生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアの眼シリーズ(166)「ドラッカーの預言」(ドラッカーの教え 05 

2020年02月18日 08時07分16秒 | メタエンジニアの眼
メタエンジニアの眼シリーズ(166)                 
TITLE: 「ドラッカーの預言」(ドラッカーの教え 05)
書籍名;「ドラッカー2020年の日本人への預言」[2012]
著者;田中弥生 発行所;集英社
発行日;2012.10.31
初回作成日;H31.4.13 最終改定日;R2.2.16


このシリーズは企業の進化のプロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。

 すでに2020年なのだが、8年前に発行されたこの著書は、現在を的確に表していると思う。その時点での日本におけるドラッカーは、まさにベストセラー作家だった。しかしこの書は、そこには表れていない彼の一面と,深層を描き出している。彼自身の著作ではないが、ドラッカーの人となりと、それに基づく基本的な信念を知るうえで貴重な書になっている。

・あまり語られていないドラッカーのもう一つの思想

 彼の企業マネジメント論は、ナチスドイツの政治への反感から始まっている。つまり、全体主義から離れた自由社会の在り方を描こうとした。原点をそこまで戻すと、この書の主題である、彼の非営利組織や市民社会運動への期待が理解できる。彼は、1960年代に『知識社会の到来と共にうつ病患者が急増することを指摘』(pp,12)した。真の自由と市民社会の在り方を追求している。

ドラッカーは1980年代から本格的に非営利組織にかかわるようになった。当時、アメリカで最も雇用機会を創造していたのは、大企業ではなく、ベンチャー的な会社だったそうだ。
なぜ、非営利セクターは成長したのか。ドラッカーは、『「知識社会が進んでゆくと、人々の働き方が変化し、より流動的になる。こうした流動的な知識ワーカーは、自らの拠り所をもはや企業組織ではなく非営利組織に求めるようになる」と言つたのです。』(pp.18)

 そして、転換期の社会のありさまについてのJ.ナイの主張を引用している。
『社会が大きく変容するときには、前の時代に作られた既存の仕組みやシステムがうまく対応できなくなります。それが人々の 不満や疑問につながり、信頼性を失うのです。』(pp.36)

 それは、市民社会がすべての前提になることを示している。
『市民社会だけでは、民主主義を保証することはできない。平和すら保証することはできない。しかし市民社会は、それらすべてのものの前提である。(『未来への決断』ダイヤモンド社一九九五年)』(pp.37)

 彼は、ユダヤ人としてナチス時代のドイツで育った。そこから、彼の原点の思想を述べ、さらにそこから、かつての日本への期待が始まっている。彼は、第二次世界大戦後の社会において、コミュニティの役割を担うのは企業であると考た。彼のマネジメント論は、生産性や利益の向上のためのノウハウではなく、経済活動とコミュニティの双方の役割を担う組織のための理論としている。 (pp.39)

江戸時代末期には、祭事を行う組織、職人組合、画家、陶芸家、歌舞伎の「流派」などは全てボランタリーな非政府の自治組織だった。町人による消防団は、ロンドンよりも前だった、としている。(pp.82)

 非営利組織の定義は、各国でまちまちで、日本では行政色寄りのものが比較的多いのが特徴だそうだ。
そこでここでは、アメリカの経済学者レスター・サラモン教授の説を引用している、
『第1にフォーマル、つまり法人格は問わないが、細織的な実在を有していること。
第2に民間であること、つまり政府から独立していること。
第3に、非営利であること、つまり組織の所有者や理事などで剰余金(利益)を分配しないこと。
第4に、自己統治をしていること。つまり自己の活動を自分たちで管理しており、外部の組織にコントロールされていないこと。
第5に、自発的(ボランタリー)であること、つまり活動や運営の実際において自発的な参加があることです。この他に、政党や宗教団体を調査の対象から除外していることから、非政治と非宗教性も挙げました。』(pp.95)

 ドラッカーは、しかし「非営利組織」という言葉を批判した。金銭でない、より大きな他の営利を求めている。それは、「人間変革機関」であり、「市民性創造」を行う組織としている。したがって、非営利組織は「人間を変える」役割を担っていると述べている。

『ガールスカウトの目的は、価値観と、技能と、自立心をもつ女性を育てることである。
平時における赤十字の目的のーつは、天災に襲われた地域社会がふたたび自立する能力を獲得できるように助けること、すなわち、人間の能力がふたたび発揮できるようにすることである。
全米心臓学会の目的は、中年の人たちが自ら健康を管理し、健全な生活と食事、禁煙と節酒、適度な運動によって、心臓病の予防を実践できるようにすることである。
したがって、サードセクターにとっては、まさに人間変革機関こそふさわしい名称であろう。 (『新しい現実』一九八九年)』(pp.99)
としている。一方で、日本のかつての事例としては、焚き出しによる食事サービスなどは、ホームレスの人々の空腹を一時的に満たすことはできても、人間変革機関たりえないとしている。 (pp.100)

ドラッカーは「人類の自由の起源」を紀元前の古代ギリシアではなく、紀元後のローマ帝国としている。それは、彼が社会の自由とは、国家なり企業なり組織が確立され、かつ正しくマネジメントされた状態の中で成立すると考えたからではないだろうか。そのことは、「市民社会だけでは、民主主義を保証することはできない。平和すら保証することはできない。」との表現になっていた。非営利組織が与えられる自由とは、無料で食事を与えることではなく、「ふたたび自立する能力を獲得できるように助けること、すなわち、人間の能力がふたたび発揮できるようにすることである。」も、そのことを言っている。