ゴルフ惑星

ゴルフの楽しさを享受するメルマガ『Golf Planet』のキャプテンc-noこと、ロマン派ゴルフ作家篠原の徒然。

ショートショート完結編

2009年12月13日 00時10分00秒 | その他

昨日の続き、本日で終了です。

『グリップの穴 その3』
ゴルフをしていれば楽しいこともあれば、辛いこともある。
でも、X氏にとってゴルフは楽しいことばかりだった。

グリップの穴に話しかけ、グリップの中に味方がいると信じてプレ
ーするゴルフが辛いことを忘れさせてくれていたのだ。

例えば、ナイスショットだったのにライが悪かったり、キックする
方向が悪い方ばかりだったり、入ったと思ったパットは蹴られてし
まったり…… どうしようもない不運が続くことは誰にでもある。
こういう負のスパイラルは、前の失敗を引きずることが次の失敗を
産む隙になることで発生する。

X氏は、不運があってもグリップの穴に愚痴を一言だけいえば、そ
れでスッキリとしてしまうので、失敗を引きずる連鎖をしにくいの
だ。

ここまでは、X氏でなくとも、グリップの穴の秘密を信じれば体験
できる。
X氏は、そういうわかりやすいメンタル面のプラスだけでなく、と
てつもない神憑り的なプレーを連発したのだ。それは、まさにゴル
フの神様に愛された男という感じで、多くの人から羨ましがられて
いた。



X氏は、グリーンでの芝笛がラインを教えてくれた出来事で学習し
たのだ。
『やっぱりズルはいけない』
ラインを確認してもらってから打つパットが決まるのは当たり前で、
それに嫉妬した人を狂わせてしまった可能性もあるし、そういうこ
とを想像できる自分も嫌だった。

グリップの穴は、その後も、直接的に選択肢を選ぶように質問して
きたり、暗に芝笛で何かを伝えようとしたりしてきたが、X氏は笑
顔で『気持ちだけ受け取っておきます』と断ったのだ。

だから、X氏は神憑り的なプレーを実力の内だと受け入れていた。
取引も、依怙贔屓もないという自信があったからだ。

グリップの中では、X氏が贈り物の力を辞退するたびにその評価を
上げていた。
欲望に負けて駄目になっていくゴルファーばかりを見てきたので、
X氏の存在は新鮮だったのだ。

結果として、X氏の意図とは別にグリップの中ではX氏に次々に力
を与えたのである。
過去にそういう例はいくつかあった。
彼らは例外なく世界の頂点を極めたゴルファーになった。
とは言え、その力はなんらかの事件や理由があって寿命のかなり前
に消えてしまうのだった。

X氏は、町の中で一番上手いというただのゴルファーのまま過ごし、
史上初めてその力を死ぬまで維持した。
逆に言えば、力を持ったのに世界一にならなかった唯一のゴルファ
ーになったのだ。

グリップの中では1つの結論に到達した。
力を持った時点で世界の頂点を目指そうというところまでは欲望と
は言えないと考えていたが、X氏のように全く競うという気持ちも
ないような人が本当の無欲なのだろう、と。

グリップの穴の奥にあるのは極楽だという人もいれば、地獄だと忌
み嫌う人もいる。
触らぬ神に祟りなしという考え方が常識かもしれない。

ただ1つだけ言えることは……
グリップの穴は世界中のゴルファーの味方である。
ただし、その力を実感できるかどうかは、その使い手の日頃の行い
と心根によるのである。

(おわり)


コメント
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