今野敏さんの警察小説『安積班シリーズ』を原作とする『ハンチョウ/神南署安積班』は、第1シリーズ全15話が2009年の春シーズン、第2シリーズ全11話が2010年の冬シーズン、第3シリーズ全12話が2010年の夏シーズン、第4シリーズ全12話が2011年の春シーズン、いずれもTBS系列の月曜夜8時「パナソニック・ドラマシアター」枠にて放映されました。
2012年の第5シリーズからは舞台を本庁に移し、タイトルも『ハンチョウ/警視庁安積班』に変更、主人公以外のメンバーも総入れ替えとなります。
東京・渋谷を所轄とする神南警察署・刑事課強行犯係「安積班」は、飄々としながらも腕は確かな「班長」こと安積剛志警部補(佐々木蔵之介)、実直なサブリーダーの村雨巡査部長(中村俊介)、風貌に似合わず勘が鋭い須田巡査部長(塚地武雅)、鑑識課出身の紅一点・水野巡査部長(黒谷友香)、爽やかイケメンの黒木巡査長(賀集利樹)、新米の桜井巡査(山口翔悟)、そして課長の金子警部(田山涼成)というメンバー構成。
ほか、安積の親友である交通課係長・速水警部補(細川茂樹)、第3シリーズから登場の鑑識係長・石倉(唐十郎)、新聞記者の友紀子(安めぐみ)、小料理屋を営む杏子(奥貫 薫)、安積の別れた妻との一人娘・涼子(渋谷飛鳥)といった面々が絡んできます。
とてもオーソドックスな集団刑事物で、事件が主役の謎解き捜査物ではあるんだけど、昨今の同系統番組に底通する「ゲーム感覚」が本作には感じられません。
先にゲーム展開ありきで、それに合わせて登場人物たちを駒みたいに動かすやり方と違って、事件の被害者なり加害者なりの心情を徹底的に掘り下げ、苦しんでる人がいれば必ず最後に救済するヒューマンストーリー。
例えば第1シリーズ初回では、殺された被害者とご近所トラブルをよく起こしてた偏屈お婆さん(市原悦子)が自首して来るんだけど、安積班長は安易に納得しない。彼にはSFじみた特殊能力など何も無いけど、人を見る眼だけはずば抜けてる。
その人当たりの良さと人懐っこい笑顔を武器に、お婆さんと徹底的に向き合った安積は、彼女の偏屈さが生真面目な性格の裏返しであること、そして真犯人を庇う背景には独居老人ならではの深い孤独があることを見抜き、それを鍵にして謎を解いていく。まず先に人間ありきなんですよね。
で、事件解決後には安積班の刑事たちがお婆さんの部屋に押し掛け、ご飯をご馳走になったりしちゃう(つまり独りぼっちにさせない)アフターケアも忘れない。安積自身はそれに参加しないのがまた粋です。部下たちに指示したワケでもなく、彼らがそうするであろう事を予測して任せてる。
そんな『ハンチョウ』シリーズの徹底したヒューマニズムには『はみだし刑事情熱系』のスピリッツ(黒谷友香さんも出てる事だし)を感じます。また、安積が小料理屋の女将・杏子や新聞記者の友紀子といったイイ女たちに何となく愛されてる感じは『はぐれ刑事純情派』の世界観をも彷彿させます。それらの源流にあるのは明らかに『太陽にほえろ!』でしょう。
つまり『ハンチョウ』は2000年代に入ってすっかり絶滅したかと思ってた「本当の意味での刑事ドラマ」の系譜を、さりげなく受け継いだ作品と言えそうです。
これは下手にやると古臭い「お涙頂戴」の浪花節と受け取られかねないんだけど、肩肘張らない佐々木蔵之介さんの演技、飄々とした佇まいが絶妙にその臭みを緩和してくれてます。主役が佐々木さんでなかったらキツイ作品になってたかも知れません。
このところ『シバトラ』『交渉人』『キイナ』と引っ張りだこの売れっ子、塚地武雅さんの存在もなにげに効いてます。容姿で笑いを取りながら誰にも嫌われない人柄の良さ、それに加えて卓越した演技力ですから、引っ張りだこになるのもよく解ります。(ちなみに第1シリーズにはドランクドラゴンの相方=鈴木 拓さんも本庁の刑事役で出演されてます)
放映当時、私はTVドラマ全体に失望してたもんで『ハンチョウ』シリーズもチラッとしか観ておらず、評判を聞いてもあまり信じてなかったんだけど、あらためて観てみると確かにこれはイイ。ゲーム感覚で創られた他の謎解きドラマ群とはひと味違う、制作陣の真摯な姿勢を感じました。
全エピソードがハイクオリティーとはいかないにせよ、基本姿勢を信頼できる番組に大きなハズレは無い筈。オススメしても良さそうです。
ムーミン