ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『大河ドラマが生まれた日』

2023-02-09 22:55:03 | TVドラマ全般

2023年2月4日(土)にNHK総合テレビで放映された、日本のテレビ放送70周年&大河ドラマ60周年を記念するスペシャルドラマ。

NHK芸能局長の「映画に負けない新しい連続大型時代劇を作れ」という鶴の一声から大河ドラマ第1作目『花の生涯』が生まれるまでの、若きテレビマンたちの奮闘がユーモラスに描かれてます。

その放映日の翌日には、A.I.を駆使した最新技術でオールカラー化された『花の生涯』第1話も放映されました。



『花の生涯』は幕末の大老・井伊直弼の生涯を描く作品で、副主人公の長野主膳を演じた戦後の二枚目映画スター=佐田啓二の二世である、中井貴一がコワモテのNHK芸能局長に扮してます。



主人公となるアシスタントディレクターを演じるのは生田斗真、プロデューサーに阿部サダヲ。



斗真くんの後輩ADに矢本悠馬。



斗真くんの下宿先の娘=明恵に、松本穂香。



そして貴一パパ=佐田啓二に中村七之助、宝塚歌劇団出身の映画スター=淡島千景にともさかりえ。



ほか、松尾諭、林泰文、伊東四朗、三宅弘城、イッセー尾形、永島敏行、倉科カナ、仁村紗和etc…といった実力派の豪華キャスト陣。



とても良い作品で、とても楽しく観させて頂きました。単に『花の生涯』制作の舞台裏を再現するだけじゃなく、これを2023年現在に放送する意味、今のテレビ業界に対する熱いメッセージを、私は感じました。

例えば、中井貴一局長の「今のテレビ番組は夢がなくて面白くない!」っていう台詞。まだこれからっていうテレビの黎明期に、そんなこと言うとは思えませんよね。

そして、映画界の「五社協定」により佐田啓二氏みたいな映画スターは絶対使えない、って決めてかかってる斗真くんに、貴一局長が言うワケです。



「そんなの知ったこっちゃねえんだよ! 誰かが勝手に決めたルールをこっちが守らなきゃいけない道理がどこにあるんだよ! 壁に立ち小便禁止の貼り紙があったって、どうしても漏れそうになりゃするんじゃねえのか小便!?」

「私はしません!」

「俺だってしねえよ!!」

「…………」



これもまた、規制とクレームのがんじがらめになってる現在のテレビ業界に対する、愛をこめた叱咤激励でしょう。

で、実際に斗真くんが足しげく佐田邸に通い、出演OKを取り付けるワケです。その裏に佐田氏の奥さんによる後押しがあったいきさつには、もしかすると石原裕次郎さんが『太陽にほえろ!』出演を決められた時のエピソードが反映されてるのかも?

他にも、グッとくる台詞がいっぱいありました。例えば、ただコワモテ局長の言いなりに動いてるだけ、のように見える阿部サダヲPの、奥さん(倉科カナ)の実家が彦根であることを斗真くんが知るシーン。

井伊直弼は近江「彦根」藩の第16代藩主ですから当然、舞台となる彦根出身の人は喜びます。そしてこの原作をチョイスしたのは阿部Pなのでした。

「偶然ですかね?」

「どうかしら? 実はあの人、局長の背中に隠れて、好き放題やってるんじゃないかと思うのよ」



で、その阿部Pが斗真くんを連れてよく行く屋台のおでんが美味しくて、その秘訣を尋ねられた店主(イッセー尾形)が「孫がおいしいと言って喜んだものを出してるだけですよ」って答えるんだけど、これが後のシーンで活きてくる。

斗真くんの後輩ADが新しい台本を送り忘れたせいで、佐田氏が大恥をかかされる羽目になり、斗真くんが陳謝するんだけど、さすがは貴一パパ。怒るどころか斗真くんに「出演を決めたことは微塵も後悔してない」「むしろ感謝してる」とまで言っちゃう神対応。

その理由が、仁村紗和さん扮する佐田氏の奥さん、つまり貴一ママが『花の生涯』を毎週とても楽しみに観てくれてるから、なんですよね。



「こうやってモノを創ってると、お客さんのことばかり考えてしまいがちだけど、一番身近な人を喜ばせるのも、素直に嬉しいことなんだなって、あらためて気づかせてもらったよ」

そうなんです! 大衆の嗜好とか、スポンサーやタレント事務所の顔色とか、そんなのばっか気にして創ってるから、今のテレビ番組はどんどんつまらなくなってる。

八方美人が一番ダメだってことを、現場の人たちはちゃんと分かってる。なのに組織の上に居座ってる、自分の保身しか頭に無い連中がリスクを恐れ、無難なものしか作らせない。

貴一局長や阿部Pみたいな人も、決していなくはないんだろうけど、今の世の中には彼らのワガママを許す余裕が無い。破滅です。

あと、連日翌朝にまで及ぶ過酷な撮影に主演スターの家族からクレームが入り、あわや降板!っていう危機を、必死にアイデアを絞って乗り越えていく場面。

一番時間を食う「セットの建て替え」に、演劇における舞台転換のノウハウを取り入れたり、同一セットの撮影を5話分ぐらいまとめ撮りしたり等の、現在では当たり前になってる時短テクニックが生まれていく過程にワクワクしちゃうのは、私自身もかつて映像作品を創ってたせいかも知れません。

そしてクライマックスとなる「桜田門外の変」を映画に負けないスケールで描くため、京都の太秦「映画城」を借りるべく交渉を重ねる、テレビマン斗真くんの情熱。

最初は「たかが電気紙芝居」と見下し、相手にしてなかった映画畑の人たちが、知らず知らず巻き込まれて一緒になって汗を流し、1つの場面を築き上げてく少年みたいに無邪気な姿。

そういう手作りの楽しさと温かみが、パソコンのキーボードで何でも作れちゃう現在の映像作品からは、当たり前だけど伝わって来ない。だから刑事ドラマにしろ特撮ヒーローにしろ、昭和作品しかレビューする気になれないワケです。

今回は単なる懐古趣味じゃなく、あの頃の情熱を忘れないでおこうぜ!っていう、テレビ制作者たちの真摯な想いが感じられたから、レビューすることにしました。



斗真くんと松本穂香さんの、たかが映画を一緒に観に行くだけの事がなかなか実現に至らない、昭和ならではのもどかしいロマンスも良かった!

松本穂香さんは実に現代的なルックスだと思うのに、なぜか昭和娘の役がぴたりとハマる。不思議な女優さんですよね。


 


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4 コメント

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Unknown (over-the-magic)
2023-02-10 06:30:22
すごい面白そうなドラマですね!
プロジェクトXとか、NHKってそういう体育会系とは違う、文化的な熱さを表現するの得意なイメージです。

で、それで現代の大河はというと最近エラい批判に曝されてるそうで (^^;
清洲城が三国志とかチャングムみたいになってるなんとか。

単純に脚本や演技の拙さではなく、時代考証の問題らしいですが。
このドラマのように、初心や熱さを忘れず、面白さで捩じ伏せてほしい所です。
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Unknown (harrison2018)
2023-02-10 12:02:06
時代考証については毎年叩かれてるような印象ですが、真実なんて当時を生きてた人々しか知らないのに、よくまあ、そこまで自分の知識こそが正しいと信じ込んで、人を叩けるもんだと感心しちゃいます。

私自身、松本潤みたいな顔の日本人があの時代にいるかよ!って思ってるけど、そんなこと言い出したら時代劇なんか成立しませんから、あくまでファンタジーだと割り切って観てます。大河ドラマのスタッフも、その手の批判は聞き流してるんでしょうね。
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Unknown (ナガシマ)
2023-02-15 13:15:40
面白そうです。
身近な人が喜ぶから作る…あらゆるものつくりの真理ではないでしょうか。人間の喜びや使命って本来は単純なものなんでしょう。「孫が美味しいという物を出しているだけ」深いセリフです。
ハリソンさんのレビューが面白いですw。ありがとうございます。
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Unknown (harrison2018)
2023-02-15 14:20:28
つまるところはやっぱり、創り手の魂がこもってるか否かですよね。あの人を喜ばせよう!に勝るコンセプトは無いでしょうし、モチベーションも全然違ってくるはず。それが許されない昨今の創り手たちが本当に気の毒です。
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