青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

朝と夜の狭間で~My Sentimental Journey 2012.1.12 中国Shenzhen

2012-01-12 15:53:05 | 朝と夜、その他


読者の皆様への重ねてのお願いです。まだ「青山潤三ネイチャークラブ」に入会されていない方がいらっしゃいましたら、どうか入会して頂きたいのです。よろしくお願いいたします。


苦麦菜と油麦菜の畑(広東省河源市)2011.10.3/(広西壮族自治区梧州市)2011.12.25

苦麦菜の花は、畑にも路傍にも、あちこちに咲いています(道行く人に訪ねると、「これは“苦麦菜”の花ではない、菊の花だ」という答えが返ってきます、まだ認知度が浅いのかも知れません)。でも、油麦菜の花は全く見かけない。「油麦菜の花を見たい」とセンツェンの食堂で尋ねたら、「河源に行けば見ることが出来るかもしれない」と言われました。そこでセンツェンの北東約150㎞の地方中心都市・河源を訪ねてみました。結論を言えば、ここでも油麦菜の花は見ることが出来なかった。それに油麦菜自体の栽培は、なにも特定の地域を訪ねずとも、中国各地で行われているとのこと。ただし花を見るのは、なかなか難しいようなのです。

河源近郊の畑では、苦麦菜・油麦菜・生菜(レタス)がセットで栽培されていました。しかしここでも、塔の立った株に咲く花が見られるのは、苦麦菜ばかり。油麦菜はどれも若い株だけです。



油麦菜(上段右端は生菜=レタス)。油麦菜はどれも若い株で開花前には刈り取られてしまうようです(中段右)。苦麦菜は塔立ち株が整然と並んでいます(下段、手前は油麦菜の若い株)。


苦麦菜。右写真は「甜麦菜」と呼ばれる苦麦菜の品種。


下から:苦麦菜、油麦菜、生菜(レタス)   左から:生菜(レタス)、油麦菜、苦麦菜


生菜(レタス)          油麦菜             苦麦菜

梧州の畑では苦麦菜ばかり、と先に紹介したのですが、再訪して別の畑を訪ねたら、河源の畑同様に梧州の畑でも、苦麦菜・油麦菜・生菜がセットで栽培されていました。でも周辺の土手に生えていた花(種子)をつけた塔立株は、やはり苦麦菜だけです。


土手の反対側に畑が。全て若い株で塔立株は畑の内部には見られなかった。


放水の下は生菜(レタス)、大きな葉はアブラナ類の芥菜、その右に色の淡い苦麦菜、右奥が油麦菜。


手前2列が油麦菜、その対面に苦麦菜。どっちかが苦麦菜で、どっちかが油麦菜(だと思う)。



苦麦菜とアブラナ科の芥菜。        苦麦菜。右上方の色が異なるのは油麦菜。

以上に紹介してきたように、梧州や河源など中国南部の蔬菜畑には、苦麦菜・油麦菜・生菜(レタス)が揃って栽培されているわけですが、苦麦菜の方は畑の内部をはじめ周辺の路傍のあちこちに花をつけた塔立ち個体が見られるのに対し、油麦菜の塔立ち個体は全く見ることが出来ません。野生(在来)株と、栽培(管理)株、と逸出(放置?)株の、相互の関係がよく分からない。畑の内部に塔立ち株が整然と並んでいるのには、どのような意味があるのでしょうか? 塔立ち株が苦麦菜だけで、油麦菜のそれを見ることが出来ない理由と、何らかの関わりがあるのでしょうか?

ところで、河源の栽培地周辺の路傍に生えていた苦麦菜は、栽培品の逸出由来と考えて間違いなさそうな梧州や融水で見たそれと異なり、荒々しく葉の細く切れ込みの深い、野生のアキノノゲシそのものに極めてよく似た印象の個体ばかりです。はたしてこれは、在来の野生個体なのでしょうか? それともやはり畑からの逸出個体なのでしょうか?



葉が細く塔立ち後も切れ込みが顕著で、いかにも野生のアキノノゲシを思わせます。

■アキノノゲシ(日本産野生種)

日本産のアキノノゲシを紹介しておきます。たまたま、屋久島、奄美大島、伊平屋島、石垣島など、南方地域での撮影ですが、東京周辺をはじめとしたほぼ全国に普通に見ることが出来ます。また、台湾や中国大陸、東南アジアの各地にも、広く分布しているものと思われます(中国でも各所で野生株を撮影した記憶があります)。

アキノノゲシは日本産の在来野生種として扱われてきましたが、ネットの記述では“史前帰化植物”とされていることが多いようです。近年、人里に集中して分布繁栄する植物を、一様に“史前帰化植物”と見做す傾向があるようですが、この概念を安易に何にでも当て嵌めてしまうべきではないでしょう。人里での繁栄は、人によって持ち込まれたから、と考えるだけでなく、もともとの繁栄地が人里化した、という可能性も合わせて、双方向的に(かつ重層的に)考えるべきではないかと思っています。



   
野生のアキノノゲシ(屋久島、奄美大島、石垣島)


■苦麦菜の花(広東省~広西壮族自治区)2011年9月下旬

“苦麦菜”の頭花は、大きさもイメージもアキノノゲシそっくりです。アキノノゲシ由来であることは、間違いないでしょう。




舌状花は、通常(ほとんど白と言っても良い)ごく薄い黄色。雌蕊(with雄蕊)が鮮やかな濃黄色のため、離れた所からは、全体が卵黄色に見えます。個体による変異のほか、陽の当たり加減によっても黄色の濃淡が異なるように思われます。

■油麦菜の花?それともレタスの花?(雲南省香格里拉)2010年9月17日

アキノノゲシの花と同じ形状の苦麦菜の花にはいくらでも見つかるのに、何故か油麦菜の花には出会えないでいるのです。油麦菜の花は、市販されている種子の形から想定するに、レタスの花と同じ形状(またはごく似ている)ではないかと考えられます。

以前に撮影した写真を整理していたら、レタスまたは油麦菜系統の花と思われる写真が、意外なところから出てきました。雲南省香格里拉(標高3300m余)の、ゲストハウスの階段脇の花壇(?)の一角。2010.9.17。植えたものなのか、勝手に生えているのかは不明。レタスなのか、油麦菜なのか、はたまた別の種なのか。栽培種なのか、帰化雑草なのか、在来種なのか、それらも全く不明。広西や広東の苦麦菜撮影地に比べ相当に寒い地域ですから、一応レタスのイメージと相当します。以前に聞いたことのある“油麦菜の主産地は昆明”という話とも整合性が、、、。



知人の大学生、張さんから提供して頂いた“油麦菜”の花と塔立ち株の写真。バリエーションが、かなりあるようです。左端は苦麦菜の花かも知れません。3枚目はレタスそっくりだと思う。

■苦麦菜の種子(広東省~広西壮族自治区)2011年9月下旬

苦麦菜を、アキノノゲシ由来(おそらく種species単位での分類群としてはアキノノゲシそのもの)と断定した理由は、花だけでなく、種子(seed)の形状が相同であることに因ります。また、油麦菜が、レタスに非常に近縁である(種の単位では同一分類群に含められる?)と結論付けた根拠も、種子の形状の基本的な部分での相似に因ります(ただし、現時点では、実際に畑で栽培されている油麦菜とレタスの種子を比較したのではなく、市販の種子による比較なので、全ての“油麦菜”がこの例に当てはまるかどうかについては、今後のチェックを待たねばなりません)。

レタスや油麦菜の種子は、本体の周辺に扁平な翼を持たず(したがって概形は細長い)、10本前後の明瞭な溝が縦に走ります。一方、アキノノゲシや苦麦菜の種子には、扁平な翼が本体の左右に広がり、概形は楕円形となります。本体に生じる溝は中央の一本が太く、ほかは不明瞭です。

それらの特徴を重視して、従来のアキノノゲシ属Lactucaを複数の属に細分する見解に立てば、レタスは、原種と見做されるアレチヂシャのほか、地中海周縁部や西アジアなどに分布する多くの種と共に、狭義のLactuca(属の和名は「レタス属」または「チシャ属」)に、アキノノゲシは、ヤマニガナなどと共に、Pterocypsela属(細分した時の属の和名はこちらが「アキノノゲシ属」)となります。







“苦麦菜”は、種子の色や形もアキノノゲシと全く同じで、左右に広い翼を持ちます。綿毛を見ると、広い意味でのタンポポの仲間(キク科タンポポ連)であることが、よく分かります(広西壮族自治区梧州市および融水県汪洞、9月下旬)。


■苦麦菜・油麦菜・レタス・ヤマニガナ/種子の比較



左から、苦麦菜、油麦菜、生菜(レタス)。



苦麦菜          油麦菜              ヤマニガナ近縁種


苦麦菜の種子(中央のオレンジ色は、ヤマニガナ近縁種)。

アキノノゲシLactuca indica          濃色 翼がある
苦麦菜                    濃色 翼がある


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油麦菜                    濃色 翼はない
レタス(生菜)L. sativa            淡色 翼はない
アレチヂシャ(トゲヂシャ)L. serriola        淡色 翼はない

★『世界有用植物辞典/堀田満代表編集(平凡社)』の「Lactuca」の項に、日本に於けるアキノノゲシ(var.dracoglassa=龍舌菜)の利用は、食用・家畜の餌として併記されています。また、インドネシアのジャワ島では、「Kuban kayu」の名で食用野菜とされている由、アキノノゲシを食用とする具体的な記述に出会ったのは、これが初めてです。なお、同じ項目のレタスについての解説では、野菜としてのレタスは、L.serriolaに、L.salignas(地中海周辺地域などに分布)が交配されて作出された、となっています。



★『食べられる野生植物大辞典/橋本郁三著(柏書店)』という本の中に、沖縄(石垣島)で、アキノノゲシを食した感想が記されていました。「本土産は苦味が強いが、沖縄産は苦味がない、沖縄ではゴーヤなど苦味の強い食料が普遍化しているため、苦味に慣れ親しんで余り感じないのかも知れない」、というような要旨です(“苦味食文化圏”と“苦菜”類の普及の相関性については、僕自身も前に触れましたが、興味深いテーマだと思います)。

★野菜の種研究家の野口勲氏に頂いた販売種子のうち、「白かきちしゃ」の袋には、「日本古来の掻きちしゃ、原産地ははっきりしないが、奈良時代から日本にあり、江戸時代までは日本でチシャ(レタス)といえば、このカキチシャのことを指した」旨が記されています。もしかすると、この古い時代に日本に伝来した「カキチシャ」が、現在の中国の「油麦菜」に相当するのかも知れません。中国で購入した「油麦菜」は2品種とも黒い種子色、頂いた「白かきちしゃ」はレタス類一般と共通の白っぽい種子色ですが、レタスの種子には白黒両方があるようなので、色彩の相違は、さほど意味を持たないのではないかと思います。むしろ、同時に頂いた沖縄古来のチシャとされる「島ちしゃ菜」のほうが、種子に幾らか丸味があり濃色を帯びていて、他のレタスとは幾分雰囲気が異なるように感じられます。

★レタス&アレチヂシャ、アキノノノゲシの染色体数は、共に2N=18(レタスには2N=36の個体もある由)。アキノノゲシ(ヤマニガナ)属と、狭義のレタス(チシャ)属の間の交雑の可否について知りたいものです。

★日本でチェックし得た、野菜に関する書籍には、(7年前チェックした際と同様に)「レタス」の品種については数多くの記述があっても、(数百ページに亘る詳細な解説が成されている場合でも)「油麦菜」に関する記述は全くありません。それどころか、「中国野菜」についての専門書でさえ、(「苦麦菜」はむろん)「油麦菜」のことは一切触れられていないのです。何だか、狐に抓まれたような思いでいます。

今のところ判明したこと(●)と、残された疑問(■)。

●油麦菜は、種(species)としてはレタスLactuca sativa(または限りなく近い分類群)に所属。
●苦麦菜は、種(species)としてはアキノノゲシLactuca indica(または限りなく近い分類群)に所属。
●中国南部一帯(広西・広東・海南)では、両者とも年間を通し種(seed)を撒いて栽培し若菜を収穫する。
●花や種子を付けた塔立ち株が普遍的に見られるのは苦麦菜だけ。
●その存在意義については未詳。

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■苦麦菜のみ塔立株が普遍的に存在する理由は? 油麦菜の花や種子はどこに行けば見ることができるのか?
■畑の周囲に見られる苦麦菜の逸出(?)株と、野生株(≒アキノノゲシ?)との関係は?
■苦麦菜の栽培は、上記地域以外でどの程度行われているのか?
■油麦菜は中国の各地で広く栽培されている? それとも(苦麦菜ほどではないとしても)限られた地域のみ?
■苦麦菜、油麦菜は、それぞれ、いつの時代に、どこで改良されたのか?
■苦麦菜と油麦菜は、同じLactuca属でも系統はやや離れているが、両者の遺伝子の交流は?
■苦麦菜の普及は、ごく近年になってから? 発祥地は、陽春周辺? それとも別の地域? 
■苦麦菜の人気の実態は? 苦みが忌避される地域と、受容される地域があるのだろうか?
■油麦菜は中国に古くから存在していたのだろうか? 西洋のレタスとの関係は?
■油麦菜のブームは最近になってから?
■油麦菜は、現在の中国では大変にメジャーな存在なのに、書物などでほとんど紹介されていないのはなぜか?
■苦麦菜・油麦菜とも、日本では全く紹介が成されていない。どこかに記述は?


【参考】

中国でタンポポを食べる例 ①雲南省最北部の町・香格里拉(標高3300m)のバスターミナル脇2010.5.12。売り物だそうです。



中国でタンポポを食べる例 ②甘粛省天水市秦嶺2010.4.30。おばさん達が一生懸命摘んでいます。やはり食べるのだとのこと。


日本産のポピュラーなタンポポ連雑草(全て屋久島にて)。右から、ヤクシソウ、オニタビラコ、ジシバリ、ニガナ


左:ホソバワダンの葉(屋久島)、中:ホソバワダンの花(奄美大島)、右:ホソバワダン左とアキノノゲシ右(伊平屋島)


左:福建省龍岩市2003.9.14(頭花はアキノノゲシに似ていますが、葉の基部が茎を抱きます)
中:四川省都江堰市2003.9.14(エゾムラサキニガナに良く似た種)
右:広西壮族自治区融水県汪洞鎮2011.9.19(ヤマニガナ近縁種)


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