青山潤三の世界・あや子版

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近所の森の蝶 3(下)

2021-12-10 09:00:00 | コロナ 差別問題と民主化運動 身近な自然


近所の森の蝶 3(下)

タテハチョウ科Nymphalidae つづき(ジャノメチョウ亜科Satyrinae)

ジャノメチョウ亜科についての補足。小さめの中型種が多い。大きさ、翅の輪郭など、全体的印象はシロチョウ科に似る。主に草本イネ科を食し、比
較的緩やかに飛ぶジャノメチョウ型の種と、翅先が尖り敏速に飛び回るタケ・ササ食のヒカゲチョウ型の種がある(系統分類とは必ずしも一致し
い)。ジャノメチョウ亜科は、日本でも世界でも種数が多く、タテハチョウ科全体の1/3ほどを占める。種分化が進んでいる、ということである。
往々にして、食草のイネ科植物共々地味な外観から、印象的に“原始的な存在”に結びつけがちだが、その実態は、イネ科植物同様に(生物年代的
に見れば)近年になって一気に展開した、新しいグループの生物である。ジャノメチョウ科の多くの種に離島や高山などでの特化集団が数多く見ら
れるのは、そのことに起因する。

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クロコノマチョウ Melanitis phedima 睇暮眼蝶


東京都青梅市霞丘陵2021.9.7

本州の都市近郊に40年前にはいず、今は普通に見るようになった蝶の代表的存在はアカボシゴマダラとクロコノマチョウだろう。本種に関しては温暖化による現象と一般に捉えられている。しかし(ナガサキアゲハなどの項でも同様の意見を述べたが)必ずしもそうとは言い切れないのでは?本種の本来の分布南限は屋久島。中琉球(奄美群島、沖縄本島)を挟んで、次は八重山、台湾、中国南部など。日本に於ける分布圏はさほど広いわけではない。南の地域から北上した、というよりも、拡大した、と捉えた方が良いのではないか?近年奄美大島や沖縄本島にも見られるようになっていることは、それを示唆しているように思える。大きめの中型種。食草はイネ科各種。より南の地域に広範囲に分布し以前から北方への飛来が数多く観察されているウスイロコノマチョウに(ことに越冬個体で)酷似する。雌雄差は微小。裏面斑紋は著しく多様。年数化。成蝶越冬。フィールド日記5.14/6.14/9.7/9.8/9.28/9.29/10.11/10.28/10.30。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


ジャノメチョウ Minois dryas 蛇眼蝶


兵庫県上郡町1987.9.25

今回の探索行で出会えなかった蝶のひとつ。どうやら、ちょうどこの蝶の棲む環境(河原や林縁の草叢や荒れた空き地など)に、同じサイズのクロコノマチョウが置き換わって増えているような気がする。クロコノマチョウは、アジアの南半部に分布し、ジャノメチョウはユーラシア大陸に広域分布する種。例えば、キチョウとモンキチョウ、ヤマトシジミとルリシジミの関係にもよく似ている。その理由が「温暖化」ひとつに集約されるとは著者は考えていないが、何らかの気候変動に関連することは確かなようだ。大きめの中型種。北海道~九州に分布。台湾の高山蝶ナガサワジャノメは本種にごく近縁な種である。食草はイネ科各種。年1化、夏の盛りに出現する。幼虫越冬。花を訪れるほか、樹液や腐果での吸汁も行う。雌はより大型で色彩が淡い。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


ヒメウラナミジャノメYpyhima argus 东北矍眼蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.4.22

霞丘陵で最もポピュラーな蝶のランキングをつけてみた。1位候補にはキチョウやヤマトシジミも挙げられるが、出現時期が年の後半に偏っている。早春と晩秋を除く一年を通して途切れることなく、かつ様々な環境で数多く姿を見かける、ということで、ヒメウラナミジャノメを最普通種として推したい。やや大きめの小型種。翅裏の波模様で他種と間違えることはない。遠目にはシジミチョウ科の種とやや紛らわしいが、独特のリズミカルな飛翔から、すぐに本種と分かる。分布圏が極めて限られる同属種のウラナミジャノメとは、後翅裏面の眼状紋が本種では上に2個(ウラナミジャノメでは1個)、下方に3個(同2個)であることで区別できる。雄は前翅表基部の脈が膨らみ、雌は眼状紋周辺が淡くなる。北海道~屋久島に分布。年数化。食草はイネ科やカヤツリグサ科の各種。花を好んで訪れる。フィールド日記4.20/4.22/4.24/5.6/5.14/5.23/5.29/5.30/6.1/6.8/6.15/6.26/7.10/7.17/8.11/8.27/9.7/9.8/9.10/9.19/9.20/9.28/10.2。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


サトキマダラヒカゲNeope goschkevitschii 日本荫眼蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.5.14 春型オス

ジャノメチョウ亜科は、外観上ジャノメチョウ型の種とヒカゲチョウ型の種に分かれる。前者は翅型が丸く緩やかに飛び、明るい環境を好んで花をよく訪れる。後者は翅柄が角張り敏速に飛び、林内を好んで樹液に集まる。前者の代表的種がヒメウラナミジャノメ、後者の代表的種がサトキマダラヒカゲ。両種とも最普通種であるに関わらず「ヒメ」とか「サト」とかを冠した長い和名を持つことは興味深い。キマダラヒカゲ属は広く捉えればヒカゲチョウ族に含まれるが他の各属の種が静止時に翅を開くことも多いのに対し、本属の種は静止時には絶対に翅を開かないという、日本産の蝶の中でも数少ない特殊な性質を持つ。大きめの中型種。雄は翅表に性標を持ち、雌は翅型がやや広い。裏面の斑紋は世代や地域によって多様。年2化。幼虫越冬。食草はイネ科のメダケ属。北海道~九州に分布する日本の固有種。フィールド日記5.14/5.23/5.25/5.30/6.1/6.8/6.9/6.14/6.15/6.18/6.20/6.24/8.11/8.19/8.20/8.22/9.7/9.8/9.10/9.19。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


ヒカゲチョウ Lethe sicelis 日本黛眼蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.6.8

厳密な意味では蝶類中唯一と言ってよい正真正銘の日本固有種。他にも日本固有種は何種か存在するが、“種群”単位で見れば対応種が大陸などに分布している。本種は対応種(姉妹種)が世界の何処にも存在しない。そのような意味では日本の“国蝶”としても良い。が、いかんせん余りにも地味である。本州、四国、九州北部に分布。大都市近郊でも普通に見られるが郊外に向かうにつれ数が少なくなるように思える。しかし日本アルプスの深い渓谷などには豊富に棲息し、分布の二極化の傾向が見て取れる。食草はイネ科の主にメダケ属(山間部ではササ属)。年2化。第1化は同所に混在するサトキマダラヒカゲより半月ほど遅く、第2化も僅かに遅い。幼虫越冬。成蝶は樹液に集まる。やや大きめの中型種。後翅裏面中央の濃色条が眼状紋の下辺で大きく屈曲しないことがクロヒカゲとの確実な区別点。雄は翅表が濃く基半が特殊鱗で覆われる。フィールド日記5.30/6.1/6.8/6.9/6.24/8.20/8.27/9.7/9.10/9.19/9.28/9.29。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


クロヒカゲ Lethe diana 黛眼蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.5.14

都市近郊を含む低地から山岳地帯まで密に棲息、北海道(北限はサハリン)から九州南端まで広く分布するが、何故か千葉県には産せず、霞丘陵を含む東京の西郊にも普通に見られるのにも関わらず、多摩川以東には分布しない。日本海側の島嶼には分布、太平洋側の島嶼には分布を欠き、伊豆御蔵島には特化集団が隔離分布する。南西諸島や台湾にも分布せず、大陸部での詳細は不明。姉妹種は台湾産オオシロオビクロヒカゲLethe mataja、大陸産ではLethe laodamia(共に雄の性標と鱗粉や眼状紋の関係が非常に興味深い)。食草はイネ科ササ属。ヒカゲチョウやサトキマダラヒカゲ(山地帯ではヤマキマダラヒカゲやヒメキマダラヒカゲも加わる)と混棲するが、より暗所を好む。年3化。幼虫越冬。樹液、腐果で吸汁。翅をよく開く。後翅裏最上部眼状紋の下縁の暗色条線が強く屈曲。雄は性標を持つ。フィールド日記5.14/5.23/6.1/6.8/6.9/6.16/6.18/6.24/7.10/7.17/9.8/9.10/9.19/9.28/10.2/10.3/10.6/10.11/10.20/10.30。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


ヒメジャノメ Mycalesis gotama 稻眉眼蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.9.29

日本の各地で極めてポピュラーな蝶のひとつだが、何故か霞丘陵では秋が深まるまでは一度も出会わなかった(写真下の個体は住宅街で撮影)。小さめの中型種。コジャノメに酷似するが、全体の色が淡く、黒味を帯びない。また、翅裏面を縦に貫く白帯はコジャノメのように紫色を帯びず、帯の外側と内側の色調が均質。雌雄差は僅少だが、雄は後翅基方の翅脈が膨れ、特殊鱗粉の塊を有し、その位置や形状がコジャノメとは異なる(後翅表前縁基部寄りの長毛束は余り目立たないが、その周辺が顕著に変色する)。コジャノメとは対照的に明るく開けた環境を好む。雄はしばしば卍巴飛翔を行う。北海道の大部分を除く日本各地に分布、奄美大島以南の南西諸島産は別種リュウキュウヒメジャノメとされる。食草はイネ科やカヤツリグサ科各種草本。通常花には来ず、樹液や腐果を好む。東京周辺ではおそらく年3化(幼虫越冬)。フィールド日記6.1/9.28/9.29/10.11/10.20。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


コジャノメ Mycalesis francisca 拟稻眉眼蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.4.23

霞丘陵で最も多い蝶のひとつで、鬱閉した雑木林や照葉樹林の内部でも見ることの出来る数少ない蝶である。小さめの中型種。ヒメジャノメに酷似するが、翅地色全体が濃黒褐色で、裏面中央を縦に貫く白帯が薄っすら紫色身を帯び、その外側の部分は内側の部分とやや色調が相違する。雌雄差は僅少だが、雄は後翅基方の翅脈が膨れ、特殊鱗粉の塊を有し、その位置や形状がヒメジャノメとは異なる(前翅表内縁中央付近に黒色鱗粉塊、後翅表前縁基部寄りに良く目立つ明色の長毛束を有す)。本州~九州に分布。南西諸島には分布しない。食草はイネ科の各種。花には来ず、樹液や腐果を好む。年3化(幼虫越冬)。第1化はヒメジャノメよりやや早く出現。後翅裏面の眼状紋は、第1化でより小さく、第2化以降でより大きい。第3化は白帯がやや太く、内側と外側の地色の差が比較的少ない。フィールド日記4.23/5.6/5.14/5.25/5.29/5.30/6.8/6.11/6.16/6.24/6.28/7.12/7.20/9.7/9.8/9.10/9.20/9.28。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


≪参考≫ウラナミジャノメ Ypthima motschulskyi 东亚矍眼蝶
Ypthima属は日本に2種が分布し、ひとつが最普通と言えるヒメウラナミジャノメ。もうひとつが“ヒメ”が付かない(しかし大きさには差がない)ウラナミジャノメ。こちらは多くの地域でほぼ絶滅状態に陥っている。首都圏でも神奈川県西部などに棲息していたが、現在は絶滅。京阪神地域でもかつては都市周辺に多くの産地があったが、絶滅または激減している。九州南部や対馬には多産地する地もある。本土産雄の前翅表に性標があるが対馬産ではそれを欠く。大きめの小型種。年の発生回数は地域によって異なる。生態はヒメウラナミジャノメに準じるが、中国大陸の多くの地域では、ヒメウラナミジャノメよりむしろ本種(近縁別種とする見解もある)のほうがポピュラーである。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。






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