自在コラム

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★トランプ政権に傾くSNS経営者 ファクトチェックは死語となるのか

2025年01月20日 | ⇒メディア時評

  1月20日はアメリカのトランプ氏が大統領に復帰する日だ。メディア各社の報道によると、トランプ氏は就任後、ただちに100本に及ぶ大統領令に署名し、不法移民の強制送還や関税の引き上げなど選挙公約の実現に向けて動き出すようだ。その一方でトランプ氏の大統領復帰に合わせるかのような動きも報じられている。IT大手メタ社のザッカーバーグCEOは今月8日、アメリカ国内のフェイスブックやインスタグラムなどで行ってきた投稿内容のファクトチェック(事実確認)を廃止すると発表した。

  メタ社はこれまで119ヵ国のファクトチェック団体と提携し、60を超す言語でファクトチェックを実施してきたことで知られる。廃止対象となるアメリカでは、これまでAFPやUSAトゥデイなどの通信社を含む10のファクトチェック団体と提携してきた。それを解消するという。この背景で浮かぶのがトランプ氏との関係の修復を図ろうとするザッカーバーグ氏の思惑のようだ。(※写真は、ファクトチェックをめぐるザッカーバーグ氏の大きな変化は、自己防衛なのか、それとも影響力を期してのことなのか、と報じるCNNニュースWeb版)

  そもそもプラットフォーマーがフェクトチェックに動いたはトランプ氏の投稿がきっかけだった。2020年5月、ツイッター社は当時のトランプ大統領がカリフォルニア州知事が進める大統領選挙(同年11月)の郵便投票が不正につながると主張した投稿について、誤った情報や事実の裏付けのない主張とファクトチェックで判断し、「Get the facts about mail-in ballots」とタグ付けして警告を発した。さらに、同じ5月にミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系アメリカ人の男性が警察官に首を押さえつけられて死亡する事件が起き、抗議活動が広がった。このとき、トランプ大統領がツイートした内容のうち、「略奪が始まれば(軍による)射撃も始まる」との部分が個人または集団に向けた暴力をほのめかす脅迫に当たると同社は判断し、大統領のツイッターを非表示とした。

  アメリカでは、SNS各社は通信品位法(CDA:the Communications Decency Act )230条に基づき、ユーザーの違法な投稿をそのまま掲載したとしても責任は問われない。だからといって、ヘイトスピーチなどを野放しにしておくわけにはいかないというのがSNS各社のスタンスだった。そして、トランプ氏とSNS各社の緊張関係がピークに達したのが、2021年1月だった。大統領選に敗れたトランプ氏の支持者らによるアメリカ連邦議事堂への襲撃事件。トランプ氏は暴徒を「愛国者だ」などとメッセージを投稿したことから、ツイッターやフェイスブック、グーグルなど各社は公共の安全が懸念されるとしてトランプ氏のアカウントを相次ぎ停止した。

  風向きが変わったのは、実業家イローン・マスク氏が2022年10月にツイッター社を買収してからだ。マスク氏は「言論の自由を重視する」として同年11月にトランプ氏のアカウントを復活させている。さらに、当時8000人とも言われたツイッター社のスタッフの8割をリストラした。この中には偽情報や誤情報対策を担っていたチームも含まれ、ファクトチェック部門は解体に追い込まれた。2023年にはツイッターは「X」に改名された。Xは誤情報への対策として「コミュニティノート」を導入している。登録した一部の利用者は、誤っている投稿に対して情報を追加できる仕組みだ。

  こうした流れの中で、メタ社のザッカーバーグ氏もフェイスブックやインスタグラムなどで行ってきた投稿内容のファクトチェックを廃止すると発表。まずはアメリカで止め、偽情報に対してはXと同様のコミュニティノートで対応する考えを示した。

  ファクトチェックは言論を弾圧しているわけでもなく、むしろ情報の透明性を重視するプラットフォーマーの行動規範ではなかっただろうか。今後、マスク氏が政権の中枢に入り、SNSがさらに変容していくのか。そして、ファクトチェックは死語となってしまうのか。

⇒20日(月)午後・金沢の天気   くもり


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