自在コラム

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★猿曳き人生、村崎さん

2006年05月02日 | ⇒ドキュメント回廊
 「あなたはサルのおかげで人間の大ザルとめぐり会えたんや」。作家の故・司馬遼太郎からこう声をかけられたことがあるそうだ。山口県周防を拠点に活動する「猿舞座(さるまいざ)」の村崎修二さん(58)と2日、あすから始まる金沢大学での猿まわし公演と文化講演の打ち合わせをした折りに出た話だ。

 村崎さんの大道芸はサルを調教して演じるのではなく、「同志的結合」によって共に演じるのだそうだ。だから「観客が見ると相棒のサルが村崎さんを曳き回しているようにも見える」との評もある。相棒のサルとは安登夢(あとむ)、15歳のオスである。村崎さんは「こいつの立ち姿が見事でね、伊勢の猿田彦神社で一本杉という芸(棒の上で立つ)がぴたりと決まって、手を合わせているお年寄りもいたよ」と目を細めた。

 同郷の民俗学者・宮本常一(故人)から猿曳きの再興を促され、日本の霊長類研究の草分けである今西錦司(故人)と出会った。司馬遼太郎が「人間の大ザル」とたとえたのは今西錦司のことである。商業的に短時間で多くの観客に見せる「猿まわし」とは一線を引き、日本の里山をめぐる昔ながらの猿曳きを身上とする。人とサルの共生から生まれた技。そこを今西に見込まれ、嘱望されて京都大学霊長類研究所の客員研究員(1978-88年)に。ここで、河合雅雄氏らさらに多くのサル学研究者と交わった。

 うぐいすの谷渡り、輪くぐり、棒のぼり、コイの滝登り同志的結合で間合いを見ながら演じること90分。玄人うけする芸だ。江戸時代の英一蝶(はなぶさ・いっちょう=1652-1724年)の絵を持っている。「生類憐(しょうるいあわれ)みの令」を揶揄(やゆ)して、伊豆・三宅島に島流しされたことでも知られる絵師だ。その反骨の絵師が描いた猿まわしの絵には、サルが長い竹ざおの上でカエルに化けて雨乞いをする姿が描かれている。中世、渇水期の里山で雨乞いの儀式にサルを舞わせたのが猿曳き芸能のルーツではないかともいわれる。「その当時の芸を再興してみたい」(村崎さん)と自らのライフワークを語る。

 猿まわしは3日と5日、それぞれ午前11時と午後3時から。金沢大学創立五十周年記念館「角間の里」で。3日は午後5時30分から同所で「日本の里山と猿曳き芸能」と題する村崎さんの講演がある。入場は無料だが、大道芸だけに投げ銭を用意してほしいと主催者からの要望。それに演じるのがサルだけにイヌの同伴はご遠慮を。安登夢が気が散って演技に集中できないらしい。

⇒2日(火)午後・金沢の天気  くもり

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