青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

朝と夜の狭間で~My Sentimental Journey 2012.1.11 中国Shenzhen

2012-01-11 10:01:58 | 朝と夜、その他



鼻の頭の右側が猛烈に痛く、七転八到の状況です。これまでの生涯に遭遇した最大級の痛みです(強い痛みが頭の芯の部分まで及んでいる)。滞日中の11月から、ほぼ10日置きに痛みが襲ってきて、その度に強烈度が増しています。今回の超弩級の風邪(喉、胸、頭ときて、鼻です)ともリンクしているようにも思うので、帰国して病院に行きたいのですが、保険証もないことだし、、、。

ともかく、ものを考えたり書いたりするのが困難な状況です。

今日、やっと杭州のTV局のZ嬢がやってきました。(杭州の)ギフチョウやヒグラシやアジサイや麦菜の話をしようと思ったのですが、バラエティ番組の担当だそうで、僕にとってはあまりメリットはなさそう。仕事とは関係なく、ただ日本人と友達になりたいということだけのようです。でも素敵な美女と2時間ばかり(鼻の痛みをこらえながら)楽しく話が出来たので、良しとしましょう(一応、今度杭州を訪れた際には、自然科学担当の方に橋渡しをしてもらえるよう頼んでおきましたが)。

先週援助可の連絡を下さった「旅」関係のE氏からメールがあり、明日2000円振り込んでくれるとのこと。宿泊費または薬代に充てることが出来るので感謝しています。

今日の昼、香港ボーダーの売店まで、日本に電話をかけに行ってきました。7か所に電話し、5か所が留守番電話、1500円以内の予算なので留守電はパスし、繫がったA書店M氏と、「旅」関係のS氏に救助を依頼。M氏からは、たぶん少額(数千円単位?)の援助が頂けると思う。S氏は電話口ではO.K.してくれたのですが、はたしてどうなるか、、、。

センッエンに停滞しているのは、香港でカメラを回収するのが目的で、あとは全く用事は無いのです。宿泊費がかかるだけ(他地方の倍)。一刻も早く台湾なり日本なりに移動した方が良いのだけれど、(カメラの回収はともかく)中国滞在より経費は掛かってしまいます。帰国後マクドナルドなどで仕事を探すにも、日払いでなくては(現実的には)意味がない。

アモイ(今、テンテンはアモイにはいない)からだと台北行き8000円ほどのチケットがあるそうで、当面の予算調達の後は、それで台湾に移ろうかとも考えていますが、台湾に行ってからの費用(物価は中国都市部の倍強、日本の半分近く)のことを考えると2の足を踏んでしまいます(沖縄でバイトを探すのも手かも知れませんが)。

いずれにしても、帰国があまり遅くなると、各出版社へのプレゼンも完全に間に合わなくなってしまうし、せっかく決まりかけている春の雑誌の仕事も駄目になってしまいかねません。それと、22日の春節が近づくと、身動きが取れなくなってしまう、それまでの中国脱出は必須条件でしょう。

明日、幾ばくかの振り込み連絡があることを神に祈るしかありません。そして、風邪と鼻の痛みが2~3日で直ってくれればいいのですが、、、、。

ということで、再度、読者の皆様にお願いします。まだ、「青山潤三ネーチャークラブ」に入会して下さっていない方で、常連読者の方がいらっしゃいましたら、どうか入会して頂きたいのです。

よろしくお願いいたします。


この後、「東洋のレタス“麦菜”の謎」の前半部を掲載しています(後半部は明日アップ予定)。
以前に紹介した内容を、縮小再編したうえで新たな情報を付け加えたもので、各メデイアあてのプレゼンテーションの一部として作成しました。すでに、某雑誌での掲載はほぼ決まっているのですが、出来れば複数のメディアで紹介することが出来れば、と望んでいます。読者の皆様のなかに、橋渡しの労を取って頂けるかたがいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。



海の向こうの兄妹たち~中国動植物探索記

第1部第2章 東洋のレタス“麦菜”の謎/野菜になった雑草・アキノノゲシ


左から、生菜(レタス)、油麦菜、苦麦菜 (中国深圳のスーパーで購入)

 
苦麦菜(アキノノゲシの改良蔬菜)の花

■“東洋のレタス「麦菜」”とアキノノゲシ

レタスLactuca sativaは、地中海周辺から西アジアにかけて分布するアレチヂシャ(トゲヂシャ)Lactuca serriolaを母種として、ヨーロッパで育種改良された野菜です。一方、東南アジアや東アジアには、同じ仲間の野生種アキノノゲシLactuca indicaが分布しています。日本をはじめ、台湾・中国大陸・インドシナ半島などの、路傍や畑の畔にごく普通に生えている雑草的植物です。でもこちらは、せいぜい豚や鶏の餌にするぐらいで、通常は人間の食用としては利用されていません。

ところが中国では、アキノノゲシ(の改良品種)が、立派な野菜として利用されているのです。名前は「苦麦菜」。その存在を知ったのは10年ほど前、当時は南部のごく一角のみで普及していたように思います。それがこの数年の間に、一気にメジャーになりつつあるのです。

一言で“麦菜(マイツァイ)”と言っても、明らかにアキノノゲシ由来と思われる“苦麦菜(甜麦菜)”、よりレタス(中国名「生菜」)に近いと思われる“油麦菜(香麦菜、甜油麦菜、春菜)”などがあります。それぞれの出自や、レタスやアキノノゲシとの具体的な関係については、分からないことだらけ。探ってみることにしました。

■中国の麦菜料理


広東省河源市のホテルで食べた麦菜の炒め物。左が「苦麦菜(甜麦菜)」、右が「油麦菜(香麦菜)」。生で食べると苦麦菜は苦味が強いのですが、茹でたり炒めたりすると、苦みは無くなります。油麦菜は余り苦みはないのだけれど、通常は生食することはなく、やはり茹でたり炒めたりします。もとより中国ではレタス自体が、一般には生食せずに茹でたり炒めたりして食べることが多いようです。苦麦菜は、人によってはその苦みゆえ敬遠されることもあるようですが、逆に苦みが人気の元になっているようにも思えます。しかし炒め物になると、苦麦菜と油麦菜の味は、ほとんど区別がつきません。前もって別のものであることを知っていれば、前者には野生の青味が、後者には薄っすらとした香りが感じられるように思います。いずれも、レタスと共通した独特のシャキシャキ感とトロ味があり、とても美味しいのです。


左:ベトナム国境に面した町・河口にて(油麦菜)。中:上掲の炒め物セットと一緒に出てきた甜麦菜・香麦菜入りの卵スープ。右:生菜(レタス)を茹でたスープいりウドン(深圳)。


火鍋(日本のシャブシャブ)、肉とともに麦菜(写真は油麦菜)を茹でるのがトレンドのようです(桂林)。





■日本においてキク科タンポポ連の野生種を食用とする例 【ホソバワダン】

レタスや麦菜類が含まれるアキノノゲシ属Lactucaは、キク科のタンポポ連(族)Cichorieaeという分類群に所属します。一言でいうと、広い意味でのタンポポの仲間です。タンポポ連が他のキク科植物と異なる点は、頭花(一輪の花に見える部分で実際は小さな花の集まり)を構成する一個一個の花(“小花”と呼びます)が、大多数のキク科植物では、中央に筒状の小花(筒状花)が集まり、その周囲に一辺のみが長く伸びた舌状の小花が取り巻く(ヒマワリを想い浮かべて下さい)か、全ての小花が筒状花からなります(アザミを思い浮かべて下さい)が、タンポポ連の頭花は全て舌状花から成っていることです。また、タンポポ連の全ての種は、葉や茎を千切ると「ラクチュコピクリンlactucopicrin」 と呼ばれる物質(軽い鎮静作用を持つ苦みなどの成分)を含む白い乳状の液体が出ることも、他のキク科植物にない大きな特徴の一つです。

タンポポ連を代表するのは、いわゆる「タンポポ」すなわちタンポポ属の種ですが、私たちが日常的に目にする“タンポポ”の多くは、日本に在来野生する種(カンサイタンポポ、シロバナタンポポほか)ではなく、国外から持ち込まれた帰化植物(セイヨウタンポポなど)です。元はと言えば野菜(葉をサラダに、根をコーヒーに利用)として導入されたものが、結局普及することなく、逸出して現在のように雑草化したという、他の帰化植物とは少々異なる歴史を持っています。

そのセイヨウタンポポはともかく、タンポポ連の野菜としては、レタス、チコリ、エンタイブ、バラモンジンなどがありますが、少なくとも日本に於いては、レタス以外はごくマイナーな存在で、一般に普及しているとは言い難いでしょう。

タンポポ連の大多数の野生種には、(苦みを伴った)独特の風味と歯触りがあることから、「春の七草」の“ホトケノザ”(タビラコ=コオニタビラコ)をはじめ、山菜として親しまれているものも少なくありません。しかし、マイナーな山菜として、あるいは家畜の餌として利用されることはあっても、最初に述べたようにレタスと同属のアキノノゲシ以下、メジャーな野菜とされるには至っていないのです。理由は単純で、一般には苦みが敬遠されることと、おおむね植物体が小さくて食べられる部分が少ないことから、苦みのない、大きな葉を持つアブラナ科の蔬菜が大量に普及している日本に於いては、わざわざ人間の食用として改良・利用する必要はなかったのでしょう。

しかし、アブラナ科の蔬菜も、元はと言えば移入植物です。それらが導入・改良され現在のように普及する以前には、日本独自の(生物学的な意味での真の日本在来種による)“蔬菜”もあったに違いありません。その中にはアブラナ科植物のほか、キク科タンポポ連の種もあったはずです。それらは、大陸からの移入蔬菜の普及とともに、次第に消えて行ったのでしょう。でも、本当に完全消滅してしまったのか? 今でも、どこかの地方に細々と受け継がれているのではないだろうか?

キーは「苦み」と「葉の大きさ」でしょう。「苦み」を受け入れる文化が残る地方に自生する、葉の大きな在来種、となると、九州の西海岸(北限対馬、東限山口県)から南西諸島全域(および台湾の一部)に分布するホソバワダンと言うことになります。アキノノゲシ同様、秋から冬にかけて花が咲き、やはり冬に開花するヤクシソウにごく近縁な種です。主な生育地は海岸周辺の岩場、あるいは低地の路傍の斜面など。野生種が水辺の岩場に生えていたらしい蔬菜といえば、アブラナ科のキャベツもそうでしょうね。岩場や水際に生育する植物の例に漏れず、肉厚の葉が充分に食べごたえを感じさせます。

と言っても、ホソバワダンの場合は、生で食べると相当の苦みがあります。したがって、身近に生えていても、苦みを嫌って食用とはしない地方も多いものと思われます。でも、分布圏の中心地・沖縄には、古くから“苦みを好む文化”があります。ここには、おそらく日本では唯一と言ってよい、タンポポ連の在来野生種(ホソバワダン)を、人間の食用とする風習が残っていて、「苦菜」の名で親しまれています。生で食べたり、和え物、お浸し、炒め物、丼の具など、さまざまな利用法があり、中国の「苦麦菜」同様、茹でたり炒めたりすると苦みは減少しますが、ゴーヤなど「苦み食」文化が根付いている沖縄では、あえて苦みを残したままの調理法が好まれているようです。普通、路傍や海岸に自生している葉を採取して、料理の材料としますが、那覇などの都会部では、栽培された、より葉の大きなものが、スーパーなどで販売されています。

なお、同じタンポポ連のアキノノゲシ(中国に於ける「苦麦菜」の原種)も、ホソバワダン(沖縄で言う「苦菜」)と同じ場所に野生が見られますが、葉が小さなためか、食用に具されることはほとんどないようです。ただし、西表島の大原では、「ウサギの耳」の名で、古くから食用として具されている、という情報も得ています。



沖縄県伊平屋島(Ⅰ) 民宿の食事で出てきた、「苦菜=ホソバワダン」の炒め物とお汁。近くの道端に生えている野生の葉を摘んできて調理したものです。


沖縄県伊平屋島(Ⅱ) 村の職員の方に、即興で、さまざまな調理法の「苦菜」料理を作っていただきました。


沖縄県西表島 大原のレストランで食べた丼の中に「苦菜」が。葉が大きいので、栽培品と思われます。写真のウエイトレス(地元の方)から、「苦菜=ホソバワダン」だけでなく「兎の耳=アキノノゲシ」も食用にする由を教えて頂きました。


沖縄県那覇市のスーパー(都心の高級住宅街の一角)には、「苦菜」が商品として並んでいました。沖縄でも、地域によって(あるいは人によって)食用としての「苦菜」の利用頻度は異なるようですが、中国の「麦菜」同様に、近年になって改めて人気が高まりつつあるのかも知れません。



■「油茶」

中国では、基本的に日本の大多数の地域と同様に、「苦み」を好む文化は余りないのではと思われます(でも日本の「緑茶」は苦み文化の極かも知れませんね、そのことについては改めて考察しましょう)。

これから述べる「苦麦菜」「油麦菜」は、前者は苦みの多い、後者は苦みの比較的少ない中国野菜です。その正体の結論を言うと(今の段階ではあくまで推論ですが)、「苦麦菜」は、東アジアに在来野生する「アキノノゲシ」を改良した中国野菜、「油麦菜」は、同じアキノノゲシ属の植物ではあっても、より「レタス」に近縁の(西洋の「レタス」とは別途に発展した)中国野菜。

ともに近年になって急速に普及し始めたようですが、実質的に「レタス」とほとんど変わらない「油麦菜」が全国的にメジャーな野菜となっている(らしい)のに対し、「アキノノゲシ」そのものから作成された、野生の苦みがより強く残る「苦麦菜」の方は、限られた地方のみで人気を得ているように思われます。

限られた地方とは、中国の南部一帯、広東省から広西壮族自治区にかけてと、その周辺地域。野生のアキノノゲシは、日本の場合同様、中国でも全国的に分布しているのではないかと考えられます。ではなぜ南部の限られた地域にのみ、改良野菜の“苦麦菜”が普及しているのか?

“油茶”という飲料があります。時間をかけて「茶油」と共に熱しながら擂り潰したお茶の葉に、お湯とお米(菓子米)とセリなどの香り葉や様々な具を入れた、お茶とお粥のハイブリッドのような飲み物。元々は少数民族の風習だったのでしょうが、一般の人々の間でも、朝、茶店のようなところで寛いで飲むのが習慣となっているようです。

常用される地方は、限られています。広西壮族自治区とその周辺地域。広西ネイティブのスーリンの談によると、この地域の人々には親しまれているのですが、大多数の地域の一般の中国人には、独特の苦みが敬遠されているのではないかとのこと。

そこで思い当たるのが“苦麦菜”。偶然かどうか、“苦麦菜”の普及地域と“油茶”の普及地域は、おおむね重なるのですね。この地域一帯(中国南部の広西壮族自治区周辺)に、沖縄と同様の苦みの文化が根付いているのかも知れません。

日本に於いても、苦みの文化の根付く沖縄でのみ、タンポポ連の野生種(ホソバワダン)が食用化されているわけで、大陸側のほぼ同緯度の(そのほかにも何らかの人文的・自然的共通要素を内包するのかも知れない)広西・広東一帯に、“苦み”を受容する食生活があっても不思議はありません。その一つが“油茶”であり、(ホソバワダンの分布を欠く大陸での)アキノノゲシの食用化(苦麦菜)と言うことなのでしょう。


写真は、梧州の“搖族茶店”にて。左:茶の葉に茶油を加え高温下で長時間かけ擂り潰していきます。右:擂り潰したお茶にお湯とお米と香りのあるセリなどの葉と香ばしい具を加えた飲みものが「油茶」です。一椀3元(40円弱)。ネットで調べたところ、最近では、桂林・柳州・南寧などの都会部においてブームになっているとのこと。スーリンにとっては子供のころから慣れ親しんだ飲料で、実際に飲んだことのある地域は、広西壮族自治区桂林市(広義)の、桂林市区、興安県(地元)、灌陽県、恭城県、平東県、および桂林市に隣接した湖南省南端部の城歩県(兄嫁の実家)。梧州は、油茶文化圏の東南端辺りに位置するのではないかと思われます。地域(や家庭)によって材料や製法が少しずつ異なり、スーリンの母親が作る油茶と、兄嫁の母親が作る油茶は、相当な違いがあるけれど、それぞれ非常に美味であると。

■中国のスーパー(深圳) 苦麦菜と油麦菜

中国南部の実質上の最大都市・深圳のスーパーには、苦麦菜・油麦菜・生菜(レタス)が、年間を通して並んでいます。“麦菜”類(キク科タンポポ連)と、アブラナ科の蔬菜の売り場面積は、ほぼ五分五分。ここに示したのはごく最近の写真ですが、冒頭に紹介した写真は5年前の撮影で、少なくとも当時から一般に普及していたものと思われます。


左から、苦麦菜、油麦菜、温室栽培油麦菜。各500gの値。1元ずつ高くなります(レタスは油麦菜と同じ500g2.98元)。


左から、生菜(レタス)、温室栽培油麦菜、油麦菜、苦麦菜。



(左)温室栽培油麦菜、(右)苦麦菜。

■中国の市場にて(広西梧州) 苦麦菜と油麦菜


梧州(広西壮族自治区)の露店市場。様々な野菜の中に、苦麦菜も油麦菜も生菜もあります。

僕が最初に“麦菜”の存在を知ったのは、2004年の秋、広東省の西部、広西壮族自治区に近い、陽春という町です。ある野生植物(屋久島固有種ホソバハグマの近縁種)の調査のため、陽春市(中国に於ける市は日本の県に相当する広さ)のあちこちを探索中、偶然遭遇したのです。以前から、日本列島をはじめとしたアジア各地に広く分布する、レタスと同属種のアキノノゲシを食用に利用している地域が、どこかにあるのでは?と考えていたものですから、非常な関心を持ちました。

その後、現地で見たアキノノゲシと同じ花の咲く“麦菜”は、よりローカルな中国野菜“苦麦菜”で、それとは別に、よりポピュラーでレタスに限りなく近い中国野菜の“油麦菜”が広く普及している(または普及しつつある)ことが判明。しかし、両者とも正確な由来や歴史については、今もって知り得ていません。前者は地域限定のマイナーな野菜であり、しかし上記した地域を中心に急速に普及しつつあること、後者は比較的古くから存在し認知度は遥かに高いと思われますが、こちらも急速に普及しだしたのは、近年になってかららしい、というのが実態のようです。“油麦菜”について言えば、現在では極めてメジャーな野菜となっています。でも、不思議な事に、日本に於いては、今のところ“苦麦菜”共々、何一つ情報がない。

興味は大いにあるのですが、中国語が堪能でないこともあって、実態がどうもよく分からないまま探究を据え置いてきたのです。昨年秋、改めてチャレンジを開始。まず陽春から150㎞ほど北の広東省境に近い広西壮族自治区南東部の地方中心都市・梧州を訪れた際、“麦菜”畑を探してみることにしました。梧州は、かつては“小香港”と呼ばれた、内陸部水上交通の要所です。毎日、朝からお昼頃にかけて、古き時代の面影を残すビルの谷間の道路いっぱいに、近くの畑で収穫してきたばかりと思われる野菜が所狭しと並びます。

以前、陽春の市場や街角でも同様の光景に出合ったように、道行く人々の多くが、購入した油麦菜や苦麦菜をぶら下げて歩いています。この地方での麦菜類の普及度は、数ある野菜の中でも1~2を争うポジションにあるようです。

苦麦菜は、葉の切れ込みが著しいものから、全縁で外観的には油麦菜と紛らわしいものまで、変異の幅が大きいようです。写真で見ると、葉の光沢の感じが明瞭に異なることが分かります。油麦菜も、苦麦菜に似た葉のものから、レタスに限りなく近いものまで様々、生で食べてみると、微妙に甘さや苦さの程度が異なるように感じられます。

【注:最近は、苦麦菜を“甜麦菜”と呼ぶことが多いようです。また、油麦菜にも“甜油麦菜”“春菜”など、様々な呼び名があるようです。麦菜類の呼称は地域によって相違があるらしく、ネット上に示された情報も、錯綜しているように思われます。】


左はアブラナ類、右上が油麦菜、右下が生菜。   中央上が生菜(レタス)、下は油麦菜(春菜)?


アブラナ類とタンポポ類(苦麦菜・油麦菜・生菜)。右写真左端はアブラナ。


油麦菜(だったと思う)。            苦麦菜。


右から、苦麦菜、苦麦菜、油麦菜、油麦菜、生菜、生菜。

■苦麦菜の畑(広西壮族自治区梧州市)2011.9.15-17

町の近郊にある苦麦菜の畑を訪ねてみました。畑の中のあちこちに、花や種子をつけた塔(字が違うと思いますが出てこないのでこれで通します)立ちの株が、無造作にポツンと立っていたり、一か所に固まって生えていたりします。一体、どのような意味があるのでしょうか? スーリンに言わせると「これは野生である」とのことですが、そうではないでしょう(一部の株は、勝手に生えている、と言うことで、広義の意味合いでの「野生」と言えなくもないのでしょうが)。

塔立ちの葉は、食用とする深い切れ込みのある葉と異なり、その多くが全縁で、先に近い部分まで幅広く、確かに“ウサギの耳”を思わせます。比較的若々しい葉を付けた集団から、枯れた葉を纏った集団まで様々、ところどころに苗床のような場所もあるようです。しかし全て苦麦菜で、油麦菜は見出し得ません。




畑の周囲の路傍にも、多数の苦麦菜が生えています。日本の野生アキノノゲシに比べて葉も茎も大ぶりで、畑からの逸出由来であろうことが推測されますが、畑の個体に比べ、切れ込みの多い葉の個体が目立ちます(スーリンは「野生」であると断言)。



■苦麦菜の畑?(西壮族自治区融水県汪洞鎮)2011.7.8/2011.9.29

梧州の畑では、苦麦菜ばかりで油麦菜は見つかりませんでした(理由を聞いてみたのだけれど、「今は無い」と言っているのか「ここには無い」と言っているのか、、、、よく分からなかった)。そこで、数か月ほど前(野生アジサイの探索中に)、確かに“油麦菜”と思われる株を見た(下2枚の写真)、広西壮族自治区北部(梧州の北西300㎞、桂林の西150㎞)の九万大山(融水県汪洞鎮)を再訪してみることにしました。



しかし改めて確かめたら、苦麦菜でした。

 

7月上旬。これぞ“油麦菜”と思っていたのですが、やはり“苦麦菜”とのこと。

以下、同地にて9月下旬撮影。全て“苦麦菜”。こんな風に生えていると、栽培なのか逸出なのか、よく分からなくなってきます。
スーリンに写真を見せた所、全て苦麦菜で、かつ野生だと言い張ります。一見した所では、油麦菜としか思えない幅広い葉の個体も多いのですが、花や種子は紛いなき苦麦菜。野生であるかどうかはともかく、苦麦菜であることは間違いないようです。それにしてもスーリン、写真を見ただけで、よく苦麦菜と油麦菜の区別がつくものです(全て当たっている)。




網や石垣で囲われているものは、間違いなく大事に栽培されているのでしょう。



花や種子をぎっしり付けた古い塔立ち個体と、幅広い葉の比較的若い塔立ち個体が混在しています。極めて細長い葉の個体もあり、野生アキノノゲシの“ホソバアキノノゲシ”のタイプに当るのでしょうが、野生種とは、どこか雰囲気が異なります。下段左写真の株の横に注目して下さい。種子を撒いた後の市販の袋が。栽培品は、一回一回市販の種子を撒いているのでしょうか?


■油麦菜の畑(湖北省恩施市)2009.5.5

苦麦菜の普及地は、中国南部の一部地域(広西・広東・海南島など)に限られているのではないかと想定されます。南や北に外れた地域ではどうなっているのでしょうか? やや南に外れたラオス国境手前の雲南省景洪市や、ベトナム国境手前の雲南省河口市、あるいは、やや北に外れた長江南方の湖北省恩施市で出会ったのは、どれも油麦菜であったように思われます。

湖北省西部の恩施市は、“中国の中心”に位置する町。長江の南、上海-武漢-重慶-成都と東西に走る国道318線沿いにあり、(屋久島と同じ北緯30度20分)、また、西安-桂林を南北に結んだ中間地点でもあります。周辺地域からは、メタセコイアを始めとした、様々な遺存生物が知られています。別項目で紹介する“白いレンゲソウ(オナガシロゲンゲ)”の観察地でもあります。写真は、恩施市郊外の油麦菜(現地の方に確認した)畑。スーリンも油麦菜に間違いないと断言、どうしてそう簡単に判別がつくのか不思議です。“苦麦菜”のほうは、主産地からはだいぶ離れているこの辺りまで、はたして勢力を広げているのでしょうか?


 
油麦菜。恩施市内のスーパーにて。2006年から販売を開始、と聞いています(右写真右から2個目は茎食の莴笋、左はレタス)。

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