ひさしぶりにJ. K. ガルブレイスの『ゆたかな社会』(岩波現代文庫)を読んでびっくりした。40周年記念版への序文に「企業の福祉」という言葉を見つけたからだ。さっそく、原典を図書館で借りだすと“corporate welfare”の訳で、本当にそういう言葉がアメリカにあるのだ。辞書を引くと、“money or aid given by the government to help a large company”とある。大企業を政府が財政援助したり、その研究開発を支援したりすることをいうのだ。
この序文は出版40年目の1998年の改訂に際して書かれたものである。私の記憶では、そのころ、日米経済摩擦が日本政府の全面降伏で決着し、アメリカ経済界が中国とのビジネス・チャンスに目を輝かしていた頃である。政治的決着は、日本政府がアメリカの農産物輸入の関税障壁をなくし、アメリカの兵器を日本政府が購入し、日本メーカーが自動車をアメリカで生産するようにしたことである。また、政府の動きと別に、アメリカ企業はトヨタの生産システムを徹底的に研究し、自信を取り戻したときである。
この時期に、政府が大企業を直接助ける「企業福祉」という考え方も、アメリカ社会に根を下ろしたとは知らなかった。ただ、当時、私の目には、まだ、ITではアメリカの優位性が崩れておらず、知的所有権を日本や中国に守らせば、世界の富がアメリカに集中するとみんなが思っていたような気がする。
当時、日本では、中国を低賃金の労働市場と見ていたが、アメリカ人と話すと、中国を巨大な商品市場になると見ていた。アメリカ企業は、商品市場開発に、中国系アメリカ人をつぎつぎと中国に派遣した。
ところが、2010年代になると、アメリカと中国との間の経済摩擦が起き始めた。そして、トランプ政権は、中国をアメリカの経済的脅威と位置づけ、HUAWEIの製品を西側陣営の政府が購入しないように、働きかけた。そればかりか、カナダ政府にHUAWEIの副社長を逮捕させた。
バイデン政権は、このトランプ政権を引継ぎ、中国を最大の敵国と位置づけ、「経済安全保障」という言葉をつくり、自分たちを正当化している。決して、中国が非民主的国だから、敵視しているのではない。アメリカは多くの非民主的国を友好国としている。エジプト、タイなどである。また、香港で起きている事態をこの間見殺しにしてきた。
アメリカ政府は「企業の福祉」の名のもとに大企業のための政治を行う。
岸田政権は、このアメリカ政府の「経済安全保障」を日本でも実施しようとする。なぜ、立憲民主党はこれに反対しないのか、不思議である。いまの党執行部はバカの集まりなのか、それとも「企業福祉」の応援団なのか。
大企業を支援する政府が民主的とは思えない。「経済安全保障」は民主主義国家がとるべき政策ではない。