きのうの朝日新聞に上司が部下と「1on1(ワン・オン・ワン)ミーティング」という記事が載っていた。塾の宣伝に「1対1指導」とよくあるから、メンター(mentor)のことかと思ったが、そうでなく、上司が部下と1対1で相談する時間を定期的に作ることと知ってげんなりした。しかも、それは、社員の「主体性・自律性の向上」「自律的キャリア形成の支援」「評価の納得性の向上」を目標にするという。
自分を「評価」する上司に、部下が「主体性・自律性の向上」「自律的キャリア形成」の悩みを定期的に相談できるだろうか。何か、日本企業の社員管理に不可解なものを感じる。
アメリカの法人格の企業ではどんなふうに社員管理を行っているか、ここでは、私の個人的経験をもとに、紹介したい。
法人格の企業は定款をもっている。会社はどんな理念で経営しているかを明確にする。すなわち、個人商店ではなく、社員はみんな共同経営者になる資格があるのだから、経営の理念を共有するために、会社は定款を作成し、おおやけにする。
その意味では、法人格の企業は「結社」である。
一般的なことに関しては、入社後も定期的に研修を行う。そこで、「主体性・自律性」を会社が肯定していることを、企業の理念とともに再度確認する。
仕事上の悩みは、オープン・ドア(open door)と言って、いつでも、上司の部屋にはいって、1対1で相談できる。本当の上司は、部下が他の部下に見られずに相談できるよう、自分の部屋を持っている。アメリカ映画でよく見る風景である。
しかし、コーチングや「自律的キャリア形成」はメンターによって行われる。メンターはwise and trusted adviser and helperのことである。メンターは、当然、上司ではない。原則として、利害の絡まない会社の先輩である。会社内の他の組織の一員でも良い。私は日本にいてイギリスの社員のメンターを頼まれたこともある。ある程度、社内のキャリアがあがればメンターを自分で選べる。
アメリカの歴史ある企業は、定款だけでなく、メンターを通じて、社風を守ろうとする。特に言葉で言えない企業の共同利益を守ろうとすれば、メンター制に頼るしかない。
先日、1993年のアメリカ映画『ザ・ファーム 法律事務所』を見ていたら、ジーン・ハックマンが新入社員トム・クルーズのメンター役をやっていた。firmとは会社のことを言う。トム・クルーズが演じる新入社員が入った会計事務所は、マフィアの税金逃れを助けている。メンターの仕事はトム・クルーズがFBIの脅しに屈せず、会社の真の一員(悪の仲間)となるよう導くことである。
そう言う点では、メンターは洗脳係や監視役の要素がある。真の「主体性・自律性」は会社から精神的に独立することである。
部下の立場からこれまでアメリカ企業の人事管理を述べてきたが、上司の立場からの制度に、他組織から着任したときの、部下全員との面談がある。100人ぐらいの部下がいても、1、2か月かけて全員と面談する。そうやって、着任した組織の仕事ぶり、特に問題の箇所を把握する。もっと大きな組織を担当するとなると、タウンミーティングといって、各事務所ごとに社員を集めて、自由に意見を交換する。当然、そこで不満が飛んでくるのだが、組織の上に立つのだから、それに答えなければならない。
日本の「1on1ミーティング」は馬鹿げている。「オープン・ドア」で充分なことである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます