谷口ジローさんがお亡くなりになられた。
前回、孤独のグルメのことについて書いたが、本当は違う漫画のことについて書きたかったのだ。
谷口ジローさんの訃報ニュースには、必ずと言っていいほど「孤独のグルメ」とセットのように書かれてるが、これにはちょっと不満があるの。彼の漫画の傑作は孤独のグルメだけではない。もう一つある。
「神々の山嶺(いただき)」だ。
俺が谷口ジローさんを知ったのは、この神々の山嶺という漫画。
夢枕漠さんの原作を漫画化したこの漫画は、エベレストに魅された男と、それを追いかけるカメラマンの話。
この漫画を専門学校時代によく行った喫茶店で紹介された。
この店は専門学校から5分くらいの町中にある喫茶店だが、漫画が壁一面に豊富に置いてあって、コーヒー一杯でゆっくり読ましてくれるから、昼飯やサボリ時・学校帰りにもよく通ってた。今でこそ漫画喫茶とかネットカフェみたいなのがあるが、当時はこういった漫画が豊富に置いてある喫茶店は重宝したのよ。
卒業後は疎遠になっていたのだが、あるときプロデュースを依頼された美容室が、この店及び専門学校の近くだったので久しぶりに寄ってみたの。
喫茶店は改装してたがまだ健在だった。もう何年も経ってたから覚えてないだろうなと思いつつ入ると、「あら?久しぶり」と声をかけられた。
記憶を必死に手繰り寄せて思い出すと、当時はまだ学生だった娘さんだ。親を手伝ってて今は二代目として切り盛りしてるみたい。
「いやぁ懐かしい」「今は何してるの?」「へぇ、頑張ってるんだ」などと喋りかけてきてくれるが、ごめん。こっちはほとんど覚えてないのだ。っていうより何でそんなに覚えていてくれるのだ?そんな覚えてもらえるようなキャラだったのか?俺。
コーヒー一杯で大量の漫画を昼間っから読み漁って粘ってたからか?いや、店の客はほとんどそんな人ばっかりだったはずだ。
当時の俺の服装は今と変わらず黒だったが、ニューウェーブやパンクファッションだったはず。金髪で前髪だけ赤色に染めて全部立ててたからか?当時では珍しく男のくせにピアスしてたからか?
今、あらためて思い出して書いてて思うが、若気の至りだな・・・。
そんな俺に二代目店主が「面白いよ、是非読んで」と教えてくれたのがこの漫画。神々の山嶺。
俺は登山どころかスキーもスノボもしない。寒いところが嫌いなせいもあるが、第一にあの格好が似合わないのだ。
その日の俺の格好は思い出せないが、多分雪山や登山には全くふさわしくない服装だっただろう。なぜこの本を勧められたのかは未だに疑問。
しかし、この漫画を読んでみて、一気にストーリーに入り込んだ。
圧倒的な画力で描かれる物語に引き込まれた。
主人公は深町という名の山岳カメラマン。
1993年エベレスト登頂隊に同行するも二人の滑落死者を出しアタックは失敗に終わる。帰国せずにあてもなくネパール・カトマンズの街を歩いてて、古物屋の店先で年代物のカメラを目にする。
「もしやこれはジョージ・マロリーの遺品?」
1920年代に世界初のエベレスト初登頂を目指したマロリーは、頂上付近で行方不明になり、その後何年も遺体も見つからなかった。マロリーはエベレストの世界初登頂を成功してたのかどうか、ずっと論議されていた。
そのマロリーのカメラだとすると、その真偽がここに映し出されてるかもしれない。早速購入したカメラだが、盗まれてしまう。
盗まれたカメラを追っているうちにビカール・サン(毒蛇)と呼ばれる男と出会う。かつて数々の登攀記録を持ち、1984年のヒマラヤ遠征でトラブルを起こし姿を消したクライマー羽生丈二だ。
帰国後に羽生のことを調べる深町。羽生はエベレスト最難関ルートの南西壁冬季単独登攀を目論み、その最中にこのカメラを発見したと推測する。そして彼がまた南西壁冬季単独登攀を狙っていることを知り、カメラの謎と羽生を追いまたもやエベレストを目指す。
ネタバレになるからこの辺でやめておくが、これらを谷口ジローさんは丁寧に、かつ迫力満点に描く。
雪山って漫画にするの大変だと思うのよ。
だって一面、まっ白でしょ。岩肌と空以外は白の世界よ。木や草だって標高が上がればどんどん少なくなってくる。視界を遮る吹雪や身動き取れないブリザード。雪崩やクレパスの脅威。抜けるような青空から一転してすべてを飲み込みそうな灰色の空。吐く息さえ凍るマイナスの世界。来るものを拒む壁。
それを描く。
登山どころかトレッキングもハイキングも御免被るこの俺が、「山っていいかも」とさえ思った。同時に「俺には無理だ」とも思ったがね。
一気に全巻読み終えた。
「エヴェレスト 神々の山嶺」が、2016年に映画公開されると発表された時に「あれ?この話なんで知ってるんだろう」って思った。そのあとすぐに谷口ジローさんの絵を思い出し、「あれを実写化できるのか?」と思った。一度しか読んでないのにそれくらいインパクト強かったのだ。
だから、映画は見なかったのだが、最近「岳」という石塚真一さんの漫画を読んで、また「山も面白いかも」なんて思ってしまったの。
石塚真一さんの「BLUE GIANT]という、JAZZサックスプレイヤーの漫画を読んで気に入って、過去の漫画を読んだんだけどね。アウトドアやキャンプは以外と好きなんだが、雪山登山なんか絶対今後もすることはないだろうけどさ。山の脅威とそれに登る人たちの情熱は感化させられた。こちらも雪に覆われた白の世界もきっちり描いてる。

で、「エヴェレスト 神々の山嶺」のDVDを借りて観た。
主人公のカメラマン(深町)を岡田准一、エベレストに魅された男(羽生)を阿部寛が演じてて、ありゃまぁすごい迫力。
これはこれですごいなぁ。谷口ジローさんの漫画の世界とはちょっと違うが、映像は圧倒的だ。
特にラストがすごい。漫画を読んでない人は是非映画を見てくれ。

石塚真一さんの「岳」も小栗旬主演で映画化されてるが、これはちょっと・・・だな。悪くないんだけど、これならスタローン主演の「クリフハンガー」の方が面白いかも。っていうか登山など縁がないくせに山映画観てるなぁ。

話は逸れてしまったが、谷口ジローさんの傑作は、孤独のグルメだけじゃないのだ。
この神々の山嶺、今は文庫版か電子書籍のKindleでしか読めないが、是非読んでみてほしい。
谷口ジローさん。ご冥福をお祈りします。
前回、孤独のグルメのことについて書いたが、本当は違う漫画のことについて書きたかったのだ。
谷口ジローさんの訃報ニュースには、必ずと言っていいほど「孤独のグルメ」とセットのように書かれてるが、これにはちょっと不満があるの。彼の漫画の傑作は孤独のグルメだけではない。もう一つある。
「神々の山嶺(いただき)」だ。
俺が谷口ジローさんを知ったのは、この神々の山嶺という漫画。
夢枕漠さんの原作を漫画化したこの漫画は、エベレストに魅された男と、それを追いかけるカメラマンの話。
この漫画を専門学校時代によく行った喫茶店で紹介された。
この店は専門学校から5分くらいの町中にある喫茶店だが、漫画が壁一面に豊富に置いてあって、コーヒー一杯でゆっくり読ましてくれるから、昼飯やサボリ時・学校帰りにもよく通ってた。今でこそ漫画喫茶とかネットカフェみたいなのがあるが、当時はこういった漫画が豊富に置いてある喫茶店は重宝したのよ。
卒業後は疎遠になっていたのだが、あるときプロデュースを依頼された美容室が、この店及び専門学校の近くだったので久しぶりに寄ってみたの。
喫茶店は改装してたがまだ健在だった。もう何年も経ってたから覚えてないだろうなと思いつつ入ると、「あら?久しぶり」と声をかけられた。
記憶を必死に手繰り寄せて思い出すと、当時はまだ学生だった娘さんだ。親を手伝ってて今は二代目として切り盛りしてるみたい。
「いやぁ懐かしい」「今は何してるの?」「へぇ、頑張ってるんだ」などと喋りかけてきてくれるが、ごめん。こっちはほとんど覚えてないのだ。っていうより何でそんなに覚えていてくれるのだ?そんな覚えてもらえるようなキャラだったのか?俺。
コーヒー一杯で大量の漫画を昼間っから読み漁って粘ってたからか?いや、店の客はほとんどそんな人ばっかりだったはずだ。
当時の俺の服装は今と変わらず黒だったが、ニューウェーブやパンクファッションだったはず。金髪で前髪だけ赤色に染めて全部立ててたからか?当時では珍しく男のくせにピアスしてたからか?
今、あらためて思い出して書いてて思うが、若気の至りだな・・・。
そんな俺に二代目店主が「面白いよ、是非読んで」と教えてくれたのがこの漫画。神々の山嶺。
俺は登山どころかスキーもスノボもしない。寒いところが嫌いなせいもあるが、第一にあの格好が似合わないのだ。
その日の俺の格好は思い出せないが、多分雪山や登山には全くふさわしくない服装だっただろう。なぜこの本を勧められたのかは未だに疑問。
しかし、この漫画を読んでみて、一気にストーリーに入り込んだ。
圧倒的な画力で描かれる物語に引き込まれた。
主人公は深町という名の山岳カメラマン。
1993年エベレスト登頂隊に同行するも二人の滑落死者を出しアタックは失敗に終わる。帰国せずにあてもなくネパール・カトマンズの街を歩いてて、古物屋の店先で年代物のカメラを目にする。
「もしやこれはジョージ・マロリーの遺品?」
1920年代に世界初のエベレスト初登頂を目指したマロリーは、頂上付近で行方不明になり、その後何年も遺体も見つからなかった。マロリーはエベレストの世界初登頂を成功してたのかどうか、ずっと論議されていた。
そのマロリーのカメラだとすると、その真偽がここに映し出されてるかもしれない。早速購入したカメラだが、盗まれてしまう。
盗まれたカメラを追っているうちにビカール・サン(毒蛇)と呼ばれる男と出会う。かつて数々の登攀記録を持ち、1984年のヒマラヤ遠征でトラブルを起こし姿を消したクライマー羽生丈二だ。
帰国後に羽生のことを調べる深町。羽生はエベレスト最難関ルートの南西壁冬季単独登攀を目論み、その最中にこのカメラを発見したと推測する。そして彼がまた南西壁冬季単独登攀を狙っていることを知り、カメラの謎と羽生を追いまたもやエベレストを目指す。
ネタバレになるからこの辺でやめておくが、これらを谷口ジローさんは丁寧に、かつ迫力満点に描く。
雪山って漫画にするの大変だと思うのよ。
だって一面、まっ白でしょ。岩肌と空以外は白の世界よ。木や草だって標高が上がればどんどん少なくなってくる。視界を遮る吹雪や身動き取れないブリザード。雪崩やクレパスの脅威。抜けるような青空から一転してすべてを飲み込みそうな灰色の空。吐く息さえ凍るマイナスの世界。来るものを拒む壁。
それを描く。
登山どころかトレッキングもハイキングも御免被るこの俺が、「山っていいかも」とさえ思った。同時に「俺には無理だ」とも思ったがね。
一気に全巻読み終えた。
「エヴェレスト 神々の山嶺」が、2016年に映画公開されると発表された時に「あれ?この話なんで知ってるんだろう」って思った。そのあとすぐに谷口ジローさんの絵を思い出し、「あれを実写化できるのか?」と思った。一度しか読んでないのにそれくらいインパクト強かったのだ。
だから、映画は見なかったのだが、最近「岳」という石塚真一さんの漫画を読んで、また「山も面白いかも」なんて思ってしまったの。
石塚真一さんの「BLUE GIANT]という、JAZZサックスプレイヤーの漫画を読んで気に入って、過去の漫画を読んだんだけどね。アウトドアやキャンプは以外と好きなんだが、雪山登山なんか絶対今後もすることはないだろうけどさ。山の脅威とそれに登る人たちの情熱は感化させられた。こちらも雪に覆われた白の世界もきっちり描いてる。

で、「エヴェレスト 神々の山嶺」のDVDを借りて観た。
主人公のカメラマン(深町)を岡田准一、エベレストに魅された男(羽生)を阿部寛が演じてて、ありゃまぁすごい迫力。
これはこれですごいなぁ。谷口ジローさんの漫画の世界とはちょっと違うが、映像は圧倒的だ。
特にラストがすごい。漫画を読んでない人は是非映画を見てくれ。

石塚真一さんの「岳」も小栗旬主演で映画化されてるが、これはちょっと・・・だな。悪くないんだけど、これならスタローン主演の「クリフハンガー」の方が面白いかも。っていうか登山など縁がないくせに山映画観てるなぁ。

話は逸れてしまったが、谷口ジローさんの傑作は、孤独のグルメだけじゃないのだ。
この神々の山嶺、今は文庫版か電子書籍のKindleでしか読めないが、是非読んでみてほしい。
谷口ジローさん。ご冥福をお祈りします。
