ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#400―3

2018-11-09 00:00:23 | 刑事ドラマ'80年代









 
渚に佇むスコッチ(沖 雅也)を見つけたスニーカー(山下真司)は、本当に2つ数えた時点で手島(森 大河)を射殺するつもりだったのか問いただします。

「よく分かったな」

半笑いで答える渚のスコッチにハイパー激怒したスニーカーは、彼の襟首をつかんでシャウトします。

「あんたって人は、人の命なんか何とも思っちゃいねえんだな!」

「触るなっ!」

スコッチはとりあえず、粗野なスニーカーの両手を振り払います。バッチリ決めたスリーピースの一張羅に、シワでもつけられちゃ困るからでしょう。

「何をカッカしてるんだお前は」

「分かってるよ。手島は3人も殺した凶悪犯だ。だからアンタがあそこでアイツを撃ち殺したって誰も何とも言わないだろう」

スニーカーは、スコッチを誤解してるみたいです。彼は決して殺人狂なワケじゃなくて、人質を救うと同時に手島を逃がさない為の、最も合理的な手段を選んだだけ。その事によって自分が責められるのを全く恐れない男なんです。殺すこと自体が目的なら、とっくに射殺してた事でしょう。

手島を殺したいほど憎んでるのは、むしろスニーカーの方であり、だけど刑事としては人命を尊重しなくちゃいけないっていうジレンマで、やたらカッカしてるんだろうと思います。

「俺だって手島は憎い。誰よりもアイツを憎んでるのは、この俺だ」

「沖縄出身者を殺したからか」

「…………」

手島に殺された共犯者=沼沢は沖縄生まれで、恵まれない環境のなか妹と2人、肩を寄せ合って生きて来た境遇がスニーカー自身とよく似てるのでした。1つ間違えれば、自分が沼沢みたいになってたかも知れない…… スニーカーは、自らの生い立ちを語り始めます。

「俺と妹がまだ子供の頃、親父とお袋は米軍のトラックにはねられて死んだ。犯人は判ってたらしいんだが、なぜか日本の警察は手を出そうとしなかった……そんなバカな話ってあるか?」

「…………」

「それからしばらく、俺は妹を放り出して方々グレて歩いた。もしあの時、田口さんに会わなかったら……」

「田口?」

「そうだよ。あの人に会わなかったら、今ごろ俺はきっと……」

街のチンピラに絡まれたスニーカーを救ったのが、たまたま通りがかった在りし日の田口 良=ボン(宮内 淳)なのでした。正確に言えば、救われたのはチンピラの方で、放っておけばスニーカーは彼を半殺しに……いや、たぶん死なせちゃったかも知れません。

ボンは穏やかにチンピラを説得し、和解させたばかりか、ボロボロになったスニーカーのスニーカーを見て、新しいスニーカーをスニーカーにプレゼントしたのでした。感動したスニーカーは刑事になる事を決意し、ボンに貰ったスニーカーを履いてスニーカー刑事となり、現在に至るワケです。

「ほう……ボンがお前の人生を変えたのか」

スコッチが一瞬、懐かしそうに微笑みます。七曲署に赴任した当初、頑なに閉ざしてたスコッチの心を、誰よりも熱心に開かせようとしたのがボンでした。

今、やたら熱くなって真正面からぶつかって来るスニーカーに、スコッチはボンの面影を見たのかも知れません。でも、そんな感傷もほんの一瞬だけ。

「捜査だ」

あくまでクールに任務を全うすべく、さっさと単独捜査に向かうスコッチ。その後ろ姿の上空をジャンボ旅客機が横切るショットが、たまらなく格好良いです。

しかし手島は、順調に悪事を重ねて行きます。今度はパトロール中の巡査を襲い、拳銃を強奪するのでした。密輸の取引相手から調達するつもりが、現金がなかなか届かなくて無理だった為でしょう。

一方、東京・七曲署の藤堂チームは、殺された沼沢が現金輸送のコースを知らなかった事実をつかみ、他にも共犯者が存在する事を推理します。そう、輸送車に同乗してた銀行員の麻田(佐々木勝彦)です。

故郷の大阪に帰ってる筈の麻田が沖縄に飛んだ事実も判明し、推理は確信へと変わります。その麻田の足取りから、どうやら手島と久米島で合流するつもりらしい事を突き止め、スコッチ&スニーカー、そしてゴリさん(竜 雷太)とロッキー(木之元 亮)もフェリーで久米島へと向かいます。

到着するや麻田が滞在するホテルに直行したスコッチ&スニーカーですが、一足遅く、既に麻田は手島と合流した模様。

この突入場面で、部屋のドアが静かにゆっくり開いたかと思ったら、スコッチが床に伏せて銃を構えてた、という描写があります。

大抵の刑事ドラマだと、主役の刑事たちはそんなセコい事はせず、大胆に踏み込んじゃうもんだけど、もし敵が銃を構えて待ち構えてたら一巻の終わりです。

冷静で合理主義のスコッチなら、そんな無謀な事はしない。恐らくこれは、沖雅也さんが現場で提案されて実現した演出なんだろうと思います。そこまで考え抜く努力とセンスの有無も、役者が一流かそうでないかを計るポイントの1つですよね。

ただし、これは沖雅也さんだから格好良く見えるんであって、もしスコッチを演じるのが温水洋一さんだったらw、ただの小心者にしか見えない事でしょう。そこで笑いが取れる温水さんもまた、一流の役者さんです。

それはさておき、麻田の所持品に現金は見当たりません。となると、彼が沖縄にやって来た真の目的は……

「麻田は手島を殺す気かも知れん……」

この辺りの展開がワイルド過ぎてw、ちょっと話が分かりにくいので整理しておこうと思います。

まず、輸送車から奪った現金1億円は、手島が自分で沖縄に郵送したんじゃなかったの?っていう疑問。これは、共犯者がみんな手島に殺されたものと思いこんでた、刑事たちの読み違いだったんでしょう。

実際にはもう1人、麻田という共犯者が存在した。たぶん手島は、麻田に現金を郵送させ、その金の一部で拳銃を調達した上で麻田を呼び寄せ、殺すつもりだった。

で、それを読んでた麻田は何だかんだ理由をつけて郵送を拒み、沖縄に直接持って行くと手島に伝えた。もちろん、最初から金を独り占めする=手島を殺すつもりで。

手島が沖縄にこだわる理由は、拳銃密輸の拠点が沖縄にあり、ゆえに土地勘がある事と、犯人の1人である沼沢の実家に金を送らせれば、手島自身に足が着く恐れが無くなると計算したのかも知れません。

たぶん脚本の長野 洋さんは、手島と麻田に電話か何かで会話させて、その辺りの事を説明させるつもりだったと思うんだけど、何しろ『太陽にほえろ!』は徹底して「刑事のドラマ」ですから、そういう描写(犯人側のドラマ)は真っ先にカットされちゃう事でしょう。

さて、様々な情報からスコッチたちは、手島と麻田は島尻岬で密会してると読み、急行します。その読みは的中し、今にも麻田が手島を崖から突き落とそうとしてる現場に刑事たちが乱入します。

麻田はゴリさんとロッキーが押さえ、銃を乱射して逃走する手島を、スコッチ&スニーカーが全力疾走で追う。ここであの名曲「ジーパン刑事のテーマ(青春のテーマ)」が流れます。

番組ファンにとっては「見慣れた光景」で、放映当時は特別な感慨は無かったんだけど、それから約13年後に発売されたビデオソフトでこの場面を観た瞬間、思いがけず私の涙腺が決壊しちゃいましたw

まず、当時は「見慣れた光景」だったものが過去の産物となり、もう二度と新作が観られないこと。(数年後に復活版が製作されますが、全くの新メンバーが走ったところで何の感慨もありません)

そして、こんなに元気いっぱいで走ってる沖雅也さんが、もうこの世に存在しないという現実。さらに、番組自体が『金八』に圧されて危機的状況だった背景や、その頃の自分自身の心境なんかも絡み合い、一気に感情が噴き出したんだろうと思います。

それにしても、沖雅也さんの疾走は実に美しい! ジーパン=松田優作さんと同様、全ての動作に美学があり、指先1本にまで表情がある。まさに「全身役者」そのものです。

「手島! 止まれっ!!」

浜辺をいくら走ったところで埒が開かず、スコッチの一言で手島は静止します。しかしお互い拳銃を持ってますから、こんな至近距離で撃ち合えば相討ちになりかねません。さぁ、どうする?

「3つ数える!」

その台詞を聞いた途端、手島とスニーカーが同時にギクッとするのが笑えますw

「その間に拳銃を捨てて、こっちを向け! ……ひとつ」

「手島ぁーっ!!」

スコッチに撃たせない為に、スニーカーが捨て身で犯人に向かって突っ込みます。かつて、ボンも全く同じ行動を取りました。やっぱりスニーカーは、ボンの魂を受け継いだ男なんですよね。

手島は振り向きざまにスニーカーを撃とうとしますが、スコッチが素早く華麗にコルト・トルーパー6インチを抜き撃ちし、手島の拳銃を弾き飛ばします。

スニーカー怒りの運動靴キックが炸裂し、派手に波しぶきを上げながらの格闘を、カメラはハイスピードで捉えます。クライマックスの格闘をスローモーションで見せるのは、ジーパン時代から始まったと思われる『太陽』独特の演出です。

アクション物が好きなファンからすれば、スピード感が削がれちゃう上に(パンチが当たってない等の)粗がまる見えになって興醒めしちゃうデメリットがあるんだけど、それよりもエモーションを優先する『太陽にほえろ!』は「アクション物」じゃなくて、やっぱ「刑事(人間)ドラマ」なんですよね。

びしょ濡れになりながら凶悪犯と必死に闘うスニーカーを、浜辺に座ってタバコを一服しながら見物してたスコッチはw、頼もしい後輩に逮捕を任せ、再び独りで去って行きます。

ようやく手島の手首に手錠を掛けたスニーカーは、英国製のタバコを空高く放り投げるスコッチの、あまりにも絵になる後ろ姿を見て、思わず呟くのでした。

「キザなやつ……」

何となくイラッと来ちゃうその気持ち、私にはよ~く解りますw

さて、事件はめでたく解決。七曲署にボス(石原裕次郎)以外の一係メンバーが久々に揃い、麻田が廃坑の奥に隠した現金1億円も無事に回収された事が発表されるのですが……

「金は戻ったが、3人の命は戻って来ない」

せっかく盛り上がりかけた空気に、チョー冷静な一言で水を差すのは山さん(露口 茂)の得意技ですw が、すっかり気まずくなった所にタイミング良く(?)、ボスが帰って来ました。

「ボス、どこ行ってたんスか?」

「いや、ちょっとね。よそでクビになったヤツを拾って来た」

「よそでクビって……」

「あっ、もしかしてソイツは……」

「おい、入って来い」

ちょっと照れ臭そうに入って来た一匹狼のハードボイルド、その名はもちろん……

「スコッチ!」

「やっぱり!」

「山田署勤務、滝隆一。本日付けをもって再び、七曲署勤務を命じられました。え~……よろしくお願いします」

古参のメンバー達が温かい眼差しで迎える中、スコッチ転勤後に赴任したお茶汲みガールのナーコ(友 直子)は「誰、この人?」と怪訝な顔。そしてもう1人、スニーカーにも笑顔はありません。

スコッチとスニーカーの確執は次回、第401話『紙飛行機』にまで持ち越され、堪忍袋の緒が切れたスニーカーが刑事を辞める事態にまで悪化しちゃいます。

「まぁみんな、そういうこった」

そんな近未来を予測しての事か、ボスの締め台詞も何だか投げやりですよねw

でも、こういう波乱も無いとドラマはマンネリ化する一方です。このスコッチの再加入を皮切りに、すっかりマジメ一直線で硬直状態だった『太陽にほえろ!』が、再び活性化していく事になります。

CS放送などで初めてこの時期の『太陽』を観て、あまりの辛気臭さに辟易される方もおられるんじゃないでしょうか?

でも大丈夫ですw 太陽は再び昇り、又これから新たな時代に入って行きますので、チョー格好良いスコッチの勇姿と共に、どうかお楽しみ下さい!
 

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5 コメント

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Unknown (あや)
2021-12-03 17:42:29
最近朝の某情報番組に山下さんがコメンテーターとして出演されてますが、「太陽にほえろ!」をモチーフに刑事として突撃リポートしてますが、面白いなあと感じてます。昔はスニーカー刑事あまり興味ありませんでしたが、山下さん年を重ねて素敵になりましたね。年相応の魅力というものもありますし、太陽メンバーをテレビで見るとホッとします。
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Unknown (harrison2018)
2021-12-03 23:00:26
山下さんの突撃デカ、私もたまに観ますが、使用される『太陽にほえろ!』BGMの選曲がめっちゃマニアックで嬉しくなりますw スタッフに熱心なファンがいるに違いないですよね。

昭和のヒーローたちが次々に他界されてますから、こうして元気に活躍されてる姿を見るとほんとにホッとします。
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Unknown (あや)
2021-12-04 18:33:03
すっかり刑事になりきってる山下さんの意気込みも感じられ、スタッフもご本人もスニーカー刑事の誇りをもって制作してる感がありますね。見ていてうれしく思います。近年二時間ドラマや昼ドラがなくなって、役者としての活躍の場がなくなり、なおかつコロナの影響で仕事を失われたことは悲しい。太陽メンバーの活躍を観たいと思うこの頃です。
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Unknown (harrison2018)
2021-12-05 00:04:20
今、テレビで最も活躍されてるのは多分、マイコン刑事ですよねw 『太陽にほえろ!』や『西部警察PART3』の放映当時、誰がこんな未来を予測出来たでしょうか!? だけどやっぱり応援しちゃいますよね。
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Unknown (Unknown)
2022-05-31 02:21:07
なぜ399話か400話のレビューに沢田和美さんの写真がないのでしょうか?ハリソンさんらしくないですっ!
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