「身を粉にして働いても…..........」
非正規の44歳、最低賃金レベルに耐え続け25年。
2020年12月26日(土) 13:15 配信 =西日本新聞=
ぱさついた髪が波打つ。『少し天然パーマなんで。面接前に切らないと』。
今月、転職を決意した匠(たくみ)さん(44)、福岡県久留米市=は頭をかいた。
面接は身だしなみが大事だけど、理髪店には行かない。
節約のため自分で切る。19歳からずっと。
長く最低賃金レベルの給料で働き、そうしてきた。
今の職場は佐賀県にある食品工場。
今春から勤め、室温8~12度の中で味付けのライン作業につく。
次々と容器が流れてくるためトイレに行けず、水分は取れない。
なのに塩辛い品の味見が多く、具合が悪くなる。
時給は900円、賞与はない。
病気で全盲に近くなった母(74)と暮らすが、
年金は月1万円台で食費を1日1400円以下に抑える。
親子2人でこの額だ。
コロナによる不況で、早上がりが増えたため辞めることにした。
給料も減り、9月は手取り12万円、10月と11月は14万円ほど。
車はなく、通勤に月1万6千円かかるのが惜しい。
1日3時間働いただけで帰らされる同僚もおり、決断した。
新たな道も、険しい。ハローワークに行っても求人は39歳以下が多い。
情報誌も『365日、ずっと載っている会社ばかり』。
従業員がすぐに辞めていると思い、気が進まない。
これまでは年末、本業と掛け持ちでアルバイトをしてきた。
師走は時給のいい短期の募集があった。
勤務先で有給休暇を取り、バイトしたことも。
それがコロナの影響か、今年は数が少ない。
最近の健康診断で精密検査が必要とも言われた。
「もう無間地獄ですよ」。家計を考え、検査を受けるか迷っている。
なぜこんなことに、と時に思う。
高校生の頃に両親が離婚し、母と暮らし始めた。
高校卒業後に就職すると、母が重い病気に。
昼は通院に付き添うため正社員は望めなかった。
これまで働いた12社は、1社を除き全て非正規雇用。
社員登用があると聞いて入っても、実際はなかった。
生活費を稼ぐだけで精いっぱいで、資格を取る余裕もない。
約20年間、最低賃金に近い給料で耐えてきた。
だから、今年は最低賃金のニュースに落胆した。
コロナの影響で、金額は近年の大幅な増額から、
わずかな引き上げにとどまった。
『非正規の人は昇給がほぼない。
最低賃金が上がらないと、給料が上がる可能性はゼロなのに』。
年が押し迫っても求人に目を凝らす。
ある工場に電話し、早上がりがないか確認すると、担当者は口ごもった。
『会社って、必要な時間帯しか人はいらないんですね。
どこも生かさず殺さずですよ』。
雇用の調整弁として都合よく扱われる非正規労働者の悲哀を感じる。
高い給料も車もいらない。ただ母と静かに暮らしたい。
『もうそれだけでいいんです』。 新天地でかなうだろうか。
(河野賢治)
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最低賃金、20年度は1円増。
最低賃金は全ての働き手がもらう給料の下限額のことで、
都道府県ごとに異なっている。
毎年度見直され、
全国平均の時給は4年連続で20円台の増額が続いていたが、2020年度は1円増だった。
匠さんの場合、家がある福岡県の最低賃金は時給842円(本年度)、
勤務地の佐賀県は792円(同)と、居住地より安い地で働いていることになる。
額を全国一律にするよう求める声もある。 =西日本新聞=