最近、テレビは、ナショナリズムの暴走に、腰が引けているのではないか。日韓関係の悪化を憂いなければいけないのに、ムン・ジェイン大統領の悪口を言って憂さを晴らしているように見える。TBSの『ひるおび』がとくにおかしい。「国に誇りをもとう」の安倍晋三が暴走して、政府間の争いに、両国民を巻き込むという、とんでもないことをしでかしているのに、コメンテーターの誰もがそれを止めようとしない。
問題の本質を考えてもらうために、今年の2月22日に他で書いた小論を、ここで、もう一度載せる。
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昨晩、BS1スペシャル『中国「改革開放」を支えた日本人』(再放送)に思わず引き込まれ、遅くまで見てしまった。
中国の経済改革開放を支えた一人が、新日鉄会長の稲山嘉寛であったという。彼は、中国に恩義を感じているとも言っていたが、尽力した他の日本人と同じく、戦前、日本が侵略した中国の人々に申し訳ない気持ちがあり、それゆえ、当時の難しい日中関係のなかで、最新の製鉄所を上海の宝山に建設するのに尽くした。無償で技術を提供したという。
その新日鉄(現在は新日鉄住金)が元徴用工問題で韓国の裁判所に訴えられ、最高裁まで争い、今年の1月30日に新日鉄は負けた。ひとりあたり、およそ1000万円の支払いが命じられた。
よくわからないのは、新日鉄は、裁判で何を争い、そして、判決が出たのに、どうして従わないのかである。
思うに、稲山が生きていたなら、進んで賠償金を支払ったのではないのか。安倍晋三が総理大臣でなければ、不満があろうとも、新日鉄は、韓国の最高裁の判決に従ったのではないだろうか。すくなくとも、韓国のムン・ジェイン大統領の悪口を日本政府関係者が公の場で言わなかったのではないか。それは、日本の公人が韓国の民主主義をバカにすることだ。
日本での報道にもとづくかぎり、新日鉄側は、事実問題や損害賠償額で争っていない。戦前の新日鉄は、韓国からの徴用工に、労働の正当な対価を支払ったのか、強制労働はなかったのか、休憩時間を適切に与えていたのか、が事実問題である。そして、それに呼応して、損害賠償額が大きすぎるのか、いくらならば適切なのか、を争うのが本筋だと思われる。
ところが、報道では、新日鉄が、1965年の国交正常化の際に締結された日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」という立場で、裁判を争ったとのことである。
訴えられているのは徴用工を雇った日本の私企業で、訴えているのは雇われた徴用工である。政府間の問題ではない。常識的に考えて、法廷戦略が根本的におかしかったのではないか。
しかも、日本政府関係者から現在のムン・ジェイン大統領への非難が出てくるとは、前大統領パク・クネと安倍晋三首相の間に密約があったのではないか、と疑いたくなる。パク・クネは、軍事クーデターで大統領になった独裁者パク・チョンヒの娘である。1965年の日韓請求権協定を結んだのは、パク・チョンヒである。日本政府関係者は、韓国の司法制度をバカにしていたのであろう。
昨日、元銀行家と食事をともにして話しをした。判決の損害賠償額は、新日鉄にとって、払えない額ではない、とのことである。新日鉄は、安倍晋三にまとわりつく極右に気兼ねせず、払って終わりにしてよいのではないか。
国際政治学者の藤原帰一は、2日前の朝日新聞夕刊の「時事小言」のなかで、厳しさをます日韓関係に憂いて、次のように書く。
「歴史問題では謝罪の有無が繰り返し議論されてきた。日本政府が謝罪を行ったと私は考えるが、何が起こったのかを知らなくても謝罪はできる。謝る前に必要なのは、何が起こったのかを知ることだ。」
藤原帰一は本質を押さえている。私の親の世代は、中国、韓国に後ろめたさを感じたり、あるいは、謝罪を口にしたり、するが、大日本帝国政府が近隣諸国に具体的に何をしたのか、話さない。私の親の世代が口にするもおぞましいことを、大日本帝国政府がしたのは、聞かなくても、私の世代には肌で伝わる。ところが、私の世代の次の世代になると、言葉にされていない事柄は伝わらないのだ。
自虐史観とか馬鹿げたことを言う奴がいるが、いかに、口にしたくない残虐行為だろうが、事実は事実で、伝えないと、安倍晋三にまとわりつく極右の連中のように、慎重さを欠く行動をしてしまう者が出てくる。
自衛隊の哨戒機が韓国軍にレーダー照射されたということも、哨戒機がわざわざ韓国護衛艦に近づいて、挑発したからではないか。そうでなければ、ことをメディに公開して、騒ぎを大きくすることを防衛庁がしなかったはずである。微妙な日韓関係を考え、秘密裏に、事務レベルで再発防止策を話し合えば良かっただけである。騒ぎたい奴が防衛庁にいたのである。
4年前の3月に外務省北東アジア課が出した「日韓関係の基本的考え方」には、次のように書かれていた。
「良好な日韓関係は、アジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠。時に困難な問題が起きるとしても、大局的な観点から、政治・経済・文化の各分野で、重層的で未来志向の協力を進めることが重要。」
その通りである。今も同じである。
3日前のNHKの時事公論で、出石直NHK解説員が次のことを指摘する。
「去年、日本を訪れた韓国人は750万人を越えました。韓国を訪れた日本人と合わせると年間1000万人以上が往来していることになります。」
民間レベルでは、韓国と日本との距離が縮まっているのだ。彼はまた、次の事実を指摘する。
「(韓国は)かつては日本に大きく引き離されていた経済力や国際社会での発言力も身につけて『日本何するものぞ』という意識が芽生えてきているのかも知れません。」
実際、昨年、韓国のGDPは世界第11位になっている。また、韓国の貿易相手国に大きな変化が起きている。2000年は、韓国の貿易額の20%が米国、16%が日本、9%が中国であった。ところが、昨年は、24%が中国、12%が米国、7%が日本となっている。さらに、前国連事務総長は、韓国籍のパン・ギムンである。日本人が国連事務総長になったことはない。
ドル建で日本のGDPをみると、安倍政権時になって減少している。すなわち、安倍政権になってから、日本の国際的な地位は劣化一方で、トランプのご機嫌をうかがうように、安倍晋三は、トランプをノーベル平和賞に推薦している。
国力が他国に追いつかれるのは仕方がないが、日本は他国に尊敬される国であってほしい。着地点を見据えない国際紛争をわざわざ起こさないでほしい。
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