1981年に公開された、大林宣彦監督5本目のメジャー作品。眉村卓原作、東宝配給による角川映画で、松任谷由実さんの主題歌『守ってあげたい』と併せて大ヒットし、主演の薬師丸ひろ子さんを一躍トップアイドルに押し上げた作品です。私は当時劇場で観ました。
たのきんトリオの映画『ブルージーンズメモリー』と二本立てだった筈なのに、そっちの方はまったく記憶に残ってませんw たのきんへの興味がゼロを超えてマイナス100だったせいもあるけど、それ以上にこの『ねらわれた学園』が強烈すぎたw
たぶん、私が初めて観た大林映画がコレなんですよね。だから、その後しばらく経って『転校生』『時をかける少女』をテレビで観て感動し、続いて劇場で観た『さびしんぼう』がマイ・フェイバリット日本映画になるまで、大林宣彦という監督さんには「とにかくヘンな映画を創る人」ってイメージしか抱いてませんでした。
いやあ~しかし、ほんとヘンだった。とにかくヘンだった!w 上に並べた画像を一見するとフツーの学園物アイドル映画なんだけど、よくご覧下さい。ヒロイン=由香(薬師丸ひろ子)とそのカレシ(高柳良一)が通う高校はなぜか副都心のど真ん中、新宿公園にある!w(もちろん背景は合成) しかも文化祭でもないのに学生たちがローラースケートで校庭を走り回り、朝からダンスを踊ってる!
アイドル映画なのにヒロインが完全無欠の優等生で、最初から恋人がいるのも異色だし、ライバル優等生役の手塚眞さんがひとり珍妙な芝居で浮きまくってるし、三浦浩一さんや明日香和泉さん演じる教師たちのキャラクターも明らかにヘン。
ヒロインやその両親(山本耕一&赤座美代子)が自宅でいつも和服を着てるのも、後に大林作品じゃ定番(戦中世代ならではのこだわり)であることを知るんだけど当時は「んなヤツはおらんやろ~」感に溢れてました。
けど、そんなのは序の口、ほんの些末なことに過ぎません。本格的におかしくなるのは中盤、この人たちが登場してからですw
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ストーリーは至ってシンプル。ある日、超能力に目覚めたヒロイン=由香が、念力を使って剣道部キャプテンのカレシを地区大会で優勝させたりなど調子に乗ってたら、同じく超能力を持った美少女転校生=みちる(長谷川真砂美)から目の敵にされた上、マントを羽織った謎のド変態男=峰岸徹につきまとわれたもんだからさぁ困った!
転校生なのにいきなり生徒会長に就任したみちるは独裁政治をおっ始め、呆けた学生どもを謎のスパルタ塾に放り込んで片っ端から洗脳していきます。
彼女を操る峰岸徹の正体は金星からやって来た「星の魔王子」であり、目的はもちろん地球征服。強い念力を持った由香を仲間に引き入れ、みちると同じ助手にしようとするんだけど、完全無欠のスーパーヒロインである由香は迷わず突っぱねます。
「あなたは人間じゃないのね!?」
「わたしは、宇宙だ!」
「わたしは人間です!」
そんな哲学的な問答の末、由香が指先から発する愛のネグリジェ光線を浴びた魔王子は、あっけなく敗北を認めて「金星に帰ってよく考えます」との捨て台詞を残し、去っていくのでしたw
今となってはカルト映画として楽しめるし、大林監督の反戦メッセージ(怠惰な大衆をカリスマ性で束ねていくやり口は、まさにファシズム台頭のメタファー)を読み取ることも出来るんだけど、当時高校生になったばかりのガキンチョだった私には「子供だまし」の絵空事にしか見えず、魔王子のコスチュームとか手描きの光線(ほんとにフィルムに色鉛筆で描いたそうなw)描写は、当時の感覚ですでに前時代的で、超ダサかったw なもんで、初めて観た時はほんとガッカリしました。
けど、それもこれも今となっては愛おしいワケです。無味乾燥で予定調和な昨今のCG特撮じゃ絶対に味わえない、手作りの楽しさと温かさとセンス・オブ・ワンダーがこの作品には溢れてる!
薬師丸ひろ子さんや長谷川真砂美さんは「一体わたしは何をやらされてるんだろう?」って思いながら演じたに決まってるけどw、峰岸さんはどう見てもノリノリですからね!w 心底から楽しんでおられるのが画面から伝わって来ますw そういうのはやっぱ、観てるこっちも楽しくなっちゃう。
だから今、この映画は海外でも『HOUSE/ハウス』('77) と並んでカルトな人気を獲得し、世界各地で上映されてるそうです。このテのストーリーは万国共通ですからね。
製作当時、プロデューサーの角川春樹さんから大林さんに伝えられたのは、『ハウス』みたいなオモチャ箱ムービーをもう一度っていうのと、薬師丸ひろ子を是非とも「アイドル」にして欲しい!っていうオファー。
あの頃、すでに映画ファンには認知されてた薬師丸さんも、まだ全国区のアイドルにはなってなかった。それをアイドル化させる戦略を立て、大林さんに先導役を委ねた角川さんの嗅覚の鋭さは本当に凄い!としか言いようありません。
同じ「角川三人娘」の原田知世さんも結局、大林さんの『時をかける少女』('83) で本格ブレイクしたワケだし、ついでに両作で主題歌を担当されたユーミンさんまで再ブレイクしてますから。
薬師丸ひろ子さんと角川映画、ユーミン、そして次にいよいよ『転校生』('82) を撮られる大林監督と、上昇気流に乗りまくってる人たちの野心と遊び心と映画愛が詰まったこの『ねらわれた学園』、当時ガッカリしたり失笑しちゃった方にこそ是非、いま一度観直して頂きたいです。
やっぱり失笑するかも知れないけどw、その熱すぎるエネルギーと薬師丸さんの可愛さに胸踊らされるのは間違いないと保障します。ホントおかしな映画ですw
PS. 確か『時をかける少女』についてのコメントで、ヒロインのタイムリープ能力は「性の目覚め」のメタファーだと大林さんが語っておられた記憶があり、この『ねらわれた学園』における由香の超能力も、いま観ると明らかにそれを匂わせてるように感じます。そういう意味じゃ最もエロい薬師丸さんを堪能できる映画、と言えなくもないかも?
薬師丸さんが壁に掛けられた絵の額縁に向かって入っていくシーンも、「これでイイのか!?」って感じでしたが、40年ぶりに観てみると、そんなシーンも懐かしいものがあります(^0_0^)
40年前でもすでに「懐かしい」感じだったかも知れませんw しかし、40年も経っちゃったんですねえ……しみじみしちゃいます。