昨日のつづきである。『<侵略>と<戦争>を考える』朝日新聞のオンラインで日本近代史の加藤陽子は、ウクライナ侵攻におけるプーチンの誤りは、ウクライナの過小評価であるとし、ウクライナ政府はロシアの侵攻を予期し、準備していたと言う。彼女はどう準備していたか言わなかったと思うが、敵地攻撃能力や抑止能力ではないことは明らかである。
私が思うに、準備していたのは、ウクライナに属するという意識と侵略に抵抗する力である。ウクライナはソビエト連邦の崩壊で人工的に作られた国である。ウクライナ人というものは存在しない。ウクライナ語を「話す人」と、ロシア語を「話せる人」との数は同じぐらいだったと思う。
ウクライナは歴史的にはコサック(カザーキ)の地だが、ニコライ・ゴーゴリ(1809-1852年)の小説を読むと、コサックはみんな黒い髪、黒いひげ、黒い眉、黒い瞳となっている。長いキセルでタバコを吸い、酒好きである。現在、テレビに出てくるウクライナの人の髪の色はいろいろである。ときたま、コサック風の髪形の若者を見かけるが、少数である。
第2次世界大戦後、ポーランドとの国境が西に移動したためか、ポーランド文化もウクライナ国にはいってきている。ウクライナのキリスト教に限っても、東方正教、カトリック、その他と多様である。東方正教は過去の民族主義運動と絡んで、モスクワの正教から独立している。
ウクライナのいる人々は働き場所を求めて、たまたま、流れて込んできた人々の子孫と言える。
私が言いたいのは、彼らがウクライナを自分の国として選択したのは、民族主義的な感情ではないという事実である。自分の生き方を他国の大統領に命令されたくないということである。自分の生活を他国の大統領に壊されたくないということである。
日本が、国民の生命を守るに必要な最小限の軍備しかもたないとしてきた、この国是を変える必要がない。
〈日本国憲法第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
○2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。〉
自分の言い分を通すために他国に侵攻しないという憲法は世界に誇るべきものだと思う。そういう憲法をもたない国と同盟をもつのは間違っている。自由民主主義(リベラル・デモクラシー)を外国に押しつけるアメリカとは同盟関係をもてないと思う。
このリベラル・デモクラシーがいかがわしいのは、アメリカやイギリスのリベラルが「私的所有」のことを意味するからである。ジョン・ロックの『統治論』を読んで、じっさい、びっくりしてしまった。人間関係に上下がないという意味の「自由」ではなく、自分の私財を守るという意味の「自由」であったからだ。この点では、ホッブスのほうが「まっとう」である。気前のよくない金持ちは身をほろぼすと『リヴァイアサン』で言っている。
憲法学の長谷部恭男は、日本の守るべき価値は「リベラル・デモクラシー」や「まっとうな議会制民主主義」と言っている。
この「議会制民主主義」にも いかがわしい点がある。
宇野重規は、『民主主義とは何か』(講談社現代新書)のなかで、歴史的には「議会制民主主義」は、統治が国民の多数派に押し切られないために、ヨーロッパで導入された、と書いている。選ばれた代表が政治を行う仕組みでは、選ぶ過程をコントロールすれば、既得権益を守ることができるからだ。しかも、日本や多くの国々では行政府がいろいろな恣意的な決定権をもっている。さらに、日本の法律では、その施行の詳細が、政令、省令、通達で決めることができるようになっている。政令、省令、通達が国会で紛糾したと聞いたことがない。「安定与党」を確立しているので、議会制民主主義が機能していない。
宇野はデモクラシーの根本は「平等」であるという。「直接民主主義」の現実的な代替とならなければ、ダメな「議会制民主主義」である。その意味で、デモに参加することの意義を教えない、中学の公民の教科書は何なのかと思う。
右翼的と思われている育鵬社の『新しいみんなの公民』が「デモ行進」を表現の自由として書き、横浜市が採用した中庸の東京書籍にはその記述がない。(ブログ『公民の中学教科書の「自由権」について東京書籍と育鵬社を比べる』)
侵略には「抵抗する力」がだいじなのである。侵略しても維持できないとわかっていれば、侵略をためらう。これこそ、本当の抑止力である。
中国を仮想敵国として、中国に反撃する(中国を攻撃する)軍備を抑止力をもつとか、核を共有する(核兵器をアメリカが日本に配備する)とかではなく、日本が本当の民主主義国になるのが先ではないか。
また、その間、現実的な対処として、政治学の杉田敦のいうように、攻撃されれば壊滅的災害を起こす原発を廃止するとか、地下壕を整備するとか、攻撃を受けても耐えられるインフラを整えるべきである。
日本の防衛予算をGNPの2%以上にあげるという、自民党、日本の維新の会、国民民主党の方針に私は反対である。
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