこなかったメディア業界、とくにテレビ、ラジオ、新聞、雑誌は「その罪は大きい」と指摘した点だった。

   たとえば、フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)はまさにテレビメディアのコプライアンスが問われた典型的な事例ではないだろう。

   問題のシーンは、シェアハウスの同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れて縮ませたとして、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ」と怒鳴り、男性の帽子をとって投げ捨てる場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信「Netflix」で流され、SNS上で炎上した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及んだ。ところが、5月19日の地上波放送では、問題のシーンをカットすることなくそのまま流した。これが、SNS炎上をさらに煽ることになり、4日後に自ら命を絶った。

   リアリティ番組は出演者のありのままの言動や感情を表現し、共感や反感を呼ぶことで視聴者の関心をひきつけ、番組のSNSアカウントにフォロワーの獲得数としてそのまま数字として表れる。視聴率に代わる評価指標のバロメーターだ。番組の制作スタッフはここを狙っていたのだろう。つまり、ツートされたコメントの内容より、コメント数の多さにこだわった。なので、問題のシーンをあえてカットせずそのまま地上波放送で流したのではないだろうか。出演者の人権より番組ありきのテレビメディアの姿勢が浮かび上がった事件だった。

   事件がきっかけで、ネット上などで公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪は、「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」が加えられて厳罰化された。しかし、視聴率やコメント数などにこだわるテレビメディアの姿勢は変わっただろうか。

(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事から)

⇒8日(火)午前・金沢の天気    はれ時々くもり

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